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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第37章 妖精達のお手伝い編

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第648話 滝行 ――精神鍛錬――

 ジョシュアの指示によって、カイトと共に精神鍛錬として白い行衣(ぎょうえ)だけを身に纏って滝行を始める事になった暦だが、そんな彼女を出迎えてくれた滝は、夏というのに結構な冷たさを持っていた。


「うひゃあ!」

「この程度で声を上げるな」


 横ですでに滝行を開始したカイトが、暦に注意を促す。滝なのだから、水が冷たくても当然だった。


「あ、はい!」


 カイトから注意された暦は、大慌てで横のカイトと同じく手を合わせて滝行を開始する。が、そうして意識するのは、やはり自らの格好だ。


「うぅ・・・恥ずかしい・・・」


 恥ずかしさに負けた暦は、ちらり、と横のカイトを観察する。すると彼は目を閉じて、何も興味がないかの様な凪を保っていた。なにげに肩の上にはジョシュアも座って座禅を組んでいた。まあ、そんな彼がしていたのは、カイトのおじゃまだったのだが。


「んー・・・あのぐらいの膨らみかけのおっぱいも悪く無い?」

「オレに聞いてどうする・・・」


 幸い、二人の話し声は滝の音に掻き消されて暦には聞こえていない。というわけで、カイトはため息混じりにそれに返した。特に心動く事は無い。この程度で動くような精神はしていない。鍛えたのは主に彼ら妖精達だ。


「でもさ、あれぐらいの大きさって絶対張りがあっていいと思うんだよね」

「だからオレにどーせいと?」

「揉む?」

「おいおい・・・」


 基本的に、カイトはもはやこんな修行は必要がない。それぐらいの修練は積んでいる。と言うか見慣れているので別に戦場で不意の出来事で肌が露出された程度で、鼻の下を伸ばす様な事もない。今のカイトであれば女性の肌を傷を付けない様に気をつけるぐらい、だろう。


「おしりは小ぶりだし、悪くない子じゃん。手は出さないの?」

「おい・・・だから貴様らは何故オレが女の子と見れば手を出す男だと思っているんだ・・・」

「違うの?」

「違うわい」


ジョシュアの茶化しに対して、カイトが苦笑ながらに否定する。これはジョシュアもわかっていたことだ。なので、彼も気にはしていない。そうして、とりあえずの雑談を終えると、ジョシュアが切り出した。これは単なる雑談。本題に入る前の世間話だ。


「で・・・まあ、冗談はここまでにしておいて・・・正直な所、全体的に落ち着きが欲しい所かな。全体的に、敵をしっかりと把握する観察眼が足りてない。それに、敵のペースに乗せられる所もどうにかするべきだね・・・そこの所、彼らをアベレージとすると、やっぱり皆に言える事じゃないかな?」

「はぁ・・・厄介だよな、そこら辺・・・自由に動き回れる様になれば、もう少し緊張感も出るとは思うんだが・・・」


 カイトは現状を考えて、ため息を吐いた。実は現在、冒険部はそこまで積極的にマクダウェル領の外に出てはいない。と言うより、なるべく出ないようにしている。

 理由は、当然だがある。それは今の自分達の立場を考えての事だった。敢えて言うまでもない事かもしれないが、冒険部、ひいては天桜学園の面々の身の安全というのは皇国からしか担保されていない。

 そしてそれにしても暫定的な物で、正式な決定は大陸間相互会議まで持ち越しだったのである。それを考えて、カイト達はあまり外に出歩かない事にしていたのであった。皇国側になるべく好印象を持ってもらおう、という判断だった。あまり目の届かない所で活動されて揉め事を起こされても困るのだ。


「はぁ・・・厄介な所だね。本来なら君が一言、外に出るから、と言えればそれで終わりなんだろうけども・・・」

「逆に影響力を行使してしまうわけにもいかない。オレに対する切り札足りえてしまうからな」

「痛し痒し、だねー」


 毎度毎度の事で頭の痛い話ではあるのだが、やはり何よりもネックなのは彼らがカイトとティナという存在への弱点となってしまうことだ。それを考えれば、やはり自らが表舞台に立つ事は出来ない。それはいかに皇国に存在が知られたからと言っても、当分は変わる見込みはなかった。

 まだ、大恩のある皇国や魔族領は良い。だが他国はそうではないのだ。特に新たに発見された新文明に至っては何の縁もゆかりもない。こちらの事情なぞ知った事か、というところだろう。そこらを勘案して、更には皇国を一枚岩にさせることを考えて、他の領地には出ない様にしていたのである。


「まあ、そのためにも、他国とのやり取りを果たしておかないとな」

「何かあるの?」

「ヴァルタードの弟殿下と帝王陛下から、依頼でな。それは受ける事にしておいた」

「2大大国を味方に、かー。じゃあ、とりあえずの見込みはあるねー・・・後怖いのは西のラグナ連邦、千年王国とマギーアが、と言うところだけど・・・後ろ2つが手を組む、というのも考えにくいしねー。ラグナはどうなの?」

「一応、ハイゼンベルグ家が動いている。あそことは太いパイプ持ってるからな」


 カイトが現在の勢力図を思い出しながら、ジョシュアの問い掛けに答える。結局、数ヶ月前に別れたティトスからは再度の連絡は無かった。

 いや、一応は彼というか兄の現帝王から正式な依頼書は届いていた。が、その後何か問題があった、という事は聞いていない。なので問題なく、やり取りは進められるだろう。


「まあ、後は厄介な千年王国さえ牽制できれば、後はどうとでもなる。それにしても、見込みは立てている」

「うっわ。あくどい顔」


 真横で浮かべたカイトの悪辣な笑みを見て、ジョシュアが茶化す。明らかに何かを企んでいる様な様子だった。


「あいつらのやり方は知っている。なら、せいぜいオレはそれを利用させてもらうさ。無垢なガキと思うなよ? せいぜい、踊ってくれ」


 敵が何かをしてくるのは、既定路線だ。だからこそ、カイトは悪辣な笑みを浮かべる。致し方がない事ではあるが、彼らは油断している。当たり前だ。カイトが真実勇者カイトだとは誰も思わない。

 だからこそ、そこに活路はあった。敵はわざわざ自分たちの懐にまでこちらを招いてくれているのだ。そして、こちらに対して何らかの手を講じてくる事は確実なのだ。ならば、それをネタにこちらへの支援を申し出させるだけ、だった。

 そうすれば、カイト達は晴れて自由に動ける。エネフィアに存在する大国はそれなりの数があるしウルシア大陸の国家郡についてはいまいち理解しきれていないが、大陸の規模を考えれば大国が存在していても一つぐらいだろう。であれば、他大陸の大国3つを抑えれば、それで趨勢は決められる。


「でもさ。一つ思ったんだけど・・・千年王国の大大老達って・・・カイトの事知ってない?」

「・・・あ」


 ジョシュアから指摘された事に、カイトがはっとなる。よくよく考えれば、カイトは彼らを見知っているのだ。そしてそれは裏返せば、敵もこちらを見知っている事に他ならない。そこに、今の今まで気付いていなかった。


「そこに気付くとは・・・やはり天才か」

「いや、おふざけしてる場合?」

「じょーだんじょーだん。考えてるって・・・まあ、問題は無いだろ。と言うか、小僧一人なんぞ覚えてるとは思えん・・・違うか?」

「あー・・・そう言われれば、そんな気もするね」


 カイトから言われて、ジョシュアも同じく忘れていた事を思い出す。確かにお互いに見知っている。が、こちらは嫌悪感等から覚えていても、向こうが覚えているとは思えなかったのである。


「所詮当時のオレは20代前後の若造・・・しかも、オレは大半がウィルの影に隠れていた。特に千年王国の大大老共はオレが何処の馬の骨とも知らん輩だ、と知ると予定ぶっちで大戦終結後数回しか会ってないからな。確実に、覚えてないな」

「勇者カイトを無碍にして覚えてない、ってのもある種すごいけどねー。あー・・・確かに言われればその程度の小僧、程度の認識しか無いかも・・・」

「数千年単位が寿命でしかもあんな性格の奴らが、たかだか十数歳の若造、しかもぽっとでの奴を覚えてる方がすごいな。その場合は、素直にオレはオレを賞賛しよう。実際、ジジイどもは千年王国の前から生きてて、この世界でティア達除けば政治家達の中じゃあ一番長生き、と言われているからな。英雄なぞそれこそ万単位でゴマンと見てるんだろうさ。変装もしてるんだ。バレる事は無いだろうな」


 カイトが笑いながら、断言する。敵は油断している上、その性格と経験から、こちらを覚えている事も無いだろう。そう考えれば、面識があろうとなかろうと問題は無かった。一安心だろう。そうして、とりあえずこの話題に一区切りつけると、再度二人は雑談を始める。


「あ・・・そういえば聞いた話だけど、今の千年王国の女王様。結構可愛いらしいよ? 儚げな可愛い系で守ってあげたくなる様なタイプなんだって」

「だからどうしたっつーんだ・・・と言うか、顔、見れるのか? あそこ顔隠すだろ?」

「噂だよ、噂。でも、やる気出ない?」


 やる気出るかどうか、と言うことを問われたカイトは、ため息を吐いた。そんな下心で行くわけではないのだ。これは天桜学園の命運が懸かった仕事だった。


「オレは仕事だよ・・・やる気云々かんけーねー」

「あ、今度はそう言う路線で女王様落とすの?」

「お前・・・人の修行の邪魔しようとしてるだろ・・・」


 度々なんだかんだと理由を付けて精神鍛錬を邪魔しようとするジョシュアに対して、カイトが呆れ返る。どう考えても邪魔しようとしか思えなかった。そしてそれを、彼も認める。


「当たり前じゃん。だってそうじゃないと、君の場合修行になんないでしょ?」

「じゃあ、無視すっぞ」

「それはそれでやだなー」


 カイトからの返答を聞いて、ジョシュアがつまらなそうな顔をする。当たり前だが、カイトだ。普通にジョシュアに何を言われようとも、集中することなぞ容易い。

 やろうと思えば目の前で暦が一人情事に耽ろうとも、平静を保つ事は出来る。やりたいかどうかは別として、だが。と、いうことで、ジョシュアはカイトの修行の手伝いという名の邪魔を開始する。


「あ・・・ほら、見て見て。暦ちゃん。すっごい状況。うっわーすっごい。濡れ透け。えっろ。あー、彼女まだ殆ど生えてないんだー・・・年齢にしちゃちょっと発育が・・・」

「横は向かんからな」


 嘘か本当かわからない事を言いたい放題言いまくるジョシュアに対して、カイトはそのままの姿勢で切って捨てる。興味がないと言えば嘘になるが、それを抑えるのが、この訓練だ。横を向いて精神の安定に支障をきたせば、元も子もない。

 が、だからといってここでやめてもカイトの訓練にはならない。いや、そもそも無駄なのだが、ジョシュアはやめるつもりは無いらしい。


「うっわー。ねえ、見てよ。あのつんっ、ってした乳首とか、すごいかわいいよ?」

「暦に聞かれたら泣かれるぞ・・・」


 カイトもジョシュアも見ないでも気配で簡単に彼女が体を強張らせていた事ぐらい理解していた。それ故、カイトとしては気付かれる前にやめてほしい所だった。

 まあ、一応気を遣って聞こえない様な結界を使っているが、明日以降もやるようなら、何時か大ポカをしでかす前に止めた方が良いだろう。


「えー・・・でもさ、カイト大昔に見えるよりも濡れ透けの方がエロいんだよ、って力説してなかった?」

「ぐっ・・・」

「あはは。ほら、失敗」


 大昔にした男同士の馬鹿話に言及されて思わずたたらを踏みそうになったカイトに、ジョシュアが告げる。やはりカイトもまだまだ、という事だった。まあ、それを理解しているからこそ、このように滝行等で精神鍛錬を行っているのだ。


「ちっ・・・やり直しだ」


 気が乱れたのを感じて、カイトは再び気を取り直して滝行を開始する。そうして、カイトと暦は二人並んで、少しの間滝行を行う事になるのだった。




 滝行は当たり前だが、身体を冷やす。なので一度の訓練につき、行うのは30分と区切りを付けていた。魔力や魔術で体調を整えられるからといっても、訓練で身体を壊しても元も子もないからだ。


「3! 2! 1! はい、しゅーりょー! 暦ー! 外出てねー!」

「は、はい!」


 流石に夏とは言え結構な勢いの滝に打たれるのは寒かったらしい。暦は僅かに歯を鳴らしながら、大急ぎで滝を出る。


「はい、出ました! 先輩も出ても大丈夫です!」

「おー・・・あー、寒かっ・・・」


 暦の返答を聞いてカイトが滝から出て、そこで硬直する。理由は簡単だ。目の前に暦が居たからだ。と、そうして硬直したカイトに対して、暦が頭を下げた。


「お付き合い頂き、ありがとうございました!」

「・・・いや、馬鹿! お礼は良いからさっさとシャワー室行って来い! と言うか入ったから声掛けたかと思ったじゃねーか!」

「へ?・・・きゃー!」


 カイトの指摘を受けて、暦が視線を下に移す。そうして、自らの惨状というか状況に気づいて、真っ赤になって悲鳴を上げる。

 言うまでもないが、今の彼女は少し前にジョシュアが言った様に完全に濡れ透けだ。濡れた行衣(ぎょうえ)は彼女の身体に張り付いてその身体のラインを完全に浮かび上がらせ、更には白色だった事もあって少しだがその下の肌が透けて見えていた。

 運がいいのか悪いのか、乳首の色まではっきりとわかる様な状況だったのである。あられもない姿よりも遥かに扇情的だった。そうして、思わず身を屈めて悲鳴を上げた暦に対して、カイトが即座の行動に移る。


「ちっ!」

『きゃー・・・え?』

「シャワー室の中だ! さっさとシャワー浴びろ!」

『あ、はい!』


 カイトから状況の説明が為されて、暦もようやくカイトが気を利かせて転移術を使ってくれたのだ、と把握する。ここら即座に行動に移れるかどうかが、やはり精神鍛錬の賜物、なのだろう。


「はぁ・・・何のためにわざわざ見ない様にしてやってたんだか・・・」


 どうやら真っ赤になってまだ気が動転しているらしくドタバタと慌てふためく暦の出す大音を聞きながら、カイトがため息を吐いた。そうして、彼もまた、自らのシャワー室の中に入って身体を温める事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第649話『滝行』

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