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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第35章 ミナド村遠征隊編

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第597話 検査結果

 与えられた魔道具の試験を行うこと、数度。そこで二人には予想外の事が伝えられる。


「え・・・これ、くれるんっすか?」

「おう。テストしてくれたからな。外には出すなよ? 俺ら集まってるのバレると、厄介だからな」


 夕陽が試験の終了と同時にバックルを返そうとすると、それを押しとどめられたのだ。そうして告げられたのは、くれてやる、という一言だった。

 まあ、貰った鎧は救助隊等が使う防護服の役割が強い物を軍事用に少し改変しただけの物だ。一応夕陽に渡したのは外に出しても問題の無いモンキーモデルの試作品なので、彼にくれてやった所で特段の問題は無い。性能で言えば、モンキーモデルよりも更に少し低い程度にまとまっていた。

 更に言えば、変身シーンさえ見られなければ、少し変わった形状のフルプレートアーマーにしか思えない。これが最先端技術の塊だ、とは誰も思わないだろう。

 それに万が一奪われたとしても、これは冒険者登録証の原理を応用して、夕陽専用に調節していた。その他の安全装置も組み込んだので、解析は出来ないだろう。


「それに、総大将も許可下ろしてるしな」

「え?」


 技術班の男が顎で夕陽の後ろを示す。それに夕陽が後ろを振り向いてみれば、そこにはカイトが片手をあげていた。


「悪いな、馬鹿共の手伝いに借り出した様だ」

「いや、いいんっすけど・・・どうしたんっすか?」

「ティナと打ち合わせで来たんだよ」


 カイトは後ろ手に、ティナが居る方向を示す。カイトは半魔導機を作る大本になる大型魔導鎧の輸送計画の打ち合わせで問題が出てティナと急遽打ち合わせの必要が出たので、研究所に来たのであった。

 来い、とティナを呼び出して来るのを待っていると、おそらく日が暮れて更に日が昇るだろう事が目に見えていたからである。


「仕事っすか・・・で、これ、マジでいいんっすか?」

「ああ、モンキーモデルの更にモンキーだからな。手間賃だ。受け取っとけ」

「あざっす!」


 カイトの言葉に、夕陽が嬉しそうに頭を下げる。元々彼はこれを一つぐらい欲しいな、と思っていたのだが、無理だろうな、と思っていたのだ。如何に彼とて、軍用品の試作品を貰えるとは考えてもいなかった。


「そういや・・・打ち合わせ終わったのにこっちに来たって・・・なんか用事っすか?」

「ああ、帰るついでにお前ら連れて帰ってくれ、って頼まれてな」

「? 流石に自分一人で帰れるっすけど・・・」


 カイトの言葉に、夕陽が首を傾げる。彼はこのティナの地下研究所について何の説明も聞いていないので、普通には入る事も出る事も出来ない、と知らないのであった。


「あはは。ここ、お前一人じゃ出れないぞ?」

「は? 普通に来た道ぐらいは覚えてますって」

「そうじゃないんだ。ここは空間が歪んでるからな・・・」


 訝しげな夕陽に対して、カイトは翔を待つ時間を使って説明を始める。そうして、説明が一段落落ち着いた頃に、黒いスーツを脱いで元の服に着替えた翔がこちらにやって来た。


「あれ? なんでカイトが居るんだ?」

「ああ、まあ、帰る時に連れてけ、って頼まれてな。お前も貰ったようだな」

「あ、おう。一応、な」


 カイトの問いかけを、翔が認める。その腕には彼がテストしていたリストバンドの一つがあった。ちなみに、彼はこの研究所が一人で帰れない事を知っているので、説明は不要だった。


「あれ? 篭手も貰えたんっすか?」

「あ、篭手は元々俺の為に作ってくれてたんだってよ」

「うっそ、羨ましいっす」


 篭手二つを貰って返って来た翔に対して、夕陽が少し羨ましそうな顔をする。ちなみに、これを提示したのは、実はカイトだった。

 自分が外の領土に出る事が決まって、自分以外もそろそろ他領主の所に出なければならない頃だろう、と手はずを整える事にしたのである。

 実は篭手の各種機能は冒険部上層部が持っているスマホ型魔道具ともリンクする事が出来て、翔が先に斥候を務めて、その後に他の面子が侵入、という事が出来るようにしておいたのである。


「まあ、これでとりあえず・・・オレが帰ってからまたテストだな」

「え? これで完成じゃねえの?」

「これを統合して、だとよ・・・」


 カイトががっくし、と肩を落とす。当たり前だが、色々な機能を搭載した道具を開発するにあたっては、まずは各種の性能を調査して、というのが常道だろう。幾らぶっ飛んでる『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』技術班といえども、そこら手抜かりはなかった。

 実はあれだけ高性能のように見えても、実は今までにいくつかあった技術を彼らが改良して統合した物を開発しただけ、だったのである。これを更に改良して統合した物が、カイトが使う物になる、らしい。らしい、なのは結局問答無用に出来た物を渡されるから、だ。


「あはは・・・そりゃ、ご愁傷様・・・」


 今日の一日だけでも、本来の目的とされていた試験以外に幾つも強引に試験に付き合わされたのだ。ここの技術班の強引さを身に沁みて理解した翔は、苦笑して慰めの言葉を掛けるしかない。それに、カイトは苦笑して肩をすくめる。


「まあ、オレが使えるモン作ってくれるのこいつらしかいねえ、っちゃあいねえんだけどな・・・っと、こんなとこでだべってるとまーた巻き込まれる。行くぞ。追加料金だ。酒でもおごってやる」

「おっしゃ、どもっす、先輩!」

「あ、おい! 俺も行く!」


 カイトの言葉を聞いて、夕陽がカイトの後ろにつづいて歩いて行く。その後ろを、少し慌て気味に篭手を持った翔が続いていく。そうして、一同は研究所を後にするのであった。




 夕陽達が研究所で試験を行う少し前。ソラは少し前に調査してもらった事の報告を受ける為、ミースの所にやって来ていた。


「ちわーっす・・・今大丈夫っすか? 前にやってもらった検査の結果聞きに来たんっすけど・・・」

「ああ、丁度良かった」


 保健室代わりに使っていたギルドホーム1階の事務室のミースの部屋を尋ねると、そこには研究所を訪れる前のカイトと見知らぬ少女が一人居た。それもカイトに鎖で繋がれた、だ。となれば当然だが、疑問に思う事は、一つだった。


「・・・何やってんの? お前・・・それ、見られたら死なね?」

「死ぬな、多分」


 誰か分からないが、とりあえず美少女――まあ、こんな事をするのはリーシャしか居ないが――を鎖で繋いで四つん這いで側に仕えさせているのだ。事情を把握しているクズハ達はともかく、桜達だけでなく学生達に見られると、と思うと流石にカイトもぞっとする。

 とは言え、カイトはソラの問いかけに呆れ気味に、肩を竦めるだけだ。これが、ご褒美だ。どこかで隠れてまたカイトが何か無茶をやらかしたらしい。とは言え、患者が来たのでカイトは鎖を解くと、リーシャの椅子を引く。


「はぁ・・・患者来たから、終わりだ」

「え・・・はい・・・」

「え・・・?」


 終わりを告げられて非常に残念そうなリーシャに対して、ソラが頬を引き攣らせる。カイトの趣味だ、と思ったのだが、何か違うような気が一瞬だけしたのである。

 だが、カイトが目で触れるな、と言っていたので、触れない方が良いような気がして、ソラはとりあえずスルーする事にする。そうして、用意されてあった患者用の椅子に腰掛ける事にした。


「で、丁度良かった、って・・・どういうこと、っすか?」

「ええ、丁度貴方の診断結果が出たから、皆で話してたのよ・・・えっと、それで、これが診断結果・・・のコピーね」

「あ、どもっす」


 ソラは一通の封筒に入った少し薄めの書類を受け取る。封筒にはソラの名前と、公爵家の経営している病院の名前、そして精密検査結果在中、と記されていた。

 とりあえず、ソラは受け取った書類の中を見ることにする。そこには、いくつかの魔術的な検査結果が記されていた。


「・・・お、魔力保有量むっちゃくちゃ上がったなー・・・」


 ソラが嬉しそうに、自分の上達結果に満足気に頷く。今まで十数ヶ月の間ほとんど休むこともなく訓練をし続けてきたのだ。確かに今までも上達しているな、とは自分でも自覚していたが、その結果が実際の数値として表示されたので、嬉しかったのである。


「大体5万ちょい、か・・・これで今どのくらい、なんだ?」

「そうだな・・・まあ、当初出会った当時のアル達の半分よりもちょっとだけ少ないぐらい、か」


 カイトは少し遠くを思い出しながら、ソラの質問に答える。あの当時のアルは概算としてランクBの上位クラスからランクAの下位ぐらいだった事を考えれば、今現在ランクC上位のソラは保有量としては、そんな所だろう。

 ちなみに、当時のアルはその少し前に行われた軍の検査によると、魔力保有量は10万前後だった。比較対象として上げるなら、今現在のラウル達がこのぐらいだ。多いように思えるが、彼らは大型魔導鎧の駆動の為に魔力保有量の増大訓練がメインなので、実力としては幾分劣る。


「うそだろ・・・まだまだ、ってことかよ・・・」

「そりゃ、英雄の子孫として英才教育施されて、おまけに学園を飛び級出来る奴らと比べてもな」


 ソラの落ち込んだ姿に、カイトが笑いながら正論を告げる。そもそも、彼らは皇国でも有数の戦士なのだ。そして実家は英雄の子孫として、その武名を受け継ぐに足りうる教育を遥か昔から施している。追いつけるはずがなかった。


「あはは。まあ、それは置いておきましょ? じゃあ、検査結果から、言うわね」


 落ち込むソラに対して、ミースが告げる。それを聞いて、落ち込んでいたソラは気を取り直して、姿勢を正した。


「とりあえず、貴方は95%ぐらいの確率で、水龍の力を受け継いでいるわね。形状は多分、細長い水龍種。最も水中行動に適した水龍の類よ。隔世遺伝はしていない様子だけど、高位の龍だったからか、眠っていた因子が少しだけ顔をのぞかせた、って所かしら」


 ソラに手渡した資料の原本を見ながら、ミースが説明をする。ソラの受けた検査とは、少し前にオーアからアドバイスを受けた通り、自らの身体についてミースからアドバイスをもらうこと、だった。

 そのミースから一度本格的な検査を受ける事を勧められて、カイトから紹介してもらって公爵家の経営する大病院に精密検査を受ける事になったのである。それで近々遠征があったので、今の内に聞いておこう、となったわけだ。


「まあ、でも多分、これ以上因子が顔を覗かせる事は無い、と思うわね。龍化するには、遠すぎるもの」

「遠いとか近いとかって、なんかあるんっすか?」

「あるわよ、そりゃ。ハーフってそのまま因子が半分になるわけじゃないけど、当然、純粋な人よりも因子は薄まる。まあ、相性によっては強くなる事もあるけど、普通は薄まっていくものよ」


 ソラの問いかけを受けて、ミースが何を当然な、と言わんばかりに説明する。確かにそれは当たり前といえば、当たり前の事だった。


「例外があるといえばあるけど、それは祖先帰りね。そこでだけは、1代限りでハーフぐらいの力は取り戻すわ。まあ、例外だから、そんな数が居るわけでもないし、少なくとも、今はまだ天桜の関係者では見つかっていないわね。祖先帰りだからって始めからそうなる子はそこまで居ないし」

「そんな少ないんっすか?」


 ミースの説明に、ソラが問いかける。天桜学園は密かに、無数の異族達の血を継いだ者達が集まっているのだ。まだ隠れているだけで、祖先帰りの一人や二人は居ても良いような気がしたのである。これに、カイトが答えた。


「桜の親父さん知ってるか?」

「ああ、覇王さん? まあ、そりゃな」


 ソラと桜は遠い親戚で、ソラの父親と桜の父親は幼馴染だ。働く業種が違うしお互いに多忙な役職なので滅多に顔をあわせる事は無いが、同じ一族の集まりになると、顔をあわせる事は当然ある。そこからソラと知り合いで無いはずはなかった。


「なら、話が早いな。彼は祖先帰りだ」

「えぇ!? マジ?」


 自分が昔から見知っていた男の意外な真実に、ソラが大いに目を見開く。とは言え、カイトは何も驚かせようとして、それを告げたわけでは無い。なので、平然と頷いて、続ける事にした。


「ああ・・・が、まあ、日本で祖先帰りで有名となると、彼ぐらい、だろうな。有名で無いなら、それなりにはいるけどな。それか、オレらが出会った頃にちょっと世間賑わわせてたあの連続殺人犯ぐらい、か」

「日本の裏知ってるお前で、そんぐらい、なのか・・・じゃあ、無茶苦茶少ないわけか」

「まあ、他にも数人知ってはいるから数十万人に一人、って所だろな。天桜なら居ても不思議でないが、まあ、眠ってたりすると、覚醒には程遠いんだろう」

「はぁー」


 ぽかん、と口を開けて、本当に少ないのだ、とソラは理解する。たった500人しか、天桜学園には居ないのだ。その数十万人に一人が居ないでも不思議はなかった。


「そういうことよ。エネフィアじゃあ因子がそこまで不活性化する事も無いからもう少し多いけど・・・それでも、数万人か数千人に一人、って所でしょうね」

「はぁ・・・まあ、そっちは理解したっす。それで、俺はどうなってるんですか?」

「そうね。じゃあ、本題に入りましょ」


 ソラの問いかけを受けて、ミースは改めてプロジェクターにソラの検査結果の画像を映し出す。そうして、ソラの検査結果についての説明が開始されたのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。本日21時更新の外伝もお楽しみください。

 次回予告:第598話『異族の血』

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