表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第36章 纏まる旅路編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

645/3943

第623話 神々の使者

 操られていたらしいサシャ司祭を気絶させたカイトはユリィを連れて、部屋の外に屯していた一般の教団員達を相手して、戦っていた。結果は言うまでもなく、1分後には全滅していた。


「さーて・・・答えろ。オレはあいにく今は機嫌がすこぶるよろしくない・・・若干、手荒でも文句は言うなよ?」

「ぐっ・・・」


 左手一本で人一人を持ち上げたカイトが、とりあえず適当に引っ掴んだ偉そうな奴に問いかける。そんなカイトに、ユリィが告げた。


「カイト。それ多分何も言えないから」

「あ?・・・おっと、これは失礼」


 カイトは持ち上げる際に、首を引っ掴んで持ち上げていた。もし反撃しようものならそのままポッキリと首をへし折ってやろうという算段だったのだが、そのせいで満足に呼吸が出来ず、口を開け閉めするだけで喋れなくなってしまっていたのだ。

 と、言うわけで、カイトはそのまま、<<炎武(えんぶ)>>で手を創り出す。原理はかつての<<豪炎拳(ごうえんけん)>>と一緒だ。とは言え、焼きつくすと問題なので温度は人肌程度だ。


「さて・・・答えてもらおうか」

「誰がきさ、ぎゃぁあああ!」


 誰が貴様らに答えるか、と強がろうとした信者に対して、カイトが手を発熱させて、問答無用の意思を告げる。残念ながら、今のカイトに手心を加えるだけの配慮は無い。そうして、ジューという肉の焼ける音と共に、僅かばかりに、肉の焼ける嫌な臭いがする。


「あ・・・が・・・」

「次は喉を焼ききる。その次は・・・そうだな。失神する所まで、やってみるか。最後は・・・まあ、わかるよな?」

「わ、分かった! だからやめてくれ!」


 今はまだ、かろうじて皮膚が少し焼けただけだ。そしてその火傷にしても、カイトの魔術で癒やされている。つまり、カイトは何度も今の痛みを味合わせるだけではなく、段々とその痛みを強めよう、と平然と言っていたのである。

 情報を得ようとするのなら、傷付けるのは肉体では無い。精神をへし折るのだ。そんなカイトに、男が恐れ慄いて、大慌てで質問に答える事にする。


「さて・・・じゃあ、改めて答えてくれ。本来の儀式は何処でやる予定なんだ? 貴様らは元<<月光>>教団の信徒達とも、洗脳して連れて来た奴らとも別、なんだろう?」

「う・・・」


 言えない。男の視線が、それを物語っていた。彼の瞳には恐怖があったので、どうやらシャギ大司祭とやらの本性は随分と恐ろしい男らしい。が、それでも、ブチ切れ状態のカイトよりは、マシだろう。というわけで、カイトは彼に決断を促す為に、ゆっくりとカウントダウンを告げていく。


「5・・・4・・・」

「あぢぃいいいい! わ、分かった! 答える! だからやめてくれ!」

「よろしい」


 ゆっくりと熱を帯び始めた炎の手に、男が大慌てで白状する、と明言する。それに、カイトは炎の手の温度を落とした。


「・・・3階左奥の間に、もう一つ人質達が捕らえられている場所がある・・・そこには秘密の通路があって、そこからこの遺跡の地下にある秘密の祭壇へとたどり着ける様になっている・・・儀式はそこで、行われる」

「なっ・・・」


 男の言葉に、カイトが絶句する。現状、翔達は知らぬ間に挟撃されている様な状況だったのだ。カイトは慌てる事もなく、グライアに連絡を送る。慌てなかったのは、ユリィが告げた通りにそもそも考慮していた事だったからだ。


「グライア、聞こえるか?」

『なんだ? そろそろ余も打って出たいのだが・・・暇でならん』

「来るそうだぞ、お楽しみが」

『む?・・・ああ、何かごごご、と鳴っているな』

「頼んだ。ああ、そっちなら、存分に殺して構わんぞ」

『ようやく、余の出番か』


 グライアの楽しそうな声が響く。間一髪、注意が間に合ったらしい。とりあえず、これで何にも問題は無い。彼らが行く頃には、隠し通路から出てくる奴らはなで斬りにされている事だろう。


「良し・・・これで後はもうひとつ。こっちには?」

「・・・無い。探したが、見付からなかった。他の信徒共にも気付かれるわけにはいかなかったので、作る事も出来なかった・・・」


 カイトの問い掛けに対して、男が明言する。どうやらユリィが危惧した事は外れだったようだ。どうやら作ったのではなく、遺跡に元々備え付けられていた非常通路の様だ。そうして、語れる事の大半を語って、男が申し出る。


「頼む・・・もう喋っただろう? おろしてくれ・・・」

「ん? ああ、情報、どうも・・・っと、そういえば。もう一つ、答えてくれ」

「まだあるのか・・・なんなんだ・・・」


 これで開放される、と思った矢先の、さらなる問いかけだ。それに男は心底嫌そうな顔をする。が、幸いな事にこちらは答えても答えなくてもどうでもよい問いかけだった。ただ単に敵の情報を多く得ておこう、というだけに過ぎなかった。


「てめえら、誰呼びだそうとしてんの? あのクソ? それともその眷属?」

「・・・私は知らされていない。本当だ! 信じてくれ!」

「ふーん・・・じゃあ、良い。後は寝てろ」


 カイトはこの状況で嘘は言えないだろう、と判断すると、そのまま興味なさ気に男を投げ捨てる。そしておまけに右手に篭手をはめて、魔力で作った拳を飛ばして、気絶させた。


「あ、<<噴射碗(ロケット・パーンチ)>>って言うの忘れてた」

「オーアがうるさいね」

「今はティナもうるさいがな・・・さって・・・じゃあ、お仕置き、行って来ますか」

「うん」


 カイトの言葉に、ユリィが小型化してその肩に座る。そうして、二人は途中の敵をほとんど軽く小突くだけで倒しつつ、前進していく。そんな道中、ティナ率いる部隊と出会った。


「よう」

「なんじゃ、カイトか。久しいのう・・・それと、ふふ・・・久しうなかった猛々しき魔力よな・・・」


 圧倒的なオスの臭いとでも言うべき臭いと、陽気な様子とは裏腹に荒れ狂う魔力に、ティナが獰猛でいて、陶酔を含んだ妖艶な笑みを浮かべる。

 今はまだ静かだがあと少しで沸点超えしそうな気配を、ティナは自らが望んだ覇者であるが故に、目敏く感じたのである。


「何があったかはお主が語りとうないなら聞かぬが・・・そこまで、激怒する事か」

「ああ・・・つーことで、邪魔すんなよ。問答無用に潰す。容赦するつもりはない。出来る余裕もない」

「邪魔? しとうはないのう」


 今のカイトはとことん腹を空かされた状態の餓狼に近い。一種の天災と捉えた方が正しい。人の身で抗えるはずがない。ティナでさえ止められるかどうかは、わからなかった。


「さて・・・じゃあ、行ってくるか」

「余も見に行くだけ、見に行くとするかのう・・・コフル。ちびってはおらんな?」

「あ、ああ・・・ちびらねえのが不思議だ・・・」


 ガクガクと足を震わせながら、コフルが頷く。実はティナは平然と会話していたが、この場に撒き散らされる魔力と殺気はとんでもない濃度だ。コフル達古参の面子でようやく立っていられるレベルだった。

 カイトの荒れ狂う魔力に呼応して、ティナが自らも圧倒的な強者としての風格を醸しだしてしまったが故の現状だった。


「じゃあ、ガキがおしめが必要になる前に行くか」

「そうじゃのう」


 コフルは力なく、再び歩き始めたカイト達に手を振って送り出す。そして、そのままへたり込んで、久しく忘れていた事を思い出した。


「そうだった・・・そういや、戦闘面子はこう、だった・・・」

「これ、頼もしくはあるんですけどねー・・・」


 コフルの横。ユハラが苦笑混じりにつぶやく。これが、普通。クズハやアウラ達戦闘面子では到底辿りつけない、圧倒的な戦士としての風格。数ヶ月前の殴りこみとは桁違いの魔力と殺気。これこそが、300年前の、本来のカイト達の殺気だった。

 そしてこうなっている原因は、自らを含めた家族を穢されたが故の怒気だ。それが分かるが故に頼もしいと言えるのだが、余波だけでこれだ。


「も、もう少しだけ休んでから、行くぞ・・・」

「はーい・・・」

「あ、ああ・・・」


 へたり込んだコフル達は、一様に頷き合う。そうして、通り過ぎた先で同じような状況を作りつつも、カイト達は翔達の所へと、援護に向かうのだった。




 到着した3階奥の間の前は死屍累々、という状況だった。いや、自害した奴以外に死体は居ない。この程度の相手ならば、公爵家の面々なら手加減してもしなくても一緒という程度でしかなかった。捕らえる事なぞ容易なのだ。

 そうして辿り着いたカイト達三人をストラとステラの兄妹が出迎えた。こちらには彼らが援軍に向かってくれていたらしい。


「これは閣下」

「ん? なんだ、主か・・・どうした、そんな殺気立って」

「おーう。救助終わった?」

「はい。贄にされそうになっていた者達は、全員無事救助致しました」


 カイトの問いかけに、ストラが腰を折る。既に戦いは終わっていた様子で、今はこれから新たに見つかった道から先に進むかどうか、と相談している所だった。と言う訳で、カイトがそれに告げる。


「ああ、それならオレ行ってくるわ。ちょいと今回の一件は文句言いたいからな」

「かしこまりました。では我々は撤退の準備を進めておきます」

「おう、頼んだ」


 ストラの答えにカイトが頷くと、そのまま歩き始める。戦う前から撤退の用意を整えておく、と言っているあたり、何が召喚された所で、カイトの勝利を疑っていなかった。


「お主らも見に来るか?」

「あはは・・・謹んで、遠慮させて頂きます」

「邪魔になるだけの護衛は、護衛足り得ん。遠慮しておこう」


 去り際のティナに問われて、ストラが笑顔で首を振る。カイトがこういう状況で笑っている時ほどやばいのだ、と言うのを、彼ら二人は経験からよく知っていた。

 下手に義務感等でカイトの護衛を買って出て気絶した回数は両手の指では足りなかった。流石にここらになると、もう自分達が行った所で帰りの手間を増やすだけだ、とはっきりと理解していたのである。そうして、カイト達は人質の救助を終えた翔達に取り敢えず無事かどうかを問いかける事にする。


「お疲れ・・・こう言う事もあるから、気を付けておけ」

「おーう・・・マジ焦った・・・グライアさん居なかったら全滅してたな・・・」


 どうやらまさかの後ろからの攻撃には翔も非常に焦ったらしい。彼を含めて、全員へたり込んで休憩していた。その一方、そのグライアは予想されていた事なので平然と新たに出来た隠し通路を覗き込んでいた。


「行くのか?」

「ああ。文句は言わないとな」

「今の貴様の殺気を見れば、余にはとても文句で済むとは思えんがな」


 グライアは平然と苦笑気味に告げる。気付かないのは翔達やこの場の人質達ぐらいだ。だが、それも致し方がない。なにせあまりに濃すぎる殺気は人体の防衛反応として、人の心理として遮断してしまうのだ。

 つまり、あまりに弱いが故に翔達は平然としていられたのである。気付けば危険、と防衛本能が判断していたのである。


「まあ、文句で済ませられれば、済ませてやりたいがな・・・残念ながら、ご遠慮頂いたのでな。思う存分、やらせてもらうさ」

「ご遠慮も何も、聞いていないのだろうがな」

「さあ? そもそも神使が居ると分かった時点で手を引けば、何も言わねえさ」


 グライアの言葉に、カイトが笑う。そもそも神使とは、神に認められた者、もしくはあまり人の世に関われない神の代行者に等しい存在だ。

 それを敵に回すと言う事はすなわち、神の意向に背いているに等しい。それを前に引かない時点で、カイトにとっては何ら遠慮する事のない敵だった。


「で、来るか?」

「いや? 貴様が行くのに、余まで行く必要は無い。せいぜい、大暴れしてこい」

「では、遠慮無く」


 カイトはグライアに少し横にどいてもらって、隠し通路の先にある階段を下っていく。そうして、今まで発見もされていなかった地下室へと、辿り着いた。


「こんな所があったなんてねー」

「未踏破領域、ねえ・・・どうやって、知ったんだか」

「<<月光>>教団じゃあないねー。あそこは毎年きちんと団員の名簿とか管理してる構造物、財産とか報告してるし、税金もきっちり納めてくれてるらしいし」

「って事は、やっぱりここで儀式の真っ最中の奴らか・・・はい、じゃあ、せーの」

「おっじゃましまーす!」


 どごん、とカイトが扉を強引に蹴破ると同時に、ユリィが何時も通りに挨拶を行う。ちなみに、扉には地脈から送られてきた魔力を使ったかなり強力な防御が展開されていたが、かなりキレた状態のカイトから見れば紙同然だった。と言う訳で、結界も全て丸事蹴破った。


「よーう。邪魔するぜー」


 いきなりの轟音に、何らかの儀式を行っていたらしいシャギ大司祭以下彼らの配下の者達が一斉にこちらを振り向く。そうして、敵からの注目を浴びて、カイトが口を開くのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第624話『邪教崇拝者』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ