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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第37章 妖精達のお手伝い編

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第651話 訓練終了

 森での訓練が折り返しを過ぎた頃。この日からは暦も加わっての修行になっていた。というわけで、カイトも一応参加していた。


「みっけ!」

「ほへー・・・」


 剣道部の面々の間抜けな驚きの声が、響き渡る。当たり前だ。暦が簡単に妖精達を捉えていくのである。


「訓練って・・・本当に滝行だけだったのか?」

「ええ、そうですよ。ただ単に滝行をやっただけです」


 藤堂の問いかけに、カイトが笑いながら認める。何も隠してはいない。本当にやったのはそれだけだ。とは言え、そろそろネタばらしの頃だった。


「いや、まあ、悪いといえば悪いんですが・・・ちょっと嘘です。実は暦だけ別にしたのは、彼女が一足先にちょっとした事に気付いたから、別訓練にしました」

「ちょっとした事・・・?」

「はぁ・・・そろそろ良いか。おーい! 全員しゅうごーう!」


 相変わらず気付いていない様子の藤堂に対して、カイトが妖精たちに集合を掛ける。そうして、一斉に全妖精が現れた。


「はい、せいれーつ!」

「は・・・?」


 唖然となる藤堂の前で、妖精達がある規則性にしたがって整列していく。


「で、藤堂先輩はここ・・・で、暦がここ・・・で・・・」


 カイトは列に並んだ妖精達の前に、藤堂達剣道部の面々を並べていく。そうして、並べ終わった後、カイトが一同に告げる。


「これが、各々の担当の妖精です」

「た、担当?」

「そう、担当」


 目を瞬かせて問いかけた剣道部生徒に対して、カイトが告げる。最終日なので今日一日ははじめからネタばらしした状態でやってもらおう、と思ったのである。


「まあ、ぶっちゃけると、全員で纏まってる内は、絶対に無理だ。先輩・・・今まで各個撃破を試みた事は?」

「む・・・」


 カイトから問われて、藤堂は試していない事がまだあった事に気付く。


「各個撃破に入ったら、多分早々に見抜けてたと思います。そして、気配にも気付ける様になってたでしょうね」

「むぅ・・・」


 カイトから告げられて、藤堂が無念さを滲ませる。とは言え、ここらは致し方がない所が大きい。彼はリーダータイプではない。指揮官向きの性格ではあるが、それと指揮官としてやっていけるか否かは別だ。現にソラは指揮官向きの性格では無いが、指揮官としての適正は悪くはなかった。

 が、それでも、次の古都レガドでだけは、彼が指揮してもらわなければならない。そして剣道部でまとまる場合には、彼が指揮をするのだ。その為の訓練も積んできている。カイトに優しさはあっても、甘さは無かった。だからこそ、敢えて彼の自主性に任せた。失敗させる為に、だ。


「それに、妖精達が何故騒いでいたかにも気付いていましたか?」

「いや・・・すまない。意図があったのか? てっきり狼等の獣を遠ざけているのだ、ぐらいにしか・・・」

「仲間の気配を隠す為、ですよ」

「ではつまり・・・」


 カイトから言われて、どうやら藤堂も自分達が一緒になって騒いでいたのが悪手だった事を悟る。


「しかも・・・」


 そうして、暫くの間カイトは一同に向けて今までの彼らの悪い点を指摘していく。ここらで修正を掛けないと、訓練の意味が無く終わってしまうからだ。ここまで痛い目を見せれば十分だろう、という判断だった。


「と、言うわけで、各自散開して木の実を集める。で、周囲の音に耳を澄ませる。妖精達だって無音で近づいているわけじゃない。それを、理解しろ」


 最後にカイトはそう言い含めると、全員を全体に散らしていく。見張りは最低限のたった一人。それは今回は暦にした。彼女であれば、担当の妖精達を見付けられるからだ。


「・・・なるほど。こういうことだったのか・・・」


 各所へ散っていった中。藤堂がカイトが言わんとする所を理解して、ため息を吐いた。彼も指導者としての義務感から剣道部の一同と一緒に居たわけなのだが、本来ならば暦よりも先に彼が気付くはず、だったのだ。それならば、カイトもそのまま放置させる予定だった。


「・・・そこ」

「ありゃ・・・やっぱりカイトの言った通りだったか」


 見付かった妖精が、苦笑する。どうやらこうなることははじめから予想されていた事のようだ。


「・・・はぁ・・・そうか。それは失礼な事をしてしまったか・・・」


 呆れられるのも無理は無い、と藤堂は自省する。今の妖精の言葉からも、カイトが自分に期待していた事が良く理解出来た。それに応えられなかった事が、少々情けなく感じたのである。


「そうか・・・静かになると、良く分かる。君達は意外と大音を出していたんだな」

「そだよー。だってそういう風にお願いされてたもん。これが戦いなら、僕らは個別に結界を展開して完全に森と一体化して、忍び寄るよ」

「こ、これでまだまだ手加減しているのか・・・」


 妖精の言葉に、藤堂が唖然となる。今でようやく、なんとか違和感に気付けたのだ。しかもそれにしたってはじめから教えられていたが故に、簡単に気付けたのだ。これ以上完璧に隠れられると、今の彼ではもう無理になるだろう。


「で、言っておくけど。止まってくれてる、って思ってる?」

「あ・・・」

「そこら、君は少し馬鹿正直だよねー」


 別の妖精に木の実を入れていた小袋を掲げられて、藤堂がしまった、という顔になる。うっかりと彼との会話に集中してしまった所為で、小袋へ注意が疎かになってしまっていたのである。


「はい。とりあえずもう木の実を狙う必要がないからね。返すよ」

「申し訳ない・・・」


 妖精達から返却された小袋を受け取って、藤堂が項垂れながら謝罪する。まさかここまで簡単に奪われるとは思いもよらなかった。


「じゃ、やり直しね」

「かたじけない」


 再び木々の中に消えていった妖精達に、藤堂が頭を下げる。あんな子供っぽいのに、自分よりも遥かに上。それを、藤堂は改めて思い知った。


「はぁ・・・まだまだだな・・・まさか何処が悪いのか、というのを見抜かれていたとは・・・」


 これは彼が有能なスポーツ選手故に致し方がない所なのだが、藤堂もまた、かつての瞬と同じだった。一つの事に集中するあまり、周囲が見えなくなるタイプだったのである。目の前の敵に対して油断する事こそ無いが、認識外に潜まれると途端に弱くなってしまうのだ。


「さて・・・感覚はなんとか、見えた。後は・・・」


 慣れるだけ。藤堂はそうつぶやくと、再び歩き始める。相手は油断出来ない相手だ。気合を入れ直す。そうして、彼は再び木の実の採集に戻るのだった。




 一方、木の実の籠の番をしていた暦はというと、普通に妖精達と戯れてた。


「あ・・・」

「え・・・?」

「隙あり!」

「させません!」


 あらぬ方向を向いた妖精につられて思わずあらぬ方向を見た暦だが、その次の瞬間に動いた妖精の動きを牽制する。流石に動きで妖精に追いつけなければ意味がないので、一応は手加減はされていた。なので見事阻止に成功する。


「油断も隙も無い・・・」

「うきゅー・・・」


 はたき落とされて目を回している妖精を前に、暦がつぶやく。暦の試験は、一段階上の所に差し掛かっていた。理由は簡単だ。姿を隠した訓練ではほぼ意味が無くなった為、牽制やフェイントを仕掛けながらでも対処出来るのか、という事を見ていたのである。


「と見せかけての隙あり!」

「ひゃあ!」


 目を回していたはずの妖精だったが、どうやらそれはブラフだったようだ。彼は暦のスカートに対して風を起こすと、ひらり、とパンツを露出させる。


「もー!」

「あはは! すきあ」

「させません!」


 まくり上げられたスカートを抑えていた暦だが、それを好機と捉えた妖精の行動に対して、スカートを手放して妖精を再びはたき落とす。結構力が入っていた様に見えたが、これは仕方がないというか自業自得だろう。


「きゅぅ・・・」


 どうやら今度は正真正銘目を回したようだ。ふらふらと頭を揺らす。


「うーん・・・パンツぐらいじゃあ、効果なさそうだね。悪くないんじゃないかな?」

「いい年してパンツパンツ言いまくってたここ数日のお前の方が良くないな・・・」

「それは言わないでよ」


 少し冷やかす様なカイトの言葉に、ユリィが少し照れ臭そうにそっぽを向く。やはり彼女もパンツと公言することに少しの羞恥心はあるらしい。

 ちなみに、カイトも一応木の実の回収に出ている事になっているが、分身にやらせている。いつもどおり彼は監督役として、木々の上から一同の行動を把握していたのである。


「まあ、それは置いておいて・・・やっぱり技量で言えば、あの藤堂って子が一歩抜きん出てるね」

「だろうよ。良くある話っちゃあ良くある話だが・・・彼も周囲の面子に足を引っ張られるタイプだな。周りをなんとかしようとして、それに対処する為に自らのリソースを割いて失敗するタイプだ」


 二人は妖精に対処出来始めた藤堂を見ながら、彼をそう評する。彼は学園が主催するトーナメントでこそ相性とクジの問題――相性が最悪の瞬と緒戦で戦う事が多かった――で優秀な成績は残せていないが、実際には学園でも上位の使い手だ。

 本来ならば、あの結果こそが自然だった。彼が見抜いて教えていく事をカイトもユリィも、そしてひいては旭姫も期待していたのである。だが、残念ながら周囲の面子の技量が及んでいなかった事と指揮官として最適な決断が下せなかった事で、その自らの技量さえも潰してしまっていたのである。


「やっぱ藤堂先輩にゃ、指揮官役は向いてないな。補佐役向きだ」

「やっぱそう?」

「旭姫様・・・向こうは終わりですか?」

「うん。仕事溜まるから帰るって。孤児院の仕事もあるし・・・あ、ホタルとかの援護ありがと、って」


 話をしている二人の横に、旭姫が並ぶ。向こう、とは当然剣道部の面々や武蔵の弟子達とは別に稽古をしていた公爵家従者勢の事だ。彼らは数日早めに終わる予定で、もう終わったのだろう。


「はいはい・・・まあ、それで藤堂先輩ですが・・・でしょうよ。彼は指揮官というよりも、補佐官向きです。慎重すぎる」

「うーん・・・やっぱりかー・・・」


 旭姫がため息混じりにやはり、と認める。今回の一件を見ても分かるのだが、彼はどうしても完璧に護り抜く事を主眼としてしまっていた。が、今回の場合はそうする必要が無いのだ。


「被害を割り切る事も重要・・・円陣防御は悪く無い判断、なんですけどね」

「敵が悪い。円陣防御は敵が見えている場合には使えるけど、背中を預け合う、ということは死角が存在してしまっている事に他ならない・・・敵を考えて、陣形を組む所までいければなー」

「円陣防御では防げていない事に、もうちょっと早く気付くべきでしたね」


 二人はため息混じりに、藤堂の指揮者としての才能を論評する。今回の訓練で彼らが木の実を取られたのはほぼすべて、背後から忍び寄られての奪取だ。

 理由は簡単だ。背中は仲間が守ってくれる、という安心感を下手に与えてしまった所為で、本来ならば担当しか気付けない妖精についてを完全にスルーしてしまっていたのだ。


「敵がどんな方針で攻めて来るか、なんて誰も教えてくれない。そもそもスパイなんて成功すればめっけもん程度。敵の策略を読み合う事が何よりも重要・・・常識という考えを捨てろ、だっけ?」

「懐かしいな」


 ユリィの言葉に、カイトがため息混じりに苦い顔をする。時の皇帝がまだ皇子だった時代にカイトに告げた言葉だった。


「常識は邪魔にしかならん。参考程度に留めておけ・・・円陣防御ならば、全周囲を警戒出来る・・・そう考えるのが常道だ。が、そうであるが故に、裏は掻きやすい。幾らでもフェイントはかませたらしいな」


 ここ毎日受けていた報告を、カイトが苦笑混じりに言及する。少し姿を表してやると、それだけで全員何処かへの注意が疎かになる。発見される事さえも策だ、ということを全く気付けていなかったらしい。


「こういう訓練は全体に実施すべき、だなー。それこそストラ・ステラクラスの暗殺者が紛れ込んだらそれで終わりだろ?」

「あれクラスを捕らえられる組織があるとすればユニオンとかの大規模な組織とか国の中枢、それか『組織』ぐらいな物でしょうよ」


 旭姫の言葉に、カイトが苦笑する。ストラもステラも二人共、超級の腕前を持つ暗殺者が本業だ。戦闘能力で言えば何処かの組織を単独で壊滅させられるのに、密偵としてもずば抜けている。それに攻め入られて勝てる所が稀だった。


「『組織』・・・カイト殿。そういえば、妙な噂を耳にした事を思い出しました」


 旭姫が唐突に気配を変える。どうやらそれほど重要な案件らしい。


「どうしました?」

「ウルシア。そこに彼らの施設がある、と噂があります」

「っ!?」


 話された言葉に、カイトが絶句する。それはあまりにおかしな噂だった。だからこそ、カイトはこの言葉を返す。


「所詮噂では?」

「そうだと良いのですが・・・この噂を仕入れたのは、まだかの大陸との交流が始まって少しの頃。飛空艇が黎明期の時代で、大陸を渡れる程の力が無かった頃の話です。似た物の可能性はあり得なくはありませんが・・・」

「・・・が、事実ならば、物凄い事になる、ですか・・・」

「ええ。少なくとも、世界がウルシアの大国を知る前に、彼らはあの大陸の文明を知っていた事になる・・・それに、気になる事も一つあるのです」

「気になる事、ですか?」


 旭姫の言葉に、カイトが目を細める。彼女が言うからには、何らかの事情があるはずだった。


「ウルシアの者と出会ったのは私達浮遊都市の者が初めてだ、というのは承知ですね?」

「はい」


 旭姫の言葉を、カイトが認める。それについては聞いていた。当たり前だが浮遊都市である以上、何処かで補給が必要だ。なのでウルシア大陸側の海で浮遊都市が休息を取っていた際に、偶然にウルシア大陸の船に遭遇したのである。

 はじめ何処かの国の外航船がウルシア大陸の調査にでも来たか、と思い挨拶をしてみると、全く見たことがない国の船だったそうだ。そうして話をはじめて彼らがウルシア大陸の者達だ、と把握したそうだ。

 昔は今ほど、何処の国も外航船は多くはない。それ故、今まで出会う事も無かったのだろう、と彼らも判断していたのであった。


「今思い返せば、彼らはまるで他の大陸の文明について知っている様子でした。交流が無いのにも関わらず、です・・・いえ、更に後にはきちんとわずかばかりの交流はあったのですが・・・」

「・・・それでも可怪しい、と」

「ええ」


 放たれた同意の言葉に、カイトがいよいよきな臭い物を感じて顔を顰める。


「ちっ・・・いよいよ、厄介な事になりそう、か・・・」

「勘違いならば、それは構いません」

「事実なら・・・ですか。わかりました。ありがとうございます」


 言外の意図を察して、カイトは頭を下げる。これはあまりに大きな情報だった。椿を生み出した『組織』については未だに、何もわかってはいない。文明未発見の大陸にさえ足を伸ばせる圧倒的な技術力を有しているという可能性を知れたのは、収穫だった。

 こうして、そんな事は知らない剣道部の面々の修行は、裏で密かに重要な案件が話し合われつつ、終わる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第652話『その頃の冒険部』

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