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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第35章 ミナド村遠征隊編

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第606話 追撃戦開始

 ミナド村近くの森の中心部で始まった宗教集団とソラ達の戦いだが、終始ソラ達有利のまま、戦いは進んでいた。経験値はもとより、気迫も桁違いだったからだ。


「はっ!」

「ぐふっ・・・死の加護のあらんことを・・・」


 由利の放った矢が敵を簡単に射抜く。敵の力量はかなり弱く、見るまでも無いほどだった。どうやらあの揃いのフードを身に着ける事が重要で、内側に何か重厚な防備を整える様子もなかった。総じて見て、冒険者として捉えれば、ランクはC程度も無いだろう。上に見ても、ランクD程度、だった。

 後に判明したのだが、最も力が強い信徒についてはティナが襲撃したジーマ山脈に配置され、ミナド村とカイトの居るフィーレの村の近くにはただ単に拐う為だけの人員が配置されていたらしい。村が近い事から冒険者を見繕う必要が無かった事が大きかった。

 まあ、それ故に満足に贄が集められず大司祭が来る事になったのだが、敵が弱かったことはソラ達にとって幸運、という所だろう。


「雑魚が死にに来んなよ!・・・ちっ。結構精神的に来てるやつ多そうだな・・・」


 戦いの最中、ソラは冒険部の面々のテンションが下がり始めている事に気付く。始めこそ怒りや戦場の興奮等の激情で保っていたが、人殺しを経験した事がようやく認識出来てきたらしく、顔を青く染めている者も出始めていた。

 このまま戦っても今の冒険部の実力なら勝利出来る事は出来るが、勝負を急いだ方が良さそうだった。ということで、常に最前線で荒々しく戦っていた夕陽に、ソラは指示を送る。


「夕陽! お前確か面攻撃で掃討出来たな!」

『出来るっちゃあ、出来るっすけど・・・でも殺せないっすよ!?』

「殺す必要は無い! ぶっ飛ばして気絶させりゃ十分だ!」

『うっす! 全員、周囲から離れろ! <<豪爆拳(ごうばくけん)>>!』


 ソラの言葉を聞いて、夕陽はダブルジャンプで跳び上がって地面に向けて<<豪爆拳(ごうばくけん)>>を放つ。衝撃波と吹き飛ばした岩盤で敵を一掃しよう、と考えたのである。そしてそれは案の定、冒険部以下の実力しか無い信徒達の意識を奪う事に成功した。


「良し! 全員縛っちまうぞ! それとヒーラーはこの場に待機して、けが人と精神的にまいってる奴の治療をしろ! まだ動ける奴の何人かはここに残って護衛! 他は俺と一緒に拐われた奴らを探すぞ!」


 この場の大半の意識を奪う事に成功したソラは、まだ動ける面子と共に即座に気絶した奴らの動きを縛り付ける。そしてそれと同時に、一同に向けて指示を送る。そうして、それが終われば即座に立ち上がって、拐われた面子の捜索に入った。


「ナナミー!」

「ナナミさーん! 聞こえてたら返事してくれー!」


 周囲の警戒をしながら、ソラとコラソンやその他面々は拐われた面子の捜索を行う。が、応答が無いので、ずっと地図とマーカーで誘導してもらっていた夕陽に問い掛けた。


「夕陽、どっちだ?」

『えっと・・・もうちょい先っす・・・ん?』

「どうした?」

『いや、急に一気に動き始め・・・』


 夕陽が違和感に気付くと同時に、少し遠くから馬の嘶きが微かに聞こえてきた。方向は、彼らの進行方向。つまりは、ナナミ達が捕らえられている方向、だった。それに一同が顔を見合わせると、即座にそちらの方向に走り始める。


「急ぐぞ!」

「おう!」


 ソラや無事な面々は大急ぎで走り始めて、そしてすぐに、再びフードの集団と遭遇する。


「つっ! まだいんのかよ!」

「ここは貴様らに任せる! 私は神殿に戻る! 奴らを血祭りに上げられんのなら、貴様らの血を神に捧げよ! とらわれる事はならん!」


 ソラが到着すると同時に、数台ある漆黒の馬車の中から顔を出した男が一同に指示を送る。そしてそれと同時に、馬車が走り始める。


「ちっ! どけぇ!」


 走りだした馬車を見て、ソラが再び斬撃を放つ。が、それでは馬車は止められなかった。馬車はどうやらかなり強固な力で守られているらしく、斬撃が当たるのだが、それがすり抜けたのだ。カイトの漆黒の外套と同じ力か、それに類する力だった。だが、そんな物を見たことのないソラは、思わずそれに目を見開く。


「はっ・・・」

「ソラ! 危ない!」


 目を見開いて思わず動きを止めたソラに、由利が慌てて声を掛ける。既に戦闘は始まっているのだ。敵がこちらに攻撃を仕掛けていた。呆けた状態のソラでは、直撃を食らいかねなかった。そんなソラの姿に、由利は一瞬で弓に矢をつがえて、敵をめがけて放った。


「ふっ!」

「つっ! ありがと!」

「気を付けて!」


 由利の矢で防がれた攻撃――正確には敵を射抜いて止めた――に、ソラが感謝を送る。そうして、しばらく拮抗状態が続く。どうやら大司祭の護衛に近い役割らしく、それなりに強かったのだ。とは言え、確かにランクC程度ではあったが、装備と練度が違いすぎた。すぐにソラ達が押し始める。


「ちぃ! 馬車の音が聞こえねえ!」

「おっさん! 危ない!」

「っと! ちぃ!」


 見えなくなった馬車に、コラソンが苛立ちを露わにする。このままでは、手掛かりは何も無し、になってしまう。なので、コラソンは敵の一人を殴りつけて、気絶させる事にした。


「らぁ!」

「ぐふっ・・・だが!」


 どうやら敵もコラソンがこちらを捕らえに来た事を理解したらしい。全員が顔を見合わせると、何かの魔術を同時に使用した。


「・・・は?」


 いきなり倒れ伏した敵を見て、ソラ達が混乱を隠せない。いきなり倒れて、動かなくなったのだ。


「どう・・・なってんだ・・・?」

「死ん・・・でる・・・?」

「つっ! そういうことか! 奴ら勝てないと悟ってとらわれるぐらいなら、ってあの大司祭ってやつの命令を実行しやがった!」


 誰も生き残っていない敵の亡骸を見て、コラソンがすべてを把握して忌々しげに声を荒げる。まさにその通りだった。捕らえられてはならない、という大司祭の命令を忠実に彼らは守ったのである。迷いも無く全員が一斉だった。

 と、それと同時に、通信機から声が響いてきた。声はナナミ以外がここ以外に捕らえられている可能性を考えて送った別働隊、だった。


『おい、ソラ! こっちに奇妙な台座を見付けた!』

「あ!? 奇妙な、ってなんだよ!」

『わかんねえ! とりあえず、画像を送る! そっちにゃ無いのか!?』

「・・・無い!」


 ソラは通信機の先からの言葉に周囲を見渡して、人質達が捕らえられていたらしい小屋以外に何も無い事を確認すると、即座に答えを返す。


『そっちはどうだ!? こっちは戦闘あったが、もう終わった!』

「こっちも終わったけど、拐われた奴らは馬車で連れ去られちまった!」

『つっ! どうすんだよ、それ! 夕陽のマーカーって20キロしか補足出来ないんだろ!』


 通信機の先の焦ったような声に、何処からとも無く翔が現れて答えた。


「いや、その前にマーカー仕掛けたから、50キロは補足出来る! 今すぐ戻ってこっちも馬車出しゃ間に合う!」

「成功したんだな! 良し! けが人とダメな奴は森から出て、村で待機! 公爵軍の到着を待て!」


 翔の言葉を聞いて、ソラが急いで一同に指示を送る。幸い、帰り道は魔物は出ない。疲労は考えなくても良いだろう。

 実は翔が与えられていた装備は、篭手と同時にもうひとつあった。それは、カイトが使った短剣型のマーカーを独自に改良した物だった。

 これは単に研究者の一人の趣味で改良された物だったので試験では使われなかったが、ここで役に立ったわけである。もし敵に食い止められて救助が間に合いそうになかった場合、翔は戦場に隠れて馬車に近づき、このマーカーを仕掛ける事をソラが命じていたのである。

 そうして、一同は急ぎ足でミナド村に戻って、状況の説明を残る面子に頼むと、比較的まだ余裕のある面子と共に、村が所有する馬車に乗り込む。


「ソラ、用意は良いな! 行くぞ!」

「おっさんこそ、御者しくじんなよ! 翔、案内は任せるぞ!」

「ああ!」

「じゃあ、出すぞ! 行け!」


 ヘッドギアを装着した翔の了承に、コラソンが馬達を走らせ始める。探査可能な距離は50キロ。馬車が一日で進める距離が100キロなのでその半分、だ。安心な様に思えるが、もし途中で竜車に乗り換えられれば、一気に追いつく事は出来なくなる馬車の用意等で一時間ほど経過しているので、あまり時間はなかった。

 そうして進み始めて少しして、ソラ達戦追撃隊が休憩を取る事にすると、そこで頭が落ち着いてきて、由利がソラに提言する。


「ねえ、ソラ。カイトかティナちゃんに報告しといた方が良かったんじゃないの?」

「あ・・・ちっ・・・すっかり忘れてた・・・魔法陣もそのまんまだった・・・あれだけはどうすべきか聞いとくべきだった・・・」


 焦りやいらだちで本来は助言を求めるべき相手に助言を求めていなかった事に気付いたソラは、苦虫を噛み潰したような顔になる。やはり彼はまだまだ見習い程度の指揮官なのだ。突発的な事件で抜けがどうしても散見されるのは、仕方がない事だろう。

 そうして、ソラはカイトが調査中――まだ関連性に気付いていない為――だろう、ということで、即座に応対してくれるだろうティナに連絡を入れる事にした。


「ティナちゃん。ちょっと良いか?」

『なんじゃ?』


 ティナは一瞬で出てくれた。そしてそれを受けて、ソラは少し焦り気味に――どうやら伝えるべき事が前後していたのは、まだ頭がきっちりと働いていなかったらしい――ティナに事情を語り始める。そしてその途中でカイトも会話に参加して、彼と応対を話しあう事になった。


「というわけなんだ・・・」

『・・・はぁ・・・叱責は後回しにしてやる。とりあえず、お前らはそのまま安易な突撃は避けろ。決して、奪還しようと思うな』

「っ! 何言ってんだ! 拐われたままにしとけ、ってのかよ!」


 カイトの言葉に、ソラが声を荒げる。そんな事が出来るはずがなかった。場合によっては陵辱されたりするかもしれないのだ。そのままにしておけるはずがなかった。


『落ち着け・・敵はオレが追ってた奴らと同じだ。であれば、拐われた奴らに何かをすることはありえん』

「なんで言い切れんだよ」

『こっちでも拐われてたと思しき奴らを救助した。が、暴れない限りは、非道はされていない。それに非道にしても、殴られた、程度だ。陵辱はありえん』

「・・・っ」


 カイトの言葉に嘘が無い事を見て取って、ソラがぎり、と奥歯を噛み締める。彼の言葉が信用に足ると理解したからこそ、それに従うのが最適だ、と判断したのだ。


『それに、オレももうそっちに向かっている。1時間もすれば、公爵領に入る。それまで我慢しろ。それに話を聞く限り、大司祭とやらにお前らは勝てる自信はあるのか?』

「・・・っ」


 カイトの問いかけに、ソラは歯噛みしながらも口を閉ざす。自らの持つ最大の一撃を余裕で防がれたのだ。無為無策に突っ込んで、馬車を止められるとは思わなかった。それはカイトから見ても明らかだ。

 だからこそ、彼はそれを敢えて指摘する。万が一にでも暴走されれば、単なる犬死だ。それは容認出来なかった。


『今のまま安易にお前らが突っ込んだ所で、勝てる見込みは無い。それに追われている事を敵が理解していないとは思えん。到着までの時間差を利用されて、待ち伏せにあって嬲り殺しが関の山だ。オレが行くまで我慢しろ・・・それとも、由利まで同じ目にあわせたいか?』

「つっ・・・」


 自分の恋人に同じ目を合わせてよいのか、と問われて、ソラが一気に頭を冷やす。理性はわかっていたのだ。カイトの言っている事の方が正しい、と。それを感情がなだめきれなかっただけだ。


「わかった。待ってる。が、早くしてくれ。こっちだって我慢出来るのにゃ限度がある」

『わかっている。だから、急いでるんだろ』


 落ち着いてみて、カイトの口調に僅かに苛立ちが混じっていた事にソラは気付いた。カイトとて全力を尽くしてるのだ。そうして、ソラは何も出来ない事に苛立つ気持ちをなだめつつ、通信を切って、身体を休める事にした。


「ソラ。俺の武器、一応研いでおいてくれ。御者やってると調整できねえからな」

「ああ」


 連絡を終えたソラに、コラソンが剣帯を外して投げ渡す。苛立ちを見て、何かをさせよう、と考えてくれたらしい。ソラはそれを受け取ると、剣を抜いて馬車に備え付けられていた砥石で軽く剣を研ぎ始める。コラソンの見立通り、何かやっていないと落ち着かないのだ。そうしている内に、カイトから再度連絡が入った。


『ソラ。聞こえるな?』

「ああ」

『確証が取れた。奴らは女ばかりを拐っているが、陵辱は出来ん様子だ』

「どういうことだ?」


 カイトの断言を聞いて、ソラが首を傾げる。断言出来るのなら、なんらかの根拠があるはず、だった。


『奴らは儀式の贄として、処女や他人の魔力の混ざっていない女を使うつもりだ。その痕跡が消えるのが、約1ヶ月。もし陵辱なんぞしてしまえば、儀式に影響が出ると考えている様だ。そんな事をしてもし儀式に影響を出してみろ。敵にとっては最大の邪魔にほかならん。そして奴らが奉ずる神にとって重要なのは、双子の月。それも同時に満月になる日だ。それは今日ではない・・・それに、もし急いで行動するにしても、動けるのは夜だ。夜以外は動き様が無い。それに、俺が居る事を知っているはずもないからな』

「そうか・・・じゃあ、とりあえずは安心、なんだな?」

『ああ。それどころか丁重に扱われている感もあったそうだ。だから、落ち着け』

「ああ・・・」


 カイトの言葉に、ソラ――とそれを聞いていた周囲の面々――はとりあえず安堵のため息をつく。これが嘘かもしれない、とはわかっている。だがそれでも、信じるしかなかった。そうして、ソラ達は馬車に揺られて、カイトの到着を待つ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第607話『桜・練習中』

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