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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第39章 過去との逢瀬

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第671話 遠足 ――下準備――

 瞬が依頼を受けてからしばらく。冒険部でも遠足の準備が整えられていた。この人員の中には、一時期的に荒れていた由利も含まれていた。というのも、彼女の面倒見の良さは非常にこういう場合に有用だ。

 おまけに遠距離系の攻撃を行えもする。密かに敵を討伐したり、周囲の監視、子供達が遠くに行かない様にする為の見張り等非常に重要な役割をこなすのに最適だった。外されるはずが無いだろう。

 まぁ、そう言っても実は。この時点でとある理由から彼女は完全に何時も通りになっていた。どうするか、と決められていたのだ。とは言え、今はそこについては、今は横に置いておく。


「これが、昨日の掃討作戦の結果です」

「そうか、すまない・・・ふむ・・・ゴブリンの出現が少々多かったか・・・巣は近くに存在していたか?」

「否定します。センサーでの計測に拠れば、半径10キロ圏内にゴブリンの巣は無し」


 瞬の問いかけに対して、ホタルが首を振る。ホタルはここ当分、孤児院の手伝いを片手間に、今度遠足に行く場所の視察を行っていた。

 これは身体に各種センサーを搭載して掃討作戦に使える各種兵装を持ち合わせる彼女が最適だった為、ユハラから命ぜられて行った物だった。少し前に瞬と打ち合わせした際に帰って来たのは、その掃討作戦の中の一度だった。


「南側から狼型の魔物が上がってきたりしていたか?」

「肯定します。が、即座に討伐を完了致しました」

「そうか・・・」


 瞬は備え付けの簡単な地図に、ホタルから得られた情報を書き込んでいく。狼型の魔物は足が早い。なので生息範囲は広い上、生息範囲から遠く離れた場所に出て来る事もままあった。

 今回孤児院が遠足として選んだ場所は街の外でも安全な場所を選んだわけだが、そんな中で一番気を付けるべき敵が、狼型の魔物なのであった。


「何も街の外で遠足をしなくても良いんじゃないかなー」

「まあ、それはそうなんですけどねー。こう言っちゃあなんですけど、どうしてもマクスウェルは大都市。遊べる公園はあるんですけど、のびのび遊べる場所、って少ないんですよねぇ・・・せめて数ヶ月に一回は外で遊ばせてあげたいじゃないですか」


 由利のある種もっともな意見に、オブサーバー兼引率責任者として会議に参加していたユハラがため息を吐いた。確かに街中で遊べれば、と彼女も思う。

 だが、そこまでのスペースが無いのが実情だ。こればかりは地球もエネフィアも問わず、限られた土地に集合する大都市である以上、致し方がない事なのかもしれない。孤児院以外にも保育園や幼稚園、小学校やらが幾つもあるのだ。公園等の公共施設の数が限られる以上、どうしても、専有は出来ないのである。


「まあ、そう言っても子供達が遊べる様に結界は展開しますし、移動は馬車。場所にしても街から見える範囲内・・・それにこの時ばかりは、私達も護衛に出ますからねー。こんな事出来るのって正直、ウチぐらいなもんです」


 街の外へ遠足、なぞ馬鹿げた事である事ぐらい誰もが理解している。だが、それをなし得るだけの力が、彼女らには与えられているのだ。それを子供達の為に少し使うぐらい、ユハラやコフル達にはなんらためらいはなかった。彼女らは全員孤児だ。孤児に優しくするのは、自らがかつて大人達に優しくされたからこそ、だった。恩返しでもあったのである。


「とは言え、やっぱり人手不足は深刻なんですよねー・・・はぁ・・・ぶっちゃけた話、ここに居る私って分身ですからねー」

「え?」


 まさか飛び出した暴露話に、瞬達がぎょっとなる。全く見分けがつかなかった。それぐらいに見事な分身だった。


「本体はご主人様側で修行やってます・・・まあ、これも修行の一環なんですけどねー。あ、でもでも安心してくださいな。この私でも、ランクB程度の魔物なら瞬殺しますし、ランクAの魔物相手でもみなさんが逃げるぐらいの時間は稼げます」

「それに、それがわかっていたからこそ、ご主人様(マスター)は私達に協力を命じています。ご安心を」


 ユハラの言葉を引き継いで、一葉が腰を折る。今回の一件には、一葉達――と言っても一葉は待機だが――も当然参加だ。カイトが帰って来るまで、彼女らの仕事は孤児院で働く事だ。生命の大切さを学べ、という事と同時に、守る者の価値を知っておけ、という事だった。そしてそれを一葉達はすでに知っていて、今はホタルがそれを学んでいる所だった。


「と、言うわけで皆さんはぶっちゃけ、子供達がバラけてどっか行っちゃわない様にしてくれればそれで良いです。で、万が一魔物が近づいてきたら、密かにさっさと討伐してくだされば。ゴブリン程度なんぞ今の瞬さん達で余裕でしょう?」

「はい・・・今更ゴブリンなら、亜種でも瞬殺してみせます」


 瞬は笑いながら、これはどちらかと言えばかつ子供達の世話の方が疲れそうだな、と内心で苦笑する。実際の所今回の依頼で一番疲れるのはそれになるだろうな、というのが瞬の今までの経験からの結論だった。


「はい・・・ということで、できれば一瞬で消し飛ばしてくれれば幸いです。子供たちに魔物とはいえ死骸見せるのはよいことではないですからね。人員の編成はそれで出来てますよね?」

「ええ・・・とりあえず、遠距離の魔術師を中心として、子供達が何処かに行かない様に近接を半分、という所です」

「ん、妥当ですねー」


 そもそも、目を離すから、事故は起こるのだ。なので全員の面倒を見きれるだけの人員を配置しているのを見て、ユハラが満足気に頷く。さらにはこれに加えて適時どこかに行かないような人員を用意できていれば、問題はないだろう。

 瞬達もすでにかなり長い期間冒険者として活動している。冒険者として、仕事に慣れが出始めていた。昔は人海戦術で挑んだ仕事にも、今では的確に動ける様になっていたのであった。


「じゃあ、それでお願いします」

「はい。じゃあ、当日は孤児院の方に」

「おねがいしますねー」


 瞬の返答に満足気に頷いて、ユハラがその場を後にする。そうして、残った瞬達はもうしばらく打ち合わせを行って、明日に迫った遠足に備える事にするのだった。




 そして翌日。この日は朝早くから、冒険部は30人の大所帯で草原に先んじて足を運んでいた。やることはもちろん、草原地帯の安全確保だ。


「よし・・・ここを中心に、半径300メートルだな」


 瞬は地図を片手に予定地となっている場所の中心に立つと、まずは場所に間違いのないことを確認する。


「じゃあ、まずは全員でここら半径1キロの掃討作戦を行うぞ! 竜種が出た場合は、全員で集合して戦闘だ!」

「おう!」


 瞬の言葉に、全員が応ずる。とりあえずここら一帯で最も危険なのは極稀に出没する竜種だけだ。それにしたって今の瞬であれば、強大でなければ援護さえあればなんとか倒せる。

 それに万が一の場合にはホタルが上空で全員がバラけ過ぎない様に監視すると共に、即座の援護態勢を整えている。安全性は十分確保出来ていた。


「ふっ!」


 作業開始から、1時間程。瞬は2メートル程度の槍を振るい、ゴブリンを2体まとめて串刺しにする。掃討作戦の最中にホタルが上空からこちらに近づく10個程の影を見付け、連絡を送ってきたのだ。それを受けて、瞬が一人――と言っても魔術師達が監視しているが――討伐に出たのである。


「ちぃや!」


 瞬は串刺しにしたゴブリンを遠心力でふっ飛ばして、更にそのまま円を描く様に槍を回す。別に穂先で切り裂こうとは考えていない。今の瞬の膂力(りょりょく)であれば、ゴブリン達を数体まとめてなぎ倒す事なぞ容易だからだ。そうして、柄の打撃でゴブリン達を一箇所にまとめると、瞬はジャンプで大きく飛び上がる。


「<<雷よ>>! <<雷撃震(らいげきしん)>>!」


 ジャンプで飛び上がった瞬は、そのままゴブリン達の中心部に振り下ろす様に雷を纏わせた槍を投げつける。地面に叩きつけられた雷の槍は地面に落着すると同時に、周囲に雷を迸らせる。

 それで、大半のゴブリンは消し炭になったわけであるが、それでもまだ生き残りは居た。それに地面に着地した瞬は、また別の槍を創り出す。


「<<幻影槍(ミラージュ・ランス)>>」


 着地した瞬はそのまま途切れる事なく槍を構える。構え方は投擲のフォルムだ。そうして、更に瞬の口決に合わせて、篭手の魔石が光り輝く。構えるだけでなく、彼は一手間加えていたのだ。彼の周囲には10本程の槍が浮かんでいた。これらすべてが、彼の創り出した槍だった。


「ふん!」


 瞬は振りかぶって、槍を投げつける。それと共に、10本の槍もまた、突撃を開始する。相変わらず直線的な攻撃しか出来ないわけだが、それでも少しのパワーアップはあった。それが、この槍の同時投擲による面攻撃だった。

 難点としては今の瞬では操作等の問題から一直線にしか放てない事であるが、それでも強敵に対しては良い牽制や巨大な敵に対する良い連続攻撃になった。


「っ!」


 槍を投げつけた瞬だが、その次の瞬間に左手に再び槍を創り出すと、それを後ろに振りかぶる。と、同時にきぃん、という澄んだ音が鳴り響いた。

 どうやら戦闘に引き寄せられて、別のゴブリン達が近づいていたらしい。それを見ていた魔術師の生徒が、ヘッドセット越しに瞬に提案する。


『援護を向かわせましょうか?』

「いや、必要無い」


 瞬は振り向きざまに右手に槍を創り出して、左手で防いでいる攻撃を放ったゴブリンに対して突きを繰り出す。そしてそれと同時に、援軍の提案を断る。見えたのはゴブリン3体――内一体は串刺しになっている――だ。ちょうど10体討伐した所だし、別に同じ種類の魔物が3体だというのに問題はない。


『わかりました。周囲の警戒を続けます』

「そうしてくれ・・・はっ!」


 瞬は左右の槍を同時に突き出すと、それで残る2体の魔物を串刺しにする。そうして、今度は雷と火の加護を同時に展開して、槍に纏わせる。


「燃えろ!」


 二つの加護の力を受けた槍によって内部から急激に加熱されて、ゴブリン2体が一瞬で消し炭になる。肉の焼ける嫌な臭いさえ無い。


「よし。これで大丈夫だろう」

『敵影無し・・・先輩の周囲にはとりあえず敵は見当たりません・・・楽な仕事ですね』

「言うな・・・それに、かと言って手は抜けん仕事だろう」


 ヘッドセットから響いてきた声に、瞬が苦笑する。確かに油断していても勝てる相手が主であるが、同時にだからといって手を抜いて良い仕事ではない。

 子供達はゴブリンよりも遥かに弱いのだ。自分達が大丈夫だろう、と見逃した一匹が、子供達の生命を奪いかねない。手を抜ける仕事では無かった。


『そうですね・・・あ、先輩。東、端っこの方で救援要請です。手が空いているようなら、向かってもらえますか? 『リザード』達が5体程居て、少々手をこまねいているらしいです』

「新入り達か・・・分かった。今からそちらに向かう」

『じゃあ、これからのオペレートは古川に』

「ああ」


 今回、オペレーターというか魔術師達は担当範囲を決めて、その中の生徒や冒険者達に指示を下していた。というわけで東側担当の生徒にオペレーターが切り替わる。


『古川です。お願いします・・・『リザード』の亜種が出たらしく、手を』

「了解。少し遠い。加護を使って駆け抜ける、と通知しておいてくれ」

『了解です。一条会頭がこれより、加護の力を使って移動します』


 オペレーターを引き継いだ少女の声を耳に聞きながら、瞬は雷の加護を展開する。目標は500メートル程先だ。少々遠いので加護を使って加速を、という事だった。

 <<縮地(しゅくち)>>が使えればそれで良いのだろうが、今の瞬では加護以上の速度で、というのはまだ無理だ。加護に少々頼りすぎだな、と練習している最中であるので実戦で使う事はしなかった。


「無事か!?」

「先輩! ちょっとお願いします!」


 瞬の到着は、1秒程だった。というわけで、けが人こそ居たものの、誰も致命傷は受けていなかった。そうして、彼らが取り囲んでいたのは、赤い『リザード』と色違いの緑色の『リザード』だった。

 緑色は周囲の草原地帯に溶け込む保護色であると同時に、口から毒液を吐く少々厄介な個体だった。安易に向かっていかず、瞬の援護をもらおうとしたのは良い判断だろう。とは言え、今の瞬にとっては雑魚と変わりが無い。


「後は任せろ・・・ふっ!」


 周囲の冒険者達を下がらせると、瞬は再びジャンプで飛び上がる。亜種も普通の『リザード』と同じで固い鱗で覆われている。毒もあることから、安易に近づくべき敵ではない。なので今度は射程距離と威力を考えて、投槍で仕留めるつもりだった。とは言え、切り札である加護を使った投槍を振るう必要は無いので、普通の投槍だったが。


「ふぅ・・・後は魔術で消し炭にしてやれ」

「はい」


 瞬は上からの投槍で『リザード』の亜種を地面に串刺しにすると、魔術を使う生徒に命じて完全に討伐することを命ずる。別に瞬が全てをやる必要はない。彼は指揮官であると同時に、遊撃兵だ。スタミナを残す必要もあった。


「東側、敵の討伐を終了した。後はこちらの生徒でもなんとかなる」

『了解です・・・現状、救援要請も新たな敵影の発見もありません』

「そうか・・・ホタル・・・だったな? 上空からの状況は?」

『問題無し。後2時間程で馬車が発車します。それまでに作業を終わらせてください』

「わかっている・・・よし。掃討はこのぐらいで大丈夫か・・・そろそろ結界の展開に入るか・・・」


 瞬はとりあえず近辺の魔物を粗方討伐出来た事を確認すると、次の結界の設置準備に入る。やることとやり方は少し前にソラ達がミナド村でやった事と同じだ。違いがあるとすれば、少々規模が小さい事と、結界の種類が違う程度だ。そうして、瞬は一同に指示して、結界の設置作業に取り掛かる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第672話『遠足』

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