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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第38章 異族の風習編

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第666話 評定会 ――採点結果――

 明日の24時に断章・8のソートを実施します。後半部分が暫く読めなくなりますが、ご了承ください。


 後、時折報告が上がるのですが、どうやら莫大な量を削除するからか、一時的にバグが起きる事があるそうです。削除した近辺で変な所にリンクが飛ぶ、という奴です。何らかのバグは予想されてはいたので夜にソートしているんですけどね。


 とは言え、一応今までの所翌朝にはきちんと読める様になっている事は確認しています。一応、これについてはご報告を。

 評定会の翌日。やはりエリスは朝から緊張気味だった。


「なるようにしかならないわよ。もうここまで来たら、ね」

「うん」


 弥生に手を握ってもらったエリスが頷く。作業中にアイデアを出しあう中、エリスは弥生を慕う様になったのであった。同時に同じ人を想う者としての先達、という側面もあった為、擬似的な姉妹の様な感じになっていたらしい。


「羨ましい・・・」


 そんな二人に複雑な視線を送るのは、エレノアだ。結局彼女は複雑な想いをどうする事も出来ぬまま、夜を明かしたようだ。

 そんな色々と複雑な胸中を抱いた面々に対して、今日も司会役に近いアマデウスが口を開く。ちなみに、桜達はここには居ない。やはり関係がない者として、蚊帳の外にされていたのである。仕方がないだろう。

 なお、もし魅衣が居る事がバレていれば、即座にこちらに連れてこられていただろう。が、幸い彼女は当時白粉を塗っていた事と別の着物で着飾っていた事から、桜と瑞樹に目で視線を送って必死で別人と言い張る事にしたらしい。後に聞いたカイトが英断だ、と絶賛していた。


「では、昨夜の内に結果が出ました。この中に、その結果が入っております」


 アマデウスは台車に押されて持って来られた一通の封筒を手に取って、全員の前に掲げる。そうして、その封筒を更に5人の審判者――今はお面を身に着けている――に対して、掲げて確認を取った。


「これで、間違いありませんね?」

「確かに・・・我ら5人。風の大精霊様に恥じぬ採決をした事を、ここに宣言致しましょう」


 マリアンネが改めて、公正無私な採決を行った、と明言する。そうしてそれにアマデウスが頷いて、封を破った。


「っ・・・」


 エリスが生唾を飲む。出される結果如何で、彼女の運命が決まるのだ。そうして強く握った手を、弥生が優しく包み込む。が、そうして出された紙を見て、アマデウスが一瞬、怪訝な表情をした。


「・・・結果を告げます。エリスクピア嬢のデザインに関する才能ですが・・・これについては、抜群の才能がある、と結論付けられました」

「・・・おめでとうございます、姉様」

「ありがとう・・・よかった・・・」


 素直に喜んで良いかどうかわからないエレノアだが、やはりそれでも少し嬉しそうにエリスに対して賛辞を送る。それにエリスも心の底から嬉しそうに礼を言って、胸をなでおろした。これで決まり。そう思った二人だが、言葉はまだ続いた。


「ただし」

「ただし?」


 アマデウスが続けた言葉に、エリスやエレノアだけではなく、クリストフさえも首を傾げる。普通、こういった評定会が開かれた場合、但し書きが付く事は珍しい。才能の有無を調べるだけだからだ。


「巫女との才能を比べる事は不可能。同程度の才能を有しているだろう、と採決で決まった様子です」

「・・・はい? えっと、アマデウス・・・一体どういう事ですか?」

「はい、クズハミサ様の疑問もごもっともな物・・・まあ、つまりはわからない、という事です」


 クズハからの疑問を受けたアマデウスが苦笑気味に、結果を告げる。巫女とデザイナーのどちらが優れているのか、と決着をつける為に試験を行ったのだ。だというのに、出た結論は採決出来ず、だ。

 これではなんのためにわざわざ色々と手伝ってもらってまで作品を作って、クズハに立会人になってもらったのかまったくわからなかった。そんな一同に、マリアンネが仮面を脱いで詳細を告げる。


「あはは・・・ごめんなさいね、エリス。そしてクズハ様も申し訳ありません。我々も最後まで悩んだのですが・・・如何せん、エリスも悪いのです。全力投球し過ぎでした」


 マリアンネが笑いながら、台座に置かれたままのネックレスを指差した。それはペンダント・トップよりも更に上、紐の部分を指差している様にも思えた。


「あの紐。彼女がサンプルとして提出した物を我々で見てみたのですが・・・よく出来ていました。その年齢であの出来栄え・・・素直に、私は感服しました。他の者達もそう。よほど気合を入れたのでしょう」

「うん、アンネ姉様・・・でも、それがどうして・・・」

「離れ過ぎて忘れてしまいましたか? 魔糸の製造は巫女という職業において、最重要の才能。巫女達が着る服は各々の魔糸で編んでいるのですから。ここまで見事な魔糸を見せられては、巫女の才能が劣っている、とは言い切れません」


 マリアンネは少し苦笑気味に、エリスに対して事情を語る。横の他の審判者達も同じような苦笑を浮かべている所を見ると、おそらく全員同じ考えだったのだろう。

 ついうっかりエリスは最高の作品を作る為に自らで得意とする魔糸を使って紐を編んだわけなのだが、それは同時に彼女の巫女としての才能の高さを示す物でもあったのだ。そして更に、まだこれで終わりではなかった。


「それに、もう一つ。当然だが風の大精霊様に捧げる小物を作るのは、巫女達。彼女らには美的センスも要求される・・・まあ、なんと言いますか・・・貴方は図らずも、巫女としての才能もある、と言ってしまった様な物でしたね」

「なっ・・・」


 まさか予想外の結末に、エリスが二の句を継げなくなる。全力投球で挑んだは良いが、その結果が巫女としての才能がある、という結論に繋がるとは思いもかけない事だったのだ。


「えーっと・・・では、どうすれば?」


 決着着かず、となった結論に、アマデウスが問いかける。これではにっちもさっちもいかないままなのだ。とは言え、確かにこれではなんの意味も無い。なのでそこについては、仲裁案が決まっていたようだ。改めてマリアンネが口を開いた。


「仲裁案、という形で、我々からは提案をさせて頂きます」

「仲裁案かね?」

「ええ・・・いくら才能があるとはいえ、やはりまだまだ。デザイナーとしても巫女としても未熟であることは、我々の間で一致しております。あのネックレスにしてもやはりまだ改良出来る点が散見されました。それは作り手が未熟である事もありますし、デザイナーが未熟である事もあります」


 マリアンネは事実を事実として、指摘する。これが彼女の役割だ。そこに知己の者としての容赦はなかった。が、無いわけではないので、言い方は未熟という程度だ。

 とは言え、それについてはエリスもランカも承知しているし、それ故、店を営業しながら練習を続けているのだ。なお、これは別に出来損ないの品を売りに出している、というわけではないので、そこの所は注意である。


「どちらの才能もまだ未熟・・・ですが、このまま潰してしまうにはどちらも惜しい才能でもあります。デザイナーとしての修練は果ては巫女としての修行ともなりましょう。ですので、クズハ様に依頼したいのですが・・・彼女の下に、教育官として定期的に神殿の巫女を派遣する事をお許し頂きたいのです」

「巫女ですか・・・? 別段私は構いませんが・・・風の大精霊様にもお兄様を通せば、許可を頂けるでしょうし、街としても受け入れる事は問題はありません」


 こくこく、と首を縦に振るシルフィを見ながら、クズハが告げる。一応、ここに来ている事は口外厳禁だ。なので一応は後で確認を、という事にしておいたのであった。


「ありがとうございます・・・エリスにはマクダウェルで修行を続ける事を許可しますが、同時に巫女として定期的に修練を行いなさい。そして必要に応じて、こちらに戻り儀式に参加すること。これが、我々の出す案です・・・どうですか?」

「そういう事なら・・・」


 元々、自分が未熟である事なぞ把握している。だからこそ、時折ティナからは教えを受けているし、それに神殿の者が加わってくれるというのなら、断る理由は無い。

 確かにその対価として巫女としての修行もあるわけだが、元々家出同然に出て来たのだ。それはある種の種族としての義務と考えれば、納得出来ない程ではなかった。なのでエリスはその仲裁案を受け入れる事にした。


「よろしい。では、これで我々からの意見は終わりです。エリスクピアは必要に応じて、こちらに戻って来なさい。よろしいですね?」

「はい」

「やった・・・失礼致しました」


 定期的とは言え里へ戻ってくる事を了承した事に思わず喜びの声を上げたエレノアに、少しの視線が集まる。少々予定とは違ったが、彼女としてもこれは悪く無い結論だったらしい。

 ちなみに、そんなエレノアの様子を見て弥生はなるほど、と思ったらしく、密かに妹の対処が疎かになっていた事をエリスに指摘して、姉妹で文通を始める事になるらしいが、それは横においておこう。こうして、なんとかエリスは正式にマクスウェルで働く事の許可を得る事が出来たのだった。




 それから、数日後。再び一同はマクスウェルの街に戻ってきていた。そうしてまず向かう所は、一人で留守番をしていた相棒の下だった。


「どうだった?」

「やった」

「よかったー」


 エリスの様子に、ランカが嬉しそうに胸を撫で下ろす。全力でやれる事を全部やった、と思っていたランカであるが、相手は種族全体で高貴と名高いハイ・エルフだ。生きた心地がしなかったらしい。そうして、二人の間でしばらくの間、どんなやり取りがあったのか、と話し合われる。


「あー・・・やっぱりあそこは足元見られちゃったかー・・・」

「うん。あそこは素材を15番じゃなくて、34番を選べば良かった、って」

「あー・・・あっちかー・・・なるほど・・・そうすれば、もう少し色に柔らかさが出そう。さすがはハイ・エルフ・・・あ、別にエリスの事を貶してるわけじゃなくて・・・」

「うん、わかってる・・・それに、私も色々とダメ出しを食らった」


 二人はあの評定会の後にマリアンネから指摘された所について、口々に意見を言い合う。そんな二人を見つつ、桜達はその場を後にする事にした。


「やっぱり色々な職業によって、色々な悩みがあるんですね」

「そりゃ、そうよ。私達被服科だってどんな服にすれば皆が似合うのか、って常日頃考えてるし、そのために情報収集は欠かせない・・・結局、冒険者も服飾系もデザイナーも皆、変わらないのよ? 皆、真剣にやってるの。だからこそ悩みは出て来るし、苦労もある」


 桜の言葉に、弥生が笑いながら告げる。そうして、一足先に帰ったソラに対して、言及した。まあ、ソラは一足先に帰った、というが実際には荷物を持って行かされた、というのが正確だろう。

 男一人付いて来たのが間違いだった。旧知の魅衣が居る以上、荷物持ちにされないはずがない。由利が居ても笑って同意しただろうし、もしかしたら彼女が言い出すかもしれない。


「それは結局、恋愛でも変わらない。色々な悩みを抱えながら、歩いて行くの。ソラくんみたいに、ね」

「あいつさっさと結論出してくれないかなー・・・とは思うんですけど」

「あら?」


 魅衣の言葉に、弥生が首を傾げる。言わずもがなだが、由利と魅衣は親友だ。何か弥生が知らない事も知っているのだろう。と、そうして一通の写真を見せる。


「ああ、なるほど・・・意外と由利ちゃんってしっかりしてるものね」

「ホント、昔から変わらないんだから・・・」


 出した写真を、懐に仕舞い込む。写真は由利とナナミが写っていた物だ。彼女らが外に出ている間に撮影された物で、恋敵同士の写真とは思えない仲の良さだった。ソラの側はまだ結論を出せていないというのに、女の側は結論を出せている様子だった。


「まあ、ソラくんの方はカイトが手を貸してあげているんだから、私達はそれを待つ事にしましょう」

「はい」


 弥生の言葉に、魅衣が頷く。そうして、彼女らもまた、冒険部のギルドホームに戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第667話『来訪者』

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