表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第33章 神様探し編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

603/3930

第581話 戦闘開始

 カイトが軍の司令部で自らの役割の指示を受けて、1時間後。カイトは20人程度の先発隊と共に、再び森の前に居た。目的はもちろん、奇妙な宗教集団の儀式場へと突入する為だ。


「カイトくん、君は単独行動だが・・・問題は?」

「無い、ですね。慣れてますし、陛下からもそこらは勘案されて、私に命令されていますからね」

「それもそうか・・・他国に近い君に重責を、というのは少し気が引けるが・・・頼んだ」

「所詮今は冒険者。金で雇われた身です。きっちり、お金分ぐらいは働きますよ」

「まったく・・・したたかなものだ。死ぬなよ」


 出発間際。カイトに向けて、先発隊の隊長格の男が激励を掛ける。まあ、そんな彼よりもカイトの方が強いのは他ならぬ彼ら自身が把握しているので、不安はそこまでは無かった。そうして、全員の準備が本当に整っているのを確認すると、隊長格の男が通信機を使う。


「司令部。こちら、先発隊。これより、出発する」

『こちら司令部。気を付けろ。結界の解除、もしくはアンカーのセットと同時に、本隊が一気に突入する』

『こちらユリシアです。万が一の場合には、結界の中心部と思しき場所に私が魔術を使用して、陣地ごと吹き飛ばします。無理だ、と判断した場合、即座に撤退をしてください』

「了解・・・では、出発だ」


 隊長格の男は腰の鞘から抜剣すると、何時でも戦闘に入れるように準備しつつ、後ろに控えた一同に向けて合図をして、歩き始める。目印は昨夜セットした魔道具だ。

 ちなみに、先発隊は結界内部に入ってから行動に移る事にしていた為、入るまでは見つからないように気を遣う事にしていた。無闇矢鱈に戦闘を行っては下手をすると何らかの儀式を強行される可能性があったので、結界内部に入り込んでから、にしたのである。そうして、一同は20分程警戒しつつゆっくりと歩くと、結界の端に辿り着いた。


「この先が、結界の内側だ。全員、準備は良いな?」


 結界の内部に入り込む寸前、隊長格の男は全員に確認を促す。これから先、場合によっては即座に戦闘が考えられるのだ。用意は万全を期して、だった。そうして、全員が抜剣して、隊長格の男に頷いた。


「良し・・・では、行くぞ。カイト、君は少し後から、だ」

「わかっています」


 カイトは彼らを陽動として、結界の基点を探すのが目的だ。結界の種類や何を使っているのかが分かれば、それで対処出来るからだ。

 そうして、先発隊が一足先に、結界の内部に入り込む。それに遅れる事、約1分。カイトも歩き始めるとほぼ同時に、先発隊の隊長格の男の声が聞こえてきた。


「我々はフィオネル侯爵麾下の・・・」


 隊長格の男が大声で、結界内部に居る者達へとこんな結界を張り巡らせる理由の問いかけと、投降を勧める。一応、今はまだ未遂の段階だし、大体何の目的でこんな事をしているのかも不明だ。

 もしかしたらバレた事で投降してくれる可能性もあった――投降されては流石に戦闘は出来ない――為、安易に斬りかかる事は出来なかった。


「司令部。こちらカイト。これより、先発隊とは別れて、結界の解除に向かう」

『了解した。気を付けろ』


 大声で奇妙な集団に対して投降を呼びかける先発隊の所に、フード姿の者達が集まり始めるのを見て、カイトが行動を開始する。今回も昨夜と同じく、漆黒の外套を身に纏ったままだ。

 あれは足音を消せるし、少し本気になれば光を透過させる事も出来る為、隠密には最適だった。そうでなくても、敵も同じ様相の自らの見分けは難しい。偽装には向いていた。


「さって・・・どっちだ、馬鹿神器」


 ここの結界は、シャルの力を流用して作られている。であれば、カイトの神器が反応してくれる。というわけで、カイトはいつもの様に、神器に対して力の発生源を問いかける。その問いかけを受けて、神器は結界の中心部を示した。


「あっちか・・・どうやら、単独のようだな」


 分かたれる事無く一方方向を示す神器の様子に、カイトはこれが単独の術式、ないしは魔道具によって形成されている結界だ、と予測を立てる。

 そうして、カイトは神器の案内にしたがって、どうやら戦闘が始まったらしい音を聞きながら、中心部へと移動していく。どうやら戦闘が行われ始めた事で見張りの大半がそちらに向かったらしく、巡回はかなり手薄だった。


「・・・こちらカイト。結界の基点らしい場所を発見した・・・調査に入る」


 カイトはしばらくの間誰にも見つかる事なく悠々と歩き続け、ついに中心部と思しき空間へと到着する。そこにあったのは、何らかの術式を構成しているらしい魔法陣と、台座の上に幾つかの魔道具が置かれている様子だった。魔法陣はカイトの知識には無く、魔道具が何なのかはカイトにもわからない。

 そうして、カイトは身をかがめつつ、神器にどれが結界の基点となっているのかを問いかけると、神器は台座の上に置かれた宝玉の様な魔道具を示した。


「あの宝玉が、その魔道具か・・・結界の基点と思しき魔道具を発見した」

『こちら司令部。どうだ? 破壊可能か?』

「いや、やめておいた方が良いでしょう。結界の基点が何らかの魔法陣に設置されている。もしかしたら、これを何かに応用している可能性がある。研究者か分析官を呼んで解呪(ディスペル)させるのが、正解かと」


 司令部からの問いかけに対して、カイトは推測を伝える。魔法陣の上に魔道具が乗っている限り、安易に手を出すべきでは無かった。

 これが地脈に影響を与える物だったら最悪の場合、安易に結界を解除すれば地脈から魔力が溢れだして、周辺を吹き飛ばしかねないからだ。そうなれば、生きていられるのはカイトとユリィぐらいなものだろう。少なくとも、この場の軍人とフィーレの街は壊滅する。


『・・・了解した。では、手はずにしたがって、マーカーを突き刺せ。その後、君はそこを死守。本隊がすぐに突入する』

「了解」


 司令部からの指示を受けて、カイトは持ってきていた短剣型の魔道具を地面に深々を突き刺す。それはこういう結界で阻まれて侵入が困難な場合において、この場所へ案内する為の物だ。

 昨夜設置したマーカーは敵にバレないようにする為に隠密性をかなり重視しており、戦いが始まれば周辺の魔力濃度の増大や振動等により、簡単に使えなくなる物だった。

 それに対してこれは敵に気付かれる可能性も高いが、その分、確実にここにたどり着けるようになっていたのである。方法は至ってシンプルだ。人払いとは逆の人を引き付けるような特殊な効力を持つ光の柱を上に打ち上げるのである。

 それ故、突き刺すと同時に起きた異変に、周囲で結界の基点を防衛していたフードの者達が気付いて、声を上げた。


「なんだ!?」

「あっちだ! 誰か居るぞ!」

「やっぱ、こうなるか・・・司令部、敵に気付かれた。戦闘に入る」

『わかった。すぐに援護を向かわせる』


 カイトからの報告を受けて、司令部が少し急ぎ足で用意を行わせる。既に本隊は出発済みだし、カイトと同じくマーカーを守護する為の部隊が即座に移動を始めては居ただろうが、それを更に急かしたのだ。


「貴様・・・何者!?」

「異端者だ。異端者は殺せ」


 カイトの姿を見つけると、奇妙な宗教集団は一気にこちらに殺到してくる。どうやら彼らはマーカー云々では無く、カイトの姿の方に怒り心頭の様子だった。どうやら自分達の仲間の中に裏切り者が居たのだ、と思った様子だ。が、そんな様子に、カイトは不機嫌になる。


「ちっ・・・一緒にすんな。こっちゃ、ガチガチの使徒だ。てめえらこそ、勝手に人の神様の真似してんじゃねえよ」


 カイトは大鎌を構え、口々に異端者だの背教者だのを語る者達に、苛立ちを隠すこと無く告げる。同じ神様を信仰している――カイトも信仰とは違うが――とは思わないが、カイトから見れば彼らこそが、異端者だ。カイトは神様当人から、その想い等を聞いて、それを守っているのだ。正しいのは、カイトだろう。


「我らが神に、裏切り者の血を捧げよ!」

「来いよ。死神の使徒が相手してやる」


 どうやら指導者らしい男の合図と共に、一気にカイトに対して攻撃が仕掛けられ始める。どうやら、彼らの狙いはマーカーでは無く、自分たちと同じ風貌をするカイトになったらしい。おかげでカイトとしてはマーカーを護る事を考えなくてよく、非常に有り難い限り、だった。

 まあ、そうして始まった戦いだが、当たり前だが、勝敗は目に見えていた。ものの数分で、襲いかかってきた全員が地面にひれ伏す事になる。


「ぐ・・・うぅ・・・」

「ぐぅ・・・」

「いてぇ・・・」

「あー・・・ストレス解消にもなりゃしねえ・・・次から使う神の力は考えとけ。シャルは却下だ。オレとユリィ以外使うな」


 誰一人殺すこと無く地面に倒れ伏させたカイトは、首を鳴らしながら全員に告げる。こんな如何にも重要拠点らしい場所を守っていたのだ。儀式の内容は知っているだろうと思った為、敢えて殺さずに捕らえる事にしたのである。

 と、それとほぼ同時に、カイトの所にマーカーの護衛を務める事になっていた本隊の別働隊がカイトの所に到着する。


「カイトくん、大丈夫・・・これは・・・凄いな・・・御前試合優勝者の実力は伊達ではない、か・・・」

「別働隊か・・・一応、襲いかかってきた奴らは全員突っ伏させ」


 カイトが全員の捕縛に成功した、と言おうとしたその時、だ。いきなり、ぼんっ、という水風船が破裂したのとは少し違う奇妙な破裂音が響いて、真紅の花が咲いた。カイトに倒された者の一人が、自爆にも似た行動に出たのである。


「なっ・・・」

「ちっ! 狂信者が! 全員、大急ぎで四肢を拘束しろ! 封印出来る奴は封印措置を取れ!」


 起きた減少に唖然となる別働隊を他所に、カイトは大急ぎでまだ生き残る全員に魔術が使えないように封印を施す。とは言え、流石に敵の行動の方が早くて、全員を封じる事は出来ず、おまけにカイト達が気を取られた一瞬に自害した者も居たらしく、3割程度が既に自ら生命を絶っていた。


「こちらカイト! 敵は自爆攻撃をしてくる可能性がある! また、捕縛しても自ら生命を絶つ可能性もある! 捕縛は四肢を拘束し、その上で魔術の使用が出来ないように封印を施せ! 司令部は奴らの捕縛用に吸魔石を用いた枷を用意しろ! 学園長、プランBへの変更の了承を!」


 カイトの指示で我を取り戻して大慌てに行動を始めた別働隊を横目に、カイトは自らも封印措置を行いつつ、司令部と先発隊と合流しているだろう本隊に連絡を行う。

 どうやら、敵は何も語るつもりのない狂信者らしい。敵はなるべく捕獲するのが作戦だった為、カイトと言うか皇国側にとって厄介な事この上無い。

 厄介な事この上無いのだが、それでも敵から儀式について何の情報も得られず、となると、そちらの方が厄介な事になってしまう。これが何なのかわからなければ、どう解呪(ディスペル)すれば良いか全て自力で解読しなければならなくなるからだ。


『良いでしょう。強襲を実行してください』

「了解! 一葉! 介入決定だ! お前は上から捕縛魔術を使用! 三葉にはエリア一帯を調査させろ! 二葉にはこちらに降りてこさせろ! オレと共にアサルトを仕掛けて、一気に残った敵を捕縛する!」

御命令のままに(イエス・マイロード)。全員、出ます』


 カイトの指示を受けて、一葉達が一斉に飛空艇から飛び降りる。一葉と三葉はそのまま上空待機で、二葉はカイトと共に強襲作戦に参加だった。

 そうして、ものの10秒足らずで、二葉がカイトの所に舞い降りた。今回は作戦が作戦だった為、彼女の装備は小型魔導鎧だった。ちなみに、一葉と三葉は上空支援になるため、魔導殻を使っている。


「二葉、一気に攻めこむ! 三葉、案内を!」

御命令のままに(イエス・マイロード)。二葉、行きます」

『はーい』


 即座に作戦を変更したカイトは捕らえた者達の対処を別働隊に任せると、三葉に案内を行わせて自らは二葉を伴って結界内部の移動を開始する。結界内部になんらかの資料があった場合、それを破棄される前に回収するつもりだったのである。


『マスター。ポイント・C-2に建物。あ、ポイント・A-5にも』

「了解。じゃあ、そこまで一気に行くぞ! A-5はユリィに頼め!」

『オッケー。じゃあ、こっちからその建物に行くね』


 結界内部に急ごしらえで作られた小屋を発見したらしい三葉が、三人に向けて連絡を入れる。それ以外にも何か異変があれば、彼女が通信用の魔道具を通じて、本隊に向けて連絡を入れて、対処してもらうことになっていた。


「ここか! っ!」


 小屋の扉を蹴破って中を確認したカイトだが、そこにあったのは、捕らえられたらしい数人の冒険者の姿だった。幾ら高度な人払いを展開していようとも意図せず迷い込む事はあり得なくはないし、もしかしたら何らかの目的でここに捕らえられていたのかもしれない。なので、カイトは三葉に更なる索敵と二葉に周囲の警戒を頼むと、冒険者の拘束を解いてやる事にする。


「こちらカイト・・・司令部、捕らえられていたらしい冒険者らしい人物を発見した。これより救出する」

『こちら司令部・・・気を付けろ。敵が化けている可能性もある』

「了解・・・二葉、見張りを頼む・・・大丈夫か?」

「あ、あぁ・・・いつっ!」

「ちょっと待ってろ・・」


 どうやら捕らえられていた時に怪我をした様だ。顔をしかめた女性冒険者に対して、カイトはウェストポーチから回復薬を取り出して、差し出す。やつれ方や怪我の状況、こちらに向ける僅かな害意等から、どうやら、敵ではなさそうだった。囚えられていた者で間違いないだろう。


「ああ、ありがとう・・・他の奴らの拘束も解いてやってくれないか? 顔は知らないが、一緒に捕らえられていたんだ・・・」

「・・・わかった」


 カイトは疲れた様子の女性冒険者の顔に嘘が無い事を見て取ると、残る捕らえられていた冒険者の拘束を解く。一度に拘束を解かなかったのは、彼女らが敵であった可能性があったからだ。そうして、カイトは捕らえられていた全員の拘束を一人一人解いていく。


「あぁ・・・ありがとう」

「怪我をした奴は他には?」

「いや、そっちの女が一番暴れていたから・・・あいつらは暴れない限りは、何か手を出そうとは思ってなかった様子よ・・・」


 疲れた様子で、最後に助けた女性冒険者がカイトの質問に答える。そこでふと、カイトは捕らえられていたのが全て、女性ばかりだ、という事に気づいた。それも陵辱等をされていない所を見ると、卑下た目的の為に捕らえた、というわけでは無いだろうし、全員が全員迷い込んだわけでも無さそうだった。


「どういうことだ・・・?」

『カイト、こっちは多分宿舎的に使っていた小屋みたい。大した物は見付からなかったかな』

「ふむ・・・そっちに女性は?」

『居ないよ。この臭いは・・・うん。陵辱とかないね。惨劇の臭いが無い』


 ユリィからの返答に、カイトが頭を悩ませる。敵の目的が見えてこなかったのだ。と、そんな所に、司令部から連絡が入ってきた。そうして伝えられた内容は、敵の壊滅に関する事、だった。


『こちら司令部。総員、掃討作戦は終了した。総員、所定の場所に集合せよ・・・』

「・・・一度集まって情報を整理した方が良さそう、か・・・ユリィ、オレ達も集合しよう。二葉、お前は飛空艇に戻り、周囲の警戒を頼む」

御命令のままに(イエス・マイロード)

『うん』

「司令部。捕らえられていた冒険者の護送の為の人員を頼む。こちらはそれと共に、そちらに向かう」

『了解した。すぐに手配しよう』


 ここで自分だけで悩んでいた所で、何も解決はしないだろう。そう考えたカイトは、一度捕らえられた者達を尋問する為、冒険者を護衛する為の人員を待って、集合場所とされたエリアへと、向かうのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第582話『戦いは続く』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ