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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第38章 異族の風習編

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第659話 悩みは尽きず

 当事者である桜達にさえ知られず女同士の戦いが密かに開始していた頃。全く関係の無いソラは、というと、図書館の外に併設された公園で、人間観察を行っていた。

 珍しい、と公園でカイトと連絡を取り合っていた魅衣は思ったが、観察している相手を見て、納得した。それは両手に花、というような状況の冒険者の男達だった。


『・・・悩んでるな』

「ん? まあ、な」


 横に舞い降りた蒼い小鳥を見て、ソラは頷く。悩みは尽きない。というよりも、数日前に由利から告げられた言葉のおかげで、より深まったとさえ言えた。

 そうして、カイトは使い魔に彼の姿を取らせる。こんな子どもたちが遊びまわる様なのどかな公園の中だ。使い魔と判断出来る大人達ならまだしも、子供に小鳥相手にぶつくさと言っていると思われない方が良い、という判断だった。


「なぁ・・・なんで由利は二股認めたんだ?」

「お、おいおい・・・オレに聞くか、普通・・・」


 ソラから出された質問に、カイトが苦笑に近い呆れを浮かべる。そう、実はソラの言うとおり、ナナミなら一緒に付き合っても良いよ、と由利が述べたのであった。

 これを話し合う事になった時、ヒステリックとまでは言わないまでも、拒絶されると思っていた。が、全く逆だった結論に、ソラは尚更答えが出せなくなってしまったのだ。


「だって、流石に桜ちゃんとか瑞樹ちゃんには聞けねーじゃん。特に魅衣に、なんて無理だろ。多分、何故、って聞いてるだろうし」

「まあ、それもそうか・・・」


 ソラの言うことは道理ではあった。なので、カイトも苦笑する。桜達はカイトの恋人だ。そして魅衣は同時に、由利の親友でもあった。相談は当然、されているだろう。それを考えれば、自分で答えを出さなければならないこの問題には不適切だ、と思ったのだ。


「まあ、どっちにしろ、オレに理解する事は無理だ。お前と同じ男だからな・・・うぉ!?」

「ど、どした?」


 いきなり身震いしたカイトを見て、ソラが思わずのけぞる。実はこの瞬間、アリサとメルアが連名でネットにカイトの帰還を流したのであった。それを感じ取った第六感的な何かが、カイトに虫の知らせをもたらしたらしい。


「な、なんかぶるった・・・久々に死の危険を感じた・・・なんも居ないよな・・・」


 使い魔側では無いカイトが、首を振って周囲を見回す。暦や藤堂達が何事か、と首を傾げていたが、何も見当たる事はなかった。


「き、気のせいか・・・? いや、こういう時はなんかヤバイ事が起きる前触れだったりするんだよな・・・くわばらくわばら・・・」

「そ、そか・・・」


 色々と抱えている男には色々な事があるのだろう、とソラは苦笑混じりに頷くだけに留める。が、こうなるか否か、というのが、今の彼の問題だ。


「なんか魔除けの宝石とか持っとけば? 黒真珠とかさ」

「黒真珠・・・厄払いどころかオレの場合は・・・」


 カイトの儚い笑みを見て、ソラは何かあるのだろう、と把握する。そして聞くだけ無駄な気もしていた。というわけで、今度は白真珠を出す事にする。


「じゃあ、白真珠とか」

「・・・ははっ」

「お前は何やったんだよ・・・」

「やることやったに決まってんだろうが」

「わかってるよ!」


 敢えて明言したカイトに対して、ソラが怒鳴る。聞かなくてもわかっていた。こういう本来のカイトの姿が時折現れる様になったのは、ソラ達等上層部の前ではあまり本性を隠さなくなったから、という所だろう。


「はぁ・・・で、なんの話だったっけ・・・」

「お前の恋話」

「そうだった・・・はぁ・・・」


 カイトから指摘されて、ソラが再度話題を思い出す。何の話をしていたか、と言うと、ソラの二股と言うかナナミと付き合うか否か、というお話だった。


「わっかんねー・・・そもそも、なんで俺と由利が付き合ってんのか、ってのもわかんねー・・・ナナミさんがどうして俺が好きなのか、ってのもわかんねー・・・」


 ソラがベンチの背もたれに仰け反って、青空を見上げてつぶやいた。読心術はこの剣と魔法の世界においても困難とされる領域だ。当たり前だが、ソラはそんな物を習得していない。

 そして彼は若い。恋愛経験もほぼゼロだ。わからないのが当然だった。そんなソラに対して、カイトが苦笑気味に、アドバイスを送る。


「好きな事に理由なんかない。好きだから、好きなんだよ。ここが好き、あそこが好き、という事はあっても、こうこうこうだから好きなの、と答えられる奴は居ないさ・・・答えられた時点で、そりゃ恋心でも愛情でもなんでもない。単なる打算だ。感情に説明なんかつけらんねぇよ」

「・・・」

「なんだよ」


 驚いた目でソラから見られたカイトが、少しふてくされた様に問いかける。


「いや・・・お前、色々と考えてんだな、って・・・」

「あのな・・・オレはてめぇらよりも遥かに人生経験積んでんだよ・・・含蓄あって当然だろうが・・・」


 子供っぽい言動が目立つカイトであるが、同時に彼の人生経験はおそらくこの世界でも有数だ。まず間違いなく、経験した出来事の種類であれば誰よりも多いだろう。そこから色々な事を見知っていたし、聞き及んでいた。含蓄が蓄えられるのは当然だった。


「だからつっても答えはくれないんだろ?」

「だから、答えはやんねぇんだろう。結局オレの過去はオレの物であり、お前にゃ意味が無い。同じ道筋をお前が辿ってオレが出した結論に辿り着くわけでもなし。こういう色恋沙汰に関しちゃ他人の答えは聞くだけ無駄、いや、悪影響にしかならん」

「はぁ・・・わかってるよ・・・」


 自分で答えは出せ。それが周囲からの言葉だ。そしてソラもそれを決めている。それぐらいの覚悟と責任感はあった。とは言え、質問やアドバイスを求めるぐらいは、許された。


「なぁ・・・一個聞きたいんだけどさ・・・どうして、地球でハーレムってダメだったんだ?」

「あ? 宗教上とか法律とか色々に決まってんだろ。元々日本の憲法はイギリスの首相制度やドイツの君主制を参考にした、とかだからな。当然、ここらは宗教絡んでくるし、そうなれば日本の憲法も間接的には西洋宗教の影響下にあるからな」

「お、おう・・・って、なら何故ダメなんだよ」

「ん? ああ、そこらか・・・まあ、戦争やらなんやらが絡むから、と言えばへったくれもないが・・・知らん。んなもん。ダメだから、と決めたか決まったかしらんが、そういう事だろ。近現代まではキリスト教も一夫多妻許可してんだぞ。それになぁ・・・」


 今更と言えばいまさらな事を思い出して、カイトがため息を吐いた。


「ここで地球の話持ちだしてなんになるのよ。エネフィアは一夫多妻許可されてんぞ。そりゃ、教国でも変わらん。全世界的に一夫多妻オッケーが主流だし、異族達絡むのにこれが変わるわけもねえよ」

「そりゃ、わかってるって・・・だから、悩んでんだろう」

「あー・・・それもそうか・・・」


 カイトも言ってみて、思い出す。そもそもカイトの判断基準はこちら側だ。それに対して、ソラは地球側だ。そこで生まれている齟齬が、今の問題なのだ。ということで、カイトは思い直して、一つの事実を教えてあげる事にした。


「まあ、一個だけ、教えておいてやるよ。日本の常識が一夫一妻制と言ったが・・・こんなもん、近代になって出来た事だ。江戸時代までは普通に許可されてた事だし、異族社会なら、未だに一夫多妻制は普通だ。陰陽師達だってそうだ。お妾さん、なんか普通に居る。腹違いの兄弟、というのがまかり通る世界だからな。所詮お前の思う日本の常識、というのは人間だけに縛られた人間社会の常識にすぎん」

「だからなんなんだよ」

「だから、オレ達が帰った後、オレ達の分類はどっちに入るんだ、という事だろうが。オレ達は人間社会には、もう組み込まれん。魔術を知った。異族を知った。帰還した後を考えろ」


 ソラは言われて、帰った後についてをようように考え始める。普通に学業だけ、という生活に戻れるはずがないのだ。なにせ自分達は地球の人間社会にとっては異物になっている。であれば居場所は何処か、と考えると、それは同じく魔術を使う異族社会にしか無い。


「そっか・・・もう地球の常識に囚われても無駄、なんだな・・・」

「無駄というよりも、別の社会に組み込まれる、と考えた方が良いだろう。お前だって今更人間だけ、魔術無しの生活にゃ、戻れないだろ?」

「あはは」


 カイトに問われて、ソラが苦笑する。ソラとてやろうと思えば、新幹線並の速度で走れる。こんな物を当然人間社会では使えるはずがない。

 だが、裏社会と言うか異族達の社会に入れば、使えるのだ。しかもカイトは地球の異族社会の顔役の一人だという。多少の無茶は許可される。どちらに入りたいか、と言われれば、当然カイト側だった。そうして、カイトが問いかけた。


「少し気が早いが・・・なあ、ソラ。お前、天道家の<<秘史神(ひしがみ)>>で働くか、オレ達の下で働く気はないか?」

「ホント、気が早いよな。まだ地球に帰れる、って決まったわけじゃないのによ」


 知らず今後の話になった事で出た問いかけに、ソラが苦笑する。今後と言うか帰った後の事なんて、考えてもいなかった。だが、次の一言に、ソラは少しだけ、自分がまだまだなのだな、と思い知る事になる。


「由利は、帰った後の事を考えてたぞ」

「え?」

「なあ、ソラ。帰った後。オレ達は本当に、この世界とのやり取りがなくなると思うか?」

「そりゃ・・・」


 無いんじゃないか、と言おうとして、思わず言いよどむ。無理を可能に変える為に、活動しているのだ。そしてそれが皇国にも協力してもらっている為、そこで得た技術は皇国側にも引き渡す事になっている。皇国とて――半ばそうとは言え――慈善事業でやっているわけでは無いのだから、当然だ。

 では、もし地球に転移出来る技術が確立された時、どうなるのか。それは簡単だ。ソラでさえ、エネフィアと地球を簡単に行き来出来る様になるのである。

 そしてそれは当然、その時の学園生程度の実力さえあれば、自由に地球に来れる事に他ならなかった。それは、つまり。一つの答えを示していた。


「ナナミ、追ってこれるぞ。お前だって、会いに行ける」

「あ・・・」


 改めて指摘されて、ソラも気付いた。最後には別れる、というのはまやかしだったのだ。


「イクスフォス陛下は世界を越える力を持っている。その妹であるルイス・・・いや、堕天使ルシフェルだってそうだ。だが、それが特殊な例なんじゃない。英雄と言われる程の技量があろうとも、アウラは二つの世界を越える術を見つけ出した。彼女は普通の人だ。今後は、二つの世界は繋がるんだ・・・その先を、お前も見つめておけ」

「・・・ああ、ありがとう」


 カイトのアドバイスを受けて、ソラが少しだけ晴れやかな表情で礼を言う。今まで由利を受け入れられてきたのは、彼女は地球に戻ってからも一緒だ、という事がわかっていたからだ。

 では付き合う付き合わないは別にしてナナミを何故受け入れられないのか、というと、彼女はエネフィアの存在だからだ。最後に別れる事がわかっていて付き合えるのか、とここ当分は自問自答を繰り返していたのである。


「二つの世界が繋がる、か・・・なあ、カイト。なら、なんか組織だって犯罪者とかが入り込まない様な組織が必要なんじゃないか?」

「ほう・・・」


 ソラから出された言葉に、今度はカイトが意外そうな顔をする番だった。やはりここらは、指揮官としての修練を積んだ結果が出ている、という所だろう。


「だから、言ったんだよ。オレの下で働くつもりは無いか、ってな。これは結局はオレ達の尻拭いに近い。オレ達が世界を越えた結果、他の奴らも世界を越える事が出来る様になるんだからな。取り締まる奴らが居る。エネフィア側は、オレ達公爵家が主導すれば良い。が、地球側は、そうはいかない。そこまで強大な戦力は無い・・・だから、オレ達がやろうという寸法だ。そうすれば、オレ達の身の安全も保証出来る」

「自作自演で売り込む、ってわけか・・・」


 ソラが少しだけ苦笑気味に、カイトのやらんとする事を言い当てる。カイトは自分達で問題を作っておきながら、それを解決出来るのは自分達だけだ、と言うことによって異世界から帰った自分たちの身の安全を保証させるつもりだったのである。しかもそれが事実であるだけに、悪辣だった。


「ほんっとにお前やべぇよな」

「公爵舐めんなよ? ついでにいうと、地球じゃあこういう芸当やってる奴らと顔なじみだからな。イギリスとかやべぇぞ? ガチで二枚舌三枚舌に自作自演上等だからな、あそこ」

「うっわ」


 カイトの軽口に、ソラが笑う。とは言え、それは先ほどとは違い、少しの晴れやかさがある物だった。どうやら、先を見つめた事で、悩みの一つぐらいは、解消出来たようだ。それを見て、カイトはアドバイスはこの程度で良いか、と判断する。


「じゃ、オレは行くわ。向こうももう動いてるからな」

「おう、サンキュ。俺はもうちょっとここで考えてみる」

「さっさと結論出せよ」

「あはは・・・」


 カイトからの最後の言葉に、ソラが笑う。異世界と地球の常識としての問題、と捉えていた問題は、今となっては自分一人の問題にまで、矮小化していた。

 そう考えれば、ソラの気は随分と楽になった。そうして、ソラは少しだけ軽くなった思考で、更にどうすべきか、を考え始める事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第660話『同じ初恋』

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