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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第34章 暴走する者達編

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第583話 違和感

 少しだけ、時は遡る。カイトがまだ魔導学園で学生をしていた頃の事だ。ティナはあいも変わらず今日も今日とて公爵家の自分の研究所に引きこもっていた。


「うむ。やはり自分の研究所が一番、じゃな」

「おー」


 ティナの言葉に、アウラが同意する。彼女もティナも基本的に研究所に引きこもって研究か、執務室に引きこもって書類仕事か、だった。が、そんな彼女らでも、悩む事がある。


「にしても・・・うーむ・・・どうやって、こちらに持ち込んだ物かのう・・・」

「すごく・・・おっきい・・・です」


 二人が見るのは、テラール遺跡で発見された特型ゴーレム用の巨大な特殊外装だ。正確には、そのワイヤーフレームモデル、という所だ。

 輸送されてきた魔導機についてはマクスウェル近郊にある公爵軍の本拠地に備え付けられている軍基地に置かれて解体中で、そこまでは二人の手は必要が無かったのである。


「でかすぎる、というのも難点じゃのう・・・ガチタンのロマンは良いが・・・ふーむ・・・とりあえず、特型ゴーレムに聞いてみたい所じゃが・・・」


 ティナは自分でつぶやいてから、自分の研究所に新たに設置した大きなカプセルを流し見る。そこには、カイトが鹵獲した特型ゴーレム達が格納されていた。

 調べた所、これは彼女らのメンテナンス用の格納庫だったらしく、新しく作りなおす必要も無いので幾つかの調査を行い、そのまま使わせて貰うことにしたのであった。今日はその初使用、という事だ。


「ふーむ・・・とは言え・・・これは良い考えじゃな。余も今後はこの類の・・・うむ、メンテナンスポッドと言うべき魔道具を量産させてもらう事にしよう」


 自分の目の前のモニターに表示される特型ゴーレム達の検査結果を見つつ、ティナが感心したように頷く。大きさ等から軽いメンテナンスとエラーチェック程度しか出来ないが、それでも、この利便性は感心出来る物があったのである。

 彼女としてもこういった類の物は開発したい、とは思っていたが、これはその目的と完成形にかなり近かった。それを考えると、これをベースに自分の完成形を創り上げるのが得策だ、と考えたのである。とは言え、なんの問題も無かった、というわけではない。


「ふむ・・・この難点としては、このポッドもワンオフじゃ、という所か。量産性に富むゴーレムとはつくづく相反する理念をやっておるのう・・・」


 ゴーレムの最大の利点は、簡単な動作しか出来ない代わりに、量産性に富ませた事だ。構造はなるべく簡単に、性能はいまいちで良い。精度の高い仕事は、全て使い魔が行う。それが、本来のゴーレムと使い魔の分業制だった。だが、この特型ゴーレムはその理念に相反していたのである。


「複雑じゃのう・・・こりゃ、地球の二足歩行ロボットと比較しても遜色が無い・・・」


 上げられる検査結果を見て、ティナがため息を漏らす。本来、遺跡に備え付けられていたメンテナンスポッドには、構造を表示させる機能は存在していなかった。ティナが後付けで搭載したのである。

 この特型ゴーレムは帝国が秘密裏に開発していた物らしいので、設計図が遺跡には残されておらず外から解析出来るようにしたのであった。

 ちなみに、ティナの言うことはもっとも、だった。当たり前であるが、構造が複雑になればなるほど、部品の数が増えれば増える程、量産性は悪化していく。それは物の道理だろう。

 だが、このカイトが鹵獲した特型ゴーレムは全て、数千数万ものパーツから構成されていたのである。あれだけ柔軟な動きが出来るのも当然、だった。が、その分かなり量産性は悪かった。


「動力部分に魔力吸収装置を兼ね備えておるわけか・・・む・・・」

「凄い・・・」


 動力源となる部分を見て、ティナとアウラが思わず唸る。それほどまでに、その技術はすごかった。帝国が崩壊した後に完成したのもうなずけるぐらい、だった。


「ババ様にこの設計が誰か分かるか、聞いてみる事にした方が良さそうじゃのう」

「ん。じゃあ、送る手はずは整えとく」

「うむ」


 特型ゴーレム達には、今の技術では不可能な超小型の魔導炉が搭載されていたのだ。これを設計した魔術師か技術者には、ティナとしても興味があった。もしこれが有名な研究者であれば、かつて帝国の研究所のトップに席を置いていたユスティエルが知っているかも、と思ったのである。


「ふむ・・・にしても、誰じゃ、こんなパーツを考えついたのは・・・ネジにワイヤーに、シリコン樹脂に似た何か、じゃと・・・?」


 アウラが去った後。ティナは一人モニターに表示されていく詳細な検査結果を見て、訝しむ。その結果は、あまりに、おかし過ぎたのだ。だが、そんな材質面よりも、もっと可怪しい物が存在していた。


「まあ、材質は良いわ・・・これは・・・地球に端を発する術式と似ておる・・・じゃと・・・?」


 最も訝しむのは、ここ、だった。誰がこんな物を作ったのか。それは実は彼女にとって、かなり、疑問だった。理由は言うまでもなく、彼女のつぶやいた事だ。刻まれている術式の一部が、地球にある術式に似ていたのである。


「いや、あり得なくはない。所詮は人の作る技術よ。似ているのもあっても、可怪しくは無い。それが文明が洗練されれば、そうもなろう・・・」


 ティナは幾つもの推測をつぶやいていく。これに気づけているのは、彼女だけだ。カイトも気付いていない。地球とエネフィアという二つの世界を行き来した事があり、そして研究者として、二つの世界の術式を事細かく見たからこそ、気付けた事、だった。

 とは言え、確かに、可怪しい事では無いのだ。結局は、人が考えている事だ。同じく人である以上、作られる物が似てくるのは当然だろう。だがそれにしても、違和感が拭えない。


「じゃが・・・いや、まさか・・・」


 彼女自身、考えていてゾッとする答えに辿り着いて、思わず身を震わせる。彼女が拭えない違和感は、術式の洗練さ、だった。それがあまりに可怪しかった。洗練されていない段階で、類似性があったのだ。


「初代皇王以外にも、自由に世界を行き来出来る存在が居る、ということか・・・? あの種族が、手を貸した・・・?」


 考えれば考えるほど、ティナの行き着く答えは恐ろしい事にたどり着く。もしかしたら、歴史が塗り替わるかもしれない事、だった。


「どういうことじゃ・・・なんじゃ、これは・・・」


 ティナとて、ありえない、とは思っている。なにせ初代皇王イクスフォスの種族は、一つの世界に恣意的に関わる事を禁じている。それは地球に居た他ならぬ同じ種族の少女から聞いたのだから、正解だろう。

 彼女もカイトの恋人の一人にして、ティナが唯一ありとあらゆる意味で対等と認める女、だ。カイトへの溺愛っぷりは、自身と同等と認めている。自分の実家について、嘘を吐いている可能性はゼロだった。

 それに、彼女がそんな瑣末なことで嘘を吐くことは考えられない。そんな性格では無い。とは言え、もう一つ、考えられる可能性もあった。


「誰かが手を貸した・・・?」


 もう一つの可能性は、ティナがつぶやいた通り、その禁忌を破って、誰かが手を貸した可能性だ。初代皇王イクスフォスは致し方がない――出来損ないだった彼は自力帰還が出来なかった為――としても、他の存在であれば、地球から術式を持ち込もうとすれば、出来るはずだった。だが、それも可怪しかった。


「何故、もっと最先端の術式を持ち込まぬ・・・地球で無くても良いはずじゃ・・・いや、もしかすると、これが地球に端を発する物では無い可能性は無くはないが・・・」


 かつてアウラが言った通り、この世には無数の世界がある。そして、かつてフリオが述べたように、地球よりも遥かに科学技術が進んだ世界もあれば、エネフィアよりも遥かに魔術文明が栄えた世界も無数に存在しているはずなのだ。

 ならばわざわざ地球という未発達の文明から持ち込む必要も無く、発達した文明から持ち込めば、技術を発展させる必要が無い。自由に世界を行き来出来る存在が手を貸すにしても、可怪しかった。


「わからん・・・一体、何処から、そしてどうして、地球なんじゃ・・・? 何か、理由がある、のか・・・? もしや・・・」


 これが地球製だとするのなら、偶然にしてはあまりに、出来過ぎていた。彼女の恋人にして、勇者カイトは、地球出身。天桜学園も地球出身。カイトの師もまた、地球出身。

 後者はまだ更に過去の遺跡が不可思議な力を働かせたが故に無関係と見做す事も出来るが、それでもあまりにも多く、地球との関係があったのだ。更に地球には海棠翁の兄が居る。多すぎる、とも思えた。


「・・・いや、それはありえんな。世界を越えて自由に転移させられる存在はありえん」


 ティナが考えついたのは、天桜学園の転移が人為的に為された結果、という事だ。だが、それは自ら苦笑しながら否定する。そんな事は理論的に不可能だった。

 これはティナだから不可能、というのでは無く、規模の問題で、不可能、だったのだ。いや、理論上は可能だ。だがその理論上では、天桜学園の校舎とその人員達全員を転移させようとすれば、莫大な力が必要となる。その力を手に入れる事は、少なくとも、ティナには不可能だ。初代皇王イクスフォスの種族であっても、出力の問題から不可能だろう。

 カイトが本気になれば不可能では無いかもしれないが、今度はそれだけの魔力に耐え得る術式を創り出す事が、そもそも彼には不可能だ。

 カイトは万能に思えるが、出来ない事はきちんとある。そんな複雑な魔術を創り出す事は、カイトには出来ない。出来たとしても、ティナと先の少女の力添え無しでは、とんでもない時間が必要だろう。少なくとも、3年では出来無い。時間が足りない。更にはやる意味も無い。


「ふむ・・・やはり、推測出来るのは、地球とエネフィアがかなり近い世界じゃ、という事かのう・・・」

「多分、それは正解」


 ティナのつぶやきに、どうやら戻ってきたらしいアウラが答える。データの転送は終わったらしい。


「ティナ、解析、終わってる」

「む・・・? おぉ、確かにのう」


 解析の結果のあまりの奇妙さに色々と思慮に耽っていたティナであったが、そのせいでモニターに検査終了のサインが表示されていた事には気付いていなかった様子だ。というわけで、ティナは思慮を切り上げて、解析結果の考察に移る事にした。


「・・・ふむ。まあ、先の違和感以外には、おかしな所は無いのう・・・至極洗練された、良い術式じゃ」

「・・・解呪(ディスペル)出来そう?」

「それは無理じゃな」


 アウラの問いかけに、ティナが笑いながら断言する。主語の無いアウラの問いかけだったが、何を示すのかは、理解出来ていた。そうして、笑ったティナだが、モニターに向き直って、一転呆れ返った。


「まったく・・・相も変わらずの馬鹿力で隷属させおって・・・」

「おー、流石」

「さすがはさすが、じゃろう。余でもこれは変更出来んぞ」


 アウラが賞賛し、ティナが馬鹿力と呆れ返る人物となると、一人しか居ない。カイトだけだ。アウラが出来るか否かを問うたのは、彼女らの横のカプセルの中で眠る特型ゴーレムの隷属先の変更、だった。そもそもカプセルに寝かせて検査したのは、それが可能か否かを調べる為、だったのである。


「この強引な隷属・・・懐かしくはあるが・・・はぁ・・・強引すぎるのう・・・」

「どれぐらい強引?」

「ぶっちゃけると、余の時よりも遥かに、強力じゃな。この特型ゴーレムでは自力解呪は無理、じゃろう。まあ、それを狙ったんじゃろうがな・・・余以下の性能なのじゃから、余以下の術式で良かろうに」


 ティナが呆れ返りつつも、推測を述べる。あの少女型の特型ゴーレムは、現在はマルス帝国では無く、カイトを主としている。それはカイトが強引に書き換えたから、だ。

 とは言え、その書き換え方が、強引だった。隷属術式と言われる魔術を使って、強引に書き換えたのだ。これは彼がそれ以外に確実かつ即席で出来る魔術を思い付かなかったから、なのだが、それはつまりかなり強力な力でカイトを主とするように書き込まれている、という事だった。


「はぁ・・・余も同じ術式を食らったが・・・これを解呪(ディスペル)出来るようになったのは、大戦が終わった後、じゃからのう・・・しかも自分に仕掛けられた物じゃから、始めの内は結構本気でやろうと思っておったから、一年と少しで出来たわけで・・・これだけ強力なら、どれだけ掛かることやら・・・」

「ずるい」

「うらやましがるでは無いわ・・・」


 アウラの羨ましそうな視線を受けて、ティナが呆れる。ティナが暴れるものだから使われたのも、この隷属術式だ。これもまた、ティナの力量からカイトの馬鹿力で強引に隷属させていたのである。つまり、力で強引に屈服させたに等しい。


「今度おねーちゃんも鎖で繋いでもらうように頼も」

「勝手にせい・・・まあ、兎にも角にも、無理は無理、じゃ。皇帝陛下にも、そう伝えるしかあるまい」


 アウラの言葉に再度呆れ返ったティナは、そのまま、要点を伝える。別に皇帝レオンハルトからこの少女型特型ゴーレムの隷属先を変えろ、という命令は来ていないが、出来るか出来ないかの報告は必要だろう。


「ん・・・じゃあ、そのままで」

「それが良かろう。こんな無駄な事に一年も使う必要があるまい」


 アウラの結論に、ティナも同意する。別に隷属先を替えなくても良いのに、わざわざそれをする為に時間を使う必要も無い。ということで、そのままにしておくことに決める。


「ふむ。小奴らはこれで使っても大丈夫じゃろうが・・・もう少し、改良を加えておきたいのう」

「出来るの?」

「まあ、流石に身体の方に手は加えられん・・・が、搭載しておる術式の方に、手は加えられるのう。なので、そちらにしておこうと思う」

「ん。じゃあ、それも含めて、報告しとく」

「うむ、頼んだ」


 再び消えたアウラを他所に、ティナは今の時代に合うように、少女型特型ゴーレムの調整を行っていく。こうして、カイトが学生生活を行っていたある一日は、終わるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第584話『回収作業』

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