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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第36章 纏まる旅路編

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第620話 違和感

 最後の曲がり角を抜けて、清めの間の前に出たカイト一同。それと同時に、翔とグライアに念話で連絡を送る。


『開始だ・・・グライア。最悪は壁破壊して脱出しろ』

『必要が無いな』


 グライアの返事を聞くと同時に、カイトは歩き始める。そちらの方向にあるのは清めの間のみなので、扉の前の見張り達は簡単にカイト達に気付いた。どうやら見張りとして視界を確保する為に、彼女らはフードは脱いでいた。全員女性らしい。


「どうされました?」

「シャッド様より、入り口の見張り達は如何すべきか、との申し付けを受けております。サシャ司教にお取り次ぎを」

「ああ、そういえばそのご指示は聞いてなかったような・・・」


 見張り達は顔を見合わせて、すっかり忘れていた、と顔を見合わせて頷き合う。やはり忘れていたのは真実らしい。それに、カイトは微笑んで頷いた。


「何分、急な決定でしたからね。見張り達にはそのまま私が伝令するよう、シャッド様より重ねて言い遣っております。それと、できれば儀式が始まる前に次なる栄誉ある旅路へと入られる者達のご尊顔を拝見したいのですが・・・」


 ここに来るまでの道中で、今日の儀式開始が大司祭のトップダウンによって、いきなり決定したという情報をカイトは入手していた。

 それと共に、カイトは自らの知りうる知識を使ってあくまでも自分も信者だ、と印象付けつつ、人質達との会合を得ようと試みる。それに、見張りの一人が非常に満足気に頷いた。


「そうか。殊勝な心がけだ・・・分かった。次なる栄誉ある者達へのお目通りについても、サシャ司祭に取り次ごう」

「ありがとうございます」


 見張りの内一人が、カイトの申し出を受けて部屋の中に入っていく。どうやら部屋の先に更に部屋がある構造らしい。どうあがいてもサシャなる司教の居る部屋を通らないと、清めの間には行けない構造ようだ。と、そうして見張りの一人が入ると同時に、別の見張りがため息を吐いた。


「はぁ・・・シャギ司祭も、急な決定をする・・・これだから、あの司祭は・・・サシャ様も何を考えてらっしゃるのか・・・そもそも神聖な教団の紋様を変えるなぞ、何を考えているのやら・・・」

「ええ、まったく・・・同じく神への信徒ではある事はあるのですけどね・・・なにゆえ、大司祭を彼に譲り渡したのか・・・」


 どうやら、彼女らはこの後ろの部屋に居るサシャなる人物を信望していて、大司祭――彼女らの言だと、シャギというらしい――は信頼されていないらしい。信徒と言えども女だからなのか、一度口を突いて出てくると、止めどなく愚痴が流れ出てきた。

 と、どうやらカイトの事を同じく熱心な信者だと思っているらしい見張りの一人が、カイトに意見を求めてきた。


「貴方は、どう思われますか?」

「・・・そう、ですね・・・私ではサシャ様のご聖断を理解出来ませんが・・・サシャ様も何かお考えがあるのでしょう」


 カイトは内心で少しだけ訝しみながら、その微妙な間を敢えて考慮した為だ、と演出する。訝しんだのは、元々この集団が別々の2つが合流した物だった、という情報だ。

 彼女らからの言葉を統合して判断すれば、どうやら元々はサシャという司祭が別の組織の高位の神官だったようだ。なのに、側近達にも何も知らせずに勝手に譲っていたのである。


「どうなのでしょうね・・・確かに信徒は増え、神への理解も遥かに深まりました。そこは、彼のお力があればこそ、でしょう。彼の信心は疑うべきでは無いでしょう」

「それはそうですが・・・5年前に彼らがしたという儀式が失敗し、我々に助力を求めてきた時、断るべきだったのかもしれないと私は・・・」

「あまり、サシャ様のご判断を疑うものではありませんよ」

「・・・そうですね。思えば、私も賛同したのです。言うべきではありませんでしたね。ありがとうございます」


 カイトの制止に、苦言を呈しそうになった見張りが腰を折ってお礼を言う。どうやら彼女は大司祭への疑念が拭えないらしい。不満を口にする。

 だが、それはトップの交代を決断したサシャと今のトップへの不審と取られかねなかった為、それに気付いて、彼女も礼を言ったのである。そして、カイトは密かにクズハに連絡を入れる。


『クズハ。聞こえるな?』

『はい』

『陛下に奏上して、5年前に何か儀式が失敗した、という情報が入ってないか精査してもらえ。少なくとも、マクダウェル領では無いはずだろう? あと、サシャという人物が率いている教団があったはずだ。こっちはアングラじゃないかもしれん。そこの情報も頼む』

『ええ・・・かしこまりました。サシャですね。即座に神殿都市へと情報提供を要請します・・・どうお考えですか?』


 カイトの言葉から、クズハもカイトと同じ考えに至る。それは彼女らが踊らされているだけの可能性だ。いや、もしかしたら、それより悪いかもしれない。


『可怪しいな、これは。この匂い・・・あの嫌な奴の匂いがする・・・真の意味での悪神の匂いが、な・・・』

『悪神・・・あれ、ですか? 神話の戦いでシャムロック殿の尽力で完全に封印されているのでは?』

『解ける、のかもな・・・あれから、数千年。封印が弱まっている可能性は十二分にあり得る。即時撤退が出来る様にはしておかせてくれ。もしかしたら、オレ達は考え違いしてるかもしれん』

『わかりました。即応体制はそのまま続行させます。合わせて結界の展開が可能な飛空艇の準備を整えておきます』

『頼んだ』


 カイトの指示を受けて、クズハが即座に調査に入る。ここに来て、色々な情報が一気に入手出来た。やはり幹部に近いほど、重要な情報を持ち合わせているらしい。

 おそらく、この場の彼女達は見張りであると同時に、別々だった時代にサシャの側近だったのだろう。そうして、礼を言った見張りがため息混じりに首を振った。


「ですが、それでも私はやはり、疑念が拭えないのです・・・何故、こんな人さらいじみた事を、と」

「それは・・・」


 どうやらこの点だけは、全員が共通して持つ疑問だったらしい。見張り達全員が顔をしかめる。そんな見張り達の様子に、カイトは一つの確信を得て苦々しさが滲む。

 そして同時に、カイトは内心で嫌な予感を深める。それは、この教団の紋章と関連して湧いて出た疑念だった。そしてそれはどうやら、ユリィも同じ嫌な予感を得たらしい。


『ねえ、カイト・・・これって・・・』

『やっぱり、かもな・・・少なくとも、末端は確実と言って良いだろうな。ちっ・・・殺すんじゃなかった』

『クズハに連絡入れとくよ。尋問もまずはそこの調査からにさせる』

『ああ・・・首謀者が誰だかは知らねぇが・・・事と次第によっちゃあ、地獄よりも酷い地獄を見せてやるよ・・・』


 あの紋章は、月の女神の紋様と、別の紋様を組み合わせた紋様だった。どれだけ変わろうとも自らの大切な者を表す紋様は理解出来たが、その片方だけは、どうにも理解出来なかったのだ。

 わからなくもわかることからカイトとユリィはこの場を月の女神を呼び出す為の物だ、と思っていたが、先程から感じている嫌な気配と合わせると、一部の幹部達は信者達に隠れて別の神を呼び出そうとしている可能性が出てきていたのである。

 いや、それどころかそちらの方が高い。この肌をひりつかせる嫌な『匂い』をカイトは忘れた事がなかった。その『匂い』が漂ってきていたのである。なので、カイトは何か情報が得られるかも、と少しだけ危ない橋を渡る事にする。


「そういえば・・・この紋様は我らの神を表す紋様と、何を組み合わせた紋様なのですか?」

「そう・・・なのですか?」

「? 気付いて・・・らっしゃらないのですか? こちらは確かに月の女神様の紋様、ですが・・・こちらがどうしても、理解出来ないのです」


 驚いた様子で解説したカイトに対して、見張り達が心底感心した様な表情で自らの服に縫われている紋様を見る。そして、カイトの解説のみごとさに、思わず頷いた。


「おぉ・・・なるほど。そう言う見方があったのですね・・・」

「では、こちらは太陽神の物なのかもしれませんね・・・」

「ああ、なるほど・・・死と再生・・・大司祭殿はそう考えたのかもしれないな・・・」


 口々に自らの感想を言い合う見張り達に、カイトは内心の驚きを隠すのに必死だった。彼女らは、正真正銘何も知らない。太陽神即ちシャムロックの紋様はここにはない。それは、カイトもユリィも断言出来る。

 そして、知られていないが太陽と月を組み合わせた紋様は正式な物がきちんと存在しているのだ。シャムロックその人から聞いた。

 こんな創作とも言える紋様を、ここまで月の女神の力を見事に使える者が作るはずが無かった。知らないとも思えない。とは言え、そんなカイトに見張りの者達が頭を下げた。


「ご教授、ありがとうございます。我々もまだまだ不勉強でしたね」

「いえ、私も勉強をさせていただいただけですので・・・にしても、遅いですね」

「そういえば・・・」


 会話はそれなりに、長く続いていた。なのに、入っていった見張りに反応は無い。それに、一同が首を傾げると、それと同時に扉が開いた。


「すまない。窓から子供の竜が入り込んだらしくてな。どうやら中の女達に懐いてしまったらしくてな・・・サシャ殿と二人、外に出すのに苦労してしまった。あのぐらいの大きさなら可愛いのだがな」

「ああ、なるほど・・・お疲れ様です」


 苦笑した様子の見張りに、カイトがねぎらいの言葉を掛ける。どうやら、日向に気付かれたらしい。追い出された様だ。まあ、出された所で結界の出入りは自由なのですぐに戻ってくる。


「それで、サシャ様へのお目通りだったな。許可は下りた。入ると良い」

「ありがとうございます」


 どうやら、問題なくお目通りは叶ったらしい。それにカイトは頷いて、扉を開けて貰って、中に入る事にするのだった。




 違和感を抱いているのは、カイト達だけでは無かった。それは、分かれた翔達も一緒、だった。彼らは翔の篭手の催眠弾で敵を一気に眠らせると、誰にも気付かれる事なく、3階の奥の部屋の扉の前へとたどり着く。


「眠らせたの、どうする?」

「・・・どうした方が良いっすかね?」

「そこらの端っこに放置しておけ。強いて殺す必要は無い」


 自らで判断しかねた翔に問われて、グライアが判断を下す。これから戦いがある事を考えれば殺した方が良い様に思えるが、殺せばそれで血の匂いがする。

 そうなると、獣人達だと勘付かれる可能性があった。となると、敵はこっちに集結しようとするだろう。バレない様に動いているのに、それは無意味だった。


「まあ、鍵掛かってるよな・・・見張り達が鍵持ってないか確かめろ」

「おう・・・」

「・・・あった。これ・・・ん? なんで幾つもあるんだ?」


 冒険部の生徒の一人が、見張りの一人のポケットから鍵束を発見して持ち上げる。それには幾つもの鍵が吊り下げられていた。そんな疑問を聞いて、とりあえずそんな場合では無い、と翔は手を差し出して鍵束を催促する。


「どうせ幾つも鍵かけてるんだろ。貸せ」

「ほらよ・・・って、どれだか分かるのか?」

「わかんねーよ・・・」


 鍵束を受け取った翔は、とりあえず総当りで鍵を試してみる事にする。そして、1分ほど試行錯誤した結果、なんとか扉を開ける事に成功した。と、それと同時に、翔を押しのけて、コラソンが強引に扉の中に身体をねじ込ませる。


「あ! おい、おっさん!」

「ナナミ!」


 本来は褒められた行動では無いが、身内の危急だ。焦っての事、だったのだろう。中に入ると同時に、大慌てで妹を探し始める。


「ナナミー! 居るかー!」

「おっさん! 声落とせ!」

「っ、悪い・・・」


 翔に口を塞がれたコラソンはようやく落ち着いて、声を落とす。幸い彼の大声は分厚い壁によって外にはほとんど漏れていなかった様だ。

 そうして、コラソンが周囲を見回して、自分の妹が居ないかを探し始める。が、居ない様子だったので、その場に居た一人に、問いかける事にした。


「なあ、少し良いか?」

「あんた達は・・・?」

「おっと・・・俺達はここの教団の奴らじゃない。助けに来た・・・と言っても、本隊は別だ。俺達はここであんたらを守る様に言われている」


 女の一人の問いかけにコラソンはフードを脱いで答える。ここまでくれば、もう後は援軍が来るまで戦うだけだ。隠す必要は無かった。そうして、コラソンは服の内側から写真の収められた魔道具を取り出して、ナナミの写真を映し出す。


「えっと・・・それで、だ。こんな女の子見なかったか? 俺の妹、なんだが・・・」

「・・・いや、見てないよ。その娘がここに連れてこられたのは?」

「今日の昼ごろ、拐われたんだ」


 コラソンの言葉に、女が首を振る。どうやら、ここでは無いらしい。


「じゃあ、ここじゃない。奴らが清めの間、って呼んでる方だと思う。連れてこられた女達はまず、あそこに入れられるんだって。で、2週間すると、こっちに連れてこられるのさ」

「ソラ達の方か・・・」


 女の言葉に、コラソンが事情を把握する。今までの事を整理すると、おそらく、大人しくなるまで逃げられない最上階で監禁して、非道はされない、と安心した所でこちらに移す様になっているのだろう。

 腕には吸魔の石で出来た手錠がはめられているので、ここに拐われてくる様な者達では、逃げようにも逃げられないだろう。が、女の言葉は、まだ、続いた。


「もし、神隠しにあってなければ、の話だけどね」

「神隠し?」

「ああ・・・数日に一人、この部屋から居なくなるんだ・・・どうしてかは、わからない。どうやっていなくなっているのかも、だ。奴らも必死で探してたんだけどね・・・この部屋の出入り口は、あそこしか無い。でもどうしてか、一人居なくなる。帰って来たやつは一人も居ない。私が聞いたのはこの部屋に来た時だから・・・清めの間の方で起きていたのかは、わからないからね」

「っ・・・」


 告げられた言葉に、コラソンが不安を感じて、顔をしかめる。そうして大急ぎにカイトに連絡を取ってもらおうとした所で、睡眠弾の効果時間をチェックしていた翔が声を上げる。どうやら色々とやっている間に、タイム・リミットが来てしまったらしい。


「おっさん! この鍵で捕まってる人達の枷を外してくれ! もし冒険者が居たら、協力してくれ! 公爵軍がもうすぐ来る! その間、この部屋に立て篭もるんだ!」

「ちっ! わかった!」


 色々と更に聞きたいのは山々だが、もうそんな時間は無さそうだった。それに、彼はソラの事を信頼している。そちらにソラが行っているのなら大丈夫だろう、と判断して、コラソンは顔をしかめつつも、声を上げる。


「冒険者は居るか! 先にそいつから鍵を開けさせてくれ!」

「おい! 冒険部全員でバリケード作るぞ! すいません! ベッド使うんで、どいてください!」


 コラソンが鍵の束を掲げて声を張り上げると同時に、翔も声を張り上げる。ベッドを使って、扉の前に即席のバリケードを作るつもりだった。そうして、幾つかの疑問を残しつつも、コラソン達は公爵軍到着までの防衛戦を開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第621話『神使』

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