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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第36章 纏まる旅路編

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第613話 ルーラー

 伊勢と日向の密航の発覚から明けて翌日の昼。桜達は当初の予定通り、森の中にある大きめの村に辿り着いていた。


「到着、と・・・馬車はここに停めておいてくれ。先方も我々だ、ということは知っているからな」


 馬車の停車と同時に、キリエが桜に告げる。村の少し外れに馬車置き場というのもあるにはあったのだが、桜達が停車させたのは宿屋が持つ馬車置き場だった。馬の世話などは宿屋が雇った専門の業者がやってくれる事になっている。


「いらっしゃいませ、キリエさん。お久しぶりです」

「ああ、去年ぶりです。今年もよろしく頼みます」

「はい、かしこまりました」


 馬車を降りると同時に駆け寄ってきた宿屋の主人に、キリエが頭を下げる。宿屋の主人が言っている事からも分かるように、キリエがここに来るのは一年ぶりだ。その前の年にも来ている。

 聞いた話によると、毎年この時期の部活動は部長引き継ぎを兼ねているので、ここで試運転を行うのが通例らしい。

 まあ、遺跡は既に掘り尽くされて観光地となるぐらいにまで安全の確保がされているし、引き継ぎの為の訓練に近いのに本格的な活動をしてもミスが起こり得る。慣れた所で、と考えるのは道理だろう。というわけで、宿屋の主人が感慨深げに続けた。


「また、この時期ですね・・・我々も毎年この時期が来ると、感慨深い物がありますね。来年の部長はどなたが務められる予定なのですか?」

「ああ・・・後継はリフィに頼もうと思っています。指揮力には少々難はありますが・・・知識や実績の面では、悪くは無いですからね。過不足なく部長を務めてくれると私は信じています。後は、実際にやっていく内に、風格等も備わってくるでしょう」


 キリエからの信頼を受けて、リフィが少し身体を強張らせる。緊張しているのだろう。こういった緊張は、キリエも通った道だ。それ故、慣れてくるまでだと理解していたので、何かを言うつもりは無かった。そもそも言われても無理だし、何時かは分かるからだ。

 そんなある意味例年通りの姿を見せる先輩と後輩の二人に、宿屋の主人が微笑んだ。そうだ、とわかっていたのだ。そして案の定、翌年にはリフィが同じ事を言っている姿が見られたという。


「そうですか。リフィさん。今年一年、がんばってくださいね」

「・・・はい」

「さて・・・では、お部屋にご案内させて頂きます」


 リフィに激励を行った宿屋の主人は、挨拶を終えると一同を案内して歩き始める。その間に、ルークが桜達に指示を送った。


「良し。じゃあ、君達の仕事はとりあえず今日はこれで終わり、だね。じゃあ、後はこちらでやるから、君たちは自由にしたまえ」

「はい。じゃあ、全員今日から明後日の帰りまでは、自由行動でお願いします」

「はーい」


 桜の指示を受けて、冒険部の面々が頷いて移動を開始する。宿屋については、キリエ達と一緒の宿屋にしている。一緒の宿屋にしておけば、万が一の場合には即座に対応が取れるからだ。料金の半分を向こう持ちの折半だった。

 そうして、桜達はとりあえず着替え等の荷物を馬車から降ろすと、宿屋の彼女達用に与えられた部屋へと向かう事にした。部屋は魔導学園の生徒達の部屋の隣室だ。


「やっぱり、ここらは観光客が多そうですね」

「ああ、そういえば桜さん知らないんだっけ・・・ほら、マクダウェル領って治安良いから、基本的に中心部はこんな物よ。もう少し中心に行けば、神殿都市もあるからね」

「神殿都市・・・マクダウェル領の第二都市、でしたっけ」

「うん。私あそこで生まれたんだけど、あそこは色々とすごかった。マクスウェルもすごかったけど、神殿都市はなんていうか・・・街そのものがものすごい」


 桜の問いかけに、神殿都市出身らしい少女が答える。そうして、少女は久方ぶりに地元を思い出しながら、語り始めた。


「なんていうか・・・あそこは街そのものが一つの神殿。白亜の壁に、色とりどりの8個の神殿が配置されていて・・・で、どの神殿にも大司祭様がいらっしゃって、お祈りを捧げていらっしゃった」

「へー・・・」


 少女の言葉に、桜が感心する。ちなみに、だが。少女の告げた大司祭というのが、かつてルナとソルの二人が告げていた神殿に行ったら双子の姉妹と間違われて飴玉くれた人だったりする。

 それで良いのか、とカイトが思うのも当然だった。大司祭ともあろう者が奉じている者がわからないのだ。まあ、たしかに隠しているのだから、仕方がなくはある。なお、その大司祭の件はかなり昔の話なので、今はもう既に死去している。


「一度行ってみると良いわね。特に、秋の例大祭は収穫祭も兼ねてるから、見に行くのが、おすすめ」

「それは楽しそうですね」


 ちなみに、収穫祭も兼ねたお祭りとなるとそれは大々的になりそうだ、と桜は考えていたのだが、実はこの時期に収穫祭はマクダウェル各地で行われる為、彼女の想像以上になっているという事は、まだ彼女の知らない事だった。


「懐かしいなー。あれ、マクダウェル中でいろんな民族衣装やコスプレする人居るし、神殿都市には皇国中から人が集まるから、特に凄いよね」

「トリック・オア・トリート。昔それ当時の彼氏にやって悪戯されたっけ・・・」

「付き合ってるの居たの!?」

「あのね・・・」


 生まれや出身が違えど、今は互いに背中を預け合う冒険者だ。それ故、宿屋に着けばこういった話も出るし、出れば必然、新たな一面が見えてくる。そんな少女達の姦しい話に引き寄せられたのか、ふと、扉がノックされた。


「ああ、ちょっと良いか?」

「あ、キリエさん・・・うるさかったですか?」

「ん? いや、宿屋は防音性完備だから、何も聞こえなかったが?」


 どうやらわいのわいのと話していた事でうるさかったか、と気を回した桜だったが、これはよくよく考えて見れば地球だけの話だった。なので、キリエが首を傾げる。

 というのも、宿屋を利用する大半が冒険者でそれが男女の仲となると無粋な話であるが、夜の営みの音が漏れかねない。そうなると、血の気の多い冒険者達にはトラブルの素になりかねない。宿屋が防音性を完備するのは、至極普通のお話だった。


「あ、そうでしたね・・・では、どうしました?」

「いや、何。遺跡の調査も曲がりなりにも行うからな。明日の下見に君たちも一緒に来るか、と思っただけだ。観光地だしな。見れる物はたくさんある」


 キリエからの申し出を受けて、桜は後ろを振り返って同室の少女達を見ると、遺跡観光に興味を覚えたらしい。参加の意思を示していた。


「では、参加で」

「そうか。分かった・・・で、何を話していたんだ?」

「あ、秋の収穫祭のお話、です」

「ああ、料理祭りの事か。これでも私は味にうるさくてね。例年楽しみにしているよ」


 キリエが何処か楽しげに、自分の思い出を語り始める。すると、先ほど地元だ、と言っていた少女がその事を思い出したらしい。


「あ・・・そういえばキリエさん、って毎年神殿都市に来てたんでしたっけ・・・」

「キリエで良いよ・・・で、そうだな。毎年伺わせてもらってるよ。と言っても、審査員の方だがな」

「そう? じゃあ、遠慮無く・・・」


 どうやら、キリエもこの話題に興味を持った様だ。というわけで、更にキリエを交えて、会話が続いていく。そうなるとお互いの身の上話に話が飛び、キリエに向けてある質問が飛んだ。


「そういえば・・・キリエって<<審判者(ルーラー)>>って呼ばれているんでしょう? あれって、結局何があったの?」

「ああ、あれか・・・」


 少女からの問いかけに、キリエが少しだけ、照れてみせる。何か大した事をやったつもりは無かったが、少しやんちゃだったと言えば、やんちゃだった、と言う話だ。そうして、照れたキリエが別に隠す必要も無い事だし、と口を開いた。


「あれはここに来る前だから・・・5年と少し前、だったか・・・まあ、情けない話だが丁度実家で色々あってな。その際にラカムという御方がある案件に取り掛かってくださっていたんだが・・・元々結界を越えられる特殊な魔物の討伐が目的だったんだが・・・最終的な話としては身内の恥を晒す様で申し訳ないんだが・・・当時のそこら一帯の領主がそれに隠れて不正蓄財と人身売買紛いの事に手を染めていてな。魔物も居るには居たんだが・・・それでも行方不明者がなくならない。どうなっているのか、と調べていく中で、な」


 キリエにとって、冒険者と言えども少女達は自分によって治められる側の存在だ。それ故、少しだけ申し訳無さそうにしながら、キリエがことのあらましを語り始める。

 ラカムとはほぼ同時期にクズハがソラへと告げていた人物と見て間違いないだろう。どうやらクズハ達だけではなく彼女も知っている所を見ると、ブランシェット公爵の領地ではそれなりに有名な男らしかった。


「その際に、領主の捕縛に一役買ってな。で、ラカム殿があまり目立ちたくない、ということで私にお鉢が回ってきた、というわけだ」

「ラカム? それってあの、<<獣皇(じゅうおう)>>ラカム? 勇者カイトの盟友の一人、と言われている・・・」

「ああ。有名人なのに今更自分が関わったと公になって欲しくはない、とは奇妙な話だと思ったんだがな。とは言え、ラカム殿にそう言われては、我々も断りようがない。だが、解決したのなら解決したで誰かを褒章しなければならない。というわけで、その為のお神輿が私、というわけだ」


 キリエは照れ臭そうに少しため息を吐いて、事の裏を語り終える。そのラカムとやらが何を考えて居たのかはわからないが、彼を表彰出来ないのなら、次はキリエが丁度良かった、という所なのだろう。

 兄で次期公爵のアベルは当時アンヘルの下で大忙しだった為関われていないし、アルベドは更に幼いのだ。更に言えばその当時はまだ彼らの父は現役で、兄も主体として動いてはいないらしかった。仕方がないといえば、仕方がなかったのだろう。


「キリエは結局、何をしたわけ?」

「ん? ああ、ちょっと詭弁を弄して、本家の部隊を動かしだんだ。地元の貴族が相手になるので地元の軍が使えない、となって、私の護衛の一人にラカム殿を加えて視察名目で乗り込んでな。下手な軍よりもラカム殿一人の方が強いからな」


 当時を思い出したのかキリエは少しだけ苦笑しながら、自分が何をしたかを語る。本来ならば動かなければならない地元の領主が敵なのだ。その更に上が動くのは至極当然の話だった。

 が、ここら当時のキリエはお転婆だったのだろう。兄達が忙しくて動けない事を知って、キリエが独自で動いたのである。


「まあ、そういうわけで、私が褒章を受けた、ということだ。実際に領主を捕らえたのは私だったしな。それ故、トントン拍子に話は進んでな」


 キリエは更に苦笑気味に、一同に語る。何ら功績が無かったわけでは無い。きちんと主犯格である不正を行っていた領主を捕らえた、という功績があったのだ。そこらは、たしかに褒章が為されるべき事だったのだろう。


「で、だ。その縁で私がそこら一帯の領土を代行として、一時的に預かる事になった、というわけだ。実際には私はまだ幼すぎたので、実務は兄が自分の所領と共に、だったがな。一応は形ばかりの褒美、という所か。とは言え、今は父の怪我があって、その後は私が正式に領主として赴任している・・・と言っても、まだやはり学徒だからな。応対は兄が信頼する者と半分引退している父が代行してくれている」


 キリエは少し遠くの自分の領土を思い出しながら、自分の仕事を語る。ちなみに、彼女はすべてを代行している様に語ったが、実際には書類の一部はこちらに送ってもらっているらしい。どうしても、領主のサインが必要な書類は出てくる。それに判を押すのも、十分な領主の仕事だった。


「まあ、そう言ってもやはり私が領主だ。今度の夏休みにも地元に戻る事にしているよ。たまには顔を見せないと、な」

「ふーん・・・」


 領主は領主で意外と大変な事が多いのだな、と冒険部の少女達が少し意外そうに頷く。彼女らの印象としては、領主の大半は偉そうにふんぞり返っていれば良いのだ、と思っていたのだがそうでは無いらしい、と思ったのだ。と、そんな話を終えた所で、キリエがふと周囲を見回す。


「ああ、そうだ。日向と伊勢は?」

「あ、あの娘達は・・・あそこに」


 キリエの問いかけを受けて、桜が扇風機――扇が無いので正確には送風機――の方を示す。そこには、緩やかな風を浴びて寝そべる二体の姿があった。と、そんな二体を見て、キリエがポケットから撮影用の魔道具を取り出した。


「・・・良し」

「あ、後で現像したら私にもください」

「ああ・・・では、静かに・・・」


 キリエは日向と伊勢を起こさない様にゆっくりと二体に近づいていく。そうして、一同は更にキリエが遅いので気になってやって来たリフィやセフィ達を交えて、簡単な女子会を繰り広げる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。断章は21時更新です。

 次回予告:第614話『閑話』

 明日は今回のお話の補填の閑話です。

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