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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第33章 神様探し編

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第580話 潜入

 フィオネル侯爵との会談から、数時間後。カイトとユリィは偽装用の服を脱いで本来の服装に着替えると、フィオネル侯爵の第一子であるウェルネストと第三子であるウェスティンと共に、先遣隊に混じって行動をしていた。

 森に仕掛けられているジャミングがかなり巧妙で、カイトで無ければ解除出来そうになかったからだ。更には二人は着替えるだけで用意が整う事も大きかった。実力としても十分だ。


「ここが、その森だよ」

「ユリシア殿、どうされますか?」

「そうですね……」


 ウェスティンの案内で一度フィーレと言う街へと辿り着いた先遣隊は、とりあえずフィーレにある守衛所を拠点とすることに決める。幸いな事にフィーレの街はフィオネルからほど近く、昼に出発した一同は夕暮れまでには到着していた。

 聞けば農作物の環境に関する影響を調べる為の衛星都市の一つ、らしい。フィオネル領にはこういう衛星都市が幾つも存在しているらしい。

 そうして、守衛所にて地図を取り出した一同は、カイトの肩の上に座るユリィへと問いかける。そうして、それを受けてユリィは少しの間、作戦を考え始めた。


「とりあえず、夜目が効いて腕の立つ部隊を用意してください。人数は多くとも5人。私と彼と共に、夜の闇に乗じて結界の内側に偵察に向かいます。私が万が一に備えましょう」

「わかりました」


 幾ら軍を動かすとは言え、本格的に動くのは明日の朝だ。偵察をして、攻撃の流れはどんな状況でも変わらない。そうして、ウェルネストが頷いたのをみて、一度全員バレないように、休憩を取らせる事にしたのだった。




 数時間後。深夜になり、日付が変わるか変わらないか、という頃だ。


『ユリシア殿、聞こえますか?』

「ええ、聞こえます。皆、準備は良いですね?」


 ウェスティンの言葉に頷くと、ユリィはカイト達に問いかける。人数は5人。構成はエルフとダークエルフ、更には猫系統の獣人の兵士達だ。森で夜目が効いて、という条件となると、彼らが選ばれるのは至極普通の事だった。


「先陣はカイト、貴方が取ってください。他の者は、万が一の時には即座に弓で援護出来るように」


 ユリィの指示で、カイトが先陣を切る。彼の身体は今、かつてシエラとの戦いで使っていた漆黒の法衣で覆われていた。

 この場を覆う月の女神の力と同質であるおかげで、夜の森に慣れているエルフやダークエルフ、獣人達よりも遥かに、森の中に溶け込んでいた。しかも、足音もしない。誰よりも、存在感が希薄になっていた。


「では、行きましょう。総員、油断無いように」


 ユリィの言葉に、全員が頷くと、音もなく、森の中に入る。そうしてしばらくすると、森の中で最も奇妙な気配がする一角に辿り着いた。


「ここが、そのジャミングが展開されている場所、ですね」

『……こちらからは何もわからないが……そちらはどうだ?』

「いえ……我々にもわかりません……ですが、人払いに似た気配が……」


 ウェルネストの言葉を受けて、先遣隊の一人が答える。ユリィ達に予め言われて無ければ確実に気付かない程にうっすらとだが、人払いに似た魔術の影響を感じられたのだ。


「おそらく、まっすぐ行っているように見えて、僅かに逸れる様な結界が展開されているのでしょう。巧妙で、非常に上手い結界です。これは人為的、としか思えませんね」

『やはり、何らかの敵の可能性が高い、という事ですか……』


 ユリィの考察を受けて、通信機の先のウェルネストがため息を吐いた。ここまで完璧に手を施しているのなら気付けないのは普通だが、それでも、後手に回ったのは残念だった。

 そうして、更にしばらく森のなかを歩いていると、カイトが異変を感じ取る。神器が僅かにだが、共鳴していたのだ。


「……学園長。自分は中心部へと少し先行します」

「お願いします。皆は散開して、周囲の情報収集を」


 カイトの異変を感じ取って、ユリィがカイトの申し出に許可を下ろす。ここまでくれば、もう明らかに人為的に何かをされている、としか思えなかった。

 なので、カイトには中心部へと向かわせて、他の面々にはこの結界を無効化する為の手はずを整えさせる事にしたのだ。ユリィは退路の確保と、万が一の場合には即座に攻撃に移れるように待機、だった。小型化していれば夜の森の中ではバレにくい事も大きい。


『……カイト。聞こえているな?』

「ええ」

『君に付けている使い魔は一時停止させる。通信機からの音声のみになるが、周囲には気を付けろ』


 一人先行を始めたカイトの耳に、ウェルネストからの声が響く。隠密行動においては、密偵に司令部から使い魔を貼り付けて常に連絡を取り合う事がある。特にここまで近場だと、それが多かった。

 とは言え、敵陣に近づくのなら、潜入者では無く、使い魔の方が気付かれる可能性が高かった。なので、敵陣に近づく事を考えて、使い魔を不活性化させて、なるべくバレないようにしよう、というわけだった。


「……これは……やはりな」

『どうしました?』

「人影を見付けた……どっかの宗教関係者、だと」


 少し歩くと、カイトは幾つかの人影に遭遇する。とは言え、こちらが気付いただけで、向こうはこちらに気付いていない。神器の力で姿を隠しているのだから、当然ではある。

 カイトが人影を宗教関係者と断言した理由は、簡単だった。彼らがほぼ全員、同じ装いだったから、だ。似ている程度なら冒険者ギルドの仲間内等で言い訳出来るだろうが、揃いの真紅のローブを頭からすっぽり被って、完全に身を隠す様な集団が冒険者の集団であるとは、思えなかった。


「……写真を撮影した。そっちに添付します」

『了解した……そこまでの状況はどうだ?』

「……とりあえず、見回りは居そうですね。今はまだ、集団で中に入るのはやめた方が良いでしょう」


 写真をウェルネスト達が待機する守衛所に転送しつつ、カイトは推測を告げる。もし出来るようならばユリィ達も来る事を考えていたのだが、見張りはそれなりにいる様子だった。

 各個人の力量としてはさほどでは無いが、まずいのは神器を誤魔化せる程の魔道具を持っている可能性があることだ。もし何か危険な魔道具を持っていれば、こちらが捕らえられる可能性さえあるのだ。警戒はするに越したことは無かった。


『……受け取った。ここらでは見たことがない集団だな……ん? 黒い法衣を纏う人物も居るが……』

「……ですね。どうやら、何らかのこだわりがある様子だ」


 映像を見ていたウェルネストの言葉に、カイトも同意する。写真を転送する最中に、別の法衣の存在を見付けていたのだ。


「学園長。そっちはどうですか?」

『こちらは変わりはありませんが……この気配……月の女神の力で間違いありませんね』


 ユリィはじっとしていた事で、懐かしい気配である事を確信した様だ。カイトが告げるのも可怪しいのでカイトは黙っていたのである。


『ふむ……邪教集団、の可能性が高そうですね……』

「ちっ……」


 カイトとしても、その可能性は高いだろう、と思っていた。なにせ敵は隠れてこんな事をしているのだ。真っ当な集団であろうはずが無かった。舌打ちは自分の恋人の力を悪用されている為、だった。


「学園長。この紋様に見覚えは?」

『……申し訳ありません。何も……ですが、何か見たことがあるような……』


 カイトは法衣の一部に描かれていた紋様に気付いて、それを写真撮影すると同時に、ユリィに問いかける。だが、どうやら彼女にも見覚えは無かったらしい。まあ、幾らユリィと言えども、全ての集団の紋様を理解出来ているはずが無いだろう。


『……カイト。結界の情報と、アンカーのセットは出来ました。撤退しましょう』

「……わかりました」


 速攻で乗り込んでいって何らかの儀式を行うつもりらしい敵を叩きのめしたい感情を抑えつつ、カイトはユリィの指示に従って撤退を行う。敵の正体もつかめないのに、感情に駆られて行動をするわけにはいかなかった。


「戻りました」

「では、一度フィーレに戻りましょう」


 カイトが戻ってきたのを見て、ユリィが指示を下す。近くの木々の高い所には小さな魔道具が設置されており、これを目印にすれば喩え人払いの結界が展開されてようとも、ユリィやカイトの案内無しでもここにたどり着けるようになっていた。そうして、一同は守衛所に戻る事にする。


「はい。敵の数は中心部に向かう程多くなっている様子でしたので、おそらく、中心部で何らかの儀式を行っているのだと」

「なるほど……分かった。ありがとう。君はもう休みたまえ」

「はい」


 カイトからの報告を受けて、ウェルネストがカイトに休息を指示する。カイトには明日も主力として、敵陣に乗り込んで貰うつもりだった。それ故、体力の回復に努めてもらう事にしたのである。

 ウェルネスト達も最後の取り纏めを行い次第、仮眠程度には休息を取るつもりだった。そうして、カイトは守衛所の外に出る。


「ちっ……ぬか喜びさせやがって……ぜってー叩き潰す」


 夜空を見ながら、カイトは怒り混じりにつぶやく。ようやっと300年ぶりの再会が果たせるのかも、と思っていたのは、結局は何らかの悪意を持った敵の行動だった。腹立たしいのは当然だった。


「この様子だと、竜騎士レースの前から、動いていたのか。ちっ……あそこで潰しておくべき、だったかもな……」


 月を眺めながら、カイトは少々後手に回った現状を憂う。とは言え、これがもしシャルの力を使う物だとするのなら、まだしばらくの余裕があった。

 彼女の力が最も強くなるのは満月だ。それも、双子の月が同時に満月になる時が、最高の瞬間だ。少し前が新月だったので、それにはまだ、遠かった。


「まあ、良いか。何をするつもりなのかは、明日にでも聞かせてもらうとするか」

『マスター。介入については如何がなさいますか?』


 ぼやいていたカイトへと、一葉から連絡が入る。彼女らは今、上空に密かに待機させた飛空艇に潜んでいる。密かに彼女らを上空に呼んで、上から見張らせていたのであった。

 流石に高度1万メートルを超えた所で隠蔽の魔術を展開しているので、自軍を含めて、誰にも気付かれる事は無かった。


「……まだ、様子見だ。敵の動きがわからん。だが、いざという時には、即座に介入しろ」

御命令のままに(イエス・マイロード)


 カイトの命令に、一葉が了承を示す。彼女らは、今回の切り札だ。万が一の場合には一葉と三葉が高空から狙撃と爆撃を仕掛けて、敵の展開しているだろう魔法陣ごと吹き飛ばす手はずだった。


「準備が終わったなら、お前達ももう休んで、明日に備えろ」

『ありがとうございます』


 一葉の返答を最後に、通信が途絶える。ホムンクルスだと言っても、休息が必要で無いわけでは無い。それどころか人と同じように作られている所為で、人と同じように休息も必要なのだった。


「良し……じゃあ、オレも休憩するか……」


 まだ、敵には動きは無かった。ならば、休める時に休んでおくのが、上策だろう。なのでカイトは与えられた部屋へと向かう事にして、就寝するのだった。




 翌朝。夜明けと共に聞こえてきた物音にカイトが目覚めると、フィオネル侯爵率いる侯爵軍の本隊が到着していた。どうやら明るくなる前に密かに出発した様子だった。少し後に聞いた所によると、朝一で襲撃する作戦にしたらしく、それに合わせての行動らしい。


「カイト、朝ご飯食べたら、準備しといてね。すぐに出る、って」

「りょーかい」


 ユリィの言葉を聞いて、カイトはとりあえず魔術で創り出した冷水で顔を洗い、朝食を食べに行く事にする。幸いにして今回は軍で朝食は用意してくれていたので、食堂に行って食べるだけだった。

 そうして、朝食を食べると、カイトは司令部になっている守衛所に顔を出す事にした。そんな司令部だが、当然、慌ただしく動いていた。というわけで、カイトを出迎えたのは上級士官であるウェルネスト達では無く、司令部に詰めている鎧姿の軍人だった。


「ああ、来たか。君は確か、カイト、だったね?」

「ええ……私の役割は?」

「君は先発隊と共に、一足先に結界内部に侵入。君は先発隊の行動開始に合わせて、更に奥に潜入。結界の解除が出来るか試してくれ。出来なければ、魔術的にアンカーをセット。本隊が中心部に突入出来るように対処してくれ。昨夜行った君だからこそ、頼める任務だ」


 カイトの求めに応じて、軍人がカイトの役割を指示する。どうやらカイトの役割は、昨日の延長線上にある物になる様だ。

 まあ確かに、今度は陽の光もある中での行動だ。戦闘は十二分に考えられた為、並の軍人よりも遥かに強く、更には隠密行動も出来るカイトに破壊工作を頼むのは妥当だろう。


「わかりました。作戦開始は?」

「約1時間後……6時30分開始だ。間に合わせられるな?」

「既に準備は終わってますよ」


 軍人の問いかけに、カイトは笑って頷く。カイトの準備といえば、実質はコートを羽織るぐらいで他には何も無いのだ。問題は無い。それは彼も把握していたらしく、笑って頷いた。


「そうか。もし回復薬等が必要なら、医療班に申し出てくれ。用意させる」

「わかりました、ありがとうございます」


 軍人からの申し出に、カイトは頭を下げる。そうして、連絡がこれで終わりだった為、カイトは医療班の待機するスペースへと、移動を始める。

 回復薬が必要は無い、とは思っていない。カイトの実力なら怪我は負わないだろうし、味方の怪我も魔術で治療する事は出来るが、実力を隠す事を考えるのなら、回復薬は持って行った方が良いだろう。それにけが人が居た場合、それに使わせる事も出来る。持っておいて損は無かった、と冒険部を率いる様になって思い知らされていた。


「これの使い方はわかる?」

「ええ。少し前のポートランド・エメリアでの一件で、公爵軍から貸して頂きました」


 医療班の待機スペースでカイトの応対にあたってくれた女性軍人から、カイトは回復薬を入れる為のウェストポーチを受け取る。それは皇国軍の標準装備なので、使い方は公爵軍の物と変わりはない。


「中身は5本。大事に使ってね」

「はい」


 中身の残数等のレクチャーを受けて、カイトはしっかりと腰にそれを装着する。カイトの衣服は軍服では無いが、カイトの服にはそれを取り付ける専用の留め具は備わっていた。そうして、カイトは用意を整えて、作戦の決行を待つ事にするのだった。

お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第581話『戦闘開始』

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