表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第38章 異族の風習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

687/3941

第665話 それぞれの待ち方

 評定会が終わり、採点者達が専用の部屋でエリスの才能の有無の判断を始めていた頃。エリスと弥生は与えられた部屋にやって来ていた。それはかなり豪華な部屋だ。そこには、桜と瑞樹も一緒だった。


「どうでした?」

「エリスちゃんに聞いた方が良いわね」

「うん・・・やれるだけはやったし、好感触だった、と思う」


 桜からの問いかけを受けたエリスが、少しだけの自信を滲ませながら告げる。やはりあれは最高傑作、と言えるだけの自信作だったのだろう。


「後は、どういう評価をされるか、という事だけ」

「じゃあ、後は待つ事にしましょ」

「うん」


 やれることは全てやったのだ。後は、人事を尽くして天命を待つ、という所だ。そして手応えも感じていた。何も悩む事はなかった。と、そんな所に、シルフィがやってくる。


「お疲れ様・・・っと、先に言っとくけど、僕は君たちにしか見えてないからね。ついでに言っとけばなんにもない様に結界も展開してるよ」

「あはは・・・」


 全てを先んじて手を打っていたシルフィに、エリスを除いた三人が笑う。やはりエリスは眷族なので、笑う云々よりも先に身体がこわばっていた。


「一応、僕らからも感想を言っておくね。まあ、良いんじゃないかな。とりあえず、世界樹を見たこと無いにしては、良い出来だったと思うよ」

「あ、ありがとうございます」


 緊張に緊張を重ねた様な様子で、エリスがシルフィの言葉に感謝を述べる。感想をもらえたのは素直に、嬉しかった。が、それ以上に畏れ多かったらしい。


「で、そんな君に一応はご褒美、かな・・・それ!」


 シルフィは畏まった様子のエリスに対して、一つのご褒美を与える事にする。そうして映しだされたのは、記録上残されていない先代の世界樹の映像だった。それはとてつもない巨大な木で、上の方は雲がかかっていた。


「これ・・・は・・・」

「これが、僕らが育てた世界樹、だよ。死んだ土地をノームが調律して、風で僕が生命を育んだ・・・実は君たちが来たエルフの森。1万年ぐらい前には荒れ地だったんだよ。そんな中、一本だけか細くも生き残っていた()を見付けて、その生命力に惹かれて、世界樹になってもらったんだ・・・実はあの森の木々は全部、世界樹の子供なんだよ」


 シルフィは何処か懐かしげに、4人に告げる。それはエリスが描いた通り、世界樹が生命を育んでいく姿だった。


「世界樹も僕らも、それこそこの世界さえ、所詮は生き物・・・輪廻は巡る。次の世界樹ももう生まれている・・・じゃあ、ご褒美だね」


 シルフィが笑う。それは本来は見せては貰えないはずの、次代の世界樹、だった。


「次はこの子・・・意外かな?」

「・・・はい」


 シルフィの問いかけに、エリスが頷く。そう、世界樹、と言われたは良いが、それは苗木だった。しかも植えられているのは、何処かの荒れ地だったのだ。

 詳しい場所はわからない。苗木とその周囲の幾許か以外は全てぼやけていたからだ。だが、世界樹の姿としては、あまりにも想像とかけ離れていた。


「でも、そうじゃない。世界樹は謂わば、カイトだよ。引っ張っていく存在。この子はいうなれば、森を作る始まりの木。生命の無い土地には、生命は生まれない。無から有を生み出す事は僕らでも難しい・・・でも、たった一つでも生命があれば、そこから元通りに出来る。世界樹とは、そんな存在なんだ」


 慈悲深い目で、シルフィが次代の世界樹に風を送る。その風を受けて、世界樹は木の葉を散らし少ししなるも、力強く立っていた。


「この子はこれから数千年を掛けて、森を作る・・・僕らはそれに力を貸すだけ・・・だから、覚えておいてね。森を大切に、って。この世界の森の大半は、世界樹の子供達かその孫達だよ。君たちは即ち、世界樹の子供とも言える・・・だから、おじいちゃんやおばあちゃんを大切にね」

「はい」


 シルフィからの言葉に、エリスは一人の眷族として、はっきりと言葉を返す。彼女とて、森と繋がっている。森に入れば森の声を聞く事なぞ容易い。意図して森を傷付ける事は無い。


「うん。良い返事・・・じゃあね・・・っと、巫女になるならないはどうでも良いんだけど・・・時々で良いから僕の神殿に顔を出してくれると、嬉しいな。最近ぜんっぜん顔見せてくれないんだもん。無事だ、っていうことは知ってるけどさ、一応君は僕のお気に入り、なんだからね」

「あ、はい・・・すいませんでした」


 消える寸前に残された少しの苦言に、エリスが頭を下げる。自分達を祀る神殿である以上、シルフィ達大精霊も誰かが参拝に来れば、それを把握する様にしているらしい。幾ら事情がある――お店が忙しい――とは言え、加護を授けたというのに殆どお参りにも来ない事に少しだけ寂しさを感じていたようだ。


「相変わらず、自由気ままねー・・・まあ、地球でもそうっちゃあ、そうだったんだけど・・・」

「地球の風の大精霊様・・・?」

「ふふ・・・実は世界によって、大精霊達の性格って変わってくるらしいのよ」

「少し興味ある・・・教えて?」

「良いわよー」

「わー! ちょっと待って! 僕じゃ無い僕の話するのは無し! 記憶共有してるんだから、恥ずかしいよ!」


 弥生の言葉を聞いたらしいシルフィが大慌てで再度顕現する。地球の大精霊とエネフィアの大精霊というよりも、大精霊達は大精霊という概念でありとあらゆる世界に存在しているらしい。

 が、そうであるが故に、大本が一緒である為、記憶を共有してしまっていたのである。世界毎に性格が変わるのは、世界毎に特色があるから、と彼女らが語っていた。そうして、少し騒がしい様子で、エリス達は評定会の結果を待つ事になるのだった。




 一方、その頃。今回の一件で複雑な思いを抱えていたのは、エレノアだった。彼女は近所にある自分の家に戻ると、ベッドの上で複雑な顔をしていた。


「綺麗でした・・・いえ、そういう事ではなく・・・」


 はぁ、とため息を吐いたエレノアが、一人そうごちる。実は彼女が今回の一件の全部の発起人に近かった。彼女が父に掛けあって、そろそろ姉の我が儘を掣肘すべきだろう、と進言したのである。


「うぅ・・・これではまた姉様と一緒に暮らせる可能性が・・・いえ、決して腕が悪い方が良い、というわけではなく・・・」


 エレノアは自分で自分の言葉に弁明を入れる。これを聞けばわかるだろうが、彼女とて何も姉が我が儘を言うのが憎い、だのハイ・エルフの風習が、だのと言うつもりはない。それどころか姉があれだけの作品を作れていた事を素直に称賛したい気持ちもあった。

 が、それとこれとは別問題とばかりに、エレノアは複雑だった。というのも、彼女とエリスは仲の良い姉妹だ。それは別に珍しい事ではない。が、ここで一つ、珍しい要素が加わる。

 ハイ・エルフの子供の数は長寿であるからか、それなりに少ない。おそらく種族全体で彼女らの同年代、と言えるのは両手の指で足りる程だ。

 なので普通は兄弟姉妹にしても100歳や200歳、大きく離れている時には1000歳離れている時だってある。が、そんな中でもエリスとエレノアの姉妹はなんと10年程しか離れていなかったのだ。

 なので本当に人間の姉妹と同じように仲良く育っていたので、エリスの事をエレノアは非常に慕っていたのであった。同年代の遊び相手が少なかった、というのも一因だろう。


「いっそマリアンネ姉様に・・・いえ、それは流石に・・・うぅ・・・」


 どうすれば、再び姉と一緒に居られるのか、とエレノアはああでもないこうでもない、と知恵を巡らせる。


「そうです! いっそ私もマクダウェルで暮らせば・・・」

「・・・はぁ・・・」


 そんな様子を、父のクリストフがため息混じりに見ていた。一応言っておけば、エレノアも適性をそろそろ判断される頃だ。なのでマクダウェルに行く事もあり得る。

 実は今回、彼女が使者に加わっていたのはその適性の面での関係だ。エルドは幸か不幸かあの性格のおかげで、交渉人としての才能が高い。そしてエレノアはきちんとした意味で、交渉人としての才能があった。現にすでに好きにさせようとしていたクリストフを動かしたのも、他ならぬ彼女だ。弁は立つ。その研修の一環だった。


「エレノア・・・数日前の言い渡した商会との交渉ついての報告をまだ聞いていない。帰って来てすぐには評定会があったので聞かなかったが、一人ブツブツと何事かを話す前に報告をしなさい」

「あ・・・え? 父様!? も、申し訳ありません。今すぐ、報告を・・・」


 クリストフは父としての優しさとして、独り言を聞かなかった事にする。そうして、エレノアは頬を赤く染めながら、彼女の研修の一環であった交渉についての結果を報告して、この日はその応対の補佐に一日が潰れる事になるのだった。




 その数時間後。当然と言えば当然だが、5人の採点者達は各々の感想を言い合っていた。とは言え、それももう、終わりの段階に近づいていた。


「ふむ・・・悪くはない腕前だと思うが・・・」

「とは言え・・・」

「うむ・・・やはり、か・・・」


 5人が5人、全員顔に苦笑を浮かべる。全員仮面を身に着けているので苦笑しているのは見えないが、気配だけで全員苦笑しているのがわかった。


「はぁ・・・」

「まあ、悪い判断では無いだろう」

「それを告げるのが私で無ければ、という所なのですが」

「採点者になった時点で、我らは個人というモノを捨てている。そこは慣れなさい」

「才能を判断する役職になった時点で、慣れていかねばならぬこと。見知った者故に緊張するのもわかるが、見知った者であればこそ安易な評定を出来ん。お主にメインを任せたのも、そのためよ」

「わかっています・・・では、明日にこれを伝える、という事で構いませんね?」


 最後の問いかけとして、マリアンネがこの評定の結果に異論が無いかを確認する。これで異論が出れば、また議論はやり直す事になる。が、誰からも異論は出ず、これを以って、エリスの才能の判断は終了する。


「では、結審致しました・・・各々方、風の大精霊様に恥じぬ判断をしたのなら、仮面を脱いで封筒に判を」


 マリアンネの言葉を受けて、一人ずつ仮面を脱いで、専用のハンコを押していく。今までは個人ではなく役職として判断する為に、仮面を身に着けていた。

 だが、結局はそれでもその人個人だ。だからこそ、最後には個人として、その結論は自らの主観的な判断ではなく公正無私な判断である、と示す為に仮面を取って判子を押すのであった。そうして、封筒がマリアンネのところに回ってきた所で、彼女も仮面を脱ぐ。


「結果はこの中に・・・では、風の大精霊様に恥じぬ事を示し、ここに判を押しましょう」


 仮面を脱いだマリアンネは結果を書き記した紙を4つの判が押された封筒の中に入れると、最後に彼女が蜜蝋で封をする。メインとなる者が蜜蝋で封をするのが、決まりだった。こうして、この評定会は全てが終わった事になるのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第666話『採点結果』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ