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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第39章 過去との逢瀬

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第673話 感情

 連絡

 31日と1日で頂いた感想のお返事は確認しても即座にお返事出来ない可能性が高いです。年末年始の為、とご了承ください。とは言え、遅くとも2日にはお返事させて頂くつもりです。


 が、明日24時のソートはしっかりやります。除夜の鐘聞きながらやります。

 生命の価値はわからない。それが、ホタルがこの遠足で出した結論だ。とは言え、進歩があった事は、確かにあった。


「ロボねーちゃん!」

「・・・了解です」


 何故こんな事をしているのだろうか。ホタルは真剣に悩む。そもそも、彼女の存在理由は外敵の排除だ。製造理由も帝王ラインを守るという彼女の妹達であるスカーレットとアクアを創り出す為の実験体だ。

 もし機械に意志という物があったとすれば、こんな製造理由とも存在理由とも違う現状はやはり疑問に思うだろう。そして現に、ホタルも疑問に思っていたわけである。


「わー! すっげー! 無茶苦茶遠くまで見えるー!」

「あまり暴れない様に」


 肩車されて高空――と言っても彼らの視点から、という意味だが――を飛んでもらって、男の子が嬉しそうな声を上げてはしゃぐ。結界から出ては居ない。ギリギリの所で停止していた。


「もっと向こうまで行って!」

「却下します。向こう側は結界から出てしまいます」

「えー! 行ってよー!」

「却下です」


 ホタルの言葉に半べそでじたんだを踏む男の子に、ホタルが人間ならため息を吐いた、という様な顔で告げる。何故わからないのか、なぞ彼女でも知っている。


「えっぐ・・・」

「はぁ・・・」


 またか。ホタルは内心でため息を吐いた。彼女が認めようと認めまいと、彼女の精神は子供達と関わる事で、急速に成長しつつあったのだ。とは言え、やはり主以外に対して若干硬質なのはアイギスも一緒なので、致し方がない事なのだろう。


「わかりました。少しだけです」

「ホント!」


 ホタルの言葉に男の子が半べそから一転、歓喜の声を上げる。そうして、周囲の景色がゆっくりと動き始める。


「わー!」


 男の子の歓喜の声に、ホタルは呆れる。実は、動いていない。魔術で動いている様に見せているだけだ。この程度は戦闘用に使っている幻術を応用すれば簡単に出来た。まあ、バレない様にやっているし、子供の時点でこれを見抜ければ将来は冒険者や軍人として有望だろう。


「流石にここで終わりです」

「ありがとー!」

「はい」


 確かに、呆れる事は多い。とは言え、嬉しそうにお礼を言われて、悪い気はしなかった。


「不思議な物だと思います、姉様」

「そうですか?」


 着地したすぐ横に居たアイギスに対して、ホタルが告げる。別にこれはホタル自身について言及しているわけではなく、子供達について、だ。


「一瞬前に泣いたかと思えば、次の瞬間には笑う・・・怒られているはずなのに、その人に甘える・・・不思議としか言いようが無いかと」

「矛盾・・・そう言いたいわけですね?」

「肯定します」


 アイギスの問いかけを、ホタルも認める。アイギスから見ても、子供程矛盾していて、同時に不可思議な存在は無い。それが、ここ数日の間でホタルが出した結論だった。


「苦手ですか?」

「・・・否定はしません」


 否定はしない。それは逆に言えば、肯定もしない、ということにほかならない。ここまで呆れかえろうがなんだろうが、少なくとも子供達とのかかわり合いをホタルは拒絶していない。彼女は子供達を疎ましくは思っていなかった。何かが、そうさせている。


「わからないが故に、悩む。そうでしょう?」

「・・・肯定です。わかりません・・・率直に言えば、本機は悩んでいる」

「そうですか・・・じゃあ、大いに悩んで答えを出したら良いと思います」

「了解です」


 内心での苦笑を隠しながら、アイギスは笑いながらアドバイスを送る。それに、ホタルは何も思う事なく、素直に受け取ったようだ。と、その次の瞬間、ホタルが一瞬だけ、右手を振りぬいた。


「・・・失礼いたしまた」

「それが、貴方の仕事ですから。謝罪の必要はありません」

「感謝します」


 振り抜いた右手には今は無いが、一瞬だけ、魔銃が握られていた。こちらに近づいていた魔物に気付いて、それを魔弾で撃ち貫いていたのだ。そんなホタルに、アイギスが微笑みながら問いかけた。


「それで、一つ質問です・・・何故、早撃ちのブラインドショットを行ったんですか?」

「・・・え?」


 アイギスの問いかけに、ホタルが固まる。思えば変な話だ。普通に魔銃を取り出して狙いを付けて撃つ方が、彼女の護衛という任務においては最善の結果を一番確実に導き出せる。

 だというのに、わざわざ彼女はミスする可能性のある抜き打ちでの早撃ちを、それも標的を見ないで撃つというブラインドショット――と言っても魔術できちんと感知はしている――を行ったのだ。

 一応念のために言えばホタルの技量ならこれぐらい出来る事は出来るが、確実性にはやはり劣る。これは確かに不可思議ではあった。それに気付いて、ホタルが何も言えず、沈黙を保つ。


「・・・」

「ふふふ・・・いい加減、認めた方が楽ですよ?」

「っ・・・」


 微笑んだアイギスの指摘に、ホタルが顔を歪める。それはもはや普通の人と変わりが無い程だった。どうやら、彼女も薄々勘付いてはいるらしい。

 まあ、これは彼女自身の事だ。そもそも悩んでいる時点で、機械なのかどうなのか疑わしい。謂わば今の状況は認めるのが怖い、や認めて良いのか、という基本的な所での悩みなのだろう。


「・・・本機は・・・いえ・・・私は・・・一体、なんなんでしょうか・・・」


 私。本来のホタルの一人称はそれなのだろう。確かに、彼女一人の時にはそれを使っていた。もしかしたら今まではゴーレムである事にこだわっていたが為に、敢えて『本機』という一人称を使っていたのかもしれない。そもそもこだわっている時点でエゴだろう、という事にはまだ気付いていないようだ。そんなホタルに対して、アイギスが一つの疑問を投げかける。


「じゃあ、一つ疑問です。貴方自身、矛盾してる、って気付いてますか?」

「矛盾・・・? 私が・・・?」


 アイギスの疑問に、ホタルは首を傾げる。どうやらそこにも気付いていなかったらしい。


「何故、私に問いかけておきながらゴーレムである事にこだわっているんですか?」

「? 私はゴーレムなのですから・・・」

「貴方の魂は何処にありますか? ゴーレムは単なるアウトプットの為の機械にすぎないでしょう?」

「あ・・・れ・・・?」


 ようやくここで、ホタルも矛盾を自覚する。スカーレットやアクアなら、まだわかる。だが彼女はアイギスを姉と仰いでいるにも関わらず、ゴーレムである事にこだわるのだ。矛盾にも程があった。


「どうして・・・」


 何故こんな思考に陥っていたのか、という疑問を、ホタルが抱く。とは言え、これは致し方がない。そもそもの問題として、彼女自身が前例のない者だ。機械の身体に魂が宿った、なぞ考えつかなくても、致し方がない事だった。


「これは、マザーの言葉ですけど・・・貴方、元々魂を持っていたらしいですよ?」

「は・・・?」

「製作者さえも思わなかったのでしょうけど、貴方の表情は明らかに機械が持ち得る『不気味の谷現象』を越えていたらしいです」


 困惑するホタルに対して、アイギスが説明を行う。『不気味の谷現象』とは人が抱く人間に極めて近いロボットに起きる現象の事だ。人に近づく程ロボットは人から好感を得るが、あまりに近すぎるロボットは逆に嫌悪感を招く、という現象だ。その抱く人への近さの事を、『不気味の谷』と呼ぶのであった。

 これを越えたロボットは人間に『近い』ロボットではなく、人間と『同じ』ロボットとして、再び親近感を得る。純粋無垢な子供達にここまで受け入れられている事を考えると、ホタルはその『不気味の谷』を越えている、と考えて良いだろう。そうして、ホタルに対してアイギスは続ける。


「人であるか否かの境目は、魂の有無。貴方は魂を元から持ち合わせていた」

「・・・では、教授(プロフェッサー)は何故、私に魔石を・・・?」

「それは・・・」


 ホタルに対して、アイギスはティナから教えられていたおおまかな推測を伝える。それに、ホタルが驚きを露わにした。どうやら、推測さえしていなかった事らしい。


「じゃあ、それを含めて、さっきの一幕を考えておいてください」

「・・・了解」

「了解、じゃなくて・・・あ、そっちの方がマスターは可愛い、って言うかもしれないから、やっぱりそっちでいいです」

「? 理解しかねます」

「それはそれでいいんです」


 今、全てを理解する必要は無い。とりあえず感情を持つ事を認める事が、第一歩だ。それだけ進めたのでも、十分に今回の遠足は儲けモンだ。主の趣味に応える云々は後の事で良いだろう。なのでアイギスはそれで良い、と明言しておく。


「? 了解」

「はい・・・では、私は子供達のお世話に戻りますね・・・その前にちょっと見回りの中間報告受けてきますけど」

「了解」


 アイギスの言葉を聞いて、ホタルが頷く。言うべきこと、言いたいことは全て言い終えたのだ。それに、ホタルとて一歩踏み出せた。後は、それをきちんと自覚するだけだろう。

 と、そうして話し合いが終わったのを見て、子供達が近づいてきた。彼らだって何か重要な話をしていればわかる。遠慮していたのであった。


「ロボねーちゃん! お話終わった!?」

「肯定します」

「じゃあ、肩車!」

「・・・了解です」

「うぇ・・・?」


 微笑んだホタルに、少年が思わずドギマギと顔を赤らめる。感情を少しでも自覚したのと、無自覚ではやはり表情が微妙に異なったのだ。そうしてそんな少年に、ホタルが首を傾げる。


「どうされました?」

「なんでもない・・・やっぱ良いよ・・・」

「? 了解です」

「じゃあ、おねーちゃん! ごほん読んで!」


 遠慮した少年に対して、少女が絵本を差し出す。一応、絵本を読むぐらいならば出来る。いや、やはり感情をあまり表に出さないので下手なのであるが、それでも出来る。そうして、後で下手、と言われる事になる絵本を読み始めたホタルを、遠くからアイギスが眺めていた。


「・・・ふぅ・・・若いって大変です」

「へ・・・?」


 由利と瞬の所に移動していたアイギスであるが、そうしてつぶやいたつぶやきに、由利が思わず目を見開く。


「何か疑問ですか?」

「若いってー・・・ねぇ? アイギスちゃん、どう見てもこの間生まれたばかり、でしょー?」

「・・・いえ? 私はこれでも4万歳超ですが?」

「「え゛」」


 瞬と由利が同時に、頬を引きつらせる。ここら辺実は聞いた事の無い話だった。ちなみに、またサバを読んでいるが、それはバレなかったので良いだろう。


「とは言え・・・まあ、ここまで感情があるのもおそらく私ぐらいでしょう。私は色々な人の手を渡ってきましたから」

「さ、流石に嘘だよな?」

「本当ですよ? じゃあ、一つ言い当てて見せましょうか・・・」


 瞬の問いかけに、アイギスはゆっくりと、彼女が見てきた者を思い出す。最後こそ彼女は公爵家の倉庫で眠っていたわけだが、実ははじめから古い魔石を見付ける目的で地層を調査して発掘されたホタルとは違い、彼女は本当に数多の人々の手を渡り歩いてきた。

 それ故、実は彼女が一番、人という生き物を見てきたのである。だからこそ、彼女には誰よりも含蓄があって、この言葉はそれ故の問いかけだった。


「私を手にした方には、王者が居ました。後の世に名を知られた盗賊も居ました。平民も軍人も奴隷も・・・数多の人を見てきてます・・・何の因果か、初代皇王イクスフォスも手に取られた事があります」

「は・・・?」

「王者も盗賊も奴隷も貴族も、皆さん同じく人です。そこに変わりはない。貴方は・・・気付いていますか? 貴方自身の特異性に」


 アイギスは瞬を見て、問いかける。特異性。そう言われた瞬だが、何のことだかさっぱりだった。


「何の事だ?」

「貴方の光には、まだ取り込めていない部分がある。一つになる事を拒んでいる光がある・・・もしかして、夢を見た事があるのでは? 見たことの無い風景。知らない人物。忘れたくないという思い・・・」

「っ!?」


 今まで誰にも語った事の無い事を指摘されて、思わず目を見開く。実は、あった。いや、それどころか何度も見ていた。それも、地球にまだ彼が居た頃から、だ。


「よくわかったな・・・何故だ?」

「言ったでしょう? 数万年、私は人々を見てきた、って。貴方と同じ光を持つ方を、私は少しだけ、見た事があります」

「一体、なんなんだ? これは・・・」

「それは私にもわかりません。それは前世での貴方か、それとも血に眠る記憶か。そのどちらかでしょう」

「<<原初の魂(オリジン)>>、ということか?」

「もしくは、祖先帰りとしての血の記憶。そのどちらか、でしょうね」


 瞬の問いかけに対して、アイギスが明言する。どちらか、なぞわからない。どちらも過去の者が現世の者に残した物だからだ。違いは肉体に依存するか、魂に依存するかの差だ。判別は不能だった。


「強固に失いたくない、という想いが、死して尚貴方に伝えられている。が、それ故にそれを取り込めた者は数少ない。その光に認められれば、更なる飛躍が出来ますよ」

「そうか・・・ありがとう」


 アイギスからの助言に、瞬が頭を下げる。どうやら瞬も数万年生きている、というアイギスの言葉を真実、と判断出来たようだ。そうして、思わぬ年の功を見せつけられて、アイギスは密かに瞬からの尊敬を受ける事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第674話『遥か過去の物語』

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