第595話 暴走の余波 ――試験1――
魔道具の説明を受ける、という事で試験を後に回された翔に対して、防具だけで全てが完結した夕陽は一足先に、公爵邸地下にある研究所内の試験エリアへと足を運んでいた。
『じゃあ、普通に入り口から突っ込んで、最上階に移動すりゃいいだけ、なんっすか?』
「おう。お前さん確か徒手空拳なんだろ? それで、お前さんに頼んだわけだ」
『ああ、そういうことっすか・・・』
技術班の男から改めて自分が選ばれた理由を説明されて、夕陽が頷く。聞けばこの某ライダー風の鎧は所謂軍用アーマーに近い構造で、使用者の兜の内側に表示される画面に索敵結果の表示や各種ソナーの検査結果、更にはそれから得られた情報を統合して解析して、地図を創り出す機能を兼ね備えた物だった。
地球で毒ガスのみならず目に見えない危険な気体という存在を知って、それほど強くない軍人や火山地帯等での災害時に救助隊が使える完全密閉型の鎧を開発してみたら偶然某ライダー風になってしまっただけ、と後にティナが言っていた。趣味で無いのに似てしまったのは、本当に偶然だったのだろう。
『とりあえず、各種ソナーを見ながら移動しろ。こっちからルートの指示等は一切やらん』
「うっす」
兜に取り付けられた通信機から、建物の入り口に立った夕陽へと連絡が入る。一応、今回の作戦は強襲作戦だ、という事だった。最終的には最上階に立て篭もる敵を発見、これを撃破した後、何処かに捕らえられている要救助者を保護することが目的だった。
『じゃあ、試験開始だ。扉はぶち破って構わねえぞ。後で<<修復>>で修繕すっから、建物ぶっ壊す勢いでやっても構わねえ・・・が、建物ぶっ壊しゃ要救助者もアウトだ。そこんところは気を付けろ』
「うっす」
夕陽は注意を胸に刻むと、首を鳴らして構えを作る。そうして、腰の乗った一撃を扉に打ち込んだ。好きにやれ、と言われたので、遠慮無く正拳突きを打ち込んで、堂々と進むつもりだった。
そうして扉に入ると同時に、いきなり横からゴーレムによって、剣――一応刃引きはしている――が振り下ろされた。
「ほいっと・・・はっ!」
夕陽は振り下ろされた剣を右腕で防ぐと、そのまま一気に剣を絡め取って強奪すると、そのまま一気にゴーレムへと突き刺す。すると、少し違和感を感じた。剣を使っている事を考慮しても、軽かった気がしたのである。
『気付いたようだな。そいつぁ使用者の腕力を底上げする力も入ってる。が、それは心持ち程度、だ。結局は自分で底上げしてやった方がでけえ。一応補助が加わってる、程度で覚えておけ』
「ああ、それでなんか軽いんっすね・・・とりあえず、建物の入り口に入ったんで・・・えーっと・・・ソナー起動。マップ構築を開始・・・」
夕陽は技術者の男の説明に納得すると、鎧に取り付けられた機能を使って、建物内部の構造を把握する事にする。本来ならば入る前にやっておくべきなのだろうが、ここらはまだ、夕陽の熟練度が足りていなかった。まあ、こんな鎧を使うのは始めてなのだ。仕方が無い。
そうして、2分ほど夕陽は入り口で立ち止まっていると、兜の中のモニターに建物内部の地図が表示された。
「・・・えっと。目的地がここ、だから・・・とりま階段ここか。じゃあ、このまま廊下一気に突っ切って・・・」
地図が表示された事で、夕陽はこれからの攻略プランを構築していく。まあこれが実戦なら本来は上や別の部屋から敵が下りてきたりするのだろうが、これは単なる試験で、そこまで実戦を求めているわけではない。言いっこ無しだろう。
「とりあえず、突っ走るか」
攻略プランの構築が終わった夕陽は、とりあえず廊下を突っ走る事にする。そうしてかなり速い速度で廊下を突っ走ったが、その幾つかの通り過ぎた部屋の扉から、敵と思しきゴーレムが現れた。
「ちっ! でもこのまま一気につっぱ、うぉ!?」
突っ走る。そう言うと同時に階段に駆け込んだ夕陽だが、それと同時に、爆発が起きて階段が崩れ去る。そうして、爆発によって、夕陽は思い切り廊下の壁を突き破って、外に吹き飛ばされた。
「いつつ・・・げっ・・・」
鎧のおかげで怪我は無かった夕陽だが、足を止められた事で廊下からゴーレム達が外に出てきて、包囲される。簡単な試験と言いつつも、そこまで簡単な試験にもしていなかった。直線距離で行けるようには作られていない。こう来るだろうな、という所には罠は仕掛けられていたのである。
「はっ! たっ! 食らえ!」
罠に嵌った夕陽だが、幸いな事は敵のゴーレムはそこまで強くは無い設定だったことだ。冒険者のランクとしてはD下位程度で、ランクC程度の実力を持ち、鎧の補佐を受けた夕陽の敵では無かった。そうして、粗方の敵を片付けると、再度夕陽は攻略プランを練り直す。
「とりあえず・・・まあ、ジャンプで行ける、か?」
当たり前だが、夕陽も冒険者だ。それ故、ジャンプ一つで建物の一階程度ならば、余裕で飛び越えられる。なので、そうする事にする。
「よっしゃ。よゆー」
ジャンプ一つで2階へと上がった夕陽は、とりあえず兜の内側で笑みをこぼす。この建物は3階建ての構造なので、後一つ上に上がれれば、終わりだった。
とは言え、階段は先程の衝撃で破壊されていたし、3階部分は瓦礫で完全に塞がれていた。このままでは、登れそうになかった。
「どうすっかな・・・ん?」
とりあえず、迷った時は鎧の機能を確認しろ、と言われていた夕陽はその助言に従って鎧の機能一覧を見ていたのだが、その中に気になる機能を発見する。
「ダブルジャンプ? なんじゃこりゃ?」
見たまま2回ジャンプだろうが、それが出来るのか、と夕陽は首を傾げる。とは言え、出来ると記されているのだから、やってみる事にした。
「うぉ、スゲ!」
試しにダブルジャンプの機能を使いジャンプをしてみた夕陽だが、一度空中に飛び上がり、それが最高点に達した所――最高点に設定したのは夕陽――で、何と足下に魔力の足場が出来たのだ。が、それは凡そ1秒程度で消滅する。
「うわぁあああ!」
まさかいきなり足場が消えるとは思っていなかった夕陽は、そのまま地面にお尻から落下する。まあ、これもまた、鎧の保護機能によってダメージは負わなかったが。
「どして?」
『当たり前だろ、小僧・・・お前は自分の魔力量考えてんのか・・・あんな足場ずっと出してりゃすぐにガス欠なんぞ。だから1秒の安全機構設けてんだよ。第一段階でもリミッター外したきゃせめてランクBぐらいまでは上がれ。そうすりゃ5秒程足場出せる。やろうと思えば、空中を走る事が出来るぐらいにゃなる』
「うがっ・・・マジっすか・・・」
どうやら夕陽の力量がまだこの鎧の全てを引き出すには至っていないと判断されて、幾つかある安全回路が働いている状態らしい。
とは言え、とりあえず1秒でもあれば、もう一度ジャンプは出来る。それを決めると、夕陽はとりあえず近くの部屋へと入る。どうやらここには運良く敵は居ない様子だった。
「よっしゃ・・・はっ!」
とりあえず敵が居ない事を見て取った夕陽は、窓を手刀で叩き割って、そこから上を見上げる。すると、そこにもやはり、窓があった。
「よっしゃ・・・とう!」
上に窓がある事を確認した夕陽は、窓の縁に足をかけると、そこからジャンプして、3階程度の高さにまで跳び上がる。そして、大体高さが一緒になった所で、足場を創り出して、それを蹴って、一気に3階の窓に飛び込んだ。
「敵・・・無し」
窓を突き破って部屋に入った夕陽は、即座に敵が居ない事を確認する。標的が3階に居る事は聞いていても、3階の何処にいるのかまでは、教えられていなかった。
「あ、一応念の為に使っといた方が良いのかな?」
出て行こうとした夕陽だが、そこでふと、少し昔に瞬から道具はきちんと使え、と言われていた事を思い出す。瞬達はシャムロックから受けた言葉だったが、それを彼らも身に沁みて理解して、夕陽達後輩達にも言い聞かせていたのだ。そして、これは正解だった。
「・・・あれ? 上に反応あり?」
各種センサーで部屋をサーチしていた夕陽だが、上に物音がした事に気づいて、天井に視線を上げる。一見するとそこには何も無かったが、よく見れば、天井に切れ目らしい物が見えた。
「隠し部屋、ってやつか?」
兜の音響ソナーを使って上を検査すると、案の定そこには部屋がある事が理解出来た。しかも、どうにも人が居る様子だった。
「どっちだろ・・・」
夕陽が考えるのは、これが敵のボスか、それとも要救助者か、だ。それを考えた夕陽だが、とりあえず、隠し部屋に居るのだから重要人物だろう、と判断する。そうして考えるのは、ここを開ける方法だ。
「えっと・・・どうすりゃ良いんだろ・・・あ、そだ。ぶっ壊して良いんだよな」
これは推理ゲームでは無いのだ。なら、天井をぶっ壊して強引に出入り口を作る事も手の一つだ。というわけで、夕陽はそれを選択する。
「<<爆裂拳>>!」
夕陽はジャンプすると同時に、上に振り上げるように、拳を振りぬく。すると、拳は天井を突き破って、夕陽はそのままの勢いで天井に作られた隠し部屋へと入る事が出来た。
すると、このパターンも一応『無冠の部隊』の技術班も考慮していた――カイトが最もやる方法だからだ――が、実際にやった夕陽を見て、彼らが称賛を送る。
『やるじゃねえか、小僧』
「どもっす・・・可愛い要救助者っすね」
称賛を受けた夕陽は、中に居た要救助者を発見して、確保する。まあ、要救助者といっても、単なるくまのぬいぐるみだったのだが。
『恋人でも居るんなら、くれてやんな。自分で抱いて寝てもいいけどな』
「あはは。どもっす。とりま詩織にくれてやっか・・・」
とりあえず要救助者ことくまのぬいぐるみを確保した夕陽は、鎧に取り付けられていた小物入れにそれを突っ込んで、天井から下りる。
すると、そこにはボス役らしいゴーレムが一体と、護衛らしいゴーレムが5体程待ち構えていた。人質が先に救助されたパターンも考慮されていたのだ。
「っと! ちょっと強い!」
交戦を始めた夕陽だが、やはりボスとあって少し強かった。ランクは雑魚がランクD下位だったのに対して、このゴーレム達は護衛がランクC下位、ボスはランクD下位上位、という所だろう。護衛達は夕陽とほぼ同程度の実力だった。
「もう遠慮いらねえんだよな! じゃあ、いっそ!」
今の夕陽では、ランクCに取り囲まれては勝ちは得にくい。一対一ならば勝てるかもしれないが、取り囲まれると少し厳しいものがあったのだ。ということで、夕陽は床に向けて、構えを取る。
「<<豪爆拳>>!」
夕陽は床に向かって、<<爆裂拳>>の上位技である<<豪爆拳>>を叩き込む。爆発の威力と範囲を増した<<豪爆拳>>は床に衝突すると同時に爆発を起こして、ゴーレム達の乗る床を打ち砕いた。
「っとと! とりゃ!」
床が崩れる瞬間に足場を作って落下を防いだ夕陽は、床に巻き込まれて落下するゴーレムを横目にジャンプで窓から脱出する。
「うおっと!」
窓から脱出した夕陽は、すこし地面を滑ったものの、なんとか怪我もなく無事に着地する。そしてそれと同時に、アラートが鳴った。試験終了の合図、だった。
『おーっし。上出来だ、小僧。これで試験は終了だ』
「うぃーっす・・・疲れたー・・・」
技術班の男から終了を告げられて、夕陽はその場に腰を下ろして小物いれからくまのぬいぐるみを手に取った。
「要救助者確保、ってね」
夕陽はぽふぽふとくまのぬいぐるみを叩いて遊ぶ。どうやら作りは悪く無いらしい。常日頃心配を掛けている幼馴染へのプレゼントには悪くはないだろう。
幸い彼女は今時の女の子には珍しく、清楚でおとなしい女の子だ。こういった少し女の子っぽすぎるプレゼントは好んでくれた。まあ、どちらかと言えば夕陽からのプレゼントだから、喜んでくれているという方が大きいだろう。
「おーっし、じゃあ小僧。データ取って建物修復すっから、とりあえずそこどいてろ」
『あ、うっす』
横から技術班の男達が何人もやって来たのを見て、夕陽は立ち上がって移動を開始する。そうして更に、ベルトのボタンを押し込むと、鎧が消え去った。
「じゃあ、これ」
「おう。お前さんは少しの間休んでな。飲み物欲しけりゃあっちで貰ってこい」
「うっす」
夕陽はベルトを外して技術班の男の一人に手渡すと、その場を後にして、少し離れた場所にある試験者用の休憩エリアに腰を下ろして、備え付けられていたドリンクを手に取った。
ドリンクの中身は当然、回復薬だ。一応研究者達用に普通のジュースや紅茶、コーヒー等の飲み物も置いてあるが、試験で魔力を失ったので、回復しておこうと思ったのである。
「うっお、すっげー・・・」
腰を下ろして技術班の男達を見ていた夕陽だが、そこで目にしたのは、やはり彼らも英雄だ、という事だった。
なんと彼らの内の一人が夕陽が破壊した建物に向かって手をかざすと、巨大な魔法陣が現れて、まるで時計の針を逆向きに進ませたかのように修復されていくのだ。割れた窓は破片が浮かび上がって元通りに復元し、爆発で崩壊した床と階段は少し浮くと、一気に元の形を取り戻す。まさに、超絶の秘技だった。
「おっし。これで次の試験に入れるな。調整入れよー」
「おーう」
魔法陣を展開していた技術班の男の言葉に、翔の試験の用意をしていた男達が手を振って答える。こうして、ものの数分で、翔の試験が出来る状況に建物が修復されたのだった。
「じゃあ、お前さんはもうちっと待ってな。あ、ちょっとするとここら少し暗くなるが、気にすんなよ」
「そうなんっすか?」
「おう。翔の小僧の試験は夜間を想定してるからな」
「んなのも出来るんっすか・・・」
「ここを何処だと思ってんだよ。剣と魔法の世界で、ここはその中でも世界最高峰の研究所、だぜ?」
夕陽の言葉に、技術班の男が自信満々に答える。幾ら地球に似たような研究所の状況でも、ここは異世界なのだ。そこらを一緒にしてもらっては困るのであった。そうして、夕陽が失った魔力を回復し終わる頃には、周囲が闇夜の中に包まれて、翔の試験が始まるのだった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第596話『暴走の余波』
2016年10月14日 追記
・誤字修正
『翔』とすべき所が『夕陽』になっていた所を修正しました。




