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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第36章 纏まる旅路編

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第615話 誘拐

 桜達が遺跡のある村に辿り着いて、翌朝。桜達は当初の予定通り、遺跡探索と言う名の遺跡観光を行う事にしていた。

 そうして、遺跡の入り口の前にたどり着くと、そこは普通に観光地として出入り口には門が設置されて、更には受け付けまで存在していた。と、その受け付けの一人がキリエに気付いて、笑顔で頭を下げた。


「ああ、魔導学園の方々ですね。今年ももうこんな時期、ですか・・・」

「ええ。今年もよろしくお願いします」


 毎年毎年来ているのだからか、キリエも顔見知りだったらしい。何処か感慨深げな受け付けに対して、キリエが笑いながら頷いて頭を下げた。そうして問われたのは、どうやら彼らにはお馴染みになった問いかけ、だった。


「来年はどなたが?」

「リフィです」

「ああ、リフィさんが・・・そうですか・・・? 後ろの方々は?」


 挨拶をそこそこに入場の用意を整えていた受け付けだが、そこで桜達が後ろに居る事に気付いて、首を傾げる。まあ、見たこともない集団が一緒に居れば、気にもなるだろう。


「ああ、彼らは今回の護衛達です。一緒にどうだ、と誘ったんですよ」

「ああ、なるほど・・・そちらも、ですか?」


 更に受付が問い掛けたのは、ルークだ。彼は少し気になる事があったらしく一人離れた所に居たのだが、そのせいでどうやら別の系統だ、と思われたらしい。


「え?」

「・・・ん? あ、いや、僕は魔導学園の教師だよ。すまないね。今年はちょっと理由があって、僕も参加させてもらってるんだ」

「ああ、そうでしたか。下見の時にハルさん以外に見たことが無かったので・・・申し訳ありません。では、何時も通り下見は上層部を見るルートで良いのですね?」

「ああ、それで。とりあえず、こんな風に回るんだ、という事の最後の確認、だからな」

「はい・・・では、どうぞ。まあ、何度も来られた皆さんには取り立てて珍しい所では無いでしょうけどね」


 キリエの言葉を聞いて、受け付けの女性はいくつかある門の内、一番表層部を回るルートの扉を開く。今回は気分だけだ。本格的な調査――と言うか観光――は、また本番に残しておく事になっていた。


「ということで・・・ここが、ルーミア文明の遺跡、だな。何かがあるわけでも無いが・・・こういう所だ、というのは理解出来るだろう」

「ええ・・・」


 キリエの言葉に桜も頷く。門を潜って入った先は、普通に洞窟だった。受け付けで貰ったパンフレットによると、どうやらこの遺跡にはいくつかの侵入ルートがあり、その中でも最も整備されていて危険性が少ないルートがこの洞窟を通って遺跡に入るルートらしい。


「さて、ここが、遺跡の入り口だ。元は何らかの工場、ったらしいな」

「へー・・・」


 キリエの解説を聞きながら、桜達は周囲を観察しながら歩いて行く。工場の材質は基本的には、かつてシャムロックが見せてくれた遺跡に似た構造材だった。

 彼もその文明を調査している体で依頼を出して、おまけにその文明を模した遺跡を作っていたのだから、当然といえば当然だ。


「ここから行けるのは、一番安全な紙の量産用魔道具があった所、だな。紙と特殊な薬液を入れる事で、紙が出来上がるらしい・・・が、詳しくは知らない。私は学者じゃないからな」


 キリエは笑いながら、何かの薬剤を使っている、とだけ告げる。と、そうして一つの疑問が桜に浮かんだ。それは遺跡の発見が600年以上も前なのに、ある痕跡が見受けられない事だった。


「そういえば・・・この遺跡・・・破壊された痕跡が無い、ですね・・・」

「ああ。それか・・・それが、謎ではある。この遺跡は実は、大戦期に破壊されていない。何故か先代魔王はこの遺跡を守ってさえいたんだ」

「? どういうこと、ですか? 何か重要な武器でも眠っていたんですか?」

「いや、無いと言われているよ。まあ、それ故何かあるのでは無いか、と勇者カイトが赴任後に皇国がかなり大規模な調査をして、何も無かった、ということで観光地化したんだけどな」


 桜の問いかけは、当然だが誰もが疑問に思うことだった。そしてそれは皇国にしても違いは無い。だが、彼らが探せども、見付かったのは結局製紙技術で使う魔道具の予備パーツと思しき物だけだった。守っていたにしては、何か重要な物が隠されている等ということは無かった。


「実際、ここに何があるか、というのは魔王ユスティーナも調べたらしいんだが・・・彼女も結局、彼女が見付けた時のまま、と言っていたらしい」

「魔王ユスティーナが・・・見付けた?」

「知らないのか?・・・ハル先生、お願いして良いですか?」


 桜の言葉に、キリエが首を傾げる。どうやら、それほどまでに意外な事だったらしい。それに、顧問のハルが苦笑しながら解説してくれた。


「私の仕事ですしね。エネフィアでは紙をこのように普通に使われていますが・・・これの量産体制を整えられたのが、魔王ユスティーナなんです。この遺跡は、当時の皇国上層部に許可を頂いた彼女が発見されましてね。皇国も製紙用の魔道具の調査したのですが・・・まあ、かの大天才・魔王ユスティーナを相手に張り合おうとは愚かな、としか言いようもないのですが、それは今だから言える事でしょう。彼女がトントン拍子に解析を終わらせた、というわけですね」


 ペラペラと自らの持つ今回の下見の予定表を振るいながら、ハルが解説を行う。ここらは歴史の分野だ。彼の領域だったので、ハルが説明したのであった。

 ちなみに、ティナが量産体制を整えたのは地球で言う所の洋紙だが、それの理論を応用して、今のエネフィアには普通に和紙も存在していた。


「へー・・・」

「やっぱり、歴史の偉人なんですね」


 常識的に思えて、実は知られていない事が往々にしてある。ということでどうやらそれは冒険部の他の少年少女達も知らなかったらしい。全員初めて知らされる情報に、意外そうに頷いていた。

 まあ、ティナが有名なのは大戦期に活躍した事と、彼女がクーデターを起こされた事で大戦が起こった事、そして彼女がその全ての引責辞任を行った、ということだ。こんな人の役に立つ事まで知っている者は稀といえば稀だろう。


「というわけで、ここは今の製紙技術の大本となる製紙工場、というわけです。まあ、一応工場ですし周囲には魔物は出ますので、警備ゴーレム等も発見されているのですけどね。この遺跡で発見されたのはその程度、という所でしょう」

「うーん・・・じゃあ、破壊する価値も無いから残しておいた、という所?」

「いや、それなら守る価値も無いだろ?」

「どうだろ・・・何か思い入れがあった?」


 ハルの言葉を聞いて、少年少女達が悩ましげに議論を始める。どうやらこれはハルにとって嬉しい反応だったらしく、彼の顔には笑顔が浮かんでいた。と、そんなハルに対して、ルークが小声で告げる。


「ハル先生・・・少し良いですか?」

「あ、はい。なんですか?」

「何か感じませんか?」

「はぁ・・・何か、ですか・・・?」


 ルークの言葉に、ハルが周囲を見回して気配を探る。が、やはり彼の力でも何も感じない。


「いえ・・・何も・・・」

「うーん・・・やっぱり気のせい、なのか・・・?」

「どうされました?」

「いえ・・・うっすらとですが、何か・・・こう、もやっとした物が・・・霧に包まれる? とでも言うべきでしょうか・・・」


 ルークはの父親はカイトの友人であるオーリン、つまりは神様のハーフだ。ということで実は彼はこの場に漂う月の女神の力に気付いたのである。

 とは言え、やはりハーフで年若い。限界があった。それ故に本当に気のせいと言えるほどしか感じられず、確証は持てていなかったのである。しかも気付いたのも今日の朝、つまり儀式が近づいて、更にはその力を使う者が潜んでいたからだった。


「・・・言っておきますか。一応依頼には入っていませんが・・・」

「・・・そうしましょう。桜くん! 少し良いかい!」

「あ、はい・・・なんでしょうか」


 今回の隊長は桜だ。それ故、まだ不確かだった事もあり、桜だけに伝えておく事にしたらしい。そうして、ルークは自分の気付いた違和感を桜に伝える。


「なるほど・・・」

「君達は何も感じないかね?」

「ええ・・・とは言え、ちょっと待ってもらえますか?」

「ああ、いいとも」


 ルークの許可を取った桜は、即座にカイトに連絡を取る事にする。すると、カイトが出てくれた。丁度この少し前に戦いが終わり、手が空いたのだ。まだソラ達からの連絡も無く、至って平然とした様子だった。


『ああ、なんだ?』

「カイトくん。そちらは大丈夫ですか?」

『ああ。丁度たった今、案件に片がついてな。後は後始末だけだ・・・なんだ、寂しくなったか?』


 この時点でのカイトはほとんど問題は片付いた、と思っている段階だ。それ故、仕事が片付いた事もあって、桜を茶化しに入る。桜が休暇だ、ということは知っていたので、話したくなったのだろうと考えたのだ。それに、桜が頷いた。


「はい・・・じゃ、無くて、いえ、それはそうなんですけど・・・えっと、それでこちらでちょっと問題が・・・」


 少し慌て気味に桜が事情を告げると、そこで、カイトも桜の後ろの二人に気付いた。


『ん? って、ああ、ルーク先生にハル先生・・・お久しぶりです』

「やあ、久しぶりだね」

「はい、久しぶりです」


 桜の後ろからこれは何だ、と覗き込んでいたハルとルークに対して、カイトが挨拶を行う。それに、二人は少しだけとは言え教え子だった少年から挨拶をされて、微笑みながら頷いた。

 なお、二人はカイトがユリィと共に行動している事を知っている。というわけで、ルークはカイトの問い掛けに事情を語る事にした。彼からユリィへ伝わる事を期待してのことだった。


『それで、どうしました?』

「ああ、いや・・・奇妙な気配を感じるんだよ・・・」

『奇妙な・・・? ああ、なるほど。多分、こちらの案件ですね。ちょっと月の女神の力を悪用した案件がありまして・・・それで、皇国中を今、覆い尽くした暗雲が垂れ込めている、とあの・・・学園長曰く、先生のお父上からタレコミがあったらしいのですが・・・』

「ああ、伯母上の力か。そう言えば何度か感じた事のある力だと思ったよ・・・はぁ・・・俺は何も言われてないよ。まーた、あの人は・・・言わずに行っちゃったか・・・」


 ルークが知っていると思っていたカイトは、それ故、苦笑しか出せなかった。神様の力を曲がりなりにも受け継いでいる以上、彼も気付く可能性はあったのだ。

 そしてそうである以上、彼が気付いても可怪しくはない。なのでてっきりオーリンが伝えたと思ったのだが、どうやら伝えてはいなかったらしい。非常にルークが呆れていた。


『ははは・・・まあ、とりあえず。これからユリシア学園長らと祭壇の調査を行いますので、少しの間消えないと思います。何か不具合でも出ていらっしゃいますか?』

「ああ、いや。そういうことじゃないよ。ちょっと違和感を感じてね。そういうことなら、納得だ。君も仕事、頑張りたまえ」

『はい。では』


 カイトから一通りの事情を説明を受けると、ルークが納得したように頷いた。きちんと説明さえ受けてしまえば、少し前にレーメス伯爵の所の役員が言った様に時折ある事、だったのだ。であれば、それの影響が偶然出てしまったのだろう、とルークは考えるだけだった。


「月の女神の力、か。そりゃ、しょうがないか」

「そうなんですか?」

「ああ。俺はまあ、軍神オーリンを父に持つんだけど・・・まあ、さっきの月の女神シャナル殿は伯母にあたるんだ。それで、血脈的に月の女神の力は感じやすくてね」


 説明されて、桜も納得する。自分の血脈の力だ。感じない方が可怪しいだろう。そして、そう説明をされて、更にカイトとユリィが対処済みと考えた事が事態を悪化させるとは誰も思わないのは、致し方がなかった事だろう。


「いや、心配を掛けてしまったね。じゃあ、もう一度下見に戻ろう」

「はい」


 照れくさそうに笑うルークに促されて、桜とハル、そしてルークもまた、流石に三人を置いては行けない、と待っていた他の面子の所に戻る事にする。そうして、順路を歩き続けて、暫く。そこで、事件が起こる。


「・・・あれ? 桜くんに、キリエくんが・・・居ない?」

「え? さっきまで一緒に居たのに・・・何処かで逸れる様な所があったっけ・・・?」


 一同は急にいなくなった二人に気付いて、周囲を見回す。が、何処にも二人の姿は無い。と、そこに、連絡が入った。


『こちらカイト。そっち桜はいるか?』

「天音? どうした?」


 冒険部の一人が、自分の持つ通信用魔道具から響いてきたカイトの声に首を傾げる。しかもご丁寧なことに、問い掛けたのは桜について、だ。


「いや・・・それが、さっきから見当たらないんだ・・・」

『何? 何があった?』


 行方不明。それに、カイトは嫌な予感がするが、兎にも角にも、何があったかを問いかけるのが先決と更に突っ込んだ話を促す。が、状況が理解できていないのは、こちらも同じだった。


「おい、どうした? 何か知ってるのか? キリエって魔導学園の生徒会長も居ないんだけど・・・」

『何!?』


 返って来た答えに、カイトが目を見開いて驚きを露わにする。今の今までは桜に何かがあったのだ、と思っていたのだ。


『ちょっと待て・・・そういえばお前ら今何処だ? 戦ってるとかじゃ無いのか?』

「いや・・・遺跡の観光してる所、だったんだが・・・その途中で、今二人とはぐれちまってるんだよ」

『どうなって・・・っ!』

「ぐっ!?」


 カイトと同時に、ルークが思わず身体を震わせる。それは増幅した力の波動の様な物を浴びた結果、だった。大司祭の連絡を受けて、儀式を早める事にした結果、一気に圧力が増大したのである。そうしてそれに、ルークが大慌てで通信機の先のカイトに声を掛ける。


「これは・・・カイトくん! 学園長に変わってくれたまえ! 明らかにこれは可怪しい!」

『横に居ます。そして、状況も理解しています・・・おそらく、敵は何らかの理由で、桜とキリエの二人を拐ったものと推測しています。幸い、桜には冒険部が密かに発信機を取り付けていますので、こちらで即座に対応出来ます。ルーク。貴方は残った皆を守りなさい。冒険部の皆さんは、その補佐をお願いします』

「わかりました! 学園長、キリエくんと桜くんを頼みます!」

『ええ。村長の邸宅を一時避難所として使いなさい。公爵家からすぐに伝令と護衛を送ります』

「わかりました! じゃあ、冒険部の君たちも俺と一緒に大急ぎで村長の邸宅に行くぞ! 桜くんの代わりは俺が行う! ユリシア学園長からの連絡はすぐに向かうはずだ!」


 ユリィからの指示を受けて、ルークが先頭に立って一同は駆け足で移動を始める。現在の状況が理解出来無さ過ぎた。

 なので無闇矢鱈にユリィ達から居場所を教えて貰ってキリエ達の救助に向かうのでは無く、まだ近くに敵が居る可能性があるので、自分達の身の安全の確保を最優先としたのである。そうして、キリエと桜の居ないパーティは一路、周囲の訝しむ目を他所に、村長宅へと、移動するのであった。




 一方、その頃。カイトは飛空艇の上で苛立ちを隠せなかった。


「ちっ・・・何が目的なんだ?」

「さぁね。そもそも何故キリエと桜が必要だったのか、というのが理解出来ないよ」

「そこなんだよ・・・まだ、無造作に全員というのなら理解出来る。が、何故、一番警戒されているはずのキリエと桜、なんだ・・・?」


 苛立っていても、所詮カイトだ。そして桜の居場所は掴めているし、手荒な真似をされない事は把握済みだ。焦りは無かった。と、そこにソラからの連絡が入った。


『カイト。少し良いか!?』

「いってー・・・もう少しボリューム下げろ!」

『あ、悪い・・・ととと! なあ、敵の本拠地ぶっ潰す、つってんだけど、これ、良いのか!?』

「だから下げろ、って・・・三葉。ソラ達の行路は?」

「えーっと・・・あ、このままだと、多分桜の行路と同じ所を目指してる・・・? 多分、ここ」


 ソラの言葉に、カイトが三葉に桜の移動予測経路とソラ達の移動予測経路を重ねる。すると、一つの点が浮かび上がる。そこは、桜達の居た村から少しだけ離れた所にある、古びた遺跡の一つ、だった。


「・・・あそこは・・・確かカーチャ遺跡か」

「敵の本拠地はあそこ、ということかな・・・?」


 ユリィの予測は正解の様に思えた。だが、まだ決め手には欠ける。なにせ二つの下手人が同じであるかどうかは、まだ不明なのだ。というわけで、とりあえずカイトはティナに確認を取る事にした。


「わからん・・・一葉、ティナに繋いでくれ」

「かしこまりました・・・どうぞ」

『なんじゃ? もう少しで送り先の予測が出来そうなんじゃが・・・』

「いや、ならそのまま続けてくれ」


 さすがはティナ、というべき所だろう。1時間ほどで魔力の送り先の予測を完了させつつあるらしい。というわけで、カイトはそのままとりあえずソラに指示を下す事にする。


「ソラ。とりあえず、もう少しだけ待て。桜達まで拐われたらしくてな・・・場合によっては、合流する必要がある」

『つっ! それ、のんきに言ってる場合かよ!』

「・・・オレの女二人に手を出して無事に終わらせてやる気は無い。全員纏めて、後悔させてやる。だが、そのためには、敵の本拠地を掴む必要がある。それに、このオレが、桜の身の安全を確保できていないと思っているのか?」

『っ!・・・あ、ああ・・・悪い』


 怒声を上げたソラに対して、カイトは冷酷な目をして告げる。それはソラさえ底冷えする様な確たる意思を持っていた。それは静かに、そして冷静に言っているが、カイトが激怒していた事を何よりも物語っていた。


「とりあえず、そのまま尾行してもし向かう先が同じなら、合流だ。大司祭とやらがそこに居るのなら、そいつを潰さないと解決した事にはならない・・・奴らを一網打尽にする。そこで、存分に怒りをぶちまけてやれ」

『・・・ああ、わかった』


 カイトは自らの激怒を見せる事でソラをなだめると、自らは深く椅子に腰掛ける。抑えていた感情の一旦を出した事で、少しだけ、感情のたがが緩みかけていたのだ。


「シャルだけでなく、桜にまで手を出すとはな・・・そこまで、死にたいか」


 到着までは、あと少し。ソラ達が敵の本拠地に辿り着いた頃には、日は落ちていそうな時間だった。そうして、カイトは底冷えする様な冷たい声で、最後に告げる。


「いいだろう。貴様らの望み通り、月に見守られながらあの世に行くと良い」

『カイト、掴めたぞ。おそらく、魔力が向かう先はカーチャ遺跡じゃ。お主の向かっておる先、じゃな』


 つぶやきに呼応するかの様に、解析を終えたティナから連絡が入る。それに、カイトが頷いた。


「そうか・・・お前もこっちに来い。叩き潰す・・・シア、メル、エルロード。聞こえるか?」

『ええ』

『何?』

『はっ』

「シアは馬鹿共を率いて、こちらに来てくれ。命令は大暴れ装備で、と言え。メルは試験部隊を撤収を指揮。小夜は補佐に就け。流石にこちらに来る余裕は無いだろうからな。エルロードは部隊を率いて、ミナド村北にある森へと行け。そこで今回の一件の敵の末端が捕らえられている。それと共に、今回の一件はもう収束することを伝えろ。祭壇の下にもう一つ祭壇がある。そこに遺体があれば、家族に知らせてやれ・・・以上だ」


 カイトは全員に指示を送ると、自らははやる気持ちを抑えにかかる。そうして、カイトは静謐な気配を漂わせたまま、飛空艇の到着を待つ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第616話『最強の援軍』

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