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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第33章 神様探し編

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第572話 盗賊退治

 シャルの力によって暗雲垂れ込めている状態に近い皇国の状況を調査していたカイトとユリィであったが、そんな中、レーメス領に入ると偶然にも過日に出会ったレーメス伯爵軍軍人カラトであると再開する。

 そうして、彼と共に居た執事長キーエスにユリィが気付かれた事で、二人は事情を少しだけ、語る事にした。


「なるほど……皇帝陛下からの勅令、でしたか……」

「ええ。とは言え、私が大々的に動いては、もしこれが敵であった場合、警戒される事になってしまいますからね。かと言って、事情が事情ですから、私かクズハが動くのが妥当。それに、かの神と私は少しの知己があり、と私が志願したわけです。彼は表向き、ですね」


 表向きは、実力が御前試合で示されているカイトに頼んだ、という事にして、ユリィが共に動いている事を隠す。バイクやその他諸々はユリィというビッグネームを隠す為のブラフ。もっともらしい嘘を伝えられて、二人は皇帝レオンハルトの見識に感服する。

 確かに、カイトは一部では知られているものの、そこまでビッグネームでは無い。そして、冒険者だ。彼が動いた所で、冒険者が活動拠点から離れて活動するのは普通だ。注目はされない。それ故、神の力を扱う敵が注目する程の敵では無い。敵にとってすれば、取るに足りない相手、なのだ。

 そしてユリィはこの小型の妖精の姿ならば、正体は露呈しにくい。が、同時にこの姿では人目につきにくい為、情報の収集や身動きは取りにくい。最低でも誰か一人は人員が要る。信じるのも無理は無かった。


「それで、一つ問いかけたいのですが……何か変わった事はありませんでしたか?」

「変わった事、ですか……」


 皇帝レオンハルトからの勅命で動いている――それを示す玉印入りの書類を持っていた――し、そしてユリィは大英雄だ。というわけで、カラトとキーエスは真剣に考え始める。


「いえ、申し訳ない。お恥ずかしながらここ当分は領土内の治安回復に忙しく、レーメスには帰っていないんです」

「そうですか……まあ、それにこれは神族である軍神・オーリン殿らで初めて気付けた事。わからぬのも無理無い事、なのかもしれませんね」


 カラトの言葉に、ユリィが頭を振る。確かに、分からないでも無理は無い事だった。そしてそれを理解していた以上、叱責する必要も無し、だ。


「何か宛てはあるのですか?」

「一応、ですが……」


 キーエスからの言葉に、ユリィが苦笑する。役に立つかわからない神器が目印なのだから、仕方が無い。一応はあれ以降毎日朝昼の出立前に調査はしているが、常に西を指し示していた。おそらく、正しい方向に向かってはいるのだろう。まあ、調査の都度に神器からは『不明』『分かるわけ無い』等とぶん投げた様な返答を返されるのだが。


「そうですか……分かりました。では、あまり引き止めるわけにもいきませんね。外までお見送りいたしましょう」

「ありがとうございます」


 ユリィは勅令で動いているのだ。そんな人物を長々と引き止めるわけにもいかないので、カラトが立ち上がる。そしてそれと同時に再びユリィが小型化すると、カイトの肩の上に座る。

 そうして、一同が連れ立って外に出た所で、騒ぎに気付いた。今までは情報の漏洩を防ぐ為に防音の魔術が施されたテントの中に居たため、外の騒動が殆ど遮断されていたのだ。


「隊長! 大変です!」

「どうした?」

「く、件の盗賊が近くの村を襲撃! 数人の村人が捕らえられた様子です! 賊共は馬を使って襲撃してきた模様! たった今、村の警備兵がここまで連絡に!」


 大慌てで駆け寄ってきた兵士の一人が、慌てた様子でカラトの前に跪いて報告を行う。その言葉にカイトとユリィが騒動になっている方向を見れば、傷だらけの兵士の姿がそこにはあった。


「カイト。行こう」

「おうさ。カラトさん! 自分達も援護します!」


 カイトは陣内に停泊させたバイクに大急ぎで跨ると、ゴーグルを掛けると同時にカラトに告げる。そしてそれを受けて、一瞬カラトは逡巡するも、ユリィの目線が何も言うな、と告げている事に気付いて、小さく頭を下げて、行動を開始した。


「……かたじけない! 第1から第3部隊は私と共に来い! 第4部隊は馬車を連れてついてこい! 村人にけが人が居る可能性もある! 衛生兵! 傷薬等を忘れるな! 残る部隊は陣を守れ! 万が一、こちらに賊が来た場合は一人も逃がすな! キーエス殿。申し訳ないが、後を任せて良いか?」

「承りました」


 流石にこんな状況でその申し出を受けないはずもなく、キーエスはカラトに代わって急場の指揮を受け持つ事にする。

 逃走する盗賊がこちらに来る可能性があるのだ。入れ違いになった場合を考えて全軍を出すわけにはいかないし、そうなると、残る軍を誰かが指揮を取る必要がある。それを考えれば、キーエスは最適だったのであった。


「では、全員急ぐぞ!」

「はっ!」


 キーエスが用意を整えるとほぼ同時に、他の兵士達も用意を整え終える。そして、一気に陣を出陣して、竜に乗れる者は竜に乗り、多数は魔術で脚力を強化して、盗賊が襲撃したと思しき村へと駆け抜け始める。そんな彼らの出立とほぼ同時に、カイトが陣の外にバイクを出し終える。


「カイト、どうする?」

「とりあえず、ブーストで追い抜くか。お前が背後を塞いで、オレが進行方向を塞ぐ。いつも通り、で良いだろ?」

「昔みたいに戦うから、って昔みたいに問答無用の皆殺し、なんてやめなよ?」

「さて……な」


 ユリィの言葉に、カイトは苦笑するしかない。そこばかりは、出るとこ出ないとカイトにもわからない。かつてはあった唯一の抑えは、今は、無かった。

 そうなると、カイトの中で最悪の悪癖が目を覚ます可能性があったのだ。そうして、カイトはバイクをフル・スロットルで駆動させる。


「ユリィ。周囲をサーチしてくれ。カラト達は村に向かって状況の調査と再襲撃に備えるらしいが、オレ達は奴らを追って潰すぞ」

「オッケー」


 カイトの言葉を受けて、ユリィが周囲に使い魔達を走らせて、自らも周囲の状況の把握に務める。盗賊たちは馬を使っていた、と言っていた。警備兵が逃げた事も知っているはずだ。

 ならば、村にそこまで長居するはずはないだろう。村の襲撃はカラト達が到着する頃には、終わっているだろう。


「……見っけた。カイト、あっち!」

「おう」


 ユリィの指差す方向は、カラト達が向かった方向とは僅かにずれていた。やはり予想通り、盗賊達はすでに村から出て行っていた様子だ。

 そうして、ユリィが使い魔にカラトへの連絡を送らせて、カイトはハンドルを動かして少しだけ進路を変更して、更に飛翔機に魔力を通してブーストを掛ける。

 すると、ものの数分で20人程の盗賊の集団を見付けられた。規模はそれほどではないが、村の規模によっては、警備兵達では対処出来ない数だろう。


「居た……ユリィ、大剣に稲妻頼む。斬撃で馬を強引に止める」

「りょーかい」


 カイトはバイクのスイッチを操作して大剣を一つ取り出すと、それにユリィが雷を宿す。流石にバイクに跨って武器を装備すれば下手をするとバイクを傷付けるので、バイクの中に武器を収納するスペースを作ったのである。

 大剣を使う事にしたのは、集団の範囲が範囲なので、その動きを止める為にそれなりに大規模な斬撃を放つ為、だった。他にも魔銃を仕舞うスペース等があり、バイクの中に格納されていた。これらは武器を魔力で創れる特異な力を隠すための念の為の対策、だった。


「出来たよ」

「おっしゃ……じゃあ、ユリィ。ブーストと同時に飛び降りて退路を断ってくれ」

「うん。カイト、足場は必要?」

「できれば欲しいな。飛翔機で飛べる事は隠しておきたい」

「じゃあ、作ってくね」


 カイトの言葉を受けて、ユリィが少し遠くに氷の坂を創り出す。まあ、少し遠く、と言いつつも時速200キロ超で移動しているので、すぐの距離だったが。そうして、すぐにバイクは氷で出来た坂を登って、そのまま空中に飛び出した。


「ユリィ! 今だ!」

「おっけ!」


 飛び上がるってすぐに、ユリィはバイクの上から飛び降りる。そうして、慣性と速度をいなしながら大きな姿を取り、地面にふわり、と着地する。そしてその声に気付いて、盗賊達が後ろを振り向き、そして同時に、影に気付いて、上を見上げる。


「何だ!?」

「鉄の……なんだ、ありゃ!?」


 当たり前だが、盗賊達にはバイクの知識なぞ存在していない。それ故急な出来事に理解が及ばず、空中を駆ける奇妙な鋼の物体に目を見開くしか、出来なかった。そうして、そんな盗賊たちを無視して、カイトはバイクを地面に着地させると、そのまま急停止を駆ける。


「<<雷斬撃(らいざんげき)>>!」


 急停止によって回転するバイクの上から、カイトはその遠心力までも利用した斬撃を盗賊団の進路上に放つ。盗賊団に向けて放たないのは、拐われた村人達や強奪された物が巻き添えになってしまう可能性があったからだ。


「うおぉあああ!」

「うぎゃああ!」


 とは言え、それで十分、だった。当たり前だが、彼らは馬に乗っていたのだ。馬がいきなり放たれた巨大な雷の斬撃を見て、止まらないはずが無かった。

 というわけで、急停止した馬の上から、少なくない数の盗賊達が落馬する。そうして、落馬した盗賊達は明らかに敵だろうカイトに向かって、怒り混じりに剣を抜き放った。


「つつ……てめえ! 覚悟は出来てんだろうな!」

「カイトー! 聞こえてるー!」

「おうおう! なんとか意味のある単語として聞こえてるっぽい!」


 盗賊の怒声を無視して、カイトがユリィに向けて手を振る。それに、ユリィがほっと、一息吐いた。どうやら大丈夫そうだ、と思ったのだ。


「無視すんじゃねえ!」

「……あ」


 無視された事に激怒した盗賊の一人が斬りかかると、カイトのしまった、という声が漏れた。殺すつもりは無かったのだが、本当に反射的に一瞬で大剣を振り抜いてしまっていたのだ。その様は、まるで虫が飛んでいたから振り払ったかの様な気軽ささえ、存在していた。

 そうして、一瞬で切り捨てられた盗賊を見て、他の盗賊達は唖然となり、救助の存在に気付いて、拐われたらしい村人達の顔に恐怖では無い希望の光が溢れた。


「あー……やっぱダメ。我慢できねえ……」


 自らを見て希望の光を浮かべる村人達を見て、カイトの内側にどす黒い感情が浮かんでいく。


「つっ! 今の内に囲んじまえ!」

「死ねや!」

「あ、ダメだこれ。カイト! ストップ!」


 カイトの顔に浮かぶ怒気を見て、ユリィが大慌てで制止の声を上げる。どうやら悪癖は治ったのでは無く、長い時の結果、少しだけ沈静化していただけ、だったようだ。

 とはいえ、少しだけ、ユリィは間に合わなかった。彼女の声が上がった時には、半数程が地面に切り捨てられていた。そんな圧倒的な姿を見て、盗賊達はもはやたまらず武器を捨てて、命乞いをし始める。


「た、助けてくれ!」

「生命だけは!」


 武器を捨てて命乞いを始めた盗賊達に対して、カイトは怪訝な顔をする。それはまるで盗賊達の命乞いが聞こえてない様な感じだった。そして、それは正解だった。彼には真実、盗賊達の言葉が聞こえていても、理解が出来ていなかった。


「……あー……やっぱ聞こえねえわ。とりあえず、殺すか」

「ひっ!」

「カイト、ストップ。とりあえず、お縄頂戴はしたから、後はカラト達に任せよ」


 あまりに軽く言い放った殺す、という単語と彼から発せられるあまりに濃密な殺意のギャップに、盗賊達が失禁し、恐れをなす。自分達が正真正銘、彼から人として見られていない事を本能が理解してしまったのだ。となれば、後に待つのは死しか無い。だが、その殺意の具現である刃が振るわれる事は無かった。

 生き残った全員を一瞬で捕縛したユリィが少し慌て気味に止めに入ったからだ。そして、そんな彼女が指し示す方向を見れば、土煙を上げてカラト達が近づいてきていた。そうして、そんな様を見て、カイトが苦々しい顔をする。


「わっり。この間とさっき聞こえてたからなんとかなってるかなー、と思ったけど、やっぱ無理」

「はぁ……一応この領地にはこの領地の法律あるんだからさ、デッド・オア・アライブ、とはいかないよ。法の確認してないでしょ? もうちょっと気を付けよう?」


 ユリィが呆れ気味に、カイトの告げる。マクダウェル公爵領では盗賊を名乗れば即座に悪即斬で切り捨てても問題は無いが、ここはマクダウェル公爵領では無いのだ。その法律を確認する必要があった。

 ちなみに、念の為に言うが、大半の領地では盗賊を殺した所で罪には問われない。逆に褒章も貰える事さえある。それはレーメス領でも同じになっていた。

 一応言うが、その場合でもユニオンに報告の義務はあるし、今回の場合はすでに軍と共同で動いているので、問題は無い。村人さえ無事であれば盗賊の生死は問わない、と許可は下りていた。

 そんなお説教にも近い事を言うユリィだが、これが致し方がない事は彼女も把握している。ということで、何処か諭すというよりも、慰める様な感があった。そうして、そんな事をしていると、カラト達が辿り着いた。


「これは……すさまじいな……」


 カイトとその周囲に散らばる盗賊達と思しき死体、そして、捕縛されたらしい盗賊達の残党を見て、カラトが思わず唖然となる。


「ああ、カラトさん。とりあえず半分程殺しましたけど、残りは捕らえました」

「そ、そうか。とりあえず、感謝しよう」


 あまりにあっけらかんとした物言いにカラトは薄ら寒い物を感じて一瞬背筋を凍らせるも、村人を救ってくれたのは事実なのだ。とりあえず、感謝を示して、生き残った盗賊達を引き取る。


「とりあえず、君たちも来てもらえるか? 流石に伯爵様に報告しないといけないからな」

「わかりました」


 幾ら何でもユリィが動いているのだ。それを考えれば、伯爵に伝えなければならないのは事実だ。それに、カイト達にしても伯爵には聞いておきたい事があった。というわけで、一同は再び、移動する事になるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第573話『トラウマ』

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[一言] ???…盗賊なんて滅ぼして当たり前でしょ?ゴミ屑に明日はいらんでしょうに?悪即斬というか悪即滅でいいんじゃ?
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