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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第33章 神様探し編

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第575話 更に西へ

 レーメス伯爵との会談から、明けて翌日。カイトとユリィは再びバイクに乗って、皇国を西に移動し続けていた。


「まだ西、ねぇ……とは言え、皇都付近から見て暗雲が垂れ込めていた、つーお話だから、そんな遠くはならない気がするんだけどなぁ……」

「このままじゃあ、ハイゼンベルグの爺ちゃんの領土に辿り着いちゃうんじゃない?」


 カイトのボヤキに対して、ユリィが何処か茶化すように告げる。皇国の首都である皇都は、エネシア大陸の東端に近い場所に位置している。それ故、当然だが皇国の中心部には皇都は無い。あるのは、ハイゼンベルグ家の領地だった。

 とは言え、それでも中心部は彼の領土のかなり東側に位置している。領土が広がっていった結果、彼の領地が中心になっただけの話だった。元は最西端だったらしい。

 それ故、幾度か遷都しよう、という話は無いではないのだが、歴史ある皇都をこの場所から動かす事が出来るのか、と言われれば、誰もが動かす事も出来なかった。

 それに、<<導きの双玉(みちびきのそうぎょく)>>を作れる部屋は、皇都にある皇城から動かせない。異世界の存在である皇王イクスフォスしか、その部屋を構成する術式を理解出来ないからだ。

 一応、敵に奪取された事を考えて停止させる事は出来るが、停止してしまった場合、再び再起動出来るかどうかはもはや誰にもわからない。皇王イクスフォスが居ない今、不具合が起きているのかさえ、理解不能だからだ。戦略上としても、動かす事も出来なかったのだ。


「その前に、ウェルネスの爺の所だな。流石に一回ぐらいは墓参りしてこねえと、爺に怒られそうだ」

「そだね。じゃあ、一度フィオネル領フィオネルに行こっか。お墓そこにあるよ」

「おっしゃ……っと、魔物の集団発見」

「じゃあ、せんめーつ!」


 バイクを走らせながら進路上に魔物の集団を発見した二人は、周辺住人達の迷惑にならない様に、殲滅を決める。そうして、二人は同時に双銃を手に取った。


「よっし! ベルトで身体固定したよ!」

「魔術でやれよ!マシンガンで道作って、回転するぞ!」

「おっけー!」


 ユリィの言葉に怒鳴ったカイトだが、ハンドルに取り付けられたスイッチを押してバイクの前面に取り付けられたガトリング型の魔銃を連射させて道を作って、更には双銃を手に取ると同時に、急停止を掛けて同時にその慣性を利用しつつ、バイクを横に回転させる。


「「<<双銃双嵐(そうじゅうそうらん)>>!」」


 二人は回転するバイクに跨りながら、双銃を掃射して魔物の群れを掃討する。ちなみに、二人が同時に告げた名前に該当する(スキル)は存在しておらず、単なる気分で名付けただけの即興だった。

 まあ、無茶苦茶に連射しているだけ、とも言える。それで魔物の掃討が出来るのは、二人の力量が可怪しいだけだろう。


「終わり!」

「さって……今日中に爺の墓参りは無理そうだから……ここらの近場の村はあったかなー……」


 バイクの回転を魔力の放出で強引に停止させたカイトは、再びバイクを前進させながらバイクに取り付けられた装置を使って現在地を割り出し始める。以前にティナが飛空艇に取り付けていたGPSに似たシステムが、このバイクにも取り付けられていたのである。


「南西少しに村……近いな……縮小……もう少し西に行けば、街がある、か……現在時刻は午後3時……現在時速は100キロ……進路上に森が幾つかと山が一つ……この街にするなら、山は迂回路を取る必要があるな……」

「迂回してもちょっと近くない? もう少し行けると思うよ」

「いや、限度だろ。山の麓の村は通りすぎるんだ。山を迂回したら元のルートに戻る為に北上はしないといけないし、森に入れば最高速じゃ動けん。到着した時には5時ぐらいだ。そこらが、良いとこだろうさ」


 カイトの肩越しに地図を見たユリィの言葉を、カイトが否定する。街に辿り着いても宿探しだのなんだのとしなければならないのだ。午後5時頃の到着は十二分に遅いぐらいだろう。


「じゃあ、今日はそこで終わり、かな」

「そうするのが良いだろう。どっちにしろ旅の旅費は幾分余裕があるしな」


 二人は相談の結果、そこで泊まる事を決める。街の大きさはさほどでは無いが、それでも安全は確保されていそうな場所、だった。そうして、二人はバイクを減速させて、森の中に入っていくのだった。




 そんなやり取りから、数日。すでにフィオネル領に入った頃だ。この日もこの日でカイトとユリィはその日の宿を求めた街から出立しようとしていた。


「明日中には、爺の墓に行ける、か……」

「随分遠くまで駆け足で来たねー」


 カイトの言葉に、ユリィが笑いながら同意する。カイトとしても、ここまで遠くに来るとは思ってなかった。とは言え、今日も今日とて、神器の指し示す方向は真西だった。まだまだ、西に行く事になるのだろう。そうして、宿を後にしてバイクに乗る為に街の外に出た二人は、その周囲の光景にため息を吐いた。


「相変わらず、フィオネル領はのどかだな……」

「だねー……」


 風光明媚な田園風景、というのはまた違うが、周囲には畑が広がり、トマトやとうもろこし等と言った夏野菜が実っていた。皇国の中ほどから僅かに東にあるこのウェルネス領は皇国でも最大の農業地を有しており、産業の中心は相変わらず農業だった。それ故、大半の街の周辺には広大な農業地が広がっていたのである。


「今年は豊作、かな?」

「さてなぁ……」

「おう! 豊作だぞ、小僧共! そんな所で何やってんだ?」


 街を出てぼんやりと田畑を眺めていたからだろう。後ろから中年の農夫らしい男から声を掛けられた。日に焼けた小麦色の肌に、筋骨隆々の逞しい腕。まさに、農夫という男だった。他にも周囲にはカイトとユリィの事を怪訝な様子で見ている農夫達がたくさんいた。


「あ、いや、すんません。ちょいとこれからフィオネルに向かってウェルネス様のお墓を詣でよう、と思ってたら今年は豊作かな、とふと思って……」

「お……兄ちゃん若いのに殊勝な心がけだな……」


 何処か照れくさそうなカイトの返答に、農夫が感心した様に頷く。彼ら農夫達、それも特にフィオネルの領地の農夫達にとって、様々な農業改革を行ったウェルネスは神様にも等しい存在だ。若いのにそれを敬おうという冒険者が居たのだから、感心するのも当然だった。


「飯は全ての基本。自分の知り合いの言葉ですよ。食わねば力がでん。生きる活力も取り戻せん。だから、食え、と」

「ほぉ……わかってるじゃねえか」


 どうやらカイトの返答は、更に彼の気を良くする物だった様だ。更に感心した様な感が顔に浮かぶ。それに、カイトも笑って更に続けた。


「まあ、仲間死んで落ち込んでる奴の口に強引に食べ物ねじ込む様なおっかない女なんですけどね。自分もこっちの相棒も気落ちしてる所に無理やり突っ込まれた事が……」

「私のサイズ考えた大きさにして欲しかったなー、あれ……おかげで顔中ご飯まみれになったよ……」

「ガハハ! そりゃ、ゆくは肝っ玉な母ちゃんになるだろうな! っと、墓参りに行くってんなら、こいつもってけ! 道中疲れたら食いな!」


 どうやらカイトとユリィの言葉は、彼にとって非常に好感の持てる返しだったらしい。気を良くした彼は、自分達の慕う偉人への巡礼者の為に、収穫したばかりの夏野菜を数本ずつ、手渡してくれた。


「良いんっすか?」

「おう! その代わり、あんま詣でらんねえ俺らの代わりにウェルネス様によろしく頼んで良いか? 兄さんら冒険者だろ? 依頼と報酬、ってやつだ」

「そういうことなら、喜んで。依頼と報酬、という事で引き受けましょう」

「お、なら俺のも頼むわ!」

「ああ、俺のも!」


 どうやらカイトとユリィは信用されたらしい。我も我もと彼らに幾つかの貢物がもたらされる。まあ、妖精が一緒、というのが信用された理由だろう。

 基本的に、妖精族は天真爛漫かつ純粋な種族だ。悪戯はしても、他者をひどく傷付ける事はしない。そして、種族的に善人か悪人かを見分けられる彼らに慕われている、という事は、裏返せば信用に足る人物だ、という事に他ならなかった。そうして、十分後には二人の手には山程の野菜が盛られていた。


「じゃあ、頼むなー!」

「あ、はーい!」

「じゃあねー!」


 手を振る農夫達に対して、カイトとユリィが笑顔で手を振って別れの挨拶を行う。そうして少し歩き始めた二人だが、やはり苦笑するしか無かった。


「あ、あはは……こんなに貰ってよかったのかな……?」

「ま、まあ、良いだろ……こりゃ、今日は宿探さなくても飯に困らん、ってよりも、野宿して食料減らす方が良いな。腐らせるのは勿体無い」

「だね」


 カイトの言葉に、ユリィが苦笑しながらも嬉しそうに笑いながら頷く。かつてよりも、何処も彼処も平和になった。それは今のいち幕だけを見ても、簡単に理解出来た。なにせ少し会っただけの少年冒険者を信用して、あれこれと食料を渡してくれたのだ。

 昔はそんな事は無かった。食うにも困る時代だったからだ。それを他者に施せるということは即ち、民草に余裕がある事の証明、だったのである。


「あ、カイト。じゃあきゅうり冷やしてさ、昼時に一本丸かじりで食べよ?」

「良いな、それ。じゃあ、二本冷やしておくか」

「わーい。マヨネーズとお塩の準備ー」


 カイトが貰ったきゅうりを冷やしたのを見て、ユリィが嬉しそうに笑い声を上げる。そうして、二人は農夫達から見えなくなったのを確認して、バイクに乗って、更に西へと向かうのだった。




 そんな出会いから、約9時間後。幾度かの魔物との交戦と昼食を経て、二人は日も傾き始めた頃に、手頃な川を見付けた二人はバイクを止めて、野営の準備をする事にした。


「予定よりもちょいと先に進めたな」

「宿探す必要なかったもんね」


 二人は昼に冷やしたトマトを齧りながら、魔道具を使って現在位置を割り出す。フィオネル領は幸いにして農耕に適した草原地帯が多く、かなりの高速で移動出来たのだ。

 おまけに、朝の一件での食料ゲットがある。食料を無駄にしない為に野営を簡単に選択出来た事が大きかった。日が暮れる前に野営の準備をすることで決定していたから、目的の方向まで直進出来たのである。そうして、野営の準備を整えると、カイトはシアに連絡を入れる事にした。


「さって……シア。こちらカイト。現在フィオネル侯爵領中頃のウェルネス近くに居る」

『そう……何か分かった?』

「いや……まだ何も手がかりは得られていない。が、どうにもこうにも目印は西をまだ指している……あれ?」

「お?」

『どうしたの?』


 カイトから返って来た声とユリィの怪訝な声に、シアが問いかける。


「いや……今までは真西だけを指し示していたんだが……ちょっとだけ、北方向にズレてるんだよ……」

「この方角は……フィオネルから少し北の街があるあたり……かなぁ。正確な場所は一度フィオネルに行って再度確認した方が良いね」


 同じく神器の初めて示した違う方向を見て怪訝な顔をしていたユリィが、地図を見ながらカイトに進言する。方角としては自分達の向かっている方角で間違いは無いのだが、少しだけ、フィオネルの街とは違う方角だったのだ。

 とは言え、止まって詳細な調査をするのも安全な所でやったほうが良いだろう。幸いにして、フィオネル領の治安は悪くはないし、その領主の居るフィオネルは拠点とするには良い土地だ。かなり大きな街なので、情報が集まりやすかったのだ。なので、カイトもその進言を受ける事にした。


「だろうな……シア。そういうわけで、オレ達は明日の昼前にはフィオネルに入る。それから、詳細な調査を開始する」

『分かったわ。お父様にもそう報告しておくわね。最悪の場合には、侯爵に頼んで支援を出来る体制と、フィオネル家に攻撃が出来る準備を整えさせておくわ』

「ああ、頼んだ」


 二人はその会話を最後に、通信を切断する。どうやら、明日からは、少なくとも明後日からは本格的な調査に入れそう、だった。が、同時に懸念もあった。


「ホント、だろうな……?」

「そこだねー……最大の難点は」


 二人は同時に、地面に突き刺さった神器をジト目で睨みつける。今までいい加減な反応をしまくった神器なのだ。信頼性は皆無だった。まあ、それを当人達も理解しているらしく、抗議してきた。


「……じゃあ、自信は?」


 カイトが神器に問いかけると、神器はその質問に何処か口笛でも吹くかの様ないい加減な感じで、光を揺らめかせる。まあ、相変わらず責任は取れない、という事なのだろう。


「はぁ……一応、ホントなんだろうな……」

「どうなんだろうねー……」


 二人はため息混じりに、いい加減な神器達を異空間の中に収納する。まあ、今の今までずっと西を指し示していたのが、何かがあったわけでもないのに、僅かとは言え急に指し示す方向を変えたのだ。決して意味が無いわけでは無いのだろう。


「はぁ……カイト、風呂入って寝よう、もう……」

「だな……」


 ため息混じりの二人はお風呂へ入るべく、服を脱ぎ始める。二人は旅中でもお風呂に入る事を欠かさなかった程、無類の風呂好きだ。野営だからといって、風呂に入らないはずが無かった。

 ちなみに、二人はよほどの事情がない限りは、一緒にお風呂に入っている。ふたり旅の最中からもう何度もお互いの裸を見合っている二人だ。

 更には思春期も遠の昔のお話だ。今更恥ずかしさは無かった。なら、いちいち温め直さないで済む分、一緒に入った方が楽だったのである。とは言え、変わった物もある。


「はふぅ……やっぱりお風呂って良いねー」

「だなー……テントを高いの持ってきて露天風呂に出来る奴持ってきたの正解だったなー……星空最高」

「ねー。今も昔も、星空見ながらのお風呂は良いね……まあ、昔の風呂おけのお風呂も良かったけど、やっぱり普通のお風呂も良いね。カイトにくるくる回されるのが、難点だったけど」

 

 変わったのは、ユリィの大きさだ。彼女は300年前は小型しか取れず、風呂おけのお風呂に入っていた。だが、今は大きな姿を取る事も出来る。ゆったりと浸かれる大きさになれる様になった事で、風呂桶を使う必要が無くなったのだ。

 というわけで、二人は一緒にのんびりとお風呂に入っていた。まあ、これ以外にも変わった事がある。それは二人の関係性も然り、だった。


「ふぁー……うんー! 疲れたぁ……うひゃあ!」

「はむ……ひゃっぱひ(やっぱり)ふぇんひのひょっはん(天使の食感)……」

「はむはむって人のほっぺた甘噛しないでよー!」

「いや、この甘噛し心地……最高だぞ? ふにふにと柔らかいのに、弾力がある……」

「もー!」


 カイトの行動に、ユリィが頬をふくらませる。そんなユリィの頬を、カイトが突っつく。こうやっていちゃつく様になったのも、関係性の変化の一つ、だった。


「あ、ちょ、ちょっと……ひゃん……」

「うん。だってこっちよりもやわらかい。ハリは勝つが」


 カイトに胸を弄くられ、ユリィが可愛らしい嬌声を上げる。ここ当分は、こんな馬鹿げたやり取りにも似たいちゃいちゃの繰り返しだった。二人は恋人なのだから、まあ、当然だろう。

 まあ、そう言いつつもどうやらカイトは情事に入る様な気分ではなかったらしい。適度にユリィの胸を弄ぶと、満足したらしく手を離して、星空を見上げる。


「……昔みたいに、か……シャルの風呂を間違って覗いちまってビンタされたりしたこともあったなー……」

「人をその気分にさせときながら、他の女の話しないでよ、もー……」

「悪い悪い……」

「今日は新月。シャルも見てないから、カイトは私だけのモノだよ?」

「はいはい、マイ・フェア・レディ」


 拗ねた様なユリィに対して、カイトがくちづけをして、ご機嫌取りを行う。彼らの探し人は、月の女神様だ。その見ていない所で、二人は再びいちゃつき始める。旧友の墓参りの前日の夜は、このようにして更けているのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 第576話『仕返し』

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