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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第34章 暴走する者達編

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第589話 半魔導機

 オーア達が暴走を続けていた頃。ティナは仕事に取り掛かっていた。


『うむ。では、右足を出してみよ』

「はいはい」


 ティナの命令に従って、コクピットに乗り込んだラウルが一歩足を前に出す。それに合わせて、半魔導機の足が動いた。更には歩く時に動く手の動きに合わせて、半魔導機の手も動く。その動きは非常にスムーズで、大型魔導鎧よりもしなやかだった。


「次は、左足じゃ」

『了解』


 次いだティナの指示を受けて、コクピットのラウルは再度足を前に出す。それに合わせて、当然だが、半魔導機が動いた。そうして、それを繰り返して、何度か歩行試験を実施する。


「・・・問題はなさそう、ですか?」

「うむ。まあ、望みを言えばキリはないが・・・これで良いとするしかなかろうな」


 研究者の一人の言葉を受けて、ティナが少し不満そうだが、納得して頷いた。これは魔導機では無く、大型魔導鎧と魔導機の中間、半魔導機なのだ。本来はティナも想定していない構造ではあるし、そもそも使っている部品も大半が皇国が用意した物だ。ティナがそれ用に改修を加えて重要機関を作り出したとは言えども、性能が落ちるのは仕方がなくはあった。


「良し。とりあえず、これで基本動作については、問題は無い。これで、他の物も組み立てて大丈夫、じゃろうな」

「わかりました。では、残る機体を一度に組み上げに入る事にします」

「うむ。では、テスター達はこの組み上げた試験機を使って、慣熟訓練に入る。その後、各機が組みあがり次第、各々の機体で試験を行う事」

「了解です、少佐」


 研究者とテスト・パイロット達が、軍礼で答える。そうして、1機組み上がった事でそれなりのノウハウが得られた事で、各々の作業が本格的な段階に入る事になるのだった。




 1機目の半魔導機が組み上がってから約一週間。相変わらず騒々しい『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の技術者達を他所に、半魔導機の改修作業は大した問題も起きること無く終了した。

 まあ、部品はこの申し出があった時から用意していたし、大型魔導鎧の知識もあるティナだ。魔導機と大型魔導鎧の違いは把握していた為、改修プランにしても既に作っていた。分解作業にしても皇都の中央研究所が持ってくる前にやっていたので、後はパーツを組み上げるだけ、だったのだ。当たり前ではあった。


「これで、持ってきた全機の改修は終了、じゃな」


 目の前で魔導機と変わらぬ姿を現した半魔導機を見て、ティナが頷く。既に簡単な動作試験は終わらせられているので、後は本格的な試験を行うだけ、だった。

 ちなみに、ティナはここ当分公爵家の面々に監督作業を任せて地下に引きこもって技術班の面々と特殊外装の改修作業を行っていたのだが、問題は無かったらしい。

 まあ、一応教えるべき事は教えているし、連絡は取れるようにはしておいた。それに、研究者達の中には記憶を魔術で保管している者も居るのだ。焦ったりしなければ、ミスは無かった。


「背面の飛翔機等は、そちらで確認するんじゃったな?」

「ええ、全てコチラで、というのは無理が有りますからね」


 ティナの問いかけを受けて、研究者の一人が頷く。当たり前であるが、ティナが全ての部品を用意したわけではない。半魔導機の飛翔機は全て皇国製だ。というわけで、今試験をする必要は無かったのである。

 そもそも今回の試験は魔導機の中核を成すモーション・トレース・システムとでも言うべき物を搭載したコクピットの安全性の検査だ。飛翔機や内部武装等の互換性等は、そもそも考慮に入っていない。持ち帰って試験をしてもらった方が良かった。


「よろしい・・・では、お主らには自由にしばらく動いてもらう。何か不具合があれば、担当の研究員に報告せよ。そこで解決できない問題があれば、そこから余にあげよ」

『「了解」』


 ティナからの指示を受けて、各半魔導器の状況を観測するコンソールの前に座った研究者達と、ラウル達テスト・パイロット達が頷く。そうして、基地の少し外で試験が開始されたのだった。


「反応速度が目に見えて上がったよな、これ・・・」

『と言うか、女性用にも調整してくれてる、っての凄いわね』


 ラウルのつぶやきに対して、マイが同意する。男性と女性では、どうしても動きに差が出る。それは筋肉の付き方の問題で、どうしようもない事だ。そこについては大型魔導鎧は無視する事にしていたのだが、半魔導機というか魔導機ではそこらも対処出来るように調整されていたのである。


「結構出力上げないと無理だけど、飛翔機無しでバク宙とバク転、ねぇ・・・研究者達泣いてないか? この性能・・・」

『ぶっちゃけ、何人か本気で辞職考えた、って噂あるわね』

「まあ、そうなるよなー」


 マイの言葉に、ラウルがため息を吐いた。当然といえば当然だ。数十年どころか数百年単位で開発してきた技術が、たった一人の技術者で塗り替えられるのだ。プレッシャーを感じるのが居て当然だった。

 とは言え、相手はチート級の存在だ。比べるのが間違い、と考えるのが良いだが、そう考えられないのもまた人の性、というべきなのだろう。


「で、それでもこの半魔導機、だっけ・・・で、モンキーモデルなんだろ?」

『あっち、陛下用のコクピットブロックの検査やってる奴は動き段違い、だったものね・・・』

『あれは恐ろしかった』


 ラウルとマイの会話に、カヤドが口を挟む。とは言え、彼が口を挟みたくなるぐらいの性能差があったのだ。やはり筋肉の存在は、馬鹿に出来なかったのである。何よりもしなやかさが今よりも遥かに違った。


「やっぱり隊長もそう思いますか?」

『ボールジョイントの搭載等で第6世代でも随分と動きがよくなった、とは思っていたのだがな・・・それを遥かに上回る、か・・・』


 ラウルの問いかけを受けたカヤドが、自分たちの新世代機になって搭載された新機構に言及しながら、ため息を吐いた。彼らには、筋肉の存在は伝えていない。それ故の疑問だった。

 ちなみに、コクピットについても変更した結果、彼らのコクピットはほぼカイトの魔導機と同じ通信機能や望遠機能を手に入れていた。まあ、流石に赤外線センサーやX線、放射線測定器等は搭載していないので、それ相応には性能は落としていた。


「にしても・・・皇女殿下御自らテスターを、か・・・かなり本気、だな」

『それほど凄い技術だ、というのは俺達が誰よりも理解していることだろう』

『まあ、そうですけど・・・』


 三人は少し離れた所で試験を武術の型稽古に似た動作を行う皇帝専用機をコクピットに搭載されたセンサーで拡大して観察する。

 パイロットは、ラウルが指摘した通り、メルだ。彼女の武芸の型の基本は皇帝レオンハルトの物と同一なので、動きの確認をするには最適だったのである。彼女の動きについていけるのなら、皇帝レオンハルトが使っても問題無い、と判断して良いだろう。

 彼らが魔導機の操作性を知っているのは、テスト・パイロット達がメルが使うためのテストを行ったから、だった。彼女も皇位継承権を持つ皇女だ。皇帝レオンハルトよりも重要度は落ちるが、重要人物には違いがない。テストの為のテストを誰かが行うのは当然だった。


「皇女殿下の行動を完全にトレース、か・・・あれだけの武芸を出来るようになった、ということは武者修行の旅は結構きつかったらしいね」

『ランクB・・・いや、下手をすればA程度の実力はありそうだな。軍でエースを張れる実力だ。皇女殿下自らが剣を持って最前線、というのは我々として有り難い物では無いがな』


 メルの大剣捌きを見ながら、ラウルとカヤドは兵士としての能力を判断する。結局、家出と言うわけにもいかないのでそのまま武者修行と言うことで通したのだが、軍人の彼らでバレないのなら安心だろう。裏事情や噂を知らないからこそ、なのであるが、素直に勘違いをしていた。


「少なくとも、俺とマイちゃんは負けそうだなー」

『一緒にしないでよ』

「じゃあ、あれに勝てる?」

『・・・無理だけどー』


 大剣をまるで小刀のように扱うメルを見て、マイが首を振る。彼女の本来の武器は短剣なのだが、その振りぬく速度よりも、メルの一撃の速度の方が早かった。

 まあ、彼女ら大型魔導鎧のテスト・パイロット達は魔力保有量の大きさこそが、最も必要とされる要素だ。別に強く在る必要は無い。それこそ極端な話ランクDであろうと、大型魔導鎧の試験を行えるだけの魔力が足りていればそれで十分だった。

 彼女らの仕事は戦う事では無く、軍人達が使う魔道具の試験をすることだ。非常時には戦うので武芸は出来なければならないが、軍人だから強くなければならない、というわけでは無いのは当然だった。と、そんな雑談混じりだった一同だが、途中でティナから指示が入った。


『あ、ラウル中尉。ソフィーティア少佐がホバーの調子を見たい、との事なので、試験をお願い出来ますか?』

「はいはい・・・と言うかさ、これ、貰っちゃってよかったわけ?」

『さぁ・・・』


 ラウルの問いかけに、通信機の先のルーズが困ったような顔をする。というのも、この中で唯一、彼の機体だけは持ってきた時から半魔導機化以外の改良が加えられていたのだ。それが、彼の言う『これ』だったのである。


「ホバー用低燃費スラスター、だっけ?」

『らしい、ですね。高度を限定する代わりに、脚部だけの飛翔機でホバリング出来るようにした物、です』


 ルーズがため息混じりにティナから渡された脚部のデータをラウルの目の前のモニターに表示する。彼の半魔導機からは特徴的なスカートが取り除かれて、足が少しだけ肥大化していた。脚部に飛翔機を内装した結果、少しだけ肥大化したのだ。

 そうして、モニターに表示された自らの脚部を見ながら、教えられた手順に従って、脚部の飛翔機の手順を行う。


「えっと、確か、このコンソールで・・・」


 慣れれば一瞬で終わる作業だが、彼の場合はまだ乗って数回だ。それ故、きちんと確認しながら、ホバリング移動の為に脚部の飛翔機を起動する。


「良し・・・で、これで・・・ととと・・・」


 やはり少し付け方が違うとバランスが変わってくる。今までスカートでなれていたラウルであるが、急に足から浮き上がるような感覚にはまだ慣れていなかった。


『どうですか、中尉。スラスターの調子は』

「そっちは問題無いんだけど・・・うわっと・・・これ結構難しい。コケないのが精一杯だな」


 今まではスラスターが事細かく動いてくれていたおかげで姿勢制御はほとんど考えなくてよかったのだが、その代わりに、燃費が悪かった。今回のは燃費は良くなったが、使い方は一変していたのである。と、そんなラウルを見るに見かねたらしく、ティナが割り込んできた。


『ラウル中尉。それを使う場合は、足を動かさず、重心移動で動く事を心がければ良い。まあ、脚部のスラスターのみで動くことは滅多に無いとは思うが・・・今回は試験じゃし、脚部スラスターだけでの移動がゼロとも言い切れん。試験を頼んだ』

「了解です、少佐」


 ティナからのアドバイスを受けて、ラウルは足をばたつかせるのでは無く、重心移動によって、移動する用に心がけてみる。すると、まるで滑るように、移動を行えた。が、少し傾けすぎて、そこですてん、と転ぶ事になった。


「うおぁ!」

『何やってんの・・・』


 マイの呆れた声が響く。まあ、ものの見事におしりからコケたのだ。呆れたマイの顔には、何処か面白そうな笑みがあった。そんなマイの助けを借りつつ、ラウルが立ち上がった。


『はぁ・・・はい』

「い、痛みがなくて助かった・・・ちょっと姿勢制御には気を付けないとな・・・サンキュ」

『中尉、機体に問題は?』


 立ち上がったラウルに対して、コンソールで半魔導機を観測していた研究者が問いかける。それに、ラウルが手元のコンソールを操作して、機体状況を展開した。


「えっと・・・うん、大丈夫だな。地面に衝突直前に安全装置が働いて、飛翔機で減速されたおかげで問題は無いな」

『良かった。こちらでも同じ観測結果が出ています。問題なく、安全装置は働いていそうですね』

「だろうね」


 まあ、コケた程度で貴重な機体を壊されてはたまらない。修理費とてタダでは無い――一応、修繕用の魔術があるので安くは済む――のだ。というわけで、ティナの作った魔導機系列の機体には、飛翔機を使って衝撃を和らげる機能が備わっていたのである。


『では、中尉。再度試験をお願いします』

「はいはい」


 研究者の言葉を受けて、ラウルが再び試験を始める。それを、研究者とその横のティナは、観察を続ける事にする。


「ふむ・・・脚部のスラスターは魔導機系列じゃと各機に搭載しても良いかもしれんな」

「・・・そこまで量産性に優れているんですか?」

「まあ、そこそこ、という所じゃなぁ・・・結局魔導機そのものが単価が高いが故に、そこに継ぎ足した所で大して変わらん、という程度じゃ」

「量産性の悪化だけは、魔導機最大の難点として永遠に残りそう、ですね」

「そこは避けられんじゃろうな」


 ラウルの試験を見つつ、ティナが研究者の意見にため息混じりに同意する。別に、カイトの機体や自分達の機体だけであるのなら、青天井に素材をぶち込める。

 それに、実は緋緋色金(ヒヒイロカネ)は性能に反して素材だけならば非常に安い。素材そのものは扱える者が滅多に居ない所為で、需要が無いのだ。産出量もそれ相応に少ないが、使える者はもっと少ないのである。神の見えざる手、という現象が働いていたのである。

 土地や状況によっては魔法銀(ミスリル)以下の値段で取引される事も少なくなかった。現に300年前の戦争時代にはそうだった。最大は倍近くにまで差が開いたそうだ。

 閑話休題。皇国で量産することを考えれば、そう言ってもいられない。そもそも使い手の問題から使える素材の種類も限られる。それに、量産性も整備性も考えなければいけない。それこそ緋緋色金(ヒヒイロカネ)製の魔導機なぞ、カイトやティナ達ぐらいしか使えない。限られた範囲でしか、出来ないのである。


「うーむ・・・ここら、初代皇妃であられたユスティーツィア殿が生きておられれば、と思うんじゃがのう・・・言うても詮なきこと、とは理解しておるがなぁ・・・」


 ティナはそもそも、ワンオフが得意分野だ。設計思想もそれに特化した物になっている。それ故、簡素化したとしても、まだ出来る部分がある事に気付かなかったりするのだ。

 その点、簡素化に長けていたユスティーツィアは、その不備を補える人材、だったのである。カイトやイクスフォスが聞けば少しの憐憫を浮かべそうなセリフだったが、二人はこの場にはおらず、変わりに居るのは、何も知らない研究者だけだ。


「あはは。それは確かに」

「余はどうにもそこは苦手、じゃからのう・・・まあ、苦手があって当然、じゃな。試験に戻る事にしよう」


 ティナも苦手とする分野があった事にほっと安堵した研究者を横に、ティナは再び試験の監督にとりかかる。そうして、この日一日は様々な状況下でのデータの収集に務める事になるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第590話『高所試験』

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