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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第36章 纏まる旅路編

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第617話 密航者 再び

 明日の24時より少し前に、断章・3の未来編の差し替えを行います。ご了承ください。

 ソラ達が目を閉じる時から少しだけ、時は遡る。桜とキリエが何故誰にも悟られずにいなくなったのか、というと、それは至極簡単だった。


「<<闇の法衣(シャドウ・ローブ)>>・・・全員、準備は良いな?」


 目深く漆黒のローブを纏った人物が、仲間達に声を掛ける。仲間の数はおよそ10人。服装は全員同じなので、誰もが男なのか女なのか、それどころか顔立ちも判別不能だ。

 とは言え、一つだけ分かる事があるとすれば、これだけ奇妙な集団だというのに、彼らが誰にも気付かれていないという事だ。


「では、行くぞ・・・」


 ふっ、と漆黒のローブを纏った人物が足音もなく足を踏み出せば、それに続いて、他の面々も歩き始める。目標は、キリエと桜だ。

 大司祭からの命令で、儀式を邪魔したキリエと、異世界の美少女である桜――かつての会見の折りに桜の事はかなり知られていた――は美の女神でもある月の女神の生け贄に最適だ、と判断されたのである。


「・・・撃て」

「はい」


 密かに桜とキリエに近づいた集団は、指揮官役らしい人物の言葉を受けて、鏃に睡眠効果のある魔石を練り込んだ吹き矢を使って、二人を眠らせる。

 後は、それをフードの集団が回収して縛り上げれば、終わりだった。このローブは、カイトが使う<<御身は闇に溶けよ(漆黒の法衣)>>のデッドコピーだ。力こそ弱いが、この場の面々に悟らせないぐらいの力は、存在していた。


「良し・・・では、撤収だ」


 安らかに眠る桜とキリエを同じ刻印の刻まれた袋の中に入れると、足音一つ立てずに、その場を後にする。気付いた者は誰もいない。完全な誘拐事件。そのはず、だった。


「?」

「どうしたの?」


 首を傾げた日向に対して、伊勢が問いかける。二人は今、のんびりと宿屋の一室でくつろいでいたのだが、そんな時に日向が急に眉をひそめたのだ。


「・・・桜が拐われてる」

「え? 何処?」


 意識を集中しても見付けられない伊勢に対して、日向には漆黒のローブの集団が見えていた。これは誰もが――カイトとユリィでさえ――予想外だった事だが、日向には月の女神の力は効かなかったのだ。

 ユリィと同じくシャルと友誼を交わしていたが故に、そして彼女からペットとして愛でられていたが故に、その効力から除外されていたのである。


『ごしゅじんさま・・・桜が拐われてる』

『ああ、気付いて・・・待て。お前、見えているのか?』

『うん』

『なっ・・・いや、そうか・・・お前、シャルに懐いてたもんな・・・密かに追えるか?』

『ん』


 カイトの求めを正確に理解して、日向は集団の後ろを密かに尾行し始める事にする。流石にそのままの美少女の姿ではバレるので、仔竜の姿に変わると、伊勢に問い掛けた。


『伊勢・・・一緒に来る?』

「ごしゅじんさまの命令?」

『ん』

『わかった』


 カイトの命令。そうであるのなら、伊勢に否やは無い。彼女から見れば、カイトは群れの長だ。狼であっても同時に忠犬でもある彼女にとって、それは絶対だったのである。

 獣王と言われて畏怖されようとも、彼女は群れの長を自負したつもりはない。群れの長に守護を任された、程度にしか考えていなかったのだ。そうして、二人はカイトの命令に従って、漆黒のローブの集団を密かに尾行し始める。だがしばらく尾行すると、伊勢だけが不可視の壁に衝突した。


『いたっ!?』

『・・・どしたの?』


 いきなり鼻の頭をぶつけてさすり始めた伊勢に、日向が首を傾げる。彼女はスルーしていたのだ。


『・・・見えない壁が・・・』

『何も無いよ?』


 てしてしと叩いている伊勢に対して、日向は何も無いかの如くに、それをスルーする。


『・・・入れない?』

『みたい』

『ん。じゃあ、伊勢はそこでごしゅじんさま待ってて。私はこのまま行って、桜の安全を確保してくる』

『お願いします』


 どうやら伊勢は入れない、と判断した日向は、ここからは自分一人で行く事にする。そうして、日向は一人、何ら問題もなく、桜達を拐った集団の後を追いかけていく。

 そして尾行されている事に気付かない――どうやら自分達は気付かれる事がない、と油断している様子だった――漆黒のローブ姿の集団が辿り着いたのは、牢屋の様な空間だった。そこで、ローブ姿の一つから、声が響いた。声質から女だろう。


「起きなさい」

「ん、んん・・・」

「ここは・・・」


 女の声に合わせて、キリエと桜が目を覚ます。そして周囲を見回して、状況を把握する。とは言え、状況を把握しても二人共怯えを見せなかったのは、さすがというべきなのだろう。


「ちっ・・・誰だ、貴様らは」

「答える必要はありません・・・あれに着替えなさい」


 女が指差したのは、彼女らと同じく黒色のローブだ。とは言え、こちらに何かの意味があるわけでは無く、単なる黒色のローブというだけだった。よく見れば奇妙な紋章も縫い付けられていない。それを見ながら、日向はカイトに連絡を送る。


『ごしゅじんさま。桜達が目を覚ました。着替えろ、って言われてる』

『男か?』

『女』

『じゃあ、見逃してやれ・・・桜。聞こえるな? 答える必要は無い。そのままで』


 カイトからの念話に気付いて、桜が一瞬だけ、目を見開く。が、即座にカイトが既に手を回している事を察すると、一瞬で顔を元に戻した。

 ちなみに、カイトが女だから見逃した理由は簡単で、男に桜の着替えを見せてやるつもりは無かったから、だ。欲情でもされれば、それだけでカイトが暴発しかねなかった。


『今は指示に従え。ちょっと同時多発的に幾つかの事案が起こっていてな。もう暫く、救援は待ってくれ。安心しろ。そこに日向が居てな。もし陵辱なぞしようものなら・・・まあ、遺跡が吹き飛ぶな』


 務めて安心させるように茶化す様に告げるカイトに、桜は不安をなくす。なにせ完全に安全の確保がされている、とわかっているのだ。不安になる必要が無かった。

 と、そんな動かない桜とキリエ――こちらはどうすべきか苦慮している為――に、女が今度は大鎌を突き付けて、告げる。


「さっさと着替えろ。さもなくば・・・」

「・・・わかりました」

「・・・ああ」


 桜が要求を飲んだのを見て、キリエが忌々しげだが、それに同意する様に頷いた。現状が掴めない状況では暴れるのが得策では無い、と判断した様だ。


「脱いだ衣服等はそこに入れろ。下着もすべて、だ。イヤリングだけになれ」


 女の指示に従い二人は一度裸身になると、用意されていた純白の下着を着て更に漆黒のローブを身にまとう。そしてそれを見て、彼女らが何も武器を隠し持っていない事を確認して、女が頷いた。


「よろしい」

「つっ」

「くっ」


 二人が着替えたのを見て頷いた女は、二人に手錠を掛ける。そしてその瞬間、二人には奇妙な感覚が襲った。それに、キリエがその手錠の材質を見抜いた。


「『吸魔の石』か・・・」

「さすが、キリエ・ブランシェット。儀式を邪魔してくれただけはあるわね。物知りね」

「儀式を邪魔した? 何のことだ?」

「5年程前、よ。<<獣皇(じゅうおう)>>ラカムとともに潰したある子爵・・・その顧客に、我々は居たの。そのせいで、儀式が一度完全に潰されたわ」


 意味が理解出来ないキリエの言葉に、女が何処か愉悦を滲ませながら告げる。別に隠す必要もないし、彼女らの救援が来ない、と安心しきっている事もあった。ならば、出来る限り自らの罪状を把握してもらった方が良い、と判断したのである。


「5年前・・・あの時の残党か!?」

「私は少し違うけど・・・まあ、凡そはそうね。まさかブランシェット家の貴方にこんな遠く離れた場所で出会えるとは思ってもいなかったわ。これぞまさに、神の思し召し。貴方を生け贄に捧げ、我々の咎を雪げ、との神の啓示・・・」


 陶酔した様に、女がキリエに告げる。顔はフードで隠れて見えないが、その表情はおそらく、至福で緩んでいた事だろう。キリエの質問に答えているのも、ここらに起因するかもしれない。


「さあ、歩きなさい。安心なさい? 貴方達は儀式のメインディッシュ。我らが神に捧げる最後の贄。腹立たしいけれども、残念ながらあなた達に危害は加えられないの。傷一つ無く、丁重にもてなさないといけないの」


 言葉に反して少しの苛立ちも見せずに、女は立ち上がる。彼女は神の信徒だ。それもその神を呼びだそうとする熱心な信徒だ。それなのに、自らの感情で神に対して無礼を働く様な事は出来ないのであった。

 そして、それはこの場の狂信者達すべてが、一緒だった。だからこそ、彼女らの身の安全は保証されている。生贄は丁重に扱わねばならない。生贄とは神様に捧げる神聖な物だ。傷だらけには出来ないのだ。


「じゃあ、ここでゆっくり、おやすみなさい」

「くっ・・・」


 忌々しげな顔のキリエと、そんなキリエに今はまだ語れないので至極平然とした桜は、女の案内で牢屋の中に入れられる。牢屋と言っても劣悪な環境では無く、きちんと少し簡素だが品の良いベッドがあり、トイレもあった。一種の軟禁室、とでも言うべき場所だった。


「よう。あんたらも、拐われてきたのか? わざわざあの女が案内してくる所を見ると、結構重要な生け贄みたいだな」

「貴方は・・・?」

「あんたらと同じく、あいつらに拐われた奴だよ」


 二人に声を掛けたのは、どうやら同室らしい女性の中でも近くにいた一人だった。身のこなしから、おそらく冒険者なのだろう。彼女の服装は桜達と同じく漆黒のローブで、両手にはやはり、吸魔の石が練りこまれた手錠が装着されていた。そうして、そんな女性に対して、キリエが問いかける。


「ここは?」

「さて・・・実は私らも眠らされて、連れてこられてね・・・幸い酷いことはされてないし、今は機を伺っている、という所」


 どうやら、女が言った事は正しかった様だ、とキリエは女性の様子から判断する。女性は少なくとも、ここに来てかなり長そうだった。その彼女が安全だ、というのなら、たしかに安全なのだろう。


「さて・・・どうするか・・・」

「あ、それなら問題無いですよ」


 どうするか、と悩み始めたキリエに対して、周囲に何か不審な事が無い事を確認した桜が告げる。


「は?・・・そういえば、桜はちっとも怯えていないな・・・」

「ええ。ちっとも」


 キリエの問いかけに、桜が笑って頷く。そこには絶対の信頼があり、不安なぞ微塵も存在していなかった。


「だが・・・彼は気付いているのか?」

「あ、それどころかもう・・・」

『きゅ?』


 桜の言葉を受けると同時に、今までずっと魔術で隠れていた日向が姿を表す。


「日向? 何故ここに?」

「カイトくんの命令、らしいです」


 桜の言葉に、日向がこくこく、と頷く。そして、そんな唖然となるキリエに、桜が少し情報を開示した。


「一網打尽にするから、もう少し待っていろ、だそうです」

「あ、あはははは・・・マクダウェルの領地で不法は出来んな・・・」


 完全に手のひらで踊らされていただけの敵に、キリエは恐怖も無く、もはや憐れみしか感じなかった。それどころか喧嘩を売った相手が悪かった、と慰めの言葉を掛けてやりたいぐらいだった。そして分かってしまえば、後は機を伺うだけだった。


「では、ゆっくり待たせて貰う事にするか」

「そうしましょう。下手に動いて邪魔になってもいけませんしね」

「日向、こっちおいでー」


 心配事が無くなったキリエは、ここぞとばかりに日向と戯れる事にする。そうして、桜とキリエは同室の女性たちが何が起こっているのかわからないまま、おそらく激怒しているだろうカイトの救援を待つ事になるのだった。




 そんな桜達の到着から、暫く。大司祭と呼ばれる男が、カーチャ遺跡に到着した。


「おかえりなさいませ、大司祭様」

「キリエは?」

「捕らえております」

「よくやった。これで、5年前の失態は面目が立つ」


 部下の一人の言葉に、大司祭が満面の笑みで頷く。一番恨んでいるのはラカムだが、その次と言えるのは、キリエだ。これはそこから来る満足だった。そうして、大司祭は満足げにミナド村で拐った者達を部下に預ける。


「この女達も着替えさせて同じ部屋に入れておけ。儀式は本日の0時に開始する。皇国に勘付かれた。ここで邪魔をされるわけにはいかん。贄については、異世界の少女を入れる事で、ご容赦賜わろう。幸い、北部の祭場で異世界の少女を更に捕らえる事が出来た。これも、我らに満足に用意出来ぬ咎を雪げ、という思し召しに違いない」

「おぉ・・・何と幸運な・・・それ以外の用意については、万事つつがなく」


 大司祭の言葉に、出迎えた部下達が頷く。そうして、部下達はナナミや冒険部の少女達を受け取ると、彼女達を先ほどと同じように着替えさせて、桜達の所へと案内する。

 そして、ナナミ達が部屋に入れられると、桜が泣き腫らした様子のナナミに気付いて、目を見開いて驚きを露わにした。


「ナナミさん!? 貴方も捕らえられたんですか!?」

「桜・・・さん? 貴方も捕らえられたの・・・?」


 力なく、ナナミが桜に問いかける。ここで顔見知りの顔があった事は彼女にとって、いささかの活力にはなったらしい。彼女が顔を上げて、桜に問い掛けた。


「ねえ・・・これから私達、どうなるの・・・?」


 不安げなナナミの問いかけを受けて、桜は笑顔を浮かべる。それは愛する男が近づいている、という何かの予感があったのだ。


「大丈夫です。助けが、もう来ますから」

「そう・・・」


 これはナナミには、単なるつよがり、と受け取られたらしい。そして桜もそれは致し方がない事だ、と思った。だが、桜は救助を確信している以上、迂闊な行動に出られない為に、自らの仲間に声を掛ける。そうして離れた桜に次いで、ナナミに声を掛ける少女が居た。


「・・・大丈夫」

「え?」


 声を掛けたのは、純白のゴシックロリータ服の少女だ。容姿はまさに神の美しさとしか言いようのない何処か儚げな印象を与える美少女で、それがなんとも幻想的な雰囲気を醸し出し、ただでさえ非現実的な純白のゴスロリ服に似合っていた。

 そんな彼女に純白の衣服を身に纏う最も特徴的なのは、腰まであろうかというその艷やかな漆黒の長い髪だ。総じて表するのなら、これがもし漆黒の衣服を纏っていれば、かの月の女神と紛うばかりの姿、だった。


「貴方は・・・?」

「・・・血の契約で、彼と結ばれた者。魂の契約で、彼と結ばれた者。彼の守護者。彼との逢瀬を望む者・・・」


 ナナミの言葉に答えて、何処か悲しげな少女の姿が消える。だが、声だけは、まだ続いていた。


『私の契約者は、もう来ている。貴方の想い人と一緒に』


 少女の言葉と共に、部屋に振動が走る。


「きゃあ!」


 急な振動に、悲鳴が上がる。そして、ナナミは少女の言葉が真実だった、と悟った。


「そっか・・・ソラくんが・・・」


 こんな状況にも関わらず、ナナミは思わず、笑みがこぼれた。そして、それとほぼ同時に、扉が開き、その先には違わず、彼女の想い人の姿があったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。明日の24時に断章のソートを行います。ご了承をお願いします。

 次回予告:第618話『潜入開始』

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