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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第32章 水面下の出来事編

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第558話 悩み

 今日から新章です。

 竜騎士レース終了から、数日。先にラウル達の大型魔導鎧の皇都からの移送を手伝わないといけないためまだマクスウェルに居たカイトは、桜から相談を受けていた。


「なるほどね……」

「迷惑、でした?」

「いーや、役得役得……さって、じゃあ、要点を纏めると……薙刀だけでは戦えなくなって居る様な気がする、というより、無理になった、というわけね」

「はい……」


 カイトの要約を聞いて、桜が悩ましげに頷く。とは言え、実はカイトの方には、そこまで深刻さは無かった。というのも、この系統の相談はそろそろ誰かから来るだろうな、と思っていたからだ。ということで、カイトが口を開いた。


「まあ、そりゃ、当然だろう。この世界は地球とは違い、戦闘も魔術を含んでの物だ。となると、三すくみどころか無数の相性が生まれてくる。一つを極めた所で、絶対に勝てない状況、というのは現れるんだよな」

「そう……なんですか?」

「おうさ」


 桜の問いかけを、カイトは笑いながら認める。というより、桜の陥っていた状況も、これに近かったのであった。




 それが起きたのは、少し前の事だ。まだ交換留学のお試しが行われていた頃。流石に生徒会長として留学生達の応対にあたりながらも腕前を落とす事は出来ないので、桜は幾人かの生徒と共に、依頼を兼ねて街の外に出る事はあった。そこでの事だった。


「はっ!」


 桜がとある魔物に対して、大振りに薙刀を振るう。敵のランクとしては、Cの上位程度。今の桜なら一人でも勝てるレベルと見込まれている敵、だった。

 とは言え、それは上層部の桜だから、単独でも勝てるだけだ。今は集団で戦っているし、パーティの中にはランクDの生徒も居る。油断するわけにはいかないし、そもそもで彼らを中心として戦うわけにもいかない敵だ。というわけで、桜が基点となり、戦う事にしていた。

 なので、その基点となる桜が牽制によって縫い止められた魔物に対して振るった薙刀によって起きた現象に、思わず全員が瞠目する事になる。


「滑った!?」


 牽制によって動きを縫い止められ、確実に当たる、と見えた攻撃。それは確かに、敵に直撃し、見事障壁を打ち砕いて魔物へと直撃する。だが、それが魔物の毛によって、まるで滑る様に、無効化されたのだ。

 今桜達が相対していたのは、体中が長い体毛に覆われた毛むくじゃらの丸い魔物だった。それに斬撃を放ったのだが、その曲面と毛に塗られていた脂らしき物によって、斬撃が無効化されてしまったのである。


「なっ!?」


 桜の絶句が響く。幾ら何でもそれはあり得ない。そう思うのも無理は無かった。なにせ身体が毛で覆われているだけ、なのだ。物理的に考えて可怪しい。が、相手は魔物なのだ。そういう普通に考えて可怪しい、という事が起こり得る相手、なのであった。


「会長! 自分が!」

「お願いします!」


 桜の攻撃が無力化されたのを見て、盾持ちの生徒が前列を変わる。それに、桜は風系統の魔術を使って牽制して、後ろに下がる。敵に対してどう出れば良いかわからない以上、次の手を考える為には一度様子見をする事も重要だった。


「氷、行きます! <<氷弾(アイス・バレッド)>>!」


 物理攻撃の効きが悪いのなら、魔術だ。ということで氷で創り出した弾丸を撃ちだしたわけなのだが、何とこれに対して毛むくじゃらの魔物がやったことは、硬質化した毛を同じく弾丸として飛ばす、という摩訶不思議な様で理に適った攻撃だった。そうして両者が衝突するが、勝ったのはなんと、魔物の毛の方だった。


「なんだよ、この毛! 無茶苦茶硬い!?」

「つっ!? 盾に連射で来るぞ!」


 どうやら桜達が間合いを取って様子見していることを理解したらしい魔物が、毛を逆立たせて一気に無数の毛を射出する。

 先ほどまでは柔らかそうだった毛は、まるで鋼の様な強度を持ち合わせているかの様に、嵐の如くに無数の衝突音を響かせる。どうやらかなりの衝撃が来ているらしく、盾持ちの生徒が顔を歪める。


「つぅ!?」

「燃やせるかやってみる! もう少し耐えろよ!」

「魔術を共鳴させるわよ!」


 盾持ちの生徒の苦々しい表情を見て、杖を持った生徒達が大慌てで<<融合魔術(フュージョン・スペル)>>の用意をし始める。

 天桜学園の切り札の習得の際に<<融合魔術(フュージョン・スペル)>>と<<共鳴魔術(レゾナンス・スペル)>>を魔術師達が習得した事で、結果的に普通の戦闘でも選択肢が増えたのであった。


「<<火の壁(ファイア・ウォール)>>!」

「<<豪風(ゲイル)>>!」

「「<<灼熱竜巻(ボイル・ストーム)>>!」」


 二人の魔術師が生み出したのは、渦を巻く炎の竜巻だ。常に炎に風を送ることによって、通常よりも火力を高めていたのである。


「はぁ!? 油まみれじゃないのかよ!?」

「何、あれ!? 不燃性の油なんてあるの!?」


 油ギッシュな体毛を見て燃えやすいのだろう、と思った彼らであったのだが、どうやらそうでもないらしい。どうやら不燃性だったらしい逆立たせた毛を畳むと、一切燃える事もなく少し縮んでジャンプの要領で平然と飛び出てきたのである。

 ちなみに、不燃性の油、という物はあるが、燃えにくいだけで完全に燃えない油、という物は無い。更には魔術による超高温だ。これで燃えない油、というのがあるのか、と問われれば微妙だが、そもそも油に見えているだけでこれが油であるかどうかも微妙である。


「逃げましょう!」


 今の自分達では無理。桜はそれを即座に判断して、逃げる事を決める。桜はこの逃げる事に対する判断の良さは、冒険部一だった。これは別に桜が臆病だ、というわけではなく、危険を嗅ぎとって撤退の見極めが良い、という事だ。

 それは冒険者にとって最も必要な物で、同時に、最も手に入れられない物でもあった。手に入れるには、長い経験が必要とされている物だった。

 桜が幼少の頃に拐われて、更には幾度も生命を狙われた事があるという非常に稀有な経験が、彼女の中に生命の危険を見極める鋭敏なセンサーを与えていたのである。

 この年齢にしてそのセンサーを手に入れられている桜は、実は冒険部の中で最もリーダー向き、だった。それ故、彼女が冒険部の副部長なのである。

 カイトの様に化物と言える程の戦闘能力を持たず、ティナの様にとてつもない知性を持ち合わせているのでもなく、普通の才能しか無い状況で誰も死なせないつもりで居るのなら、何よりも、危険に対して臆病で無ければならないのである。そして、そんな経験から来る判断は正解だった。


『良い判断、ですこと』

『ええ、お見事です。見事な判断、と賞賛しましょう』


 二人の女の声が響く。当たり前だが、今ここにはカイトはおらず、そしてカイトが何時でも駆け付けられる状況では無かった。なので当然、カイトが護衛を付けていたのである。


「代わりますわ。この相手には、私の方が相性が良いですもの」

『頼みます。ええ、お願いします』


 撤退を決めて撤退の陣形を組んだ一同の真横を、白銀の美女が一陣の風となって通り過ぎる。そしてそれと同時に、全員の身体が引っ張られて、一気に遠ざかる。そうして一同が降ろされた所には、これまた白銀の九尾の狐が居た。


「この魔物には、こうやって、戦うんですわ」


 毛むくじゃらの魔物へと肉薄すると、ふわり、とルゥが上空に舞い上がる。そして、少し上昇したところで、一気に急降下した。


「<<急落破(きゅうらくは)>>」


 ずどん。一瞬で地面まで急降下したルゥは、そのままの勢いで毛むくじゃらの魔物を踏みつけて、地面にひび割れを作る。

 だが、毛むくじゃらの魔物はまるでゴム毬の様に大きく凹むだけで、潰れる気配は無かった。まあ、本来は本気でやれば一撃で討伐出来るわけなのだが、一応は彼らに戦いの方法を見せる、という事で手加減しまくっていたのだ。


「はっ」


 毛むくじゃらの魔物を凹ませたルゥは、後方宙返りで魔物の後ろ側に着地すると、凹んだ反動で大きく跳ね上がった魔物を追撃する様に、大きく跳び上がる。


「月花ちゃん、ゴール、おねがいしますわね?」

『ええ、任されました。任されましたとも』


 ルゥの指示を受けて、月花が九本のしっぽから細長い魔力の糸を創り出す。それで創り出したのは、まさにサッカーのゴールネット、だった。そうしてそれを受けて、ルゥがくるくると空中で回転する。


「シュート!……未亡人ですのに、少々、はしたないですこと」


 回転の勢いを乗せて毛むくじゃらの魔物をボールに見立てて蹴っ飛ばしたルゥは、そのままふわりと地面に着地して、スリットスカートの裾を整えはじめる。

 ちなみに、結構大股を開いていたので、下着が見えそう、とちょっと期待した男子生徒だったが、見える事は無かった。履いていないのだから、見えないのは当然だ。まあ、服にしても動きまわる癖に下着を身につけない彼女ら用の物なので、見える事は無いのだが。


『ゴール、お見事です。ええ、見事でした』


 一方、どごん、という音と共に蹴り飛ばされた毛むくじゃらの魔物だが、再び凹んで勢い良くゴールネットへと直進していたのだが、ゴールネットへと直撃した瞬間、ネットを揺らすことも無く、あれだけ斬れなかった毛むくじゃらの魔物がまるでサイコロステーキの様に切断された。

 そうして魔物の討伐が終わったので月花はネットを作っていた魔力の糸を消失させる。そして圧倒的な戦力で呆気無く勝利した月花は、解説を始めた。


『あの魔物は意外と弾性があって打撃に強い上に、体毛が変な液体で覆われているおかげで、斬撃にも強い。生半可な攻撃力では、全て無効化されてしまいます。おまけに、魔術に対する耐性も強い。意外と厄介な魔物、なんです。ええ、意外と厄介です』


 月花に言われなくても、全員が理解していた。彼らの攻撃力では、にっちもさっちもいかない状況だったのだ。


『まあ、利点としては攻撃力が無いのでそこまで危険性が高い魔物ではありませんし、そこまで移動速度が速いわけではありませんので、毛の連射にさえ気をつければ、逃げるのは簡単です。ええ、簡単ですね』

「と、言うわけで、逃げを選択したのは、良い判断、ですわね」


 スリットスカートの裾を直し終えたルゥが、てくてくと歩いて更に補足する。パーティ構成や相性の問題等によって、どう足掻いても戦えない敵は出てくる。それを見抜くのもまた、冒険者として重要な才能だった。


『勝ち目がない敵からはさっさと逃げる。臆病と罵られても大いに結構。それが、何よりも重要な事です。幾つもの情報を入手して、幾つもの経験を積む。それで初めて、生き延びられるのです。ええ、生き延びられます』


 月花は元はといえば一国の軍の総トップの一人、だ。それ故、撤退の重要性は何よりも把握していた。撤退が上手くいけばいくほど、次の攻撃にダメージが残らない状態で攻撃出来る様になるのであった。

 撤退の判断は防御であると同時に、次の攻撃の為、でもあったのである。と、月花がそんな事を語った為、桜が質問する。


「あの……そう言う場合は、どうやって撤退すれば一番良いですか?」

『そうですね……まず、動きを止める事を考えて、盾を持つ者が食い止めながら、近距離の面子から撤退。これは退路を切り開く為、というのが大きいですね。ええ、大きいです。そして、退路の確保が出来たら、その次には盾を持つ者がまず撤退。近接の者が作った道は確保、です。その際、遠距離の攻撃を行う者が敵に攻撃して、牽制。これを繰り返して、ゆるやかに撤退するのが、最良かと。ええ、最良、と思っています』


 月花が自らの考えを桜に告げる。これはどちらかと言うと、ゆっくりと戦線を押し下げている、とも見れる。いや、まあ、まさにそうだろう。

 全員が無造作に撤退を開始すると、それは撤退では無く潰走となんら代わりが無い。そうならない為には、撤退も秩序を持って行われなければならないのであった。これは敗北という精神的な重圧を受けている状態で何よりも難しい事で、そして、生き延びる為には何よりも重要な事、だった。そうして、そんな解説を行った月花に対して、ある生徒が、疑問を呈した。


「あの……じゃあ、もし、撤退出来ない状況になったら?」

『だれ……まあ、なんとかする、しか無いですね』


 月花は何かを言おうとして、しかしやめて、クスリ、と笑って言い直す。何とかする。今までとは違って、何ら具体性の無い言葉で、言うは易く行うは難し、だ。根性論も程がある。だが、彼女は敢えて、それを選んだ。


『わかりやすいですこと』

『言わないでください。ええ、言わないでください』


 狼に戻ったルゥの茶化す様な言葉に対して、月花が照れくさそうにそっぽを向く。何があったのか、なぞ彼女らには簡単に理解出来た。言うは易く行うは難し、をやってのけた男に、彼女らは傅いているのだ。二人はその男の事を思い出したのだろう。

 だが、それが理解出来たのは、付き合いの長い彼女らだけだ。それ故、いきなりの根性論に全員が首を傾げる。


「?」

『まあ、死力を尽くしなさい、という事です。ええ、死力を尽くしなさい。死中に活あり。死ぬ気でやれば、大抵はなんとかなるものです。ええ、なんとかなる……んじゃないですかね』

『なんとかなる、というよりなんとかしようとしていけば、意外となんとかなる、ということですわ』


 クスクスと笑いながら、二人は適当にアドバイスを行う。誰かを犠牲にして、大多数を生き残らせる。そんな現実的なアドバイスなぞ、誰にだって出来る。それこそ少しでも軍略を学んだ者であれば、子供だって判断出来る事だ。

 しかし、そんな現実的な答えをぶっ飛ばしたのが、彼女らが傅く男だった。それ故、彼女らはこの抽象的で普通は不可能と言えるアドバイスを、最適解としたのであった。そうして、一同は訓練を終えて、学園に帰って行くのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第559話『解決策』

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