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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第39章 過去との逢瀬

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第675話 自覚

 あけましておめでとうございます。本年も一年よろしくお願いします。

 ホタルもホタルで、夢を見る。意外かもしれないが、彼女とて実態としては『人』なのだ。見ない方が可怪しい。だが、彼女が見る夢は暗闇の中での物と、誰かが必死で自らに手を加える物の二つあった。


『ここは・・・こう・・・こっちは・・・いや、駄目だ・・・』


 その後ろ姿を見ながら、今のホタルは哀れみを抱く。鬼気迫る。もしくは、幽鬼の後ろ姿。自らを改良しているその男は、かつて自分に情熱を注いでいたはずの男の一人だった。だが、今は。そうではなかった。


『これを・・・ダメだ! こんな物では決して勝てない!』


 男が唐突に癇癪を起こすと、机の上に乗った様々な設計図をくしゃくしゃと丸めて投げ捨てる。ホタルは、いや、その大本となった特型ゴーレム七番機は戦う為に作られた。だからこそ、この改良は敵に勝つ為の改良だ。では、その敵とは誰か。それは常々明言されている様に、皇国だった。


『どうすれば良いんだ・・・クソ! クソ! クソ!』


 男は苛立ちを露わにして、再び机に向き直る。無数の実験、無数の試作、無数の改良。それをただ一人で繰り返して、ホタルに臨んでいた。


『施せる改良は全て施した・・・だが、まだ足りない・・・』


 施せる改良を全て施したのが、完成品であるスカーレットとアクアだ。なればこそ、ホタルにはそれ以上の改良が要る。それを、男はここに篭って探っていた。月日なぞ、彼には遥か昔に無意味になっていた。


『これで・・・そうだ・・・これなら出力が上がる・・・』


 約40年。それだけの期間、この男はホタルの改良に費やしていた。ほぼ、再設計と言っていい状況だ。そんな最中。基地の設備が乗っ取られる事件が起こった。


『ちっ・・・叛逆者共の調査隊か・・・? 息を潜めるか・・・』


 男は苛立ち紛れに設計図等の重要資料を巧妙に隠すと、部屋を後にする。当然だが、生体感知の為の魔術は存在している。隠し部屋に誰かが居る事がバレれば、必然、この部屋に何かがある事がバレてしまうのだ。この部屋とは別にある避難場所に隠れるつもりだった。

 そうして、この後のことは機能停止にしているホタルは知らないはずだった。いや、確かに彼女は知らない。だが、基地のシステムと同期が可能だった彼女にとって、事の顛末を知る事は容易だった。それは、彼の隠れる隠し部屋での事だった。そこに、イクスフォスが単独で現れたのである。


『はぁ・・・ようやく、見つけた。手間かけさせんなよ』

『っ!? イクスフォス!? 何故貴様、生きている!? つい先日訃報が伝えられたばかりではないのか!?』

『んぁ? 別に生きてるんだから、生きてるんだろ?』

『っ!』

『おっと・・・この基地のシステムは全部乗っ取ってる。わかるだろ? オレはスカーレットとアクアを手にしてるんだ。基地のシステムにある分は、全部こっちの権限が上だ。諦めろよ』


 懐に手を突っ込んで何かを操作しようとしていた男に対して、イクスフォスが告げる。基地の警備システムを使おうとしたのであるが、機先を制された格好だ。

 ちなみに、スカーレットとアクアは奪取されたのだから基地とのリンクや権限は解除しておけよ、と思うだろうが、こればかりはマルス帝国側の誤算だった。

 あの二人はすでに言われているが、皇帝の護衛を務める役割上、最上位の権限を与えられている。そしてクーデターを恐れる終焉帝だ。開発者にクーデターを起こされて機能を奪われない様に、自ら監視して権限の剥奪を不可能にしていたのである。一応誤作動等があった場合に解除出来る様にはしているが、それは終焉帝の監視の下、2機が開発された研究所に揃った状態で、という事だった。

 それをまさか主の設定直前に捕縛したはずのイクスフォス――しかも魔術で完全に昏睡させていた――に奪取されるとは誰も思わないだろう。これは、マルス帝国最後の大誤算と言われる事件だった。


『っ・・・だが、せめて一矢報いる! 貴様に戦闘能力が無い事は知っているぞ! のこのここの場に一人で現れたのが仇になったな!』


 基地のコントロールを乗っ取られた事を悟った男が、護身用に持ち合わせていた短剣を抜き放ちイクスフォスに迫る。彼は残念ながら、最後の戦いを知らないのだ。それ故、イクスフォスが戦える事を知らなかったのである。


『ちょいっと』

『なっ・・・』


 次元断裂が起きて短剣が意図も簡単に切り裂かれて、男が思わず呆然となる。ここら、男が研究者だった事が災いした。今の攻撃が次元断裂だ、と直感的に理解出来てしまったのだ。

 イクスフォスは軽い感じでやっていたが、次元断裂なぞ決して軽く出来る物ではない。呆然となるのも無理はなかった。


『はぁ・・・なあ、愚痴ぐらいなら、聞くぜ? 幸い仕事から解放されてるから、時間なら、たっぷりある・・・だからさ。もうやめにしておこうぜ。これ以上、誰かが犠牲になるモン作んなよ』

『っ・・・聞け・・・るか・・・聞けるものか! 貴様が全てをぶち壊しにした! 仲間達は俺を除いて全員死んだ! 貴様の起こした騒乱に巻き込まれて、だ! 全員が血祭りに上げられた! 骨の一片、それどころか肉片さえ残っていない! 生きたまま魔物に食われた奴もいる! 俺は動く事も出来ず、目を閉ざす事さえ許されないまま、それを全て見せられた! 見ろ、この身体を! 失くした腕が! 失くした脚が! 全てが貴様を殺せと苛む!』


 イクスフォスの言葉に男が激高して、服を破り捨てる。そこは見るも無残な有様だった。五肢は完全に義体化しており、見えている素肌の部分とてボロボロだった。明らかに、拷問かそれに類する事をされた跡だった。

 秩序だった禅譲等ではなく、腐敗の末の内乱による滅亡だったのだ。どうしても、軍の高官や悪名高き研究所の研究者達にも民草の怒りの矛先は向かってしまう。その中に、彼や彼の仲間達が含まれていたのだろう。これはある種八つ当たりに近い事だが、だからといって、その八つ当たりを受けた側が諦める事は出来ないのだろう。

 イクスフォス達とて、出来る限りはやった。だが彼らもどうしても、自分の領地の中でしか守る事は出来ない。そして残念ながら、彼らの居た研究所は、そのイクスフォスの領地では無かった。


『・・・わり。なんか言える立場じゃねえな・・・』

『この場で、俺が始末を着ける! 7番機を完成させるまでもない!』

『いいぜ。それでてめえの気が済むなら、な・・・』


 イクスフォスはもはやこちらの言葉が届かぬ男を見ながら、憐憫の情を向けて告げる。男の身体はすでにコールタールの様な黒いモヤに覆われ始めていた。最大の仇敵であるイクスフォスとの思わぬ会合によって、堕族となってしまっていたのである。


『マスター。対応致しましょうか?』

『いや・・・これはオレの咎だ。オレがケリつけるよ・・・悪い。苦しまないよう、一撃で終わらせてやる。それで、許してくれ』


 もはや意味ある言葉を出していない男の残滓を眺めながら、イクスフォスが力を溜める。せめてもの慈悲として、一撃で消し飛ばそうと思ったのだ。

 そうして、イクスフォスは襲い掛かってくる男であった存在の周囲の空間を隔離して、何処とも知れぬ異界と接続する。それは後の世にティナが『クイーン・エメリア』の主砲として使った術式の完成形だった。


『せめて、魂ごと浄化の炎に焼かれてくれ・・・次んときゃ、そんな不幸に合わない様にな・・・』


 灰さえも残さず消し飛んだ男に、イクスフォスが黙祷を捧げる。イクスフォスからしてみれば、彼も戦争の犠牲者だ。哀れみしかなかった。


『行こう。とりあえず、これで安心だろ』

『ええ・・・ではそちらに向かいます』

『ああ』


 イクスフォスの下に、スカーレットとアクアの二人が移動して、基地のコントロールが通常に戻る。それに、今のホタルが何処か心の奥底で、感謝を抱く。彼の有様は、見ていられなかった。彼が仲間と共に楽しげに自らを作っている時を覚えていればこそ、だった。

 それから、少しの時が流れる。ホタルは、いや、彼女のもう一つの魂と言える魔石の方に残された記憶が、再生される。それは奇しくも、イクスフォスの娘が出て来る夢だった。


『魔王様。研究所の検査結果等を考慮しますと、これが最も魔王様のお探しの魔石に近いかと』

『ふむ・・・うむ。これならば、あの特型ゴーレムの魂を真に在るべき姿へと導く事が出来るかもしれんな。感謝する』

『いえ、お役に立てて光栄です』


 暗い暗い地の底。そこに、ホタルは居た。だが、光を浴びた。それは生まれて初めての事だった。そうして初めて自分に手を触れた女性(ティナ)の暖かさを、彼女は今でも思い出せた。


『さて・・・では、組み込んでみるか。後付はともかく、根幹は良い設計思想じゃ。趣味満載。やりたいことをやった、という設計思想じゃな。大層愛されておった様じゃな・・・その設計者達に敬意を表する事にしよう。お主も、それを覚えておるのなら、魔石になぞ負けるでないぞ』


 ティナが、もう一人のホタルをホタルに組み込む。そうして、幾つかの必要な魔道具を取り付けて、起動のコマンドを入力した。


『・・・』

『さて。状況は理解出来ておるか?』

『肯定します、教授(プロフェッサー)・・・魔石の搭載は成功と判断します』

『うむ、その様子じゃな』


 前と変わらない様子のティナに、ホタルは思わず口を開く。それは何故口にしたのかは今の彼女にもわからない言葉だった。


『白き王の子・・・ありがとうございます』

『む? 何か言ったか?』

『否定します』


 思えば、はじめから感情はあったのだろう。ただ単に、認められなかっただけだ。それを、お昼寝というまどろみの中で、ホタルは自覚する。


「一つ、思い出した事があります・・・」


 子供達を起こさぬ様にホタルは立ち上がると、そのままふっ、と消える。当たり前だが、彼女が目覚めたのには理由がある。それに対処する為に、目覚めたのだ。


「ああ・・・これが悲しい、という感情なのですね」


 悲しげに、ホタルがつぶやく。ホタルは彼女に改良を施した男の結末を思い出したのだ。そして同時に、まだ情熱を持っていた男の言葉も、思い出した。それ故、今の彼女の目からは涙が流れていた。


「・・・奪わせません。もう、誰からも。何からも・・・彼が本当に成したかった事を、こんどこそ、私がなしてみせましょう」


 右手を前に突き出す。生み出すのは、かつてはカイトに簡単に防がれた純白の槍。古代魔術(エンシェント・スペル)の一つ、<<破滅の槍(ランス・メギド)>>だった。


「<<破滅の槍(ランス・メギド)>>展開・・・」


 ホタルは出力が規定値以上に上昇していくのを、自覚する。知らない、と言ってしまえば楽だ。遥か太古の記憶を覚えていない、としてしまえば、後はゴーレムとして振る舞える。

 だが、彼女はそれを拒絶した。今までゴーレムとしてある為に見ない様にしていた物を、思い出してしまったのだ。それは彼らが情熱を掛けて自らを開発していた時の事だ。それこそが、彼女の真の当初の開発理由だった。


「私の製造理由は・・・戦闘。守る為の戦闘・・・ですので、消えてください」


 彼女の右腕から、純白の槍が射出される。標的は地竜。偶然に近づいてきた一体だ。本来ならば瞬達の仕事だが、彼女がやりたいからやったのである。

 そうして巻き起こる純白の閃光に、ホタルは最後の(記憶)を見た。それはまだ男が情熱を持っていた頃の記憶だった。


『出たぞ! なんとか研究所の所長からお許しが出た!』

『やったー!』


 プロジェクトのチームリーダーだった男の言葉に、ホタルの最終調整を行っていた白衣の男達が歓声を上げる。その顔の中には、後にイクスフォスに刃を向けた男も居た。だが、今の彼は幽鬼の顔ではなく、普通に情熱に溢れた男の顔だった。


『これを完成させて八番機と九番機を完成させれば、ついにあれを作れる! 空いた時間にセブンで改良試験を行っても良い、と許可も下りた!』

『よし! 全員、これから徹夜で行くぞー!』

『おー!』


 最後に音頭を取ったのは、堕族に堕ちた男だ。まるで子供の様な顔。後のホタルは、そう語る。彼らが目指したのは、人と共に歩めるゴーレムだった。

 戦闘用ゴーレムという彼らにとっては望まぬ物を作らされた事に対する、せめてもの反抗だった。彼らの大半は徴用された者達だった。望んで戦闘用の兵器を開発していたのではない。望まず、やらされていたのだ。イクスフォスはそれを知っていたのである。

 が、民衆が知っているかは、また別だ。そして彼らが何を言ったとてそれを信じてもらえたかも、また別だった。彼らも正真正銘、戦争の犠牲者だった。


『あ、ならこいつにも名前付けてやらないとな。セブンって名前じゃ、あまりに味気ないだろ?』

『今はやめとこう。どうせ碌な名前になんないって』

『えー。レナとかよくね?』

『単に07を読んだだけじゃん』

『何故わかった』

『わかるわ!』


 堕族に堕ちた男が、楽しげに笑い合う。ホタルが感情を得たのは、実は偶然ではなかった。はじめから、それが目的の改良を加えられていたのだ。

 それを何故、堕族に堕ちた彼が除外しなかったのか。それは彼は彼がまだ『(研究者)』だった頃の残滓が、どうしてもホタルを純粋な戦闘用に改良する事を拒んでいたからだった。それさえ理解していれば、彼には別の生き方があったのかもしれなかった。


「・・・私は、人と共に歩んでいきます。この身体と共に。貴方方が望んだ、この心と共に」


 過去の残滓に、ホタルは別れを告げる。感情がなんなのかは、まだわからない。だが、それでも受け入れていこうとは思ったようだ。そうして、彼女は感情についてを受け入れて、戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第676話『閑話』

 明日で由利の決断についてを挟んで、全ての総括をやって、この章も終わりです。次章からは遂に帰還の手掛かりを掴む為に動き始めます。

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