表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第38章 異族の風習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

679/3946

第657話 衛星都市

 ソラの悩みを垣間見た一同であったが、そんな事はお構いなしに馬車は進み続けた。そうして、一時間。すると、少し小さな街が見えてきた。それから暫く動き続けた後、馬車が次第に速度を緩やかに落としていく。


「お嬢、到着しやしたぜ」


 馬車が完全に動きを止めたのを受けて、御者の男が馬車の前窓を開いて一同に告げる。正確には馬車入場の為の手続き等がまだあるが、乗っていたエリス達だけならばクズハの書類のおかげで書類を見せるだけで街に入る事が出来る。なので馬車は御者にまかせて、一同は先に図書館へと行こう、というわけであった。


「うん、ありがとう」

「へい・・・じゃあ、また三日後には迎えの者が来ますんで」

「うん、わかった」


 再び来た道を戻り始めた馬車に対して、エリスが頭を下げる。馬車はこれから神殿都市へと向かい、一同が帰る時にはまた別の馬車が迎えに来る手筈になっていた。

 ここはミナド村の様に馬車を手配する会社が近くに無いわけではない。なのでいちいち同じ街で待ってもらっておく必要が無く、予算を考えても後で別の者を寄越してもらった方が安上がりに済んだのであった。


「はー・・・ここが、衛星都市、ねぇ・・・名前無いの?」

「んー・・・あ、確か、ウィンディア。(ウィンドウ)にちなんだ名前だった。神殿都市の衛星都市は全部で8個あって、それぞれが8属性の名前にちなんでる」


 エリスが少し記憶を手繰って、街の名前を思い出す。ちなみに、少し悩んだのは似たような名前が幾つかあった為、どれだったか思い出すのに時間が必要だったからだ。


「通称は風都。衛星都市に関しては他にも氷都、水都、雷都とかがあって、そっちで言う方が一般的。実際そういうふうな街のデザインがされているから」


 エリスの指摘を受けて、一同が歩きながら少し周囲を見回してみる。やはり全体的に学術都市だからなのか冒険者の様な戦いをメインとした風貌の者は少なく、学者肌っぽい風貌の者達が多かった。

 町並みにしても屋根の基本色は緑色に合わせられており、風を感じられる作りになっていた。他にも見れば風車が立っていたり吹き抜けがあったりと、至る所に風を印象付ける作りだった。


「へー・・・こんな所なんだ・・・」

「ん・・・で、衛星都市の基本として、ここに市役所みたいな施設は無い。代理の施設はあるけど・・・私達が目指すのは、中心にあるあの建物」

「・・・え?」


 エリスが指差した建物を見て、一同が思わず目を瞬かせる。確かにここに来る前に、エリスは小図書館と言っていたのだが、指差したのは3階建て――と言っても三階部分はそれなりに小さかったが――の大きな建物だった。


「いや、でかくない?」

「でも、あれで小図書館」

「えー・・・」


 魅衣が立ち止まって、エリスの言葉に唖然とする。普通ならば、それなりに大きな図書館でも通用するだろう。だというのに、あれで小図書館なのだ。ならば神殿都市にある図書館とはどんな物なのか、とある種の恐怖感を感じたのである。


「とりあえず、行こう。調べ物をしないと」

「あ、うん。じゃあ、とりあえず、そこまでは一緒するけど、そっからは各自別々でいいんだよな?」

「うん。これは私がすべきこと。感想は求めるけど、その程度」


 エリスが頷いて、再びソラも歩き始める。兎にも角にも図書館に着くまでが護衛の仕事だ。そうして、一同はとりあえず街の中心部にある図書館へと移動する。


「ここはとりあえず安全。と言うか、ここが安全じゃなければエネフィアの何処も安全じゃない」

「あはは・・・」


 エリスの言葉に、一同は苦笑する。ここには無数の学者達が研究の為の資料を拝読していたり、街の住人達がのどかに読書をしていた。どうやら専門書以外にも、普通の市民たち向けの書籍も扱っているようだ。こんな状況の場所が安全でないのなら、もはや地球でも安全な場所は無いだろう。

 というわけで、各自は散って、各々の目的の書籍を探す事にする。そうして、エリスが向かったのは、図書館の司書の待つ部屋だった。


「・・・えっと・・・すいません。クズハ様より、申請書を持って来ました」

「拝見します・・・」


 受付の司書の一人がエリスから提出された書類を受け取ると、それがクズハ直筆のサインが入っている事を確認する。ちなみに、本来ならば一ヶ月どころか数ヶ月も待たされる書類だが、カイトが関わっていた為、一瞬で終わったのであった。


「閲覧内容は、世界樹に関する映像資料及び、研究結果について、ですね。かしこまりました。専門官に案内させますので、少々お待ち下さい」


 書類内容の精査が終わった事を受けて、司書の一人がその場を後にする。エリスが申し込んだのは、世界樹に関する情報だ。それも、今までこの世界が始まってから今の世界樹に至るまでのほぼすべての世界樹についての情報だった。

 この中にはティナが杖の中に仕込む『始原の世界樹』の極僅かな情報から、今の世界樹が何処にあってどういう守りが施されていて、という様な下手に開示されてしまっては問題となる情報が含まれていた為、厳重に保管されていたのである。そうして、10分程椅子に腰掛けて待っていると、一人の女性がやって来た。


「おまたせ致しました。世界樹に関連する図書を専門で司書を行わせて頂いておりますアクウェです」

「あ、エリス・ハルミットです」


 アクウェと名乗った女性に対して、エリスが頭を下げる。名乗ったのは偽名だ。クズハがトップであるマクスウェルの外でハイ・エルフです、なぞと馬鹿正直に口に出してしまうと面倒事に巻き込まれやすくなる為、外では偽名を名乗る事にしていたのである。


「はい、エリス様・・・それで、本日はどのような物をお探しでしょうか」

「風と土属性に関連する世界樹についての情報が欲しいんです」


 アクウェの問いかけを受けて、エリスが欲しい情報についてを答える。今回、彼女は世界樹をモチーフとしたアクセサリーの製作を行う事にしていた。が、どんな世界樹であっても良いわけではない。

 彼女らハイ・エルフは風の大精霊であるシルフィと土の大精霊であるノームの眷族だ。であればこそ、少々媚びを売る様に思えても二人の大精霊が関わった世界樹を選んだのであった。


「であれば・・・かしこまりました。ご案内致します」


 エリスの求めを受けて、アクウェが少しだけ記憶を漁って目当ての書籍があるだろうエリアを思い出して、移動を開始する。目当ての場所は一般に公開されているエリアから離れた最上階の禁書が収められている部屋の反対側だった。世界樹に関連した図書の閲覧は比較的多く、慣れない者が誤って入らないようにする為の対処だった。

 ちなみに、部屋は最上階の一番良い部屋だ。太陽の光がふんだんに取り込めるにも関わらず、それが書籍に影響を与えない様に部屋全体に特殊な魔術加工を施した専用の部屋だった。世界樹という世界で最も大切な物の一つの情報を取り扱う以上、その情報そのものにも礼儀を払ったのであった。


「ここが、世界樹に関する情報を扱った部屋になります。その内、エリス様がお求めの2属性に関連する世界樹は、記録されている限り『始原の世界樹』、1億年程前の世界樹、6千万年程前の世界樹などが、それに該当しております。詳しくは本棚毎に別れておりますので、それをご覧ください」

「先代の世界樹についての情報はある?」

「先代・・・申し訳ありません。先代とおっしゃる物については、我々も把握は・・・」


 世界樹はかつてシルフィが述べた様に、樹齢一万年と言う超長寿の巨木だ。おまけに在り処は大精霊達が隠蔽している。全ての世界樹が歴史に記されているはずもなく、分かっているのは本当にこの部屋に入る程度の数しかなかった。

 それ故、先代というエルフの里にある切り株の残骸の真の姿は、彼女らにもわからなかったのである。と言うか、先代の世界樹が今のエルフの里の位置にあった事さえも、彼女らは知らない。それぐらいには厳重に秘された情報だったのである。


「先代は確か、今のエルフの里にあった、って聞いてるんだけど・・・それに関する書籍は下?」

「それは何処からの情報ですか?」

「・・・風の大精霊様から直々に聞いた。私は一応、巫女として育ってたから・・・」


 エリスは少しだけ照れ臭そうにそう言うと、その証拠、と言わんばかりに少しだけ服を下げて、胸に刻まれている風の大精霊の加護の証を示す。


「・・・何処まで真実かは図りかねますが・・・わかりました。該当の図書については、こちらで探させて頂きます」


 エリスの言葉が何処まで真実であるかは判断しかねたアクウェだが、もし真実だった場合には新たな発見と言える。加護を持つ者の言葉である為嘘とも言い難く記憶するに値する情報だった為、協力を申し出たのであった。


「うん、ありがとう・・・じゃあ、私はここで調べ物をさせてもらいます」

「かしこまりました。もしご用命の際やお手洗い等で退出されます場合は、この鈴を鳴らしてください。私が来れぬ場合は別の司書が伺わさせて頂きます」

「ありがとう」


 この部屋は専門の司書が居る事からもわかるが、かなり厳重な警備が敷かれている。鍵の締め忘れが無い様に自動で鍵が掛けられる様になっているし、その鍵にしても専用の魔道具がなければ開かない。

 おまけにこの魔道具にしても登録された司書達の魔力波形を受けて動く物である為、防犯性は高かった。まあ、そういうわけで防犯性が高いが故に一人では出れても入る事が出来ずに、戻る時には司書が一緒でないとダメなのであった。そうして、アクウェがその場を後にして、エリスが調査を開始する。


「えっと・・・あった。これが風の大精霊様と土の大精霊様が関わった世界樹に関する棚・・・」


 棚の大きさはさして大きくはない彼女よりも少し高い程度で、カイトの背丈と同じぐらいだ。幅は5メートル程度。魔道具等も収められていた為、本の総数は100冊程度だろう。この星の生誕から世界樹は存在していて、世界樹の寿命が一本1万年程度と考えれば、これはあまりに少なかった。


「えっと・・・とりあえず、映像資料を・・・」


 エリスは極僅かに残る映像資料を確認する事にする。まずは実物を見て、イメージを行うつもりなのであった。そうして、彼女は部屋に備え付けられていた読み取り専用の魔道具に、情報が収められた魔道具をセットする。

 すると、一気に彼女の周囲が一変した。空間が歪んで、エリスが世界樹の麓に立っている様に見えるようになったのである。


「これが・・・世界樹・・・」


 初めて見る世界樹の威容に、思わずエリスが圧倒される。それはおおよそ2000メートル程の超巨大な巨木だった。緑は生い茂り、力強い印象を与える雄大な木。それが、世界樹だった。

 一体ここまで育つのにどれだけの年月が必要なのか。それを思うと、思わずエリスにも他の誰もと同じく、震えが来た。それほどまでに、この世界樹は偉大だった。


「・・・こんな物が何本もあった・・・それを、大精霊様達が育てていらっしゃる・・・ふふ」


 何度か見た事のある大精霊の姿を思い出して、思わず笑みが訪れる。ここまで巨大な木でも、元は大精霊達がじょうろで育てられる程の大きさだったのだ、と思うと少しおもしろかったらしい。そうして、そう思った事でふと少しだけ、アイデアが浮かんだらしい。


「そっか・・・世界樹だって、生き物・・・苗木の時代があって、今があって、そして、枯れる・・・」


 当たり前といえば当たり前の事を改めて思い出して、エリスは思わず手帳を取り出す。早速、アイデアが浮かんだらしい。そうして、エリスはこの後も様々な世界樹の資料を確認しながら、デザインを考えて行く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第568話『うたう者・うたわれる者』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 技術班、属性二つ入れるベルト作ってない?USBメモリ付きで。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ