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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第38章 異族の風習編

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第654話 適性試験

 エリスの望みを受けてカイトが打った一手。それによって、エリスは図らずもハイ・エルフの里から認められる為に、テストを受ける事と相成った。


『ふぅ・・・これで当座の時間は稼げるな』

「ありがとう」


 エルドとエレノアが一時的に席を立った後。ため息を吐いたカイトに対して、エリスが頭を下げる。望みが達せられたわけではないが、同時に希望が絶たれたわけでもない。

 ここまで見事に乗せられたのはエルドだったから、という所は無きにしもかなだが、それでも相手がカイトだったからこそ、ここまで見事に乗せたのだ。感謝は然るべき物、だった。


「あの・・・それはいいんですが・・・それで、どうして私達は礼服だったんでしょうか・・・?」

『ん? ああ、悪い悪い。もし万が一うるさ型だったらネチネチと言われかねないからな。そこらを加味して、一応きちんとしておけ、と思っただけだ』

「こういっちゃ何なんだけど・・・ウチは結構排他的かつ、ちょっと高飛車なの。多分、桜と瑞樹、魅衣なら大丈夫だと思うけど・・・」


 少し自身なさ気なエリスの言葉を聞いて、横で紅茶の後片付けをしていたシロエがふと、手を止める。彼女とてこの街に住んで長い。ハイ・エルフ達の噂は何度か耳にした事はあった。ちなみに、噂は聞いた事はあっても、実際に会うのはエリスとクズハを除けば初めて、だそうだ。


「あー・・・結構有名ですもんねー。ハイ・エルフのお高く止まった感・・・あ、ごめんなさい」

「別にいい。きにしてない」


 シロエからの謝罪を受けて、エリスが首を振る。幸いにして今回は来たのが天然気味のエルドとエリスの妹のエレノアであった上に会話の主体がエルドであった為問題は無かったが、そうでないと結構高飛車な性格だったらしい。


『まあ、それは置いておこう・・・で、だ。テストなんだが・・・やはり、何かを作って見せるのが、最適だろう』

「うん」


 カイトから言われた言葉に、エリスが頷く。やはり適性を示すのであれば、実際の成果を見せるのが一番良い。なので、それを作る事にしたのであった。そうして、少しの間、カイトとエリスはアイデアを練り始める。


『どういうものを作る?』

「えっと・・・素材は魔法銀(ミスリル)。これは外せない」

『妥当だな』


 エリスの言葉を受けて、カイトも頷いてそれを認める。基本的に、エルフもハイ・エルフも魔法銀(ミスリル)を好んで使う。別に魔法銀(ミスリル)も銀だから退魔の力が、等という事はない。ただ単に金よりもどぎつくなく、銀よりも洗練されていたが故に、魔法銀(ミスリル)を使うだけだ。

 そして今回は見る者がハイ・エルフである事を想定すれば、彼らの趣味に合わせて魔法銀(ミスリル)を使うのが最適だろう。


「デザインは今から考えるとして・・・素材をそれなりの物を使う方が良い?」

『だろうな。ハイ・エルフの誰が採点者になるかは不明だが・・・そこらは、きちんとするべきだろう。エルドとクリストフ殿の伝手を考えれば、かなりの審美眼を持つ者が来る事が考えられる』

「あの・・・ちょっといい?」


 二人で話し合っている所に、魅衣が挙手する。何か気になった点があるらしい。


「何?」

「・・・採点者もエルフって・・・不正とかされない? と言うか、絶対しそうなんだけど・・・」

『ああ、それか』


 魅衣の疑問はもっともな事だった。全てが身内で行われるのだ。であれば、当然向こうに有利な採点者が採用される事も考えなければならない。が、これはカイトの表情が、問題無いだろう事を告げていた。


『それは大丈夫だ。彼らは彼らの面子に懸けて、不正はしない。ハイ・エルフ最大の特徴は不正をしない、という所でな。特に大精霊の眷属、という所に種族的な重きを置く彼らにとって、不正は大精霊達に対する冒涜だそうだ。だからこそ彼らは公正無私だ、と褒めそやされる。それに、クリストフ殿が不正をする事はあり得ん。彼は信用出来る方だ。決して身内贔屓な結果は出さないし、相手方の有利な判定は出さないし、出させない』


 カイトは笑いながら、問題ない、と請け負う。実はシロエの言った少々お高く止まった性格、というのはこれを悪しざまに揶揄した言葉に近かった。常に公正無私であるが故に、更には彼らの少々排他的な性格故に、どうしても物言いが少しお高くとまった感があったのである。


『と言う訳で、問題無い・・・さて。じゃあ、どうする?』

「・・・取り敢えず、依頼を出したい」

『ん』


 少し考えてから発せられたエリスの言葉を聞いて、カイトは先を促す。今回、主体となるのは彼女であるべきだ。なので、と言う事であった。


「何をするにも、素材が足りない。だから、依頼」

『ふむ・・・確かにそれも必要だが・・・あ、そうだ。確かオレ今、エリスに依頼してたよな?』

「? うん」


 いきなり出された話題に、エリスは疑問ながらもそれを認める。今回、表向きはその依頼で来ていた。そちらの方がカイトとしても会話に割り込みやすかったからだ。


『なら、それを試金石として、提示すれば良い。素材については一部流用出来るし、足りない素材についてはオレからの依頼と言う事で出す』

「え・・・? 良いの?」

『ああ、だってそっちの方が良い品だろ?』

「・・・ぷっ」


 言われた事を少しして理解して、エリスが思わず吹き出す。カイトがエリスに依頼したのはある意味、お付き合いの意味合いも少なからずと存在している。なにせ彼の場合は本来ならば超一流に依頼を出せるのだ。それをせずにまだまだ若輩である彼女に依頼しているのは、その意味合いが無いはずがなかった。

 そして、それはエリスとてうすうす勘付いている。種族的に見て若いが、実際には300歳を超えているのだ。成長が遅かろうとも、そこらの機微は読み取れた。なので、エリスは少し考えて、カイトの提案を受け入れる事にする。


「・・・じゃあ、お願いします」

『そうしておけ・・・さて。とは言え・・・これ以上先は、一度クリストフ殿に連絡に行ったエルド待ちか』

「ん」


 カイトの言葉を、エリスも認める。素材等については、見込みが立った。後はテストについてを幾つか取り纏める必要があるのだが、当然、それはカイト達だけでは出来ない。なので後はエルド達が帰って来るのを待つだけ、となる。そうして、二人は少し雑談を行う事にする。


『にしても・・・今思い返せば、遠い昔の事、か』

「どう言う事?」

『筆と絵の具片手にイタズラ書きしていたあの時の少女がもう巫女として役割を、と言われる位に成長していたとはな・・・』

「っ」


 カイトからの言葉に、エリスが思わず顔を朱に染める。大昔の事なのは確かだが、そうであるが故に、頬を染める位しか手立てがない。なにせ当時は本当に無垢な子供だ。色々と恥ずかしくなる様な事をしていたのであった。


「言わないで・・・」

『ん? ああ、そうか。いや、悪い悪い』


 ただ単に懐かしんでいただけのカイトに対して、エリスは大昔に幼心でやった事だ。それもまさか初恋の人から指摘されると、殊更恥ずかしかったらしい。そうして、暫くの間、更にそこらの話に興味を持った桜と瑞樹を交えながら、雑談を行う事にするのだった。




 会談が一時中座して、およそ30分。再びエルドとエレノアが戻ってきた。とは言え、今度は一つの水晶型の魔道具を持って来ていた。


「と言う訳で・・・試験については実施する事になったよ。取り敢えずクリストフ殿が主体となって、試験を実施するよ」

『道理か・・・で、その水晶、と言う訳だな?』

「うん・・・取り敢えず、あまり待たせるのは失礼だから、繋ぐよ」


 カイトの言葉を認めたエルドは、その後すぐに魔道具の操作を開始する。彼の口ぶりでは、どうやら通信機の先ではクリストフがすでに待機しているのだろう。いわば、保留の状態に近い。


『・・・久しぶりだ、エリス』

「久しぶり、父様」


 水晶型の通信機が起動すると同時に、立体映像のクリストフが浮かび上がる。彼も娘二人と同じく金髪青眼だ。エルフ種全てに言える事だが、彼も年齢を感じさせない程美丈夫だった。そうして父娘の挨拶が終わると、次いでカイトが頭を下げる。

 なお、エリスは家出している様なものなので叱責の一つでもあるか、と桜達は少しだけ憂慮していたのだが、そうはならなかった。

 確かに家出と言うか出奔紛いに出て行った事はいただけないが、そこらは大昔にお説教していたし、クズハにもよろしく、と頼んでいる。なので敢えてする必要はない、と判断していたのであった。


『お久しぶりです、クリストフ殿。こちらも映像で申し訳ない。今現在、小次郎先生の依頼に応じる為の準備として、外に出ていまして・・・帰るのは来週の終わり頃になってしまいますので、このような形になったのはご理解願いたい』

『いや、こちらこそ、勇者殿にもご迷惑を掛けた。家出娘が世話になっている。今回も貴殿が色々と提案を、と聞いた。かたじけない』


 クリストフが、父として頭を下げる。実は彼は始めこの一幕を聞いた時はため息を吐いたものだが、流石にそんな事はおくびにも出さない。

 と言うか、エルドとカイトの組み合わせの時点で悪手を悟っていた為、ここらの可能性は考慮してもいた。実はだからこそ、カイトが居ないこの時を狙った、と言う訳である。それを見通したエリスが裏を掻いた訳だ。と、そこでクリストフがエリスの横に座っている桜達三人に気付いた。


『彼女らは?』

『ん? ああ、申し訳ない。私の同胞の少女達です・・・まあ、本来は恋人と言うのが相応しいのですが、この場では、先の扱いでお願い致します』

『ふむ・・・私は『深淵なる君』。そう、呼んでくれたまえ』

「はい・・・私は桜・天道。こちらは瑞樹・神宮寺と、魅衣・三枝。以後、お見知り置きを」

『そうなる事を祈ろう、少女達よ』


 桜からの自己紹介に、クリストフは少し高圧的に頷く。対応の差は認めぬ者と認めた者の差だ。ここら、カイトの恋人と言われようとも、配慮はしない。これがハイ・エルフだった。そうして、一時中断した話が終わると、それを見計らってエレノアが申し出た。


「それで、父様。試験についてはどう致しましょうか?」

『ああ、それについては考えている・・・エリス。お前の今の想定される力量等を考慮して、試験を言い渡す』


 改めて本題に入った事を受けて、クリストフがエリスの方を向いて告げる。そうして、それにエリスが頷いたのを見て、クリストフは正式な書類を一つ取り出した。


『略式だが、エルフ代行王よりの書類も受け取った。正式な試験だ。試験内容は単純だ。エリスが作った物を、こちらの選んだ審査官が精査する。それで、才能の有り無しを決めてもらう』

「審査官は?」

『オーディオンの者に頼む』


 エリスの問いかけに、クリストフが家名で答えた。このオーディオンというのは、特に芸術的な才能の有無を見分ける事に長けた家系だ。

 こういった試験を行う場合には、彼らに審査を頼むのが通例だった。当然、彼らも立場に依らず裁定を下してくれる。何処にとっても、納得の出来る判決を下してくれる相手だった。


『見届人として、マクダウェル代行のクズハ様に依頼したいが・・・勇者殿。それで構わんか?』

『承ろう。クズハにとってみればエリスは妹分。喜んで引き受けてくれるだろう・・・それで、時期は?』

『今から取り掛かるのだから、準備にもそれなりに時間は必要だろう。準備期間として、10日を設ける事にした。試験はその後なので、12日後の昼を予定している』

『妥当か・・・エリス、問題は?』

「・・・無い」


 エリスは自分で作る為の予定を暫く考えて、問題は無い、と判断する。幸い先に一時中座した際に相棒のランカには協力を要請して受諾してもらっていたので、製作についても問題は無かった。

 後は材料とデザインを考えて、必要な素材を集める事が出来るか、だったのだが、それについても目処は立っており、その他についても問題は少なかった。


『よろしい・・・場所は『神葬の森』で行う』

「あそこで?」

『以外には無い』


 『神葬の森』とは、ハイ・エルフ達が暮らす森の事だ。由来は遥か太古に高名な神がそこに埋葬されたから、らしい。詳しい事はあまりに古すぎる上にそれを知っていただろうクズハの父がクズハに伝える前に戦死している為、よくはわかっていない。シルフィや神王シャムロックならば何かを知っている可能性もあるが、と言う程度だった。


「道中の移動は?」

『ふむ・・・』

「それなら、我々が行いましょうか?」


 こういう時は自分達の出番だろう、と考えた桜が名乗り出る。が、これには少々、クリストフもエルドも苦い顔をした。


『ふむ・・・君達の実力が分からん上に、何処の馬の骨とも分からん者をわれらの森に入れる訳にはいかん。これはそう言うルールなので、諦めてくれたまえ』

「そうですか・・・」


 クリストフから否定されて、桜が意見を取り下げる。が、その必要は無かったらしい。そこに、カイトが口を挟んだ。


『いや、申し訳ないが、その理屈は通らない』

『ふむ?』

『桜はオレにとって主家にあたる家系。それも血筋として見れば、果ては皇室にも連なっていた家だ。家柄、歴史としては十二分だろう。それは神宮寺も三枝も変わらない』

『ふむ・・・詳しく教えてくれ』


 カイトからの言葉に、クリストフが少しの考慮を見せる。本来ならば言い方は悪いが桜達程度を入れる事は無いのだが、カイトの言葉が確かであれば、それを考慮する必要はあった。なので、クリストフは桜に実家についてを説明させることにする。


「はい・・・えっと、当家・天道は古くは西暦1000年前後・・・我々がエネフィアに転移したのが西暦2000年を少し過ぎた頃ですので、約1000年の歴史を持つ家です。時の帝が富士山噴火に伴う被害で甚大な被害を被った浅間神社復興の為、神官として皇子を還俗させたのが始まり、と伝えられております」


 桜は伝え聞く限りの、自らの家の歴史を語る。これが、名家・天道家の始まりだった。そうしてそれから幾つかの変遷を経て、今の天道財閥となったのであった。ちなみに、その時の皇子が人間で男性なので、天道家の始祖である龍は女性だった。


『ふむ・・・約1000年の歴史か・・・』

『主家である帝家の歴史を含めるのなら、約2700年だな。一応、日本の皇紀を採用するのなら、と言う程度だがな。が、まあ、ここらは参考程度、と思っておいてくれ。神武帝が居たかどうかは、まだよくわかっていない段階だった。が、確かに2000年を超えているのは、オレも保証しよう。神が保証していたからな』

『む・・・』


 カイトからの補足に、クリストフが思わず目を見開く。エネフィアでも単一王朝が2000年以上も存続した例は無い。最古でも、千年王国の一千年と数百年だ。2000年以上を確定させたのは、流石に彼も驚くしか無かった。


『まあ、そう言う意味で言うのなら、そっちの神宮寺も三枝その家系になる。神宮寺はもともとは帝家の神職を司っていたのが、始まり。三枝は古くは財閥の一つで、更に古くは帝一族にも血を入れていた藤原家という一族が祖だ』

『ふむ・・・』


 カイトの言葉を受けて、クリストフが少し考え始める。どうやら流石にこれは加味せざるを得ない事だったようだ。古くたどれば、一国の皇室にたどり着く。これは彼らからすれば、十二分に考慮にたる出来事だった。


『良いだろう。君達が率いるのなら、という前提でならば、護衛として同行することを認めよう。ただし、『神葬の森』に入れるのはおそらく君達三人だけだ。そこは留意してくれたまえ』

「わかりました」


 カイトからの補足を受けて、クリストフが許可を下ろす。おそらく、なのはこれからクズハの叔父、即ち現王に許可を取るからだ。こうして、桜達はエリスの護衛として、『神葬の森』へと足を運ぶ事が決まったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第655話『素材集め』

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[一言] 家柄だの名家だの…ケツ拭く紙にもなりゃしねぇよ(嘲笑)
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