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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第37章 妖精達のお手伝い編

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第650話 一段落

 暦の滝行は、最終日の前々日まで続ける事になっていた。当たり前だがあの一度出来たぐらいで終わりではない。何度も繰り返して、それが常態的に使える様にならなければならないのだ。


「・・・」

「・・・」

「・・・」


 今日も今日とて、暦は滝行を行っていた。とは言え、今日は初日とは違いこの日居たのはユリィだった。彼女が監督を行っていた。


「・・・はい、終了」


 ユリィがストップウォッチを見て規定時間が過ぎた事を確認して、暦に告げる。流石に3日もすれば慣れが出始めたらしく、この頃には滝行の最中には恥ずかしがる事はなかった。というわけで、暦は終了と同時に滝から出て、シャワー室に入って身体を温める。


「うぅー・・・さっぶかったー・・・今日は一番寒いかも・・・」


 すでに開始して三日目。滝に入る自体はすでに二桁を超えていた。なので温度についても日によって違いがある事を把握しており、今日は冷たい、と思ったようだ。まあ実際に冷たかったのだから、そうなのだろう。


「・・・すぅ・・・」


 適度に冷えた身体を温めた所で、暦は一度シャワーを止める。昨日からやり始めている訓練の続き、だった。別にカイトから命ぜられたわけではない。単に自分でやっているだけの自己練習だ。そうして、暦は少しだけ、耳を澄ます。


『あー・・・温まる・・・やっぱ簡易式のお風呂持ってくるべきか・・・』


 聞こえてきたのは、カイトの声だ。一応防音は幾許か施されているが、それでも完璧ではない。なので僅かにだが、聞こえるのだ。が、当然それも完全にではない。今のように耳を澄ませてようやくだった。そして同時に、こうやって僅かにでも聞こえる様になった事で、更に上の訓練も密かに行われていた。


「・・・む」

「あちゃ。バレちゃった」


 後ろに忍び寄っていたユリィを暦が睨みつける。昨日の昼過ぎからユリィが参加すると、この様にシャワー室でいたずらを仕掛けようとしてきていた。気を抜かない様に、というのが彼女の言だ。

 それも今のように暦がシャワーの勢いを緩めてカイトの声に集中しようとした所を狙いすましていた。集中している時こそ、このように忍び寄る方法が使えるのであった。

 ちなみに、数度成功しておしりを撫ぜられたりしている。と、気付かれたので、今回はそのまま感想を聞いてみる事にする。


「今日はこれで最後だけど、どうだった?」

「なんとなく、という所です」

「まあ、そうだろうねー。今回だけで学べたら皆苦労してないもん」


 暦の言葉に、ユリィが苦笑する。彼女は今までに何百人どころか何万人もの少年少女達が明鏡止水の心を手に入れようとしているのを見てきた。それ故、実際にやっている彼女以上に困難さは理解している。

 だからこそ、この程度で出来る様にならない事は理解していたのであった。精神鍛錬だけは、全員が同じ土台に立って行うのだ。そこだけは、足早には行かないのであった。


「滝行は今日で終わりで、明日からはもう一度最後の森での修行へ戻るけど、この感覚は忘れない事」

「はい」


 ユリィの忠告を、暦はしっかりと受け止める。まだまだあの時の様になまくら刀で藁人形を切り裂けた事は少ない。だが、実際に切れた事も事実だ。あの感覚を忘れない様に、後は何度も鍛錬あるのみ、だった。


「じゃあ、これで終わりだね。しっかり温まること。この後に別の訓練があるからね・・・あ、そうだ。下着はまた今度冒険部に届けてくれるって。楽しみにしといてね、って」

「はい!」


 ユリィの連絡に、暦が元気よく返事をする。そうして、彼女は再びシャワーの勢いを強めて、身体を温める事にするのだった。




 そんな話し合いから、約1時間後。再び二人は野営地に戻って、剣道部の面々と合流していた。


「戻りました!」

「お帰り・・・そっちはどうだった?」

「とりあえず、一区切りという所ですかね。先生のおかげで、土台自体は出来上がっていましたので・・・」


 旭姫の問いかけに対して、カイトがとりあえずの進捗具合を答える。まだまだと言えばまだまだであるが、それでも開始前に比べて進歩したのは進歩した。幸か不幸かあの一連の騒動等で少なくとも、戦闘中にパンチラ等を気にする事は無いだろう。羞恥心については多少は耐性が付いたはずだと思いたい、というのがカイトの言葉だ。


「そっか。じゃあ、明日は普通に一度やってみる、で良いのか?」

「ええ。最後の締めぐらいは、全員参加で」

「結局、暦は何をしていたんだ?」


 カイトが答えたのを見て、結局二人が別メニューを、という事で居なくなった事は流していた藤堂が問いかける。それに、カイトが笑いながら答えた。


「ああ、大して特別な事はしていませんよ。ほら、先輩との模擬戦の真っ最中に暦が笑みをこぼした事が何度かあったでしょう? で、精神面を鍛えたほうが良いだろう、と判断したわけです。で、曲りなりにも教えていますからね。自分が一緒に、というわけです」

「滝行してました」


 カイトに続いて、暦が補足を入れる。別に隠すつもりもなかった。それに藤堂にしても道理を感じたので、それで納得した。とは言え、別に気になる事はあったようだ。


「滝行? あの『ミストレア大滝』か?」

「あ、いえ・・・同じ場所らしいんですけど、別の滝です。結局見れませんでした・・・」


 藤堂の問いかけに、暦は少しの残念さを滲ませる。天気が良ければ見れるかも、という場所に三日間立ち入っていたわけであるが、残念ながら天候には恵まれずだった。こればかりは、致し方がない事だろう。所詮天候は気分屋だ。一週間張り込んで見れない事もあるし、一週間連続して見れる事もある。


「そうか・・・まあ、それは仕方がないか。では、明日でその訓練成果とやらを見せてもらうか」

「はい!」


 藤堂の言葉に、暦が元気よく答える。一応、気配については僅かにだが感じられる様になっていた。土台が出来上がっていたので、僅かにだが形は出来上がっていたのであった。そうして、そちらの会話が終わったのを見て、カイトが暦に告げる。


「さって・・・じゃあ、次の訓練は・・・わかってるな?」

「はーい・・・」


 カイトの言葉に、暦が力なく答える。この合宿と言うか修行の旅では、料理は輪番制にしていた。ということで、今日はカイトと暦だった、というわけである。

 ちなみに、初日を見ても分かると思うが、カイト以外に全員を美味いと唸らせられる様な料理が出来る者は居ない。とは言え、食は全ての基本だ。食べられないのは誰にとっても問題だし、そもそもお姫様かつカイトにとってお師匠様である旭姫にそんなやばい料理を食べさせるわけにはいかない。なので、食べられるレベルには武蔵の弟子達が手を貸していた。


「さて、じゃあ、今日は何を食べる事にしようかな、と・・・」

「先輩。お肉が無くなりかけです」

「んー・・・」


 暦の言葉に、カイトは少しだけ頭を悩ませる。実はお肉については少々見込み違いが発生してしまっていた。狩りが出来るのがカイトと武蔵の弟子達だけだったのだ。

 ここら、カイトはもう少しこういった講習をやらせるか、と思っているわけだが、今からではどうにかなるわけではない。というわけで、カイトはここ数日、何人かの希望者と共に、狩りを行う事にしていた。


「しゃーない。狩りに行くか・・・ジョシュア。何人か見張り頼めるか?」

「はいはーい。じゃあ、こっち用意しておくねー」

「おっしゃ・・・おーい! 狩り行くから、希望者ついて来いよー!」


 肉が無い事には力が入らない。別に魚でも良いのだが、魚は足が早い上に近くに川が無い。なので狩猟を、という事だった。そうして、カイトは少しの間、希望者達と共に、狩りに出る事にするのだった。




 30分後。それでカイト達は帰って来た。どうやら幸いな事に今日は早い内に獲物が狩れたらしい。大きめの野羊を持って帰って来た。血抜き等はもう終わっているようだ。


「なんというか・・・そう言う使い方もあったんだな・・・」

「持っておいて損は無い。と言うか、持っておく事をオススメする。回収さえできれば、体の良い投擲武器だからな。それに、武器屋で安いの売ってるよ。所詮、これは大量生産品だからな」


 呆れ返った剣道部員に大して、カイトが薄っぺらい投げナイフを掲げながら告げる。薄っぺらくても殺傷能力は十分だった。流石に彼らには弓矢は扱えない。なので彼らが出来る方法で、実演してみせたのである。


「というわけで、飯作っちまいますね」

「ああ・・・はぁ・・・俺達も色々とこういう部分にも目を向けるべき、かなぁ・・・」


 そそくさと料理に入ったカイトを見て、剣道部の部員がため息を吐いた。カイトの万能さは誰もが知る所だ。それ故、ため息しか出なかった。と、その一方でカイトはユリィと暦の二人と共に、全員分の料理を作っていた。


「料理のコツは如何に手早く楽にするか、だ。手間の掛かる料理なんぞ毎日やってられるか」

「人数分を作る時は、お鍋とかの煮物だと良いね。今回も煮物だしね」

「ふむふむ・・・」


 暦は二人から逐一料理の指導を受けながら、それをメモする。そんな何処か花嫁修業にも見える有様に、思わずとある女子生徒が呟いた。


「・・・なんというか・・・おかん?」

「ぷっ・・・くくく・・・」


 女子生徒の言葉に、旭姫が吹き出して笑う。友人から言わせれば大きな子供の様であり、同時に年下から見ればおかんでもあった。

 まあ、そう言っても異空間で過ごした時間を含めなければ、彼の年齢は厳密にはまだ二十代だ。正確な所は彼にもわかっていない。が、友人と会えば馬鹿騒ぎもするような年でも問題はないだろう。とは言え、同時に面倒見の良い男でもあったので、そこらが影響して、母親に見えたのだろう。


「あ。そうだ、忘れてた。包丁使う時は魔力通すと、案外やりやすい。切れ味上がるからな」

「あー・・・そういえば包丁も刃物ですもんね」

「そういうこと・・・どっかの母親は魔物捌いたナイフで料理とかしてた事もあるけどな」


 包丁で狩った獲物を捌きながら、カイトが暦に告げる。固い骨も筋も、包丁に魔力を通してやれば切れ味は上がる。かぼちゃ等の固い野菜も普通に切れる。どうしても道具を荒い扱いをする冒険者達の小知恵の一つ、だった。ちなみに野菜の方はユリィが担当していた。


「で、後はお鍋とか触る時に気をつけるのは、うっかり鍋にそのまま触ってしまう事。冒険者だからって時々安心してやっちゃう人居るんだよねー」

「やりませんよ、そんなの・・・」

「そう? まあ、じゃあ、それは良いかな。で、他には状況に応じて、料理を考える事かな。雪山ならお鍋が最適。お汁まで飲み干せて、身体も温まる。逆に砂漠なら、水分を取れる料理を考えるべきだね」

「あ・・・砂漠というなら、あっちは気温が高いから、食べ物が腐らないか、もしくは腐ってないか、というのを確認するのも重要だな。更には少々傷んでいても、香草や炒めたりして隠すのもベストだ」

「・・・はい、わかりました!」


 暦は綺麗な笑顔で返事をしたが、それまでに空いていた間を考えれば、どうやら頭には半分程度しか入っていそうになかった。二人も料理しながらなので、説明をメインに置いていなかった。なので情報過多になってしまったのであった。


「で、今日は何を作るんですか?」

「今日? 今日は藤堂先輩達が多めにスパイスを取ってくれてたから、その香草を使った煮込みスープかな。羊だから、どうしても臭みと癖があるからな。香草でそれを隠す」

「まあ、木の実隠してるのジョシュア達だから、木の実の方は彼らが食べたいだけ、なんだろうけどねー」


 肉を捌く続きを行うカイトの言葉に続けて、ユリィが笑いながら告げる。そんな彼女は野菜を刻み終わってコトコトと煮込んでいた。


「よし・・・この量なら、明日は朝からケバブにでもするかなー・・・あれ、結構肉使うし、ガッツリいけるからなー・・・」

「串に刺して焼くあれ、ですか!?」

「あ、ああ・・・まあ、ドルネケバブでも良いけど・・・食べたいか?」

「はい! 一度食べてみたかったんです!」


 少々仰け反ったカイトに対して、暦が身を乗り出して答える。どうやら興味津々らしい。


「うーん・・・野菜も結構食べられるし、生地も作れるし・・・ガッツリ食っておきたい所だしなー・・・」

「是非お願いします!」


 カイトに対して、暦が再度願い出る。よほど食べたいらしい。


「わかったよ。じゃあ、明日はケバブな」

「やった!」

「じゃあ、味付けしとかないとなー・・・香辛料は、どこだったかなー・・・」


 暦の喜ぶ様を横目に、カイトは最後の仕込みをユリィにまかせて、明日の仕込みに入る。幸い料理道具の中には肉を丸焼きに出来る様なセットも入っている。魔術を使えば炙り焼き等もお手軽に出来る。

 下味を付けるのとスライスした肉を串に突き刺したりするのに少々手間が掛かるが、たまには良いだろう。レシピについてはトルコを訪れた時に地元の者から聞いていたらしい。そちらも問題は無かった。


「よし・・・じゃあ、これで明日だな」

「ありがとうございます!」


 仕込みを終えたカイトに、暦が頭を下げる。こうして、この日は大した問題が起こることもなく、平凡な一日が過ぎゆくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。今日は何事もない一日。

 次回予告:第651話『訓練終了』

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