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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第37章 妖精達のお手伝い編

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第644話 森の中で

 『迷いの森』で訓練を開始してから、数日。結論から言えば、この場での訓練の成果は一切現れていなかった。


「はぁ・・・やっぱりあんまり向いてないね、彼ら」

「んー・・・結局、少年少女だから、と済ませたくはないなぁ・・・」


 今日も今日とて振り回されている剣道部一同を眼下に、今日も今日とてカイトとジョシュアは木々の上でその監督を行っていた。


「何が問題なのか、って一番の問題は馬鹿正直に僕らに対処しようとしている、という所なんだよね。君が悪い気もしないでもないけどね」

「それを言われると痛い所はあるなぁ・・・」


 ジョシュアからの指摘に、カイトが頭を掻いた。確かにその向きは今の彼らを見ていて、カイトも気付いていた。とは言え、それは仕方がない面もあった。


「結局・・・ほいっと」

「うきゃ!?」

「バレてるって・・・オレが平然と捕まえちまうのが、問題なんだよな」


 途中で忍び寄る妖精達をひっ捕まえながら、カイトが頬杖をついて明言する。ここが、最大の問題だった。カイトの様に平然と捕らえられているのを見てしまった所為で、彼らはこれを解法だ、と考えてしまっている感があったのだ。

 とは言え、カイトも完全に癖だし、ここであえて取らせても妖精達を調子付かせる。それはそれでまた面倒なので、やはり出来るわけではない。というわけで、何時も通り、が解法として最適だった。


「頭固いなー」

「人が良い、と言ってやってくれ」


 ジョシュアの苦言にカイトは苦笑する。これは単なる取り方の差だ。


「かと言って、簡単に盗まれると、今度はお前ら調子に乗るからな・・・きゅぴーん!」

「うっ!」

「一匹ゲット。それも大物だな」

「うぅ・・・」


 カイトは今度は上から強襲しようとした妖精――と言うかユリィ――をキャッチで捕獲すると、そのまま肩の上に座らせる。馴染みとの会話が終わってこちらにやって来たのだろう。


「やあ、おませさん。元気?」

「うんうん」


 ジョシュアの言葉に、ユリィが頷きながらにやりとほくそ笑む。彼女は囮だった。が、それがわからないカイトでも無かった。というわけで、そのままの顔で平然と告げる。


「・・・あ、そうだ。オレの袋。転移術で入ったら出られない様に加工してるから。転移術で入ろうとか考えるなよ?」

「へ!?」

『うげっ!? あ、ほんとに出られない!? 出してえぇぇ!』


 カイトの腰にぶら下げた木の実を入れる小袋の中に閉じ込められた妖精が、ジタバタと暴れ回る。ユリィを囮に転移術で木の実を盗みに入ったわけなのだが、逆に囚えられた、というわけであった。声からすると女の子だろう。


「ぎゅっ、と」

『出して出して出してー! 真っ暗な所嫌いー! うきゃあ!? なんかぐしゃって!? 真っ赤な汁がー!? 目が!? 目があぁぁ!?』


 カイトが小袋の口をキツく縛ってやると、中の妖精が抗議の声を上げる。ちなみに、真っ暗な所が嫌い、と言っていたが、嘘だ。別にいたずらに使えるならなんでも問題がない。そうして、3分ほど閉じ込めた所で、中の妖精を出してやる。


「・・・反省したか?」

「うん・・・」

「嘘言えや。その口の周りはなんだ」

「あ・・・てへ」


 少々服を真っ赤に汚した妖精の少女が、カイトの言葉に口元を拭って可愛らしく舌を出す。中に入っていたのは愛らしい少女の妖精だった。

 ウェーブの掛かった金色の髪、花の顔に玉の肌、半透明の虹色の羽根。まさに妖精の代名詞と言うばかりの美少女だった。が、彼女は単なる美少女妖精ではなかった。


「レミィ様までわざわざなんの御用だ?」

「遊びに来たよ」


 レミィ様。彼女こそが妖精達の女王にして、エネフィアの妖精族全体においてはユリィに次ぐ実力者だった。同時に、マクダウェル領にある妖精族の族長でもあった。

 妖精の生まれる場所である『ミストレア大滝』の守護者にも近かった。なお、本名はレミリアだ。なので愛称がレミィなのである。


「遊びに、ねぇ・・・まあ、どうでも良いけどな」

「服、まだ使ってくれてるんだ」

「まあ、これが一番オレの肌に合うからな」

「作者として、仕立て人冥利に尽きるね」


 それと同時に、カイトの服の中――黒服の方――の作者でもあった。なのでそれを今でも使ってくれているカイトに、笑顔で嬉しそうに頷く。


「はぁ・・・妖精族の重役達が揃いもそろってこっちに来るか」

「そりゃ、里の大恩人が来れば、顔も見せに来るよ。皆ね」


 レミィが笑いながら、カイトの左肩に腰掛ける。実は先ほどからカイトにいたずらに来ていたのは大半が、里の重役達だった。挨拶代わりにいたずらを、というのは妖精達の性質なのだろう。

 笑って済まされる間柄だし妖精達はそういうもの、と承知しているので問題はない。そういうもの、という相手に怒るのは、逆に度量が無い、と嘲られる事だ。そうして、暫くの間一同は呑気に相変わらずな剣道部一同を観察する。


「うーん・・・もう少し周囲に気を遣える様になると、良いね」

「結局、そこだね。なんの為に僕らがワイワイやっているのか、というのに気付いてくれればねー」


 レミィとジョシュアの二人が、ため息を吐いて感想を告げる。結局、そこにたどり着く。ワイワイとしているのは、自らでは無く他者の気配を隠す為の偽装工作だったのである。

 今の剣道部の一同もそれに力を貸している様な物だった。と、そうして再び観察していると、一人、別行動を取り始めた少女が居た事に気付いた。暦である。


「お・・・?」

「何か考えてる?」


 暦は一度騒々しい部員達から距離を取ると、居合いの構えを取る。別に居合い斬りで妖精達を切って捨てるというわけではない。単なる彼女なりの集中方法、というだけだ。これが彼女にとってのルーティン、というやつだろう。


「・・・あ」


 一同の見守る前で、暦は何かに気付いたらしい。小さく、声を零す。そして彼女は更に意識を集中させ始める。そうして展開したのは、ある一定程度の距離の声を遮断する簡易な魔術だった。


「・・・見つけた」

「あ・・・あっちゃー。見つかっちゃった」


 周囲の音を最大限消して、更には意識を凝らして。それでようやく、暦は何か手がかりの様な物を掴んだらしい。目の前に密かに近づいていた妖精の姿をようやく視認する。


「これで、暦ちゃんは一度目ねー。じゃあ、もう一度」

「あ、はい!」


 見つかった事に少し不満気だった妖精の言葉に、暦はうなずいてお辞儀で応じる。そうして何度か繰り返して、暦は一つの答えにたどり着いた。


「もしかして・・・」

「どうしたの?」

「えっと、あの・・・皆さんが、私の担当、なんですか?」

「そうだよー」


 数体の妖精達が、暦の言葉を認める。今まではずっと集団でやっていたが故に気付けなかったのだが、実は今回の妖精達の襲撃はひとりひとりに担当が決まっていた。

 しかも、その担当以外には気配がわかりにくくする様な隠形の魔術を張り巡らせて、襲撃していたのである。遊んでいる様に見えて、実はしっかり訓練になる事をしてくれていたのである。伊達に平均年齢が三桁、というわけではなかった。


「僕ら5人が、君の担当」

「5人? 一人二人三人四人・・・」

「5人だよ」

「きゃあ!?」


 自分のスカートの中から顔を覗かせた妖精に、暦がびっくりして跳ね上がる。そうして暦は大慌てに妖精をスカートから追い出す。スカートの中に入られていたなんて全く気付かなかったあたり、少しは気付ける様になったとはいえ、やはりまだまだだろう。


「そ、そんな所入っちゃダメです! エッチなのはいけないと思います!」

「えー・・・可愛い黒のレースだったから見られても大丈夫だよ」

「きゃー! きゃー! わー!」


 暦がスカートに潜り込んでいた妖精の言葉に真っ赤になって口を止めようとする。と、まあ、そんな女の子が妖精達のおもちゃにならないはずはない。というわけで、妖精達が口々に茶化しに入った。


「あ、何? 勝負下着?」

「藤堂って人も悪くないし、当然カイトもイケメンだもんねー。他にもちらほらと・・・」

「しょうが無いしょうが無い」

「ち、違います! 合宿だから良いの持って来ただけです! 女の子は色々と気を使うんです!」


 きゃいのきゃいのと妖精たちに乗せられる暦は、相変わらず顔は真っ赤だ。そんな光景は、当然カイト達にも見られていた。


「何やっとるんだ・・・」

「まあ、一歩リード、で良いと思うんだけど・・・妖精だからねー。どうしてもなあなあな訓練になっちゃうのは諦めてよ」


 ジョシュアは自分の配下の妖精達に少々苦笑を浮かべながら、未だに訓練に戻る気配の無い状況に謝罪を入れる。と、そんな横では、ユリィとレミィが呑気に話し合っていた。


「うーん・・・暦の見た目だとまだ黒はちょっと早いんじゃないかなー。どんな物かはわかんないけど」

「そうねー。あの子ぐらいだと白が良いわよねー。今度白レース送ってあげよっかなー。あ、でもあれぐらいの子に黒のレースとか逆に背徳的じゃん?」

「あ、それはそれでアリかも? 逆にもっとシンプルなのとかも良さそう」

「やめてやってくれ・・・と言うか、他人の下着の趣味に口出ししてやんなよ・・・」


 暦とてこんな所で自分の下着――しかもそれなりには気合の入っている物――について聞かれているとは露とも思っていないだろう。なので、カイトが少々呆れ気味に制止を掛ける。が、そんな物が通用する相手では無かった。


「んー・・・でもユリィだとカイトの趣味になんない?」

「あー・・・私白とかピンクもそれなりに使うけど、大抵カイトの趣味に合わせてるもんねー」

「・・・おい。それをオレの横で言ってどうする。いや、知ってるけどさ。と言うかだからいい加減にもう忘れてやれ」


 相変わらず話をやめないレミィとユリィの二人に、カイトが苦笑する。ちなみに、そういうわけなのでユリィの下着は白と黒が多かったりする。理由はもちろん、カイトの趣味がその二色だからだ。


「えー」

「えー」

「えー」

「三人揃って不満気にすな」


 三人同時に口を尖らせて不満気な様子を見せるユリィ達に、カイトがため息を吐いた。これでも、彼女らは里の重役達だ。真面目さの欠片も無かった。が、これでも上手く回るのが、妖精達の里だ。基本的にはいい加減なのである。


「はぁ・・・まあ、良いけどさ。とりあえず、あれに気付けたのなら、少しは早くなるかな」

「と言うかさ。意外でもなんでもないけど、ひどいよね、カイト」

「なんのことやら」


 カイトは笑うユリィの指摘に対して、そう嘯く。当たり前だが、言わんとする所は理解出来ていた。


「だって、全員でやっていい、って言っておきながら、全員でやるには今の力量じゃあ足りないもん」

「くくく・・・」


 ユリィの明言に、カイトが少し悪辣に笑う。まさに、その通りだった。彼らは少しでも何かが掴めるかも、と思って揃ってやっているわけなのだが、それがそもそものミスだったのだ。

 更には無駄に集まってしまっている所為で妖精達も揃ってしまっていて、どれが自分の担当なのかが理解出来なくなってしまっていた。しかも増えた所為で折角の静かな森なのに気配に気付く事が難しくなる。全てにおいて悪手を取っていた、というわけだった。

 何でもかんでも数を集めれば良い、というわけではないのだ。時には数が、仲間の存在が不利になる事もある。それを学ばせる事も、ここでの試練の重要な事だった。


「はてさて・・・暦が気づいたのは、運が良かったというよりも、オレの教えをきちんと実践出来ていた、という所か。まず自分を狙う敵の状況の確認。仲間を狙う敵はその次だ。それがきちんとできていれば、ここに気付ける」

「あの子、本当に素直で努力家だよねー。何処かの誰かと違って」

「うっせ」


 ユリィの茶化すような一言に、カイトが少しだけ頬を染める。カイトも自分で素直では無い、と思っている様子だった。


「とは言え・・・まあ、少し時間が掛かった、というのは否めんな。まず確認すべきは敵。次はその数。最後に敵がどういう風に襲ってくるか。少々、敵の観察が足りていないな」

「折角全員毎日おんなじ服を着てくれてるのにね」

「服まで逐一変えると難易度が桁違いに上がっちまう。流石にそれはまだ早い・・・まだ、暗殺者のような対人戦の想定はしていない」


 ジョシュアの言葉に、カイトが苦笑する。これでもまだまだ手加減しているのであった。


「一人気付けば、後はそこから情報が広がるんじゃない?」

「んー・・・」


 レミィの言葉に、カイトが少しの思慮を見せる。確かに、それは考えられる。と言うより、暦の性格を考えれば、それがあり得ない方が可怪しいだろう。ということで、カイトは行動に移る事にした。

 取り出したのは、マグロを釣る為に使う大きな釣り竿だ。ちなみに針は無く、代わりに魔力で動くマジックハンドのような物が取り付けられていた。大きさは人一人ぐらいなら引っつかめるぐらい、だろう。


「そういやここ当分釣り行ってないなー・・・」

「さー、そう言う釣り人が今日狙うのは可愛い女の子」

「さて、今日はどんな大物が釣れるのでしょうか」

「天気は晴天、風は吹いていません・・・大物が期待出来ますね」


 ユリィとレミィの二人は何処からともなく妖精用の長机と椅子を取り出して実況と解説者っぽく変な事を言い合う。それにカイトは呆れつつも、何も言わない。暦に気づかれるからだ。

 そうして、暦の背後にマジックハンドを下ろすと、むんず、と彼女の身体をひっつかんだ。それに、ユリィとレミィが歓声を上げた。


「ヒーット!」

「しなる! 竿がしなっています!」

「ほ? きゃぁあああ!?」

「少し小ぶりだがこれは大物だー!」

「さすがは女誑し! 見事な女の子の一本釣りだー!」

「いや、確かに釣りだけども・・・あ、後、ユリィ。後で覚えてろよ」


 カツオの一本釣りよろしく暦を魔糸で釣り上げたのを見て、二人はやんややんやと囃し立てる。変な声援が混じっていた――と言うかそれしか無かった――のは、ご愛嬌だろう。

 まあ、それはさておいて。カイトに釣り上げられた暦は彼らが座する高さにまで持ち上げられる。何事かわからず悲鳴を上げた暦だが、目の前にカイトが居たのを見て、首を傾げた。


「きゃぁあああ・・・あ、あれ? 先輩?」

「訓練の第一段階終了おめでと。バラされると面倒だから、キャプチャさせてもらった」


 とりあえずカイトは訓練の第一段階の突破が出来た事に対して賞賛を送る。少々遅い感はあったが、それでもなんとか突破出来たのだ。後はここででも出来る。ネタばらしされる前に、こちらに引っ込めたわけであった。と、そんな暦の下に、レミィが潜り込んでいた。


「・・・あー。これはちょっと色っぽいなー」

「へ?」

「これ、ちょっと大人っぽいかなー、って」

「きゃあ!」


 ちょいちょい、とユリィを手招きするレミィに、暦が再度、今度は別の意味で悲鳴を上げる。当たり前だが同性とは言えスカートの下からパンツを覗かれて嬉しいと思う様な女の子はそうは居ないだろう。そして暦はその例外には入っていない。


「せ、先輩! とりあえず下ろしてください!」

「ああ・・・あれ? 動かない?」


 レミィとユリィの様子に苦笑したカイトであったが、何故か動かそうとして動かない事を悟る。誰かがまるで動きを縫い止めている様な感があったのだ。


「あ、ちょい待ち・・・ふんふん・・・あー、こういうデザインかー・・・」

「あー・・・これ、私も好きなデザインかなー」

「うぅ・・・もうお嫁に行けない・・・」


 どうやら止めていたのはレミィとユリィらしい。彼女らは暦のスカートをまくり上げると、そのまま彼女の下着をじっくりと観察していた。当然、暦はその間どうすることも出来ずに、耳まで真っ赤だった。そうして、暫くは暦の辱めは続く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。暦、災難。

 次回予告:第645話『レミィのお悩み相談』

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