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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第39章 過去との逢瀬

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第667話 来訪者

 本日24時にソートを行います。ご了承ください。

 ここで、語られる事のない物語を一つ、加えておく。それはある者とカイトの会合だ。それはまだ、カイトが旭姫の修行に出る少し前の話だ。カイトは自らの花園を眺めながら酒を飲んでいた。


「ふぁー・・・」


 女三人寄れば姦しい。それが三倍以上ともなれば、より騒がしい。おまけに今は一部の冒険部上層部の面々が集まって、ささやかな宴会の様相を呈していた。尚更、騒がしかった。修行の出発前にささやかな見送り会を、という事だった。

 そんな様子を眺めながら、カイトは酒盃を傾ける。姿は本来の姿だ。すでに夜だし、教師達も来る事はない。なのでアウラ達も交えていたし、グライア達も居る。自由気ままに酒を呷る事が出来た。そんな中での事だ。ふと、カイトは珍しい来訪者が訪れた事に気付いた。

 とは言え、気付いたのは、カイトだけではなかった。鋭敏な感覚を持つ古龍(エルダー・ドラゴン)達もまた、気付いていた。


「これは・・・」


 横で同じく酒を嗜んでいたグライアが、笑みを零す。来たのは、久しく顔を見せなかった者だ。だが、それはこちらに顔を出すわけではなく、カイト個人の寝室に来た様だ。そしてそれに、ある理由から、ホタルも気付いたようだ。


「マスター・・・寝室に最重要ターゲットを確認。攻撃許可を」

「敵・・・? 三葉」

「ふぇ・・? あ、寝室に誰か居る」


 カイトのお酌をしていた一葉から命ぜられた三葉が、寝室に向けて<<探査(サーチ)>>の魔術を展開する。そうしてそれを言われて、三人娘やアウラ、ユリィも密かに、武器に手を掛ける。

 一応ただ楽しげに飲んでいる者達にはばれない様にしているが、何時でも、戦闘可能だった。それに、カイトが苦笑気味に待ったを掛ける。彼ら(・・)は、敵ではなかった。


「マスター・・・ホタルと共に転移術でアサルトを仕掛けます。退避を」

「いや、やめろ・・・お前らは部屋をぶっ壊す気か? 敵じゃねーよ・・・まったく・・・時と場合を選んでくれれば良い話だったのに・・・」

「あいつにそんな事を考えられる知恵があるか」


 カイトの苦言に、グライアが笑う。それは何処か懐かしさを含んだ優しい物だった。


「仕方がない・・・顔は見せに行くか」

「妾も行く・・・たまには、顔を見せて貰わねばのう」


 立ち上がったカイトに合わせて、ティア達が立ち上がる。何かはわからないが、訳ありだ。しかも密かに尋ねる様な人物だ。クズハ達は自分達が出なければならないだろう、と考えたようだ。だが、そうして寝室に入った時、彼女らは絶句する事になる。


「・・・え?」

「よっす・・・そっち二人は、はじめまして、か」

「うそ・・・どうして・・・?」


 気軽に挨拶したその人物に、クズハ達三人が固まる。すでに死去したと思われていた人物。それが、目の前で片手をあげていたのだ。こうなるのが当然だろう。


「だから、貴様は時と場合をきちんと見てから来い、と言ったんだ・・・固まっているではないか」

「あはは。悪い悪い。こいつらに頼んでも良かったんだけどさ。オレも忙しかったから、さ」

「まあ、良い。無事に帰還出来たのなら、それで良い。どこぞの異世界に駆りだされては余もたまらんからな」


 親しげに、グライアが告げる。そのセリフには、かつて力を貸した、という様な意味が含まれていた。そして、それは事実だ。


「イクスフォス皇王陛下・・・何故、こんな所に・・・?」


 絶句したまま、クズハがその名を告げる。偽物とは思えない。なにせ身に纏う覇気が違う。明らかに、彼が数多英雄達を従えた王者足り得る風格があった。

 だが、絶句したのはクズハとユリィだけだ。一人だけ、彼の生存を予想出来ていた者が居た。それはアウラだ。彼女だけは、彼が生存しているだろう事を確信していた。


「やっぱり・・・」

「ははっ・・・やっぱ、アウラにはバレちまってたか」

「へ?」


 イクスフォスの生存を確信できていたアウラでさえ、自らの名を呼んだ事に驚きを露わにする。まさか自分を見知っていたとは、思いもかけない事だったのだ。とは言え、これは不思議な事ではなかった。


「おいおい。オレはアウルのダチだぜ? 出産祝い持ってってるし、実はこーんなちっさな頃にゃ、会ったことある」


 イクスフォスが笑いながら、アウラに告げる。言うまでもない事だが、ヘルメスは彼の宰相だ。その子であるアウルは二代目の宰相でもある。

 そして、彼は今でも生きていて、時折ハイゼンベルグ公ジェイクの所を訪れていたのだ。それが密かにアウルの下を訪れていた所で、何ら不思議はなかった。


「ですが・・・何故、ご存命なのですか?」

「へ? いや、だって・・・オレの種族、普通に人間とは違う寿命だぞ?」

「え? いえ、ですが確かに逝去なされた、と・・・」

「あ、うん。死んだぞ?」


 クズハとイクスフォスは、少しズレた会話を行う。では今の彼はなんなのだ、という疑問をクズハは呈していて、イクスフォスは彼の一族の認識としては死んでいるが故に死んだ、と言っているだけだ。そしてそれは一族の事を知らなければ、解決されない溝だ。なので、ティアが苦笑気味に口を開いた。


「『不死鳥(フェニックス)』の一族。コヤツの種族をそう揶揄する者もおる・・・これらにとって、一度目の死は肉体の死。単に肉体を失うというだけにすぎん」

「ああ、うん。そういうこと。オレ、一応あの時死んだけど、今は生きてる。一度死んで、再誕する。それがオレ達の一族なわけ」

「特殊じゃろう? 特殊なのはそれだけではない。世界に対して少々コヤツらは影響力が強すぎてのう。普通は出来んことも結構出来る・・・まあ、<<例外存在(ミストルティン)>>程では無いがのう。その特殊能力の一つが、世界を渡り歩くという能力じゃ。妾ら通常は世界を渡れん者でも、渡してしまうじゃろう」


 ティアが苦笑混じりに、イクスフォスの種族について補足を述べる。ここらは彼女の力に密接に関わっていた為、よく把握していたのだ。


「それで、その初代陛下が如何な御用・・・いえ、その前に・・・イクスフォス陛下。まずは挨拶出来ぬ父と母に代わり」

「待った! その先は無し!」


 クズハが頭を下げ、ある事に対する感謝を述べようとしたその瞬間、イクスフォスが待ったを掛ける。それは彼の矜持に則った物だった。


「その先ってさ。多分、ハイ・エルフ達を解放した事に関する事、だろ?」

「はい、そうですが・・・」


 クズハの言おうとした事は、まさにそれだ。かつてはマルス帝国の配下に、ハイ・エルフ達の国も入っていた。それ故、解放してもらった事に対して改めての礼を述べようとしたわけだ。一応念のためにいうが、改めてなので、彼女の父と母が礼を述べている。


「必要ねーよ。親父さんからはお礼言われてるし、家族からもう一回言われたくない」

「・・・はい?」

「だって、そうだろ? オレ達家族じゃん。あ、まだだけど、将来的にゃそうなるじゃん。だから、そんな固いこと無しで行こうぜ」

「・・・いえ、あの・・・家族、ですか?」

「やっぱり・・・そうなんだ・・・」


 わけのわからぬクズハとユリィに対して、アウラが合点がいった、という様な顔をする。それは前にカイトからはぐらかされた事だった。


「ヘルメスもアウルも居ないのちょっと残念だけどさ・・・やっぱ、そうじゃん?」

「ん・・・できれば、一緒にいれればよかった」

「ちょっと待った・・・どういうこと? どうしてアウラはそんな簡単に納得してるのさ?」

「・・・はぁ・・・彼が、初代皇王イクスフォスこそが、ティナの父親だ」


 どうすべきか悩んだアウラに視線で問われて、カイトがティナの正体についてを言及する。ここら、イクスフォスが来なければはぐらかすことが出来たのだが、彼が来た上にその当人がここまでぶっちゃけてしまってはどうしようもない。

 さらに言えば彼は初代皇王だ。現皇帝レオンハルトとて、なんとも言えない。幸い彼女らの口は固い。大丈夫だろう。


「・・・え?」

「・・・ちょい待ち・・・」

「「えぇええええ!?」」」


 クズハとユリィが絶叫する。流石にこの状況だけは、もしかしたらイクスフォスは生きているかも、と思っていた彼女らも把握出来なかったらしい。ここ百年無いレベルでの絶叫だった。


「まったく・・・もうちっと考えて動けよ、あんた・・・」

「あはは、めんごめんご・・・あ、これ詫び代わり手土産の酒」

「何処の?」

「忘れた。どっかの異世界。地球とかじゃないぞ?」


 カイトはイクスフォスから渡された手土産の酒を手にとって、とりあえず瓶を魔術で冷やす。丁度飲み交わせる面子が揃っているのだ。ばれない内に空けてしまおう、という算段だった。


「いえ、ちょっと待ってください・・・それはまあ、百歩譲って良いとしましょう・・・何故、お兄様がそこまで陛下と親しげなのですか?」

「え? ああ、オレ、結構前に挨拶行ったから」

「一度目は心底魂消たけどな・・・それから地球に帰ってからも何度か隠れて会ってたし・・・」


 イクスフォスとカイトが揃って口を開く。どうやら接触はイクスフォスの側かららしい。まあ、かつて彼は自分でティナの事を遠くから見ていた、と言っていたのだ。

 それに、カイトの事も親しげに語っていた。出会っていても不思議は無い。そうして、カイトが少し申し訳なさそうに、続けた。


「まあ、お前らにも黙ってたのは少し悪いと思ってるよ・・・でもまあ、わかりゃ、仕方がないってわかるだろ?」

「まあ、そうですが・・・」


 カイトの言葉を、クズハも不承不承ではあるが認める。あの当時の彼女はほぼ常にティナやユリィ、アウラ等誰かと一緒だったのだ。そんな前でイクスフォスが出れば、大問題だ。

 ならばティナの真実を語られていたカイトの前でだけ、となるのは致し方がない事でもあった。そして、カイトも隠さなければならないと判断するしかない。そうして、とりあえず酒瓶の蓋を空けて、本題に入る事にした。


「それで?」

「ああ、実はちょっと、欲しい物があってさ・・・手に入れらんないかな、って」

「はぁ・・・あんたまたか・・・」


 少しだけ申し訳無さそうに口を開いたイクスフォスに、カイトがため息を吐いた。彼が来る度に、何かを求めるのだ。ため息を吐くのも、致し方がない事だった。


「これで何度目だよ?」

「あはは、悪い悪い・・・まあ、10回ぐらい? 始めティナの復活だから・・・えっと、ひのふの・・・」

「もう良いから・・・本題入れって。ティナかルイス来る前にやんないと、大騒動だぞ?」

「っと、悪い悪い・・・えっと、その娘らの詳細情報・・・手に入れらんない?」


 カイトから苦言を呈されたイクスフォスが、一葉達三姉妹を指差す。彼女らの詳細情報、というのはとどのつまり、ホムンクルス製造に関する技術だろう。そうして、イクスフォスが真剣な目で、語り始めた。


「実はさ・・・いろんな世界巡って、いろんな賢者達に話聞いて、なんとか、目処立ったんだ。後少し・・・後少しなんだ。だから、頼む」

「・・・はぁ・・・そういう固いの無し、っつったのあんただろ?」


 カイトは優しげで美しい物でも見る様な顔で、頭を下げたイクスフォスの求めに応ずる。彼とて当たり前だが、ここに来る事が危険だ、という事は理解している。

 なにせ自分が娘に出会う可能性が最も高いのが、カイトの所だ。少しでもミスすれば、確実に顔をあわせる事になってしまう。そうなれば、ティナの側に問題は無くても、彼の側が我慢できなくなるだろう。その危険を冒してでもやるからには絶対にそれが必要だ、と考えていたからにほかならない。


「だが、材料とか機材は流石に手に入れらんないぞ? あれ、あいつの特製だからな」

「ああ、そっちはまたなんとかする・・・とりあえず、なんとかそっちの目処立てないと」

「じゃあ、それが終われば・・・」

「うん・・・昔言った通り、ソフィに会いに行くよ。だから、それまでソフィの事、よろしくな」


 イクスフォスが決意を語る。今やっている事は、彼がティナに会う為に必要な事、と考えていた。別にそれは必須である事ではない。が、それでも、どうしても、という我が儘だった。そうして太陽の笑みを浮かべてカイトに娘の事を頼んだ彼に、カイトが同じ太陽の笑みで答えた。


「あはは。娘さんをオレにください、と言った後だろ?」

「娘はやらん! これ一度言ってみたかった!」

「二度目だ、二度目」

「あっれ? そだっけ?」

「ルイスに言って、再教育してもらうか?」

「やめて! ルルのお説教マジでキツイんだぞ!」


 真剣な雰囲気から一変、二人の英雄が笑い合う。そうして、しばらくの間、二人は笑い合う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第668話『姉妹』

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