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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第34章 暴走する者達編

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第591話 繋がる

 飛空艇から外に出たホタルは、完璧にありとあらゆる方法で姿を隠すと、即座に飛翔を開始する。目指す先は言うまでもなく、はるか遠くの隣の山、だった。

 転移術はバレる可能性があるので、使うつもりは無かった。同じく魔力の消費から敵にバレる可能性があるので飛行術も全力では無いし、魔導機も半魔導機も飛空艇も姿を隠している。目的は敵状偵察だ。その前にこちらがバレては困る。


「・・・」


 まだ感情が定まっていないホタルは、無駄な事は口にしない。だが、何も思っていないわけでは、無かった。


(高度6000メートルでの行動に支障は無し・・・本機のスペックの上昇率、およそ500%と推論)


 本来、彼女の身体は高度数千メートルで行動出来るようには開発されて居なかった。搭載している術式が、それに対処できていなかったのだ。そこにティナが手を加えて、無駄な部分を取り除いて出力に見合った性能を出せるようにした結果が、この5倍の性能の上昇だった。宝の持ち腐れ、とティナが嘆いていた。

 更には鹵獲時にはぴっちりとしたスーツ状の服しか着ていなかった彼女だが、ティナの趣味で戦闘用には鎧のような服も与えられていた。

 この鎧には自力飛翔出来る彼女のさらなる加速の為の飛翔機を筆頭に、今の彼女が使っている赤外線センサー等へのステルス機能等が組み込まれていた。


(回転・・・問題無し)


 新たに調整された身体に慣れるのは必要だろう、とホタルは試しにスラロームしつつ、くるくると回転する。すると、昔の自分よりも遥かにしなやかな動きを取れた。もはや人と見紛うばかり。そんな目に見えた変化に、思わず、ホタルが笑みをこぼした。


「ふふ・・・笑った? 私が・・・?」

(感情・・・?・・・有り得ない・・・一時推論は中断・・・身体性能の把握に務めるべき)


 自分のこぼれた微笑みに、ホタルが訝しげな顔をする。そこに固さは無かった。まあ、感情の種というかその核となる物は持っていたのだ。薄くだが、感情があるのは、当然だった。

 とは言え、それに悩む事は今は出来なかった。仕事中だ。なので、疑問を横においておく事にして、自らの身体性能の把握に務める。


(鎧にマルス帝国時代には無い既知外の新規領域を確認・・・赤外線カラー監視カメラ・サーモグラフィー複合装置・・・使用手順も機体内部にアップロード済み・・・)


 一応、やろうとすればホタルの身体をいじくり回して鎧で外付けした科学装置を搭載する事は出来る。が、そんな事をすればホタルの造形美が失われる、とティナはしなかったのだ。

 彼女のソフトウェアの面はティナから見れば乱雑かつ煩雑な物も多かったが、ハードウェアとしてみれば、ホタルの見た目の愛らしさ等を含めて、まさに職人芸と言える段階で整っていたのだ。

 少なくとも、今後1000年は余裕で通用する技術が搭載されていた。調査の結果特型ゴーレムの中で唯一彼女のみに搭載されていた魔導炉に至っては、偶然の産物と言える程だった。

 戦後も残党が整えていたのも頷ける出来栄え、だった。これに下手に要らない物を組み込めば、逆に性能が落ちかねない。まさに、職人芸。その極みの一つだった。それ故、ティナは外付けで最古の魔石を取り付けて、意思を持てるようにするだけに留めていたのである。


教授(プロフェッサー)。本機は当該地上空6000メートルに到着しました」

『うむ。状況の調査を開始せよ』

「了解」


 ホタルは鎧に搭載された望遠装置を使い、情報を飛空艇に送信を始める。すると、そこに映っていたのは、やはり、予想通りの光景、だった。


『やはり、か・・・面倒じゃのう・・・』

「肯定します」


 ティナの言葉を、ホタルも認める。そこに映っていたのは、カイトが発見したカルト集団の別働隊だった。こちらはカイト達よりも場所の問題で遥かに発見がし難く、今の今まで何の情報も寄せられていなかったのだろう。


『ふむ・・・魔物はあの光に引き寄せられている、という所じゃな』

「肯定します。当該エリアの魔物はあの光を目指して、活動しています。周囲には魔物対策の結界もある模様。一定以上の距離からは近づけない様子です」

『面倒じゃのう・・・儀式が何を目的としておるかはわからんが、終了してはいさようなら、じゃと魔物が一気に麓の村を目指す可能性もある・・・見過ごすわけにもいかん、か・・・』


 ティナが非常に嫌そうな顔で、どうするかを考え始める。既に敵である事が確定しているのでぶっ潰せば良いといえば良いのだが、何の魔法陣なのかは今に至っても不明だ。面倒この上無かった。と、そうしてどうするか考えていたティナだが、そこに誰かから連絡が入ってきた。


『む・・・ソラか。しゃーないのう・・・なんじゃ?』

『あー、ティナちゃん? ちょっとわりいんだけど・・・何か変な魔法陣見つけちまったんだが、どうすりゃ良いと思う? と言うか、悪いんだけどさ、村に残った奴に指示与えらんない?』

『む?』


 何処か焦ったようなソラの言葉に、ティナの頭に非常に嫌な予感が頭によぎる。カイトの位置は西、ティナの位置は東、ソラの位置は北、だ。

 そこから導き出される結論は、既にカイトに少し先に述べた通り、南にもある、という事だった。とは言え、まだ、確証は無い。なので、ティナは更に続けて、問いかける事にした。


『・・・それは、どんなの、じゃ?』

『あ、ちょっと待った・・・ちょいと血がついてるのは、勘弁してくれ・・・えっと、何処入れたっけな・・・あー、くそっ。あった・・・今送る』


 少し焦った様子を見せたソラは、大急ぎで画像の用意を始める。そんなソラのセリフの中に紛れ込んでいたある単語に、ティナが凡そを察して問いかける。


『・・・待て。もしや、お主ら・・・変な集団と戦ったのではなかろうな?』

『あ、ああ。少し前に何か奇妙なフード被った奴らと・・・』

『馬鹿者! 何故勝手に突っ込む! そういうことは報告せんか! 何のために連絡用の道具渡したと思っておる!』

『わかってるよ! でも、こっちも今やばいんだって!』


 どうやらソラの焦っていたのは奇妙な集団と戦ったから、では無いらしい。先ほどから焦った様子は滲み出ていたが、怒鳴られた事で語感が大きくなっていた。

 とは言え、今はその詳細を聞いている暇は無い。とりあえずティナはソラを待たせる事にして、カイトに連絡を入れる。


『とりあえず、少し待て! その紋様は現在カイトが追っておる案件と、余の所にある案件と合致しておる! お主らの手に負えん状況じゃ! カイトが今皇帝レオンハルトと話しておる! そちらに連絡を入れるから、少し待て!』

『つっ! 分かった! でも早くしてくれ! 何人か拐われてんだよ!』


 ティナの言葉に、ソラもどうやら現状が自分達が考えている以上に逼迫している、と気付く。とは言え、彼女の焦った様子から、いらだち混じりであったが口を閉ざす。そして告げられた焦りの原因に、ティナも思わず舌打ちした。考えた以上に、向こうの状況も逼迫していたのだ。


『ちぃ! やはり、ここ以外にもある、か・・・カイト、聞こえておるな!』


 ティナが少しの焦りをにじませつつ、カイトへと情報を送る。そうして、全てを伝え終えて、ソラへと問いかける事にした。


『下手人は誰じゃ?』

『えっと・・・襲った奴らと同じだけど、一人無茶苦茶偉そうな奴が居た。そいつが、ナナミさんとか何人か見て、連れてけって』

『主犯は北じゃったか!』


 どうやらカイトに伝えている間に少し落ち着いたらしいソラの言葉に、ティナは主犯格が北に居たという不幸に気付く。発見できた3つの中で一番戦力が手薄なのが、北側だったのだ。それ故、逃げられたのだろう。どう考えてもソラ達の命があっただけ儲け物レベルだった。と、それとほぼ同時に、飛空艇に乗り込んだカイトから連絡が入る。


『情報をくれ。誰が拐われた?』

『ナナミ以下、数名の村娘じゃ』

『いや、違うんだ。冒険部からも、数人女の子が拐われてる』

『ちっ・・・方角は?』


 顔見知りと仲間が入っていた事に、カイトが舌打ちする。とは言え、いらだちを見せたのは一瞬だけ、だ。年季の差、だった。


『南だ。カイト、今どうなってんだ?』

『それ以前に、お前ら暴走して追ってたりはしねえよな?』

『・・・悪い。馬車使って追ってる。コラソンさんも一緒だ。今は馬車動かしてくれてる』


 ソラは申し訳無さそうに、カイトに報告する。それにカイトも思わず一瞬怒鳴ろうと思ったが、助けようと必死だったのだろう。

 これは自分も何度も通った道だ。叱責するよりも、窘めるよりも、先に状況を問いかける事にする。そうして、カイトが応対にあたった事で、ティナはこちらの案件にとりかかる事にする。


『・・・分かった。今は何も言わん。その代わり、状況を教えろ』

『すまん・・・』

『カイト。そちらはお主に任せる。余はこちらの対処に入ろうと思う。もしやすると、何か分かるやもしれん』

『頼んだ。オレの領土で要らない事をした事を存分に後悔させてやれ。数人は捕らえろ。が、他は好きにしろ』


 ティナの提言を受けて、カイトは自らがソラ達の応対にあたり、ティナには彼女が発見した山中の魔法陣の応対にあたってもらう事にする。指示は、偉そうな奴だけを残して他は殺しても構わない、という事だった。


『ホタル。聞こえておったな?』

「肯定します。本機の通信網にも一葉より通話が入っていました」

『よろしい。ならば、一度撤退せよ。特殊外装の使用を許可する。まずは周囲の魔物を掃討する。丁度良い。武装のテストもさせてもらおうかのう』

「了解」


 ティナの指示を受けて、ホタルは身を翻して飛空艇へと戻っていく。もう既に敵は敵として、確定して良いだろう。ならば、遠慮は無用だった。魔物の討伐も含めて、存分にやらせてもらうだけだ。


『さて・・・皇国軍及び公爵軍各員に告げる。白兵戦用意。あの集団は公爵家の調査員が調査していた集団の別働隊と確定。皇帝陛下より、勅令が下った。当該の集団を討伐せよ。可能ならば、捕獲を。捕獲には封印措置と四肢の拘束を行え』


 ホタルの帰還を見ると同時に、ティナは試験部隊全員に命令を下す。魔物に対応する為に、武器の類は持っていていた。魔導機も半魔導機も、ここらの魔物程度ならば魔銃で遠距離から蹴散らせる。調度良いので、テストの的になってもらおう、ということだった。


『本艦は上空からの強襲作戦を行う。護衛部隊は周囲からの敵増援に備えよ。魔導機及び半魔導機は山の西側へと移動し、山に集う魔物に向けて、狙撃を行え』

『『『はっ!』』』


 ティナの指示を受けて、全員が軍礼で応じる。皇帝レオンハルトの行動は早かった。これが敵だ、と判断すると、即座に討伐指示を下したのである。

 特に現在近くで潜んでいるティナ達には、即座に勅令が下ったのだ。その御蔭で、ティナも即座に試験部隊を攻撃に移らせる事が出来たし、勅令も正式な物が回ってきたので、全員が迷いなく行動に移る事が出来た。そうして、少し慌てつつも、飛空艇の中が慌ただしくなっていく。


教授(プロフェッサー)。特殊外装の装着完了」

『うむ。余は飛空艇から全体の指揮を下す。久しぶりの全軍総指揮じゃが、まあ、問題はない。そちらは全武装、思い切り使って構わん』

「了解」


 ホタルは今度は何の危険要素も述べる事は無く、ティナの命令を受け入れる。今度はきちんとメンテナンスされているし、その情報は彼女にもアップロードされている。以前はただ単に最後のメンテナンス情報が数万時間前で停止していた為、安全策を提示しただけなのだ。


「特殊外装『一式鉄騎』飛空艇よりパージ」


 がこん、という音と共に、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の技術班の趣味を満載したホタルの特殊外装が落下を始める。

 そしてそれと同時に、ホタルは丸まっていた身体を伸ばして『一式鉄騎』と名付けられた特殊外装の各所に取り付けられた飛翔機に火を入れて、姿勢の制御を開始する。


「背面及び脚部スラスター起動。姿勢制御・・・着地完了」


 ホタルのベースは機械的だ。それ故、思考速度だけで言えば、アイギスよりも遥かに速い。特に今の彼女には迷いがほとんど無いからだ。それ故、最適解のみを導き出し、一瞬で姿勢の制御を終えると、難なく山の傾斜に着地する。


『・・・あ、あれ人型兵器だったのか・・・』

『でかくてごついわね・・・あれ、誰が使ってるわけ?』

『こちらにはパイロット情報は教えられていない』


 一応念の為に持っていく兵器だ、と聞かされていたテスト・パイロット達は、実際に動いた所を見て、思わず頬を引き攣らせる。大量の魔砲を搭載していたので、てっきり魔砲を山程積んだ自走砲の一種だ、と思っていたのだ。


「お姉さま。援護をお願いします」

『イエス。あ、なにかおしりがむず痒いですねー』


 ホタルからお姉さまと呼ばれ、アイギスがこっ恥ずかしそうな顔をする。まあ、そう呼ばせたのは彼女なのだが。


「理解不能です、お姉さま」

『うぁー』

『アイギス。恥ずかしがるのは良いけど、さっさと補助して』


 自分で呼ばせたのは良いが、実際に呼ばれてみると照れたらしい。照れくさそうにしていたアイギスに対して、メルが叱責する。既に作戦行動は始まっているのだ。無駄話をして準備が遅れるのはマズかった。


『あ、申し訳ありません。補佐、開始します。照準器の補正はこちらで行います。メル様はただ敵を狙って撃つだけで大丈夫です』

『オッケー』


 アイギスの補佐を受けたメルは、皇帝レオンハルト用となる緻密な装飾が施された腕部武装の使用を決定する。カイトの物は軍用機なので無骨で良かったが、こちらは皇帝専用機だ。それ故、基本的には防御重視でお飾りだ。装飾が施されているのは当然だった。


『やり方は腕を突き出して、魔力を通すイメージで良い?』

『イエス。右腕『インペリアル・バスター』の使用方法はそれで大丈夫です』

『よーっし』


 メルは右腕を前に突き出して、武装を展開する。すると、右腕の手首の部分からすっぽりと手を覆うように魔砲が接続される。

 右手は使えなくなるが、その代わりに、これで作り出される魔弾を魔刃として使う事も出来るようになる。皇帝専用機が無闇矢鱈に武器を搭載しては問題だろう、という配慮から生まれた武装、ということだった。と、そうして笑顔で魔物を狙おうとしたメルだったが、その前に、アイギスが注意事項の説明を行った。


『あ。メル様』

『何よ?』

『出力100%のフルチャージショットやると山を貫通しますので、出力はこちらで制御させて頂きます。と言うか、それ以前にメル様では使いこなせません。一発二発が限度かと』

『ぶっ!』


 アイギスからの言葉に、思わずメルが吹き出す。一体皇帝専用機を何だと思っているのだ、と思ったのだ。本来は前線に出て兵士達を鼓舞するだけで良いのだ。本当に決戦兵器並の力を持たせるとは思っても居なかったのである。


『そ、それ・・・お父様使えるの・・・?』

『一撃ぐらいであれば問題もなく』

『そ、そう・・・』


 メルは改めて、自らの父親のぶっ飛びっぷりを把握する。伊達に皇国最強を名乗ってはいなかった。と、そんな二人に対して、見るに見かねてホタルが口を挟む。


「お姉さま。皇女殿下。飛空艇は作戦ポイントへと到着。皆、号令を待っているのですが」

『あ・・・ん、んん。アイギス、通信を繋いで頂戴』

『イエス』

『総員、戦闘用意。試験部隊はこの場から砲撃戦を行い、敵の注意をこちらに向け、飛空艇の突入部隊の援護をします』

『はっ!』


 メルの指示を受けて、全員が武器を構える。敵はまだこちらに気付いていない。なので、偶然魔物が山頂を目指していると気付いた大型魔導鎧の部隊が魔物の討伐を行っている、と思わせるつもりだったのだ。

 そうして敵の注意をこちらに向けた上で、上空から飛空艇に乗った揚陸部隊が急襲を仕掛けて、首謀者達を捕らえよう、という作戦だったのである。ティナはそれら全ての指揮を担う。魔王の本領発揮だった。


『では・・・てぇ!』


 メルは各員にそう告げると同時に、自らも右腕に取り付けられた魔砲の引き金を引く。そうして、大量の魔物の軍勢へと、魔弾が射出されて、作戦が開始されたのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。と、言うわけで次のソラ編にも繋がります。

 次回予告:第592話『殲滅戦』


 2017年8月23日 追記

・誤字修正

 物語序文『ホタル』とすべき所が『アイギス』となっていた所を修正しました。

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