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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第36章 纏まる旅路編

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第632話 破戒の魔使い

 シアが出発してから、20分後。カイトとユリィが『破戒の魔使いフォビドゥン・テイマー』の足止めを行ってから、50分が経過した頃だ。ついに、準備が整った。


「あぁあぁ。まーたしこたま集まってくれちゃってー」

「うっわ。こっち明日も自分の所で魔物討伐任務だってのに、他人の領地で魔物退治かー・・・帰りに酒飲んで帰ろ・・・いっそ、明日有給貰えねーかなー」


 目の前で更に膨れ上がった魔物の軍勢に、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の面々がため息を吐く。当初300体程の魔物の群れだったのだが、今では桁が2つほど増えていた。

 平均がランクBの魔物の群れが万単位だ。普通は周辺の貴族軍まで全軍出動した上に、冒険者に招集を掛けて対処する事態だった。

 それに対するのは、たった300人程の小規模な貴族の軍の総数と変わらない軍勢だった。相対戦力比は、約1対100。人よりも魔物が圧倒的に強いこの世界では、普通に考えれば負け戦。単なる本隊が来る為の時間稼ぎの捨て駒。そのはずだった。

 だが、誰しもに悲壮感が無かった。それどころか余裕さえあった。この程度、何度も乗り越えてきたのだ。たかだかランクBが万単位だから、と嘆いては散っていった奴らに笑われる。


「ウチの経済に貢献してくれてどーも・・・それと、ちらっ、ちらっ、ってこっち見んな。陛下には後で申請はしておいてやる」

「さっすが総大将! 陛下に持ち込みとか、サボる事に関しちゃ全力だ!」

「やれやれ・・・」

「明日からは当分魔物関連の書類を処理しなくて良さそうですね、お兄様」

「おー・・・ディナーの時間ぐらい作れそう?」

「夜お風呂一緒、ぐらいじゃないかなー」


 300人の軍勢の前。カイト達が気楽に話し合う。後ろの軍勢に纏まりは無い。種族も性別も年齢も待機方法も各種様々だ。共通点は、ただひとつ。かつてティナが見た幻影を等しく見た者だ。が、呑気な一同に対して、ティナは真面目だった。とは言え、言っている事はどこか、母親臭かった。


「結界の展開が出来次第、作戦開始じゃぞ? 先走りは厳禁じゃからな」

「あの馬鹿いねーよ。安心しとけ」

「ほっとけば勝手に出てきかねんから、言うておるんじゃ」


 言及したのは、かなり昔に天寿を全うした仲間の一人だ。大抵の場合で一番やりを誇った馬鹿だった。死んでいるので無視でも良いのだろうが、カイトの力がある。出てこようと思えば、出てこれた。

 だが、今回は今の奴らのお手並み拝見、とばかりに誰も介入するつもりはなさそうだった。と、そうして各々のやり方で逸る気持ちを抑えつけていたカイト達の前に、シアの映像が映る。


『レイシア・フランドール・エンテシアです。皆様、お初にお目にかかります』


 流石にメイド服から皇族用の軍服に着替えているシアが頭を下げる。カイトが率いているのは、全員が皇国が最大の敬意を払う英雄達だ。彼女が頭を下げるのは何らおかしな事ではなかった。


『たった今、飛空艇の配置が終了しました。号令一つで、<<相転移結界>>が展開致します』


 シアが『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』に対して、準備が終わった事を明言する。<<相転移結界>>とは、結界の一種だ。それも最上位の結界の一つに位置している物だった。

 この結界の展開に使っているのは、結界船と呼ばれる200メートル級のそれ専用の大型飛空艇10隻に、大小合わせた護衛の飛空艇総計100隻。更には結界の護衛に公爵軍1個師団と、近衛兵団が1個師団。それで行っているのは、結界内部の次元をずらす、という超高度な術式だった。

 当たり前だが、カイトやティナ、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の面々が暴れれば周囲は簡単に焦土と化す。下手をすれば焦土さえも残らない。というわけで、周囲の空間を隔離して位相をずらす事で、周囲の環境を破壊しないようにするのである。強者が全力で強敵を相手にする際の基本だった。こうすることで、ようやく満足に戦える様になるのである。


『発動のタイミングはそちらに預けます。どうか、我が国をお守りくださいますよう』


 シアが改めて頭を下げて、指揮権がカイトに預けられる。浮かび上がったのは、結界の展開を承認する為の術式だ。そうして、カイトが号令を下した。


「おっしゃ! てめぇら、久しぶりの同窓会だ! 爺になってる奴らは無理すんな! ガキこさえた奴らも無理すんな! 独り身の奴らは無理しろ!」

「まだ若いわ!」

「独身差別はんたーい!」


 とりあえずで始まったカイトの啖呵に、義勇軍の面々が文句を上げる。それに、カイトが怒鳴り返す。単に巫山戯ただけだ。そうして、続いて発せられたのは彼が彼足り得る言葉だった。


「うっせぇ! まあ、とりあえず・・・全員、久しぶりに大暴れ出来るんだ・・・覚えてるな? 暴れてぇってんなら、オレについてきやがれ! 思う存分暴れさせてやる! 死んだ後は、オレが連れていく! オレ達は死んでなお、止まらねぇ! それを忘れず、最後まで足掻け! 藻掻け! わかったな! 行くぞ、てめぇら! この程度でぶっ倒れたら、後で先に逝った奴ら全員に笑いモンにされるぞ!」

「「「おぉおおおお!」」」


 カイトの号令に合わせて、鬨の声が上がる。これを聞く為だけに、ここに集っているのだ。300年ぶりだから、と誰もがやる気に満ちあふれていた。そうして、カイトが刀を振り下ろすと同時に結界が展開されて、戦いが始まるのだった。




 戦いの開始と同時。まずは挨拶代わりとばかりに、オーアが号令を下した。


「おーっし! じゃあ、まずは、ぶっ放すかー!」

「じゃんじゃか魔力ぶっこめ! 久しぶりの集合だ! ド派手に祝おうじゃねえか!」


 鬨の声と同時に突撃するかに思われる『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』であるが、そんな事は無かった。全員、戦闘に関しては天才的だ。まるで息をするかの様に、今の自分達の最適がわかっていた。そして今の最適は待ちだった。そうして、即座に魔砲に火が入った。


「花火が上がるぞ! それと同時に突撃準備!」

「余の砲撃に巻き込まれるでないぞ! チャージは十分! 当たれば必滅でゆくからな!」


 オーア達が準備を始めたのを受けて、カイトとティナが号令を掛ける。二人共、戦闘開始とともに大威力の一撃をぶっ放すつもりだった。

 遠距離で数を減らして、後は一斉に敵陣に突入してズタズタに敵を切り裂く。それが、今回の作戦だった。敵は選り取り見取りの食べ放題だ。思う存分暴れて大丈夫だろう。


『あー! こちらオーア! こちらオーア! 準備完了、準備完了!』

「るせーよ、豆粒ドチビ! 自分の声量かんがえ、あ、ちょい待った! そのでかいハンマーマジやば、ぐおぉおぉおお!」

『3! 2! 1! ファイアー!』


 右手で巨大ハンマーを操り罵倒を飛ばした隊員にお仕置きしながら、オーアが魔砲の発射準備が整った事を告げて、カウントダウンを行う。

 そうして、それがゼロになったと同時に、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』技術班謹製と言うか趣味満載にして作り上げた魔導砲が、火を吹いた。持って来た魔導砲は、約50門。戦場では取るに足らない数だ。

 が、作り手が違えば、威力が違う。一発一発は上空で外から迫ってくる魔物の対処を行う飛空艇の主砲に匹敵していた。そして、それが50発同時に放たれると、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の全員が各々の持つ遠距離攻撃を展開した。


「伸びろ伸びろ伸びろ! <<大転化(だいてんか)>>! からの・・・<<雷震(らいしん)>>! おまけの<<焔心(えんしん)>>!」

「久しぶりにド派手に行く! <<メテオスウォーム>>!」


 カイトは構えた大剣を超巨大化させて振り下ろしの雷の一撃と炎の弾を放ち、ティナは無数の隕石を召喚する。久々に抑え無しでやれるのだ。ド派手にやらないと損、とでも考えていたらしい。


「ひゃっはー! 進め進め!」

「やっほー! 一番貰いー!」

「行くよ、ファルシオン!」


 砲撃と遠距離攻撃で切り開いた道に、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の戦士達が切り込んでいく。相対戦力比は、1対80。遠距離攻撃だけで2割程は撃破した計算だった。それに、カイトが手と首を鳴らす。


「さぁて、行ってくるか」

「ひゃっはー! 汚物は消毒じゃー!」

「うん。問題無し」

「何時もどーり」


 横のティナを見て、カイトとユリィが頷く。どうやら久しぶりに何ら遠慮なくぶっ放せるお陰で、ハイテンションになっているようだ。

 戦略級魔術を無詠唱かつ無口決でシッチャカメッチャカぶっ放すという、現代の全ての魔術師達を廃業させかねない芸当を披露していた。殲滅戦であれば、カイトよりも遥かに彼女は得意だ。この調子なら彼女だけで敵の4割は削ってくれるだろう。


「では、お兄様。こちらも」

「お姉ちゃん上行って来る」

「あいよー・・・舌噛むなよ」

「はーい」


 ティナには暴れたいだけ暴れさせる事にして、カイトは突撃を決める。悲壮感を出されるよりも、楽しまれた方が随分有り難い。そうして、カイトは<<縮地(しゅくち)>>を使い、一気に敵陣に切り込む。


「とうちゃ、ん?」

「カイト、上上!」

「やっべ!」


 いきなり頭上に舞い降りた影に、カイトは大慌てでもう一度<<縮地(しゅくち)>>で移動する。


「総大将! 下手に下に入り込むなよ!」

「わっるいわるい! まさかいきなり来るとは思わんかった!」


 地響きと轟音をバックに響くオーアの怒声に、カイトが笑いながら謝罪する。<<縮地(しゅくち)>>の悪い点は、一瞬で移動してしまう所為で味方の攻撃の範囲内に入ってしまう事がある所だ。ということで、オーアが巨大化させたスレッジ・ハンマーの真下に入ってしまったわけであった。


「で、どうして私の後ろに跨ってるわけ!?」

『重いっての! 私は男乗せる趣味は無いぞ!』

「いや、アイラが近くに居たから。ファルちゃんは相変わらずだな」


 オーアの攻撃から逃げたカイトが現れたのは、近くで馬のような生き物に跨って弓矢による砲撃を行っていた女性隊員の後ろだ。その後ろに跨って一緒にバズーカ型の魔銃で砲撃を行っていた。ちなみに、馬のような生き物、とはまさに馬のような生き物だ。馬ではない。

 幻獣と呼ばれる更に上位の種族の一種だった。一角獣(ユニコーン)天馬(ペガスス)の一種と考えれば良い。実際にその2つのハーフだ。名はファルシオン、らしい。そんな幻獣に乗って少し移動すると、カイトはその幻獣の背から飛び降りる。


「移動サンクス! 行くぜ!」

「はいは・・・って、ちょっと待って! ファルシオン! 飛んで!」

『相変わらず見境なしか!』

「ひゃっは・・・? げっ! 全員退避! 総大将から離れろー!」

「逃げろ逃げろ!」


 着地と同時に大太刀と大剣に力を込めたカイトを見て、隊員達が大声を上げる。そうして、それと同時に雷が落ちた。


「はい、準備完了!」

「カイト、いっきまーす! <<雷神招・燕らいじんしょう・つばめ>>!」


 ユリィの援護で雷を纏ったカイトは、そのまま両の刀を振りかぶる。そうして現れたのは、超高速で飛翔する雷の燕だった。それは雷の速度で飛翔すると、周囲の敵を見境無く切り裂いて、更には焦げ付かせる。


「あぶねーよ!」

「殺す気!」

「きちんと宣言はしてやっただろ! 次! <<風神招・鶴(ふうじんしょう・つる)>>!」


 戦場であるのに、騒がしい。ここまで圧倒的な敵との戦いなのに、悲壮感の無い戦場も珍しい。そして万単位のランクBの魔物の集団を相手にしているというのに、カイトが必要が無い、という部隊も珍しい。


「だから・・・ってそっちか! あー、まあ、あんた邪魔なんだから、さっさと先行け!」

「はいはい! <<炎神招・大火えんじんしょう・たいか>>!」


 カイトはふた振りの大剣を上段に構えると、思いっきり振りかぶって巨大な炎の斬撃で道を作る。


「ユリィ! 援護よろしく!」

「はいさ!」


 出来上がった道を通って、カイトは敵軍の最後方を目指していく。彼の敵は、そもそもでこんな周囲に群がるランクBやAの雑魚ではない。敵軍の中心に居るであろう『破戒の魔使いフォビドゥン・テイマー』だ。


「ととっ!」

「ほい! はい! てや!」

「ウチの総大将の邪魔してんじゃねぇよ!」

「第5中隊、援護砲撃!」

「マスターの援護に入ります。一葉達は上空からの狙撃を」

「「「了解」」」


 カイトとユリィは二人、歩を進めていく。途中で群がる敵は時には自ら切り払い、時には仲間に任せて、進んでいく。基本的に、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』とはカイトを敵総大将に進ませる為の部隊だ。彼程の戦力を雑魚にあてがう馬鹿は居ない。


「『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の運用は超強力な少数兵力による強襲が基本・・・さて・・・これで、余の準備も出来上がったぞ」


 ただ前へ前へと突き進むカイトを見ながら、ティナが杖で地面を叩く。あれだけハイになっていながら、彼女は冷静さを失っていなかった。隊員達が各所に散ったのを受けて、彼女は魔術の系統を変える事にしたのである。そうして浮かび上がったのは、500個程の少し大きめの魔法陣だった。


「ざっと500程の砲台じゃが・・・まあ、こんな雑魚共には十分じゃろ。<<天災砲ディザスター・キャノン>>!」


 ティナの号令とともに、500個の魔法陣が一斉に戦場の上空に展開する。そうして、それが光り輝いた。


「てぇ!」


 ティナの号令が再度響き渡る。そして、500の魔法陣全てから、魔力の光条が何度も放たれる。その様は、まさに破壊の雨だ。天から降り注ぐ災厄の雨と大差が無かった。

 味方への誤射の無いように一撃一撃は魔物を倒す程の火力は無いが、毎秒500発放たれるのなら、話は別だ。見る見るうちに敵数が減っていく。そんな家族に触発されて、アウラとクズハも更にやる気を出した。


「遠距離砲撃、追加」

「風よ! <<風龍・大龍巻きふうりゅう・おおたつまき>>!」


 アウラは先程からやっていた空飛ぶ魔物達に対しての砲撃を更に倍増させて、クズハは風で巨大な龍を編んで、敵陣に突撃させる。守られているだけだったかつてとは違う。今は彼女らも、英雄に相応しいだけの力を手に入れていた。


「おぉ! 今日はチビちゃんらがやる気か!」

「オチビちゃんが大きくなったなー! 二人小さなままだけど!」

「おっさんくさい事言わない! 悲しくなる!」

「こっちおっさんだ!」

「私はまだ若い!」


 二人の攻撃を見て、隊員達が笑い声を上げる。公爵家ではあれだけ強かろうと、クズハとアウラではここの平均値ぐらいしか無かった。驚く必要も無かったのである。

 集めるのに皇帝レオンハルトの許可が居るのもむべなるかな、という所だ。ここが本気で怒れば、この大陸の国家ぐらい簡単に滅ぼせるのである。と、そんな笑い声をバックに進み続けていたカイトとユリィであるが、『破戒の魔使いフォビドゥン・テイマー』まで後少し、という所でタイムリミットが訪れたようだ。


「ちょっと遅いね」

「遊びすぎたから、その他の方に力を譲って出るのに時間掛かったのかもな」


 二人の目の前で、闇が割れていく。『破戒の魔使いフォビドゥン・テイマー』を封じていた封印が解けていたのである。予定よりもかなり遅いが、戦いが起こった事で魔物達に融通する力が増えて、脱出に使う力が減っていたのかもしれなかった。そこらはわからない。


「さて・・・」

「いっちょ、ヤッたりますか!」

「あ、セリフ取られた」


 ばぁん、という轟音が鳴り響き、同時に『破戒の魔使いフォビドゥン・テイマー』が地面に舞い降りる。そうして、カイトの戦いが始まるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第633話『破戒の魔使い2』

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