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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第38章 異族の風習編

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第656話 悩み

 一同が出発してから、明けて翌日の昼ごろ。その頃になって、一同の眼前にはとある光景が見えてきていた。


「うっわー・・・何あれ・・・」

「あれが、神殿都市。通称、『白亜の城』」


 見えてきたのは、まさに白亜の城壁とも言うべき白い壁だった。それが、街の周囲を覆い尽くしていたのである。城壁のある光景はエネフィアでも珍しくはないが、それが白亜の城壁となるとかなり珍しい事だった。


「・・・でも、行かないのよね?」

「うん」


 魅衣の問いかけをエリスが認める。確かに素晴らしい光景だし中はもっとすごいらしいのだが、それもこれ以上近づかないのであれば、今の彼女らには無関係だ。


「この道をここで曲がる」

「あー・・・」


 エリスが地図を取り出して、一同に道を改めて示す。今のところは神殿都市への大きな街道を進んでいるのだが、神殿都市の少し前で東に逸れるルートを取る事になっていた。

 神殿都市はマクダウェル第二の都市として衛星都市が幾つかあり、残念ながら目的の衛星都市は神殿都市の南南西側に位置していたのである。これはもともと先代の世界樹が存在していた場所が神殿都市の南方にあった事から、致し方がない事だった。そうして、無念そうにした魅衣が、ため息混じりに窓を閉めた。


「ちょっと残念」

「秋には来るんじゃないの?」

「へ?」

「え?」


 エリスから出された疑問に、一同が首を傾げる。今のところは何の用事も無いはずだったのだ。とは言え、これは逆にカイトを知ればこそ、簡単に想像が出来た事だったらしい。なので逆にエリスが首を傾げる事になった。


「だって、カイトさんの誕生日の周辺じゃあそこで大祭式例祭が行われるから、行かないはずがないんだけど・・・」

「れ、例大祭ですか?」

「うん・・・カイトさんはエネフィアで歴史上唯一大精霊様から祝福を授けられた存在。だから例大祭もそれに合わせて行われる事になっている」

「生誕祭の様な感じ、ですか・・・」


 桜が苦笑するが、その苦笑は大体一同も共有出来たらしい。カイトの宗教嫌いはそれ相応に根深い物だったが、その根源が見えた様な気がしたのである。

 誰だって 自分が望まず祭り上げられる事になると嫌にもなるだろう。と、そんな顔をしていた一同を見て、エリスが当時を語る。


「大揉めしてたらしいよ。と言うか、珍しくガチギレだった、ってクズハ様が」

「そ、それはまた・・・」

「銅像とか作られそうになったけど、前に居た頃は全部撤去させたらしい」

「うっわー・・・世の中の独裁者とかに聞かせたい言葉・・・」


 カイト程の知名度と栄華を得たにも関わらず、しかも銅像が勝手に建てられる程に慕われる英雄となって逆に銅像を撤去させた例は珍しい。なので魅衣が苦笑気味につぶやいていた。

 とは言え、カイトの望みも虚しく、結局的にカイトは今ではまるで神様の如き扱いを受けているのは、仕方がない事なのだろう。時と共に物語になり、そうなると語られる者となって神格化にも近い事になる。人類である限り、逃れられない宿命だった。


「でも、どうしてなんでしょう?」

「そういえば・・・」


 桜の疑問に、瑞樹も疑問を得る。よくわからないといえばよくわからない。確かに偶像視されるのが嫌だ、というのはわからないでもない。だが、そこまで怒る事なのか、とも思えたのであった。


「さぁ・・・なんか嫌だ、って言ってた。クズハ様達も良くは知らないらしい」


 どうやらエリスも答えは持ち合わせていなかったらしい。まあ、この答えを知るのは地球で色々とやっていることを知っているティナと、常に一緒のユリィぐらいなものだ。知っていなくても仕方がない。

 とは言え、実は今はそれとは違う理由で厭っている。彼が尊敬した男が、神格化を嫌った。それの教えと言うか影響を受けて、彼もまた神格化されるのを厭ったのである。

 とは言え、そんな事を言っている間に馬車が曲がり角を曲がり、神殿都市は馬車の横窓から少し見える程度になってしまった。


「まあ、そういうわけなんで・・・さらば、白亜の殿堂よ・・・」

「あんた、そんな言葉知ってたんだ・・・」

「この間読んだ戦術書に書いてた」

「子供か」


 ソラの言葉に、魅衣が続けてツッコミを入れる。初めて知った言葉を使いたいのは、子供の習性と言える。なんだかんだミスはそれなりにあったのだが、精神面への影響は薄いらしい。良いか悪いかは別として、冒険者としての心構えはそれ相応に備わってきているという所だろう。


「ここから地竜で1時間程飛ばせば、衛星都市に到着」

「そっちはどんな所なんだ?」

「こっちは普通の都市。流石にあの白亜の城塞を作るのは・・・まあ・・・ね?」

「お金の無駄」


 ティーネの言葉に、エリスがはっきりと断言する。と、そうしてふと思ったのは、そんな無駄金を何故カイトが使ったのか、だった。それは学生時代から付き合いのある魅衣達であれば、殊更疑問に思えた。彼は意外と無駄遣いを嫌うのだ。


「カイトが良く認めたわね・・・」

「ううん。カイトさんは殆どお金を使ってない」

「は?」

「と言うか、使えなかったらしいの」


 首を傾げた一同に対して、エリスが更に続ける。とは言え、これは少し考えれば、簡単に分かる事だった。


「あの当時、マクスウェルでさえボロボロだったらしいの。だから、国からの補助金を含めてお金はそっちに回しちゃって、神殿なんて作る余力は無かったって、クズハ様が言ってた」

「じゃあ、どやったんだ?」

「勝手に集まったらしい」

「・・・は?」


 勝手に集まった。そんな馬鹿げた話があるのか、と一同が目を瞬かせる。が、事実なのだから仕方がない。というわけで、ここからは一応は族長の娘として一通りの歴史は教え込まれているティーネが代わって解説することにした。


「どうにも5年程して色々と民衆に余裕が出て来ると、大精霊様達に感謝を示して、地脈と龍脈が交わる場所に神殿を建てよう、って話になったらしいわ。でも、当然流石にカイトさんにだって余裕は無い。ただでさえ魔族領との交流だのなんだの、って物凄いお金が必要だったし、更には管理している土地は他の貴族の数倍。とてもじゃないけどそんな余裕があったはずがない。ということで、勇者様は自分達の為に物凄い大変だから、感謝の気持ちだけでも自分達でなんとか、ってなったらしいの」

「ほへー・・・ってことは、あれ全部、住人たちの金ってことか?」

「そういうことね。大体今のお金にして、えーっと・・・1万ミスリル銀貨ぐらいだったそうよ。半分ぐらいは、商人ギルド・・・と言うか、ヴィクトル商会って所が出資したんだけど」

「すっげ・・・一人で半分かよ・・・」


 全員が頬を引きつらせる。大体日本円で10億円だ。その半分となると、当時の情勢を考えれば物凄い金額になっただろう。

 そして、街全てを覆い尽くす様な城壁だ。材質は何かはわからないが、少なくとも大精霊達を祀る神殿だ。安物とは思えない。しかも、ぶっ飛び具合はまだ続いていた。


「まあ、そう言っても大精霊様の為だから、って結構色々な所からの篤志もあったらしいし、あそこに使われている石にしても大半がそういうことなら、って皇国中からあり得ない程格安か、寄付だったって」

「うっわー・・・」

「すごいでしょ?」

「うわぁ!?」


 いきなり割って入ったシルフィに、一同が思い切り仰け反って椅子から転げ落ちる。自分が噂されている事を見て、会話に入ってきた、という所だ。

 まあ、カイトの方が移動だけで暇すぎる上に、自分の事を知らない面子が多すぎて出てカイトと戯れられない、という大問題の方が理由として大きかったようだ。


「いつつ・・・」

「やっほ・・・で、まあ、あれが僕らの神殿ね。ここの側だと全員の魔力が満ちてるから、比較的簡単に顕現出来るんだ」


 シルフィは離れていく神殿都市を指差しながら、自分が出れた理由を語る。ここらがあって、ソルもルナもカイトが不在の間にもここに来れていたのであった。


「そ、それで何のようなんだ?」

「暇。カイト遊んでくれない」

「あ、あはは・・・」


 まさに風の如く自由気ままなシルフィに、一同――と言ってもどうすればいいかわからないティーネとエリスは別だが――が苦笑する。仕方がない事は彼らとて理解している。カイトは今移動で忙しいのだ。そうして、シルフィが折角なので、とソラに問いかける。


「で、その後の経過はどう?」

「あ・・・えっと・・・とりあえず形にはなってきた・・・かな」


 シルフィの意図を把握したソラは、手のひらに風を生み出す。それは加護の力を使った物だ。とは言え、ただ単に使っただけだ。なので何かをもたらす事は無い。


「うん。まあ、加護の方も少しは出来る様になってるかな。とりあえず、今回はそれで良しとしよう」


 今までソラはずっと、加護の力を身体能力の向上にしか使ってきていなかった。それ故、魔術の増幅器としての使用方法や風をコントロールする方法等への応用は目を向けてこなかったのだ。

 単一の力を別の事に応用する。誰かが道を付けていたり言われれば簡単に出来る事なのに、自分だけだとそれを為す事は難しい。それにゆっくりとだが、ソラは歩み始めていたのである。


「ありがとう」

「うん・・・で、それともう一つ。君が為したい様に、やればいいと思うよ?」


 シルフィはそう言うと、それを最後に消え去る。カイトの所が暇だ、という事なので、再びエネフィアの何処かへと足を伸ばす事にしたのだろう。


「・・・やりたいように、か・・・それがわかんねぇから、悩んでるんだけどな・・・」


 消えたシルフィを見て、ソラがため息を吐いた。何をやりたいのか、と言われればその結末が見えないのだ。だからこそ、悩んでいた。


「ソラ君、長くなりそうねー」


 ソラのため息を見て、弥生が告げる。弥生はデザインへの協力として、この旅に参加していた。今回はソラ、弥生、魅衣が護衛の面子だった。数は少ないが道中の魔物と弥生を考慮すれば何ら問題は無かった。


「長く、か・・・まあ、実はソラって一度悩むと長いもんね」

「そうなんですか?」

「それも動きまわるから始末に終えないのよ、あれ」


 桜の問い掛けに、魅衣が笑いながら小声で告げる。基本的には悩みのないソラであるが、同時に悩み始めると悩みが長く続いてしまう。一ヶ月ほど悩んでいることもザラにあった。彼らが出会った頃なぞ、一年近くもうじうじとしていたのだ。これはこれで凄い。


「そもそも、大昔に荒れてたのだってその影響みたいなもんでしょ?」

「そう言われても、その当時は殆ど知らないんですが・・・」


 魅衣の言葉に、桜が苦笑する。一応、桜も話には聞いている。とは言え、話には聞いている、という程度だ。実際に同じ中学校でそれなりに関わりがあった魅衣達程ではなかった。

 そもそもお嬢様の桜とソラはあまり相性がよくはない。念のために言えば、悪くも無い。が、関わりが無かった。桜が要らぬ影響を受けては困る、と実は親たちが遠ざけたのである。今はそういうことは無いが、逆にソラが苦手意識を抱えていたので関わらない、という事だ。


「あー。そういえばそうだっけ・・・ちょっと話したぐらい、だもんねー・・・さて・・・今度はどんぐらい掛かるかなぁ・・・」


 桜の言葉に納得して、魅衣が小さく呟いた。今のところ、安牌は1ヶ月だ。が、見知った者の中には今回は事が事なので最長6ヶ月ぐらいなるんじゃないか、と予想しているのも居る。微妙な所だった。


「まあ、そこら辺は、当人に判断させましょ? 私達が口にだすべき事じゃないもの。それに、カイトも口にしなかったものね」

「はい」


 ソラの事はソラに考えさせるべき。そういう方針だ。なので、彼女らも何かアドバイスを口にする事はない。そうして、魅衣の言葉に同意した一同を乗せた馬車は一路、衛星都市を目指して進んでいくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第657話『衛星都市』

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