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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第36章 纏まる旅路編

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第611話 依頼人

 キリエの来訪から、数時間。何の因果かまた、キリエがやって来ていた。


「と、言うわけだ。今度は依頼の話になるが・・・頼めるか?」

「断る理由はありませんよ」


 キリエの応対にあたった桜が、苦笑気味に答える。依頼はなるべく選り好みしないのが、冒険部の運営方針だ。念の為に言うと、不相応な物になると流石に断る様にしている。そういった意味では、今回の依頼は至極普通の物だった。


「そうか・・・では、改めて依頼内容を説明しよう。依頼は遺跡探索の下調べ、だな。行路はどんな風になっているのか、危険性はどの程度か、馬車は使えるのか、結界の展開は有効か・・・など様々な事を調査する為、護衛をしてもらいたい」


 キリエの今回の依頼は、2ヶ月ほど昔にやった遺跡研究会の次の部活動だった。とはいえ、今回の行き先はマルス帝国よりも昔の遺跡で、かと言って重要な所では無いらしい。普通に観光地となっている所らしい。

 規模もそこまでは大きくは無い様だ。夏休み前の最後の部活動、という程度で、どちらかと言えば思い出作りの趣が強い物だった。なので、参加者は以前ほどは多くならない、と見込まれていた。依頼はその下見を行う際の護衛だった。


「人数は?」

「そうだな・・・一応今回は私率いる部の上層部と数人の現地での行動が得意な獣人達が同行する事になっている。森が近いからな。とは言え、先生方も一緒なんだが・・・実はこの間の一件が響いていて、一応、本職に護衛を頼むか、という話になってな。10名ぐらいで頼めるか? 予算については、学園から与えられている分で支払えるはずだ」


 桜の問いかけを受けて、キリエが凡その人数を告げる。場所としては比較的安全な場所で、魔物にしても天桜学園近辺程度の強さしかない。今の冒険部では人数を集めるのはそれなりに容易だし、連携を高める事を考えれば、様々な面子で構成するのも悪くは無いだろう。


「わかりました。では、人員の選定に入りますね。見積書はそちらに?」

「ああ・・・できれば持って帰れるか? そのまま審議に移ろうと思っているんだが・・・」

「あ、はい。わかりました。椿ちゃん、見積書、お願い出来ますか?」

「はい、かしこまりました」


 桜の言葉を受けて、椿が見積書のテンプレートを取り出して桜のメモを基に記載を始める。そうして、10分ほどで幾つかのプランが出来上がった。予算に応じて必要な人数を変えただけなので、そこまでの時間は掛からなかったのである。


「桜様。こちらで」

「はい・・・」

「・・・うん。とりあえず問題は無さそうだな。わかった。ありがとう」

「はい」


 桜から見積書を受け取ったキリエがそれを鞄の中に大切に仕舞い込むと立ち上がって礼を言う。これで後は持ち帰って部の顧問や上層部で会議を行って、実際に依頼を出して、という段取りだった。そうして、キリエを見送って、桜が再び執務室に帰って来た。


「桜様。もし依頼に許可が出た場合、人員の構成はいかがしますか?」

「そうですね・・・万が一に備えて、機動力の優れた瑞樹ちゃんには残っておいて貰った方が良い、と思いますね。レイアちゃんの即応体制は残しておきたいですし・・・」


 椿からの問いかけを受けて、桜がとりあえずの考えを出す。相変わらず瑞樹とレイア以外の竜は居ないが、それでも、たった1時間で300キロを飛行出来るあの機動力と天竜という高火力は持って行くよりも残しておいた方が良い、と判断したのであった。

 なお、補給が出来るのなら、速度は兎も角航続距離はもっと伸びる。レースの時は無補給がルールだったので出来なかっただけだ。


「かしこまりました。では、それ以外で人員の募集を行っておきます」

「そうですね。お願いします・・・あ、隊長は私が向かおうと思います。人数がそれなりですし、万が一の戦力は有していた方が良いでしょうから」

「かしこまりました。では、用意は整えておきます」


 桜の考えを受けて、椿が頭を下げて依頼の用意に入る。そうして、この日は桜もこの用意に奔走することになるのだった。




 依頼の見積書については即日許可が下りて、前回の一件からなるべく安全策を取ろう、という事で最も値段の高いプランが採用されることになったらしい。

 その日の夜には折り返しで魔導学園の職員から連絡が入り、トントン拍子に出発の段取りが決まる事と相成った。それから、数日。出発したその日の夜。キリエが馬車の中に据え付けられた椅子に座って苦笑を浮かべた。


「時々思うが・・・君たちは一体何を持っているのだろうな」

「えーっと・・・これは、まあ・・・シャムロック? という方から依頼の達成報酬として、貰ったんです」

「シャムロック? シャムロックシャムロックシャムロック・・・」


 何処かで聞いた名前だ、とルークが頭を捻る。彼は前の一件を受けて、安全の為に急遽付いて来る事になったのである。が、どうやら出てこなかったらしい。頭を捻るだけ、だった。


「誰だったかな・・・少し前の先生だったかな? じゃあ、関係ないか」


 ルークは首をひねりながら、ずっと前に居た先生の一人、と結論付ける事にしたらしい。彼は半人半神(デミゴッド)だが、そこから浮遊大陸から離れて久しい。そして、彼の父であるオーリンはシャムロックの名前を呼ぶ事はほとんど無かった。

 いや、間違いのない様に言えば呼ぶ事はあるが、ルークの前では少なかった、という所だ。それ故、彼の頭にも残っていなかったのである。


「あ、あはは・・・まあ、とりあえず・・・これは使えますからね」

「それはそうだな」


 桜の言葉に、キリエも同意する。彼女らが今回使っていたのは、神王シャムロックが持ってきた馬車だった。御者はティナが改良を加え、馬については公爵家の運営する会社から急遽借りてきた。人数編成や人員の構成から馬車を借り受けるのでは無く、これを使った方が良いだろう、と考えたのである。


「・・・それは置いておこうか。とりあえず、明日からの予定を改めて伝えておこう。到着予定は明日の昼ごろ。道中結界を展開して自炊などキャンプ一泊で、その後は遺跡の調査に3日掛ける予定なんだが・・・今回は下見だから、例によって例の如く・・・と言っても君達には馴染みは無いか。流石に下見でそこまでの日程は組まない。一日泊まって、一応表層部を調べて、終わりだ。我々はどんな予定で進むか、何か問題は発生しないか、という下見だな」


 キリエは桜達が居る事を思い出して、きちんと詳細を語る事にしたようだ。と、そんな会話を行っていると、お風呂場からヨシュアが顔を出した。


「あふぃー・・・いいお湯だったー・・・あ、マークの奴毛づくろいする、つってたんで、もうちっと長風呂だってよ・・・あ、会長。ウチでもこの馬車買いません?」

「いくらすると思っているんだ・・・」

「そんな高いですか? ウチの実家もこれと同じじゃないですけど、キャンピングカータイプの物は取り扱ってますし・・・普通に何台か持ってますしね。会長も、でしょう?」


 湯上がりのヨシュアの言葉に、キリエがため息を吐いた。お金を持っているヨシュアは首を傾げていたが、本来はここに搭載されている機能をすべて合算すれば、一台でも家が立つほどに高価だ。


「ウチは公爵だし、ヨシュアの所は大富豪だろう。普通は持っていれるわけがないぞ・・・」


 キリエが一番始めに桜との会話で驚愕していたのも、これが理由だ。これは普通一介の中級ギルドが持つには少々高価過ぎる品、だったのである。そして間違ってもそんな物を莫大な人数を抱える魔導学園で買えるはずが無かった。


「そうですか・・・」

「買いたいのなら、実家に頼んでもう少し安い馬車を開発してくれ。需要はそれなりにあるぞ」

「どうでしょう・・・ウチ、結局はリデル様の指示に従って、という所あるんで・・・リデル様に伝えないといけなくなるんじゃないですかね」

「真面目に考え始めるな・・・」


 真面目に実家に訴えかけようと考え始めたヨシュアに、キリエが少し呆れる。とは言え、元々説明の最中だったのだ。何時までもそんな雑談をしているわけには、いかなかった。


「んん・・・話を戻そうか。とりあえず、我々の目的地は、マクスウェル中央部のやや南。森の中にある遺跡・・・いや、正確には遺跡群、か。先史文明の遺跡の一つだな。そう言っても遺跡の概形が比較的保存されていたため、調査はされ尽くした後だし、周囲には遺跡を観光名所として興った少し大きめの村がある所だ。基本的には、ここへ行く時はキャンプでは無く、交流会の趣が強いな。それに、そろそろ代替わりの時期だ。私が関わるのは今回の下調べの段階までで、実際に執り行うのは・・・こっちのリフィが執り行う事になっている」


 リフィ、と指名された生徒は、青いセミロングヘアの少女、だった。かつてカイトが遭遇したセフィ・クラフトの妹だった。ちなみに、姉のセフィも今回の下見には参加していたが、今は女子風呂に入っていた為、ここには居ない。


「というわけで、だ・・・段取りとしては、こんな物だ。来年というか次回からは、君がこういったやり取りをしてもらう」

「はい」


 キリエの応対を必死で覚えつつ、リフィが少し不安さを覗かせて頷く。少しいたずらっぽかった姉のセフィとは違い、妹のリフィはどうやら真面目そうだった。


「でだ・・・そちら側には、何か変わった事はあったか?」

「いえ・・・あ、ですが、もう少し避難については素早く動いていただけると、有り難いです。キリエさんやセフィさん達生徒会の皆さんは問題無いんですが・・・他の生徒さんだと、避難が遅れる可能性があります。そうなると、危険かと」


 桜の指摘は、移動の休憩時間で起きた事の指摘、だった。流石に馬車を一日中走らせる事は出来ない。人だけでなく、重い馬車を牽引する馬にだって疲労は溜まる。何処かでそれを回復してやらねばならない。

 その時に襲撃を受けての発言だった。どうしても、結界を解いて動き出すまでには僅かにラグが生じてしまう。そんな時に荷物を運ぶ後ろの幌馬車から外を眺めようと顔を出していたマークの横に危うく矢が突き刺さったのであった。


「ああ、それはすまないね。俺も一緒に同行しているから、そこらで、安心感が出てしまっているのかもしれないね」


 そんな桜の指摘に、ルークが少し申し訳無さそうに告げる。続けてマークの横に飛来した矢は、ルークの掌底での一撃によって、薙ぎ払われていたのであった。

 ルークの実力はランクAの冒険者に勝らずとも劣らない。元々があのオーリンの子供で、そして鍛錬を怠っていないのだ。当然といえば、当然だろう。

 そしてそれは魔導学園の生徒達にとって周知の事実、だ。だがそうであるが故に生徒達に安心感が出てしまって、避難に遅れが生じてしまっていたのである。平和ボケにも似た現象だろう。


「わかった。それは肝に銘じておこう。リフィ。当日は私達以外の生徒も増えて、場合によっては混乱も予想される。避難誘導は遅れが出ない様に、しっかりと統率を行え」

「はい」


 魔物との戦いを前にして、避難の遅れは命の危険に繋がる。それ故、桜からの指摘を受けて、キリエはそれを自らの胸に仕舞い込むと共に、リフィにそれを伝えておく。

 そうして、その他諸々のやり取りを終えて、ルークが感心した様に告げる。それは、今日一日桜達の戦いを見て、の感想だった。


「じゃあまあ、こんな所だね。にしても、やはり実戦を経験させるのは良いのかもしれないね。桜くん達もカイトくん達に劣らず、腕前は確かな様だ。君達も年若い冒険者だというのに、十分な可能性を持っているね」


 桜率いる冒険部の面々には、ソラの所と同じく天桜学園以外の冒険者も混じっていた。その彼らもまた、彼の受け持つ生徒達よりも経験という所で遥かに上回った実力を示していた。


「うーん・・・何か実戦的な演習を考えた方が良いのかもしれないね。ユリシア先生にそこの所、進言してみた方が良いかもしれないな・・・」


 ルークとて教師だ。それ故、こうやって生徒のより一層の成長を願って、思慮に耽る事はあった。と、そんな所に、馬車に取り付けられた通信機に着信が入った事を示すサインが光った。


「・・・あ、多分カイトくんだと思います。一応外に出ている面々は適時連絡を取り合おう、ということにしてましたので・・・」

「ああ、そうか。そういえば彼は今、学園長と共に出ているのだったか・・・分かった。一度こっちでも今までの応対にミスや改善点が無かったか、というのを話し合いたい所だったし、行って来てくれ」

「あ、じゃあ、イヤーカフありがとう、って伝えてもらえますか? あれのおかげで耳が蒸れなくて・・・ほんとにありがとうって」

「はい、分かりました」


 非常に感謝の念を抱いているらしいマーク――相談中にお風呂から上がった――からの伝言を聞いて、桜が立ち上がる。そうして、彼女はカイト達との連絡会に参加すべく、馬車の操縦室へと、歩き始めるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。この後22時から断章・10の公開を行います。そちらもお楽しみください。

 次回予告:第612話『密航者』


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