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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第39章 過去との逢瀬

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第669話 孤児院

 もはや言う必要も無い事ではあるが、マクスウェルには孤児院がある。それも幾つも存在している。その中でも最大の物はやはり、カイトが設立した創立300年とちょっとというこの街で最も古い孤児院だろう。これは流石に資金力が違いすぎる為、致し方がない所ではあった。


「・・・いや、大きすぎるだろう、これは・・・」

「そうですかね? まあ、50回ぐらい改修してますからねー」


 頬を引き攣らせた瞬に対して、ユハラが少々可怪しいかも、と思いながら相槌を打つ。孤児院、と聞かされてどんな所なのだ、と想像を働かせていた瞬であったのだが、孤児院にしては規模が大きすぎる。

 というよりも、篤志で賄われる孤児院にしては、建物からして巨大だった。建屋は4階建て、広さは学校程もある。天桜学園の校舎とくらべても遜色はないだろう。それが、孤児院だった。


「それに、私筆頭にお給金の中から結構ここに振り込んでる人多いですからねー。いや、ぶっちゃけ、ここ出身の子達の2割ぐらいが毎月仕送りとかくれてますし、残り半分ぐらいの子も定期的にくれてますからね。<<(あかつき)>>の子達も積極的に仕送りとかくれますし・・・」


 ユハラは何処か遠くを見るように、そう告げる。<<(あかつき)>>は元々、マクダウェルが発祥の地だ。そして同時に、その初代達の方針から今でも孤児達を積極的に受け入れてもいる。

 とはいえ、それも全員受け入れられるわけではない。逆に受け入れられない様な事情があったりすると遠くのマクダウェル公爵家に頼み込んで孤児院に入れてもらったりする。

 教育が整っていない自分たちの所で育てるよりも、とわざわざ飛空艇を使ってこちらへ寄越すのだ。そして、今度はそういった縁で<<(あかつき)>>に戻る子も割りと多い。なので、彼らからも定期的にお金が寄付されていたのであった。


「というわけで、この孤児院は大陸中どころか世界中から送られてくるわけです」

「なるほど・・・」


 瞬は個人の状況やここに来る事になる子供達の事情等を教えられて、なんとも言えない表情で頷く。当たり前だが、孤児だ。事情は様々だ。はじめから如何な理由かで親が居なかった者も居れば、盗賊達や魔物らに親を殺されて、という事もあった。なので年齢層は様々。上は20近くでそろそろ独り立ち、という者もいれば、下は0歳まで、と幅広かった。


「まあ、そういうわけですんで、普通はご主人様方が注意されているんですが・・・」

「ああ、いや、分かってます。承りましょう」


 ユハラの言外の言葉を受けて、瞬が頷く。もちろん彼とてなんの目的も理由も無くこんな所には居ない。仕事だから、孤児院に来ていたのだ。

 孤児院からの依頼はこども好きかつ面倒見の良いカイトかティナが受けに行くわけであるが、今回はその二人が居ない為、瞬が来た、というわけであった。

 その仕事というのは、簡単にいえば遠足の手伝いだ。孤児院の子供達は遊びたい盛りの子は多い。だが、やはり人員も広さも有限だ。そこらを歩きまわる児童達に対しては、どうしても人員の数が足りなかった。

 なのでアルバイト的に、冒険者の手を借りる事にしていたのであった。料金は安いが、地元での風評と言う無形の財産を考えれば割の悪い仕事ではない。


「で、今回は何処に行くつもりですか?」

「そうですねー・・・星を見に、というのも有りだったんですけど、日帰りじゃすまなくなる、ってご主人様から止められましたので今回は西の草原地帯へでも」


 笑いながら、ユハラが西の空を眺める。そちらに何があるのだろうか、と瞬も眺める。すると、小さな黒い人影が見えた。それは急速にこちらに近づいてくると、10秒ほどで二人――正確にはユハラ――の前に着地した。


「ん?」

「ユハラ侍従長。帰還しました」

「はーい、おかえりなさい。じゃあ、次は洗い物おねがいしますねー」

「・・・了解」


 着地したのはホタルだった。そんな彼女は着地するや即座に出された次の指示に少しだけ間を空けて頷くと、そのまま歩き始める。


「うーん。良い反応ですねー」

「いや、今のがですか!?」

「ええ、良い反応です」


 驚いた様子の瞬に対して、ユハラが笑う。あまり他人の感情を読み取る事が得意ではない瞬であるが、それでも今のホタルの様子からはある感情が見て取れた。それは一言で表せた。


「物凄い不満気だった様な・・・」

「そうですよー? だから、良いんじゃないですか。不満を感じている自分に対して、彼女は認めようとしない。だからこそ、一瞬間を空けつつも、それに何も言わずに従う・・・でも、その時点で、感情を認めている様なものじゃないですかー」


 パタパタパタと手を振るユハラは、笑いながら語る。感情を認めようとしない、という事はその時点で感情なのだ。ホタルは機械足らんとしているにも関わらず、客観的に見ればすでに感情的に対処していたのである。


「子供達は理不尽です。それもあの年頃の子供達は純粋無垢であるが故に、我が儘でもある。でも、ご主人様の命令はただ一つ。そんな理不尽な命令に従え・・・いつ、爆発しますかねー」


 ニコニコ笑顔で、ユハラがつぶやく。理不尽だからこそ、なのだ。理不尽でなければ、仕方がないと納得出来る。これは機械としても当然の帰結として、結論付けるだろう。だが、それではダメなのだ。感情を認めさせる事にはならない。


「爆発って・・・大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよー。だからこそ、一葉ちゃん達やアイギスちゃんが居るんじゃないですか。まあ、それに・・・爆発が先か、感情を理解するのが先か、って賭けなんですよね、今のところ」

「?」

「見てください、あれ」


 ユハラが物干し竿に洗濯物を干している最中にも関わらず子供に絡まれるホタルを指し示す。それはうざったそうな顔はあるにはあったが、同時に、少しだけ嬉しそうにも見えた。


「本質的には、子供好きなんでしょうねー。まあ、ご主人様達の影響でしょうけど・・・それに、悪い気がするはずが無いじゃないですか。あんなこと言われて」

「あんな事?」


 ユハラの言葉に、瞬が首を傾げる。何があったのかは分からないが、どうやらそれだけのことはあったらしい。


「まあ、私は理解が先、って読んでます・・・というわけで、お仕事の話に入りましょうか」

「あ、はい」


 何を思い出していたかはわからないが、それでも少し楽しげなユハラに促されて、瞬は孤児院の中に入っていく。そうして、彼は数日後の依頼についての打ち合わせを行う事にするのだった。




 時は少しだけ、遡る。カイト達が出立したその直後。ホタルは一葉達と共に、孤児院にやって来ていた。


「これが一日の業務日程になります」

「・・・え?」


 孤児院で働くメイドからぽん、と手渡された資料を見て、ホタルが思わず目を瞬かせる。入って早々だ。まるでそれが予め決まっていたかの様な自然な流れで、ホタルには業務手順書が手渡されたのである。そしてそんな流れに疑問を抱いたホタルに対して、逆にアイギスや一葉達が首を傾げる。


「何を疑問に?」

「一葉・・・本機は戦闘用特型ゴーレム。使用用途が異なると推測されます」

「? それは・・・違うでしょう。炊事洗濯掃除・・・主婦と主夫の皆さんに失礼ですが、戦闘では無く家事なのですから」

「護衛が主なのでは?」

「? 炊事洗濯とかで手が足りない事の補佐よ?」


 疑問を呈したホタルに対して、すでに洗濯物の籠を手に抱えていた二葉が首を傾げる。


「え・・・?」

「いや、孤児院が毎日毎日遠足なんてしないでしょ。予算あるんだから」

「毎日でも楽しそうだけどねー」


 二葉の言葉に、三葉が笑いながら告げる。そう言う彼女は実は本屋で幾つもの絵本を購入――代金は半分カイト持ち――して来ていて、それを袋から出していた。


「あ・・・あれですか? 上の子たちへの授業等の方が得意でしたか?」

「いえ・・・教官としての機能は本機には搭載されていません」


 メイドの言葉に、ホタルが首を振る。そもそも彼女は軍用品だ。家事をこなす機能が搭載されているはずがない。軍事作戦に関する立案などはまだしも、子供向けの授業なぞもっと無理だ。

 それでも炊事を行えるのは、護衛機としての役割があるからだ。食事への毒の混入は暗殺の基本中の基本だ。成分分析も可能なゴーレムに任せよう、というのは悪い話ではなかった。

 が、それでも洗濯と掃除は別だ。爆発物等の危険物が仕掛けられるのなら別だが、それでも魔術で対処可能だ。護衛する為の機械にそんな機能を搭載する必要もない。


「まあ、どちらにせよ炊事の方は人手が足りていますので、洗濯の補佐をお願いします。そちらは力仕事ですから、ゴーレムの力が活かせるかと」

「・・・了解」


 メイドの言葉に、ホタルが少し不満気に頷く。今回、カイトから命ぜられたのは、孤児院の活動の補佐だ。それが主命であれば、彼女に否やは無い。というわけで、洗濯物を手伝う事にしたホタルであるが、この時点で躓いていた。


「ああ! 力任せに引っ張っちゃダメ!」

「・・・了解」


 二葉からの注意を受けて、ホタルは少しだけ弱い力で布団シーツを伸ばす。後に聞いた話では、どうやらおねしょした子供のシーツを洗った物らしい。すでに洗い物自体は朝一に終わっていたので、彼女らはそれを干す事をしていた。

 と、まあ、そういうわけであるため、その犯人らしい小学生に上がるか上がらないか、という程度の少女が、ホタルの横で気まずそうにうなだれていた。


「ごめんなさい、おねえちゃん・・・」

「何故謝られるのかわかりません。これは本機の仕事ですので」

「うぅ・・・」

「ああ、違うの違うの。このお姉ちゃんは別に怒ってるわけじゃなくて、ただ単にちょっと感情を表に出すのが苦手なだけだから、ね?」


 無表情かつ無感情に告げたホタルに泣きそうな女の子に対して、二葉が大慌てにフォローを行う。ここら実は始めの内は泣き喚く子供達にどうするのが良いのか判断出来ず二葉達もあたふたとする事が多かったのだが、今になると流石に慣れが出て来始めていた。

 そうして、しばらくの間洗濯物を干すホタルと、子供をあやす二葉であったが、女の子が泣き止んだ後、再び二葉が口を開いた。


「あの子が来たってことは・・・お昼寝の時間が終わったって事ね。今日はどれぐらいの子が来るかしら・・・」

「・・・音数から判断して、こちらに30名程の子供達が外に向かっているかと・・・ソナーを使われては?」

「そういうことじゃないんだけどなー」


 ホタルの提言に、二葉が苦笑する。敢えて言うまでもない事であるが、索敵を三葉が特化しているからと言っても、一葉も二葉も出来ないわけではない。性能が落ちるだけだ。

 そして落ちると言っても、彼女らはティナの最高傑作の一つ。一つの分野における頂点だ。並以上の性能は持ち合わせている。いくら騒がしくても、足音で児童達の数を判断するぐらい簡単だった。


「はぁ・・・」

「これからどれぐらいの子供達がこっちに来るんだろう、って思うと楽しくならない? いや、作業邪魔されるから苛立ちもするんだけどね」

「理解不能です。本機はゴーレム。二葉達ホムンクルスとは違いますので」

「そっかな? アイギスはきちんと、そこらの機微は理解してるみたいよ?」

「・・・」


 二葉の言葉に、ホタルが言いよどむ。二人が何が違うのか、と言われれば、肉体の構成要素の差ぐらいだ。それ以外に何か差は、と言われれば、あまり思いつかない。だからこそ、ホタルはあくまで考えられる理由を告げる。


「彼女はマスターの影響を受けていますので」

「ふーん・・・あ、来た。ホタル! ここからが腕の見せ所よ! 頑張って落とさない様に、干し終えなさい!」

「了解」


 二葉の言葉とほぼ同時に、孤児院の外に子供達が大きな声を上げながら出て来る。そうして、気を付ける様に、という意味はホタルにもすぐに理解出来た。新しい人が入ってきたのを見て、人懐っこい子供達が声をかけてきたのだ。


「なーなー、ねーちゃん。誰ー?」

「新しく入った人ー? なんでメイド服じゃないのー?」

「違うって。こっちのねーちゃん確かあのカイトのにーちゃんが一緒に居た人じゃん」

「違うよ。確かロボットだ、って言ってたよ」

「?」

「・・・ゴーレムだよ」


 どうやら年齢的にゴーレムという単語もロボットという単語も知らない子供も居たらしい。ロボットと言われても何それ、状態だ。

 とは言え、なんとなく理解はしたらしい。一気に歓声が上がった。まあ、それでも半分程度は言い換えても理解出来ず、他の少し年上の子供が驚いていたので一緒に驚いている様子だったが。


「おぉー! なぁなぁ、ロボの姉ちゃん! 飛べないのか!」

「可能です」

「おぉー!」

「あぁーあ」


 水を向けられて出来るか出来ないかを問われただけだった為答えたホタルに対して、二葉が密かにため息を吐いた。それはやっちゃったな、という感じだった。


「なあ、飛んで!」

「こう、足からぶわーって火が出んだろ!?」

「足からは火は出ません。本機にスラスタは搭載されていませんし、搭載されていても出るのは魔力の噴出による魔術光というフレアで・・・」

「・・・? んな事どうでも良いから、飛んでくれよ!」


 当たり前といえば当たり前であるが、相手は子供だ。飛翔機から出る光がバーニア等による火ではなく、熱を持たない光だ、と理論的に説明した所で誰も理解しない。理解したら驚きだ。というわけで、わけわかんない、と全員が一斉に切って捨てて、そのまま再び飛んで見せる事をねだり始める。


「本機は現在職務中です」

「えー!」

「いいじゃん! なぁ、二葉ねーちゃんもいいだろ! ちょっとぐらい!」

「ホタルが良いならねー」

「え?」


 まさかの手のひら返しに、ホタルが二葉の方を向く。今は誰が見ても分かる通り、洗濯の真っ最中だ。即座に否定される物と思っていたらしい。

 そうして、ホタルはあの手この手で子供達から絡まれる事になる。迂闊にも出来る、と断言した事で、大層興味を持たれてしまったようだ。


「なぁなぁ! 飛んで飛んでー!」

「干したシーツを引っ張らないでください。後、衣服を引っ張るのもおやめください。職務に支障が」

「ねーちゃん、おしっこー」

「わぁ!? えっと、トイレトイレ! 他に行きたい子は!?」


 流石にホタルでは無理、と判断している事については二葉が手を貸してくれるのだが、それでも基本的に全てホタルに判断させていた。ということで、あまりにしつこい子供達に対して、このままでは仕事にならない、と判断したホタルは致し方がない、と飛んで見せる事にした。


「・・・これでよろしいでしょうか」

「おぉー・・・なんか想像とちがーう」

「・・・」


 二葉にも、今のホタルの感情は手に取る様に理解出来た。簡単だ。彼女なら、こういっただろう。『このガキ・・・』と。と、言うわけでホタルも知らずむっとしていた為、少しだけ、技を披露する。


「おぉ! すっげぇ!」

「今のどうやったの!」


 転移術で消えてみせたホタルに、子供達も流石に興奮をにじませる。それに、ホタルも少しだけ、鼻高々、という所だ。が、これは別の効果をもたらしていた。


「もう一回!」

「・・・」


 子供達の声に促されて、ホタルが再び消える。彼女は認めないだろうが、やはり喜んでくれた事と驚かれたのが嬉しかったのだろう。顔も何処か、嬉しそうだった。が、それも二度だけだ。それが終わると、彼女は仕事に戻る事にする。が、無理だった。


「もう一回もう一回!」

「今度は乗っけて飛んで!」

「あぁーあ。私しーらない。自分で処理頑張ってねー」

「え? え? え?」


 どうやら満足させられれば、離れていってくれると思っていたようだ。ホタルはまさかの予想外の事態に、困惑するしかない。そうして、この後も子供達に振り回されながら、ホタルは孤児院の仕事を手伝う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第670話『勘違い』

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