表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第39章 過去との逢瀬

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

690/3948

第668話 姉妹

 イクスフォスとカイト達。実は再会を果たしていたのは、この二組だけではなかった。それはホタルもまた、そうだった。


「久しぶりです、レナ」

「レナ?」


 自らのあずかり知らない名で呼ばれて、ホタルが疑問を呈する。彼女の前には、彼女と似た容姿の少女が二人立っていた。違うのは彼女らの方が少し年齢が高めに設定されているからか顔立ちが少し大人びていた事と、髪色が青と赤である事ぐらい、だろう。


「本機の個体識別名はホタルです。別の試作機と間違えているのでは?」

「スカーレット、レナはレナの名前、知らないよ?」

「・・・そうでした。レナはマスターが勝手に付けた名前でした」


 スカーレットと呼ばれた少女が、うっかり、という様な感じで少しだけ照れを見せる。それは誰がどう見ても、年頃の少女が見せる照れた表情だった。

 が、彼女らは人間ではない。ホタルと同じく、特型ゴーレムだった。かつて彼女が述べた、ライン帝専用機だ。つまり、ホタルの完成形だった。

 だがそれ故、ここまで見事な感情を見せた事にホタルは思わず、内心で驚きを浮かべた。が、口にしたのは、そんな驚きを他所に別の事だ。


「8番機と9番機。貴方達の情報を下に完成させられた機体・・・それで間違いありませんか?」

「うん、マスターより私はアクア、彼女はスカーレット。マスターからそう名前をもらったの」

「始めは、レイヤとレイクと名前付けられそうになってましたけどね」


 どちらも製造番号である『08』と『09』をそのまま読んだだけだ。あまりにも情緒もへったくれも無い名前に、誰かからツッコミが入ったらしい。どうやらイクスフォスは<<無才(ゼロ)>>の名に違わず、ネーミングセンスもいまいちだったようだ。

 ちなみに、今の由来は一応髪の色なのだが、幸い名前としても使えそうな色であったのは、幸いな事だろう。別の者も名前を考えたのだが、イクスフォスが自分の権利だ、と言って譲らなかったらしい。


「にしても、そっち結構な高性能機みたいじゃん」

「ああ・・・鹵獲はむっちゃくちゃ苦労したけどな。あれで、出力半分以下だ。全力なら、とゾッとした」

「ありがとうございます」


 三人娘達が密かに自らのデータの調達に入ったのを受けて、どうやらカイトとイクスフォスはホタルの話題に入っていたらしい。ということでそれを耳聡く聞いていたホタルが頭を下げた。


「まあ、あの後アクア達の技術を使って改良されてっからなー。スペック的には、上かもな」

「なるほど・・・それであれだけ強かったのか・・・」

「む・・・マスター、それには抗議します。私達はホタルの完成形。私達の方がスペックも上です」

「そうだそうだー」

「否定します。本機は終戦後、2機の情報を元に改良されています。更に教授(プロフェッサー)の手も加わっていますので、スペックは上かと」


 不満気に抗議の声を上げたアクアとスカーレットの二人に対して、ホタルがスペックシート上の事として、反論を返す。それに、イクスフォスも少しだけ考えて、ホタルの言葉に頷く事にした。が、次いで彼が出した一言が、問題だった。


「んー・・・スペックシート上はホタルのが上、ってのは確かだろうけど・・・まあ、でも、やったら勝てそうじゃん」

「否定します。本機の方が上です」

「む・・・」


 ぴしっ、という擬音が似合うぐらいに、空気に亀裂が入る。どうやらホタルの一言はスカーレットとアクアの二人の嫉妬心か何かに火を付けたようだ。


「では、実際に戦ってみましょう。私一人で十分です」

「そうだね。スカーレット一人で十分」

「む・・・」


 アクアとスカーレットの言葉に、今度はホタルが知らず、むっとなる。どうやら感情の萌芽は始まっているようだ。ここら、自信が傷ついたらしい。


「んー・・・もう少し時間ありそうだから、やれば?」

「いや、勝手にきめんなよ・・・まあ、面白そうだから良いけど。ってことで、ほい」


 面白そうだから、という事で許可を下ろしたカイトが、即席で戦える異空間を創り出す。自分達が酒を飲む為の席も一緒だ。


「てことで、ファイ!」


 カイトの掛け声に合わせて、ホタルとスカーレットの二人の姿が消える。お互いに万が一でも主を傷付けない様に、距離を取ったのだ。


「完成形を舐めないで貰いたいですね! それにこちらとてユスティエル様とユスティーツィア様の手が加わっている・・・改良しているのが貴方だけと思わない様に!」

「っ!?」


 スカーレットの剣での初撃を受けて、思わずホタルが顔に驚きを露わにする。その威力は確かに、彼女の情報に記録されているスペックシート上の物よりも遥かに上だった。


「スペックシートで変わったのは貴方ものはずなのに・・・この程度?」

「っ」


 挑発をまさか同じ特型ゴーレムにされるとは。そう思ったホタルが僅かにだが、顔を歪ませる。それは図らずも、彼女に感情の萌芽があったが故に起きた物だった。

 だから、ホタルは知らず、スペックシート以上の力で刀を振るう。それは一瞬でスカーレットの目の前に突きつける様な速さだった。


「これで満足ですか?」

「いいえ?」


 ふわり、とスカーレットの姿が掻き消えて、ホタルの後ろに現れる。


「魔術は少々卑怯ですか?」

「否定します」


 彼女らには本来、与えられた魔術以外に選択肢は無い。そしてホタルが最近スペックアップされた事は、スカーレット達も把握している。なのでの問いかけだった。

 そうして、スカーレットは幻術を織り交ぜた剣舞を披露し始める。どうやら向こうははじめから手加減無しで来るつもりらしい。


『クスクスクス。貴方の探知能力は推測出来ます。ここに至ると、探知レベルを大きく超えてしまうでしょう?』

「っ・・・これ・・・は・・・」


 幾重もの幻に取り囲まれて、ホタルが知らずつぶやく。幻が放つ剣戟でさえも、見きれない。幻術の練度も機体の性能も共に、今の自分以上だった。

 それは客観的な事実として、ホタルにもそれを認められる腕前だった。だが、客観的な事実としてそれを認められたというのに、何故か、ホタルは認める事をしなかった。


「なら!」

「っ!?」


 ここら主と似てきた、という所だろう。ホタルは無数の剣戟は見切れないと判断すると、幻の刃を全部まとめて破壊する事を選んだようだ。なので彼女は異空間に手を入れてティナから与えられた魔銃を手に取ると、周囲に向けて乱射し始める。

 それは見境無く、まさに怒涛のごとくというのが相応しい物だった。それには流石にスカーレットも幻術では対処出来ず、本体だけは切り払いで対処するしかなかった。


「全く、お上品さの無い!」


 思わず苛立ちを露わにしたスカーレットに対して、ホタルは無言で転移術を行使して、スカーレットの後ろ側に回る。

 とは言え、すでに決着は付いてる。彼女に手加減をする様な精神はまだ宿っていない。出力でも負けているし、技の練度でも負けている。実は決着は初手だけで決していた。なのに、ホタルが知らず粘っていたのだ。

 理由は簡単だ。自らで負けているという事実を打ち消す為に自らで幾つもの推論をぶつけて、それを試していたのである。


「っ!?」


 きぃん、と大きな音が響いて、スカーレットが少しの驚きを露わにする。ホタルの出した出力が上がっていたのだ。先ほどまで手加減をしていたとは思えなかったので、意志の力が増大したことによって出力が上昇したとしか考えられなかたった。

 それに、スカーレットは一抹の嬉しさを感じる。それは姉であり妹であるホタルに感情が確かに宿っている左証だからだ。

 そして同時に、それがまだ完成されていない事も理解した。まだまだ、スペックシート上より少し上程度しか出せていない。だからこそ、彼女はまだまだ負けられない、という生物としての先達である誇りを胸に、更に出力を上げた。


「はっ!」

「っ!?」


 何故か出せた全力を越えた一撃を弾かれて、ホタルが止まる。どうやら諦めたようだ。それに、スカーレットが少しだけ、呆れを見せた。


「これで終わりですか?」

「肯定します。申し訳ありませんでした。本機の目測違いでした」

「やれやれ・・・ん?」


 スカーレットはホタルの中に芽生えていた感情の萌芽を指摘しようとしたらしいのだが、そこでふとカイト達の方を見てカイトが手で待ったを掛けたのに気付いた。


「・・・わかりました。貴方も良いマスターに出会えた様ですね」

「?」


 意味が理解出来ず、ホタルが小首を傾げる。まあ、今のやり取りがわかっていれば、おそらく勝敗はホタルに軍配が上がっていただろう。

 実は本来、イクスフォスが言った様に、スペックシート上はホタルの方が上だ。こればかりはいくら試作機とは言え後に改良を加えられ、しかも二人を参考にしている以上、致し方がない事だった。

 そしてもしそこまでホタルに感情が芽生えていた場合、二人は不満を述べつつも、少し嬉しそうに素直にそれを認めていただろう。




 戦いの様子は当然だが、カイトにもイクスフォスにも見られていた。ということで、終わったのを見て、アクアが見たままを告げる。


「終わりました」

「みたいだな」


 酒を呷りながら、カイトが同意する。酒の肴に見ていたのだ。言われなくてもわかっていた。


「申し訳ありません、マスター」

「勝ちました、マスター」


 二人は着地すると同時に、各々の主に結果を報告する。


「ん、お疲れ様」

「ホタルもな・・・まあ、ホタルはこれから要修練、ということで」

「必要があるとは思えませんが・・・」


 ホタルは相変わらず、自らを機械として捉えている。そして機械であれば、修練を積んだ所でパワーアップはしない。そう思っている様子のホタルに、カイトは微笑む。


「そう言うな。主命だ主命。そう思っておけ」


 彼女は僅かばかりとは言え、負けたくない、と思ったのだ。それを指摘すれば、話は早い。だが、それはしない。自らで気付いてこそ、彼女には意味がある。


「っと、そだ。なら主命だ。オレが修行に行っている間。お前には冒険部の警護を任せていたな?」

「肯定します」


 カイトからの言葉を、ホタルが認める。今回の修行は久しく戦いから離れていた者達も参加する為、マクスウェルの守備がかなり手薄になる。というわけでホタルに援護を頼んだわけであった。が、カイトはそれに追加を与えようというのであった。


「で、ついでだ。孤児院行って、ガキ共の面倒も見てこい。遠足があったはずだから、それにも参加しろ」

「・・・意味を理解しかねます。追加の説明を」

「適当にガキと戯れろ、ってこった。今のお前にゃそれが一番重要だ・・・あ、一葉達にもアイギスにも同じ命令与えてるからな。協力するように」

「了解」


 なんだかんだ言ったが、結局は一葉達との連携の練習か、とホタルは判断する。ホタル自身は機械的に動くが、一葉達は普通の人と同じ様な思考体系だ。ミスをすることもある。その為の練習だ、と思えば彼女にも納得出来たらしい。そうして命令を受諾したホタルを見て、カイトが少しだけ、笑った。


「にしても・・・そっちも同じ考え、か」

「はは・・・不思議なもんだよなー」


 カイトの言葉を聞いて、イクスフォスが少し嬉しげに笑う。見るのは、ホタルとスカーレット達だ。


「考えたのユスティなんだぜ、こっち」

「こっちはティナが、か・・・母娘で会話が出来ずとも、きちんと血は受け継いでいた、か」


 当たり前だが、ティナはスカーレットとアクアこと特型ゴーレムの8番機と9番機に自身と同じ改良が加えられている事は知らない。そして改良を施したユスティーツィアとて、娘が如何な因果かで同じ改良を施す事になるとは、思ってもいなかっただろう。

 だというのに、母娘は同じく機械に感情を組み込む、というある種奇異な改良を施していた。そんな一致に、思わず、お互いにその夫である二人は笑みが浮かんだのであった。


「・・・そういやさ・・・」

「んぁ?」


 イクスフォスが口を開いたのを受けて、カイトが首を傾げる。後は一葉達が戻ってくるまで、自由気ままに雑談だけになっていた。なので何か重要な話では無いはずだったが、少しだけ、真剣さを帯びていた。


「なあ・・・ホタルってさ・・・あれ、付いてる?」

「あれ・・・?」

「いや、まあ・・・性欲満たす機能」

「はぁ?」


 イクスフォスから言われた事が理解出来ず、カイトが顔を顰める。言わんとする所は理解出来たし、機械である事を除けば、ホタルもスカーレット達も美女と呼んで良い容姿だ。

 そして下世話な話であるが、そういった性欲を満たす為の機械はこの世界にも存在している。ゴーレムも然り、だ。こればかりは致し方がない事だろう。とは言え、マルス帝国の帝王が使う物にそんな物が搭載されているのか、となると、これは流石に疑問だった。


「いや、実はさ・・・後で調べてわかったんだけど、ついてたんだよな、あれ」

「へ・・・どこまで人嫌いなんだよ、あの王様は・・・」


 全部を機械で、とはカイト達も予想していた。が、まさか性欲まで機械で満たそうとは、とカイトがもはや哀れみを通り越して呆れ返る。と、そんな会話を聞いていたらしいホタルが、口を開いた。


「肯定します。本機は性能的には後続機と同じ物が採用されています。オミットされた物こそあれ、搭載されていない物はありません。性欲処理用の魔道具は搭載されています。搭載場所は下腹部です・・・ご覧になられますか?」

「別に良い」


 ホタルの言葉に、カイトが首を振る。ティナは知らないとは思えなかったので、おそらくティナは意図的に伝えなかったのだろう。彼女とて女だ。機械で満たそうとするぐらいなら、自分がやると言うだろう。


「はぁ・・・ティナには一応全スペック提出させておくか・・・」

「あ・・・そうだ。ソフィで思い出した。結婚式。まだ挙げてないよな?」

「待ってくれ、って必死で頼み込んだの何処のどいつだよ」

「そうなの?」


 カイトから出された言葉に、思わずユリィが驚きを露わにする。当然だが、聞いたこともない事だった。


「あのな・・・当然オレだって結婚式は考えてたさ。そこにこいつが来て、本気で土下座したんだよ」

「たはは・・・いや、父親の面できねえけどさ。それでも、やっぱオレ、お父さんだしさ・・・頼み込んで結婚式の花道一緒に歩きたいな、って」


 イクスフォスが少し照れ臭そうに、父親としての顔を覗かせる。彼とて別れたくて別れたわけではない。王様として、泣く泣く別れたのだ。せめてもの我が儘、という事でカイトに頼み込んだ、というのが、実はカイトがティナと結婚式を挙げていない理由なのであった。


「おかげでさんっざん愚痴られてるんだが・・・この詫びは何処で晴らしてもらいましょうかね」

「いや・・・まあ・・・結婚式にゃ親族として親父達も連れてくるからそれで許して」

「それでルイスで揉めさせたいわけね!」

「あはは! もっち!」


 カイトの怒号に、イクスフォスが親指を上げて頷く。どうやらその通りだったらしい。そうして、そんな馬鹿げた話をしつつ、この一時間後には再びイクスフォスは自らの目的を果たす為、護衛のスカーレットとアクアを連れて、また何処かの異世界に消えるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第669話『孤児院』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ