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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第31章 竜騎士レース編

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第557話 閑話 ――高貴なる者達――

 すいません。予告から変えてここは閑話とする事にしました。

 カイトは忘れていた様子だったが、魔導学園に行っていたというのに、遭遇しなかった人物が居る。それもカイトが体育等で模擬戦をやるとなれば、必ず遭遇するはずの人物だ。だのに、遭遇することは無く、カイトも失念してしまっていたのである。

 まあ、そう言ってもその人物がカイトを慮って遠慮してくれた、なぞというわけは無かった。きちんと、周囲の面々が食い止めていたのであった。


「うぅ……何故こんな事になったんですの……」

「あ、あはは……」


 当該の人物の嘆きを聞いて、桜が苦笑する。まあ、誰なのかは言うまでもないだろう。エンテシア皇国の誇る美姫が一人、皇女アンリ、だった。そんな彼女だが、今は非常に悲しそうな顔で、カイトの体育の報告を聞いていた。


「シエラ様が遊ばれていただけ、なんて……なんて面白そうな出来事ですの……」


 カイトとシエラは何か変な縁で結ばれているのか、一週間に数度ある体育の授業で模擬戦を行う回数はかなりの数、だった。まあ、結果は逐一言うまでもないのだが、全てカイトの圧勝だった。

 それも圧勝というよりも、完勝と言う方が良い様な圧勝だ。まあ、カイトはこっそりとエネフィアでは最強最悪の部類の神器を使っているのだから、当然とはいえよう。当人の技量に武器もやばいのだ。勝ち目があるはずがなかった。


「ティキ、せ、せめてビデオだけでも……」

「却下、でございます」


 チラリ、と横のメイドを見たアンリだが、即座に却下された。当然ではあるが、彼女にもメルの小夜、シアのヘンゼルというように、専属のメイドが配属されている。それが、彼女だった。

 名前はティキというらしい。本来はもっと長いらしいのだが、逐一それでは呼べないので、略されたらしい。クズハと同じだった。


「うぅ……」

「そ、そこまで残念、なんですか……?」


 ぐすぐすと嘆きながら生徒会の仕事の手伝いを行うアンリに対して、桜が問いかける。今のアンリはいうなれば、この世の地獄を目の当たりにさせられている様な感じ、と言えたのである。それに、がばっ、とアンリが顔を上げる。


「当たり前ですの……あの、義兄様の武芸ですの……滅多に見れる物ではございませんの……どれほど圧倒的な魔力を放出するのか、と考えるだけでも……はぁはぁ……震えますの……」

「え、えーっと……」


 頬を赤らめて危うい吐息を吐き始めたアンリに対して、桜は対処に困る。曲がりなりにも彼女は皇女で、自分は一応その保護下にある少女に過ぎないのだ。どうすれば良いのか、というのは桜にも理解出来なかったのである。

 が、彼女が悩む必要は無かった。このアンリの危うい性格については当然だが皇国も知っていて、それ故に、その専属メイドはきちんと対処が出来る者を配属していたのである。


「はっ」

「うきゅう!?」


 すぱん、という小気味よい音が響いて、アンリが頭を擦る。何が起きたのか、というと、ティキがハリセンでアンリの頭を叩いたのである。

 とは言え、そんなハリセンは音の鳴った次の瞬間には消え去っており、ティキは先程までと同じく綺麗な立ち姿で立っているだけだった。ということで、桜が一瞬ハリセンの姿を捉えていた以外には誰にも何が起きていたのか理解は出来なかった。


「お仕置き、でございます。姫様、このような所でははしたのうございます」

「うぅ……」


 すりすりと頭を撫ぜながら、アンリが少し恨みがましい視線をティキに送る。が、この程度では意味は無い。そんな視線に動じる様なメイドでは無かった。


「うぅ……分かってはいたんですの……」

「それでは、お仕事を続けてください」


 ぺたぺたと判子を押し始めたアンリに向けて、ティキが次の書類を差し出す。今更ではあるが、彼女が何故カイトの模擬戦を見れなかったのか、というと非常に簡単な話で、平日は彼女が天桜学園で授業を受けていたから、だ。つまり、カイトとは逆に彼女は魔導学園に居なかったのである。


「あの……なら何故断らなかったんですか?」

「……お父様のご命令ですの……」


 桜の疑問に対して、アンリがどんよりとした姿で答える。まあ、そういうことだ。カイトが行くとなれば確実に彼女は暴走するだろう。それを理解しての、皇帝レオンハルトの行動だった。

 が、当然だが、彼はここまでの事はしない。彼は基本的には放任主義だ。では誰が、となると、それは一人しか居ないだろう。それはすでに公爵邸に自分の部屋を作り始めていたシアである。妹の性質を睨んだ慧眼である。


「それは当然よ。貴方がカイトと一緒に居たら変に動く可能性が高いもの」


 ことん、とティーカップを置いて、シアがアンリに告げる。彼女は別に何時も天桜学園に居るわけでは無いのだが、今日は偶然用事で学園に来ていたのだった。


「うぅ……酷いですの……折角の楽しみが……」


 シアの言葉に、アンリがさめざめと涙を流す。彼女にとって、何よりもの楽しみは強者の戦いを見る事、だ。世界最強と言えるカイトの戦闘を見れないのは、絶望以外の何物でも無かったのだろう。と、言うわけで、この数日後。アンリのこの姿があるのは、ある種当然だった。


「はぁはぁ……さいっこーですの……」


 今にもよだれを垂らしかねない程にだらしない表情で、アンリがカイトの姿を観察する。録画機器――それも彼女がティナに頼んで作ってもらった世界最高品質の物――を無数に設置しており、時折来るカイトからの魔力の放出を感じては、びくんびくんと身を捩っていた。まあ、アンリは幼い少女なのだが、非常にエロかった。


「ティキ。ハリセン」

「無意味、でございます」


 シアからの命令に、ティキが首を振る。完全にトリップしているアンリに対して、外的ショックは無意味の様だ。現にすでに5発程ハリセンでの一撃が加えられていたのだが、それらは全て、無効化されていた。

 精神的・肉体的に興奮しすぎて、肉体に対してのダメージを無意識的に無効化してしまっている様だ。謂わば格闘ゲームのスーパーアーマー状態、という所だろう。ハリセン程度の打撃では威力が低すぎるのか、無効化されてしまっていた。

 ちなみに、後に発覚したのだが、アンリはハリセンによる殴打の痛みを感じていないわけではなく、痛みが快楽に変わっているだけ、だったらしい。攻撃は無意味どころか悪化させるだけだった。対処に困る、とシアが嘆いていた。


「はぁ……クズハ様、感謝します。それと、申し訳ありません……」

「いえ、まあ、元気でよろしいかと思います」


 メルからの謝罪と感謝に、クズハが苦笑しつつも頭を振るう。まあ、当たり前だがシアもメルもアンリも揃いも揃って全員が皇女だ。その身に万が一があっては一大事だ。というわけで、貴賓席として、マクダウェル家から飛空艇が一隻貸し与えられていたのである。

 まあ、そうでもないと流石にシアやメルが強引にアンリをその場から回収して、何処か安全な場所に放り込むだろう。そんな飛空艇の中には、他にも桜やソラ達冒険部上層部の面々も一緒だった。


「……どうしました?」

「あ、いえ……」


 何処か物思いに耽っていた桜に対して、クズハが問いかける。彼女は一日目のレースが始まってしばらくしてからというもの、ずっとこの様子だった。どうやら、何か思う所があったらしい。それに対して、男子陣は各々の楽しみ方を行っていた。


「うぉー! すっげ! 今の見たか!?」


 ソラはどうやら持ち前の少年っぽい部分が表に出ていた。なので、この場の面々の中では一番素直に竜騎士レースそのものを観戦者として、楽しんでいた。今もとある地竜が放った一撃を華麗に避けて返す刀で騎手を狙い撃った弓使いの技量を賞賛していた。


「あー……短剣って、あんな使い方もあんだなー……」


 それに対して、翔は軍学校の面子の短剣の使い方に、思わず感心していた。彼はどうやら見方が冒険者のそれに近かったらしく、工夫した戦い方に興味を覚えていたらしい。

 ちなみに、何が起こっていたのか、というと、サブウェポンの短剣を使って主武器である長剣を回収する、という技巧を見せられたのだ。

 ヴォルフ軍学校の選手の一人が、主武器としていた長剣を戦いで失って、地面に突き刺さった長剣に向かって短剣とベルト等を使って即席で鎖鎌を作ってみせたのである。短剣は短剣としてしか使う発想の無かった彼にとって、こういった有り合わせで別の使い方を考えつく、というのは非常に参考になったのである。


「ほう……あの槍使い……なかなかに出来るな。あの体捌き……流派は俺と同じだろうが……なるほど。ああやって変えれば良いのか……」


 そんな二人に対して、瞬はまったく別の視点、即ち戦士としての視点から見ていた。彼が着目していたのは、竜の上ではどのような戦いをするのか、という所だ。どうやら自らも何時かはそうやって竜騎士紛いの戦いをするかもしれない、と今からイメージを積んでいるらしい。


「くぁー……竜乗って戦ってみてー……」

「無理だよー。だって、ソラ、相性悪いもんー」


 ソラのぼやきに、由利が苦笑気味に指摘する。当然ではあるのだが、彼の特性、つまりは竜殺しという力を抑えられない、という点は一朝一夕で治るはずが無い。少なくとも、数ヶ月は掛かる見込みだ。 

 まあ、喩えその不具合が改善されたとしても、ソラは乗って戦う事は出来ない。いや、やろうとすれば出来るが、あまり得意な分野では無いだろう。というわけで、そんなソラに対して、由利の言葉を引き継いで魅衣がある疑問を呈した。


「そもそも、あんたが竜騎士になった所で、意味無いんじゃない? いや、まあ、私もおんなじなんだけどさ」

「……へ?」

「いや、だって……あんた高機動が売り何じゃなくて、重防備、でしょ? そもそも竜騎士、って竜の機動力活かした一撃離脱型の高機動の戦士なんだから、先輩みたいに槍とかで突き刺してすぐに離脱、が出来たり、由利みたいに弓とかで離れて攻撃出来る様な射程距離無いと、ねぇ」


 ソラが怪訝な顔をした為、魅衣が指摘する。当たり前だが、ソラは全身で重防備だからこそ、そして地面にしっかりと足を付けられるからこそ、その防御力があるのだ。騎竜という不安定な足場の上では、その防御力が万全に活かせるわけがなかった。そうして、更に畳み掛ける様に、由利が指摘する。


「それにー、ソラって上とったって意味無いんじゃないかなー?」

「……え?」

「だってさー……盾って、足下にも防御出来るのー?」

「……無理……」


 由利の指摘を、ソラが認める。当たり前だが、盾は腕に装備する物だ。それ故、その射程距離というか防御可能範囲は、あくまで盾が届く範囲に限られる。となると、足よりも遥かに下まで防御出来るはずが無かった。

 とは言え、何も彼が悪いわけではない。というわけで、ダブルで滅多打ちにされて落ち込むソラに対して、アウラが援護に入った。


「でも、ソラは竜騎士相手なら、負けなくなる事は出来る」

「……え? マジ、っすか?」

「ん……そもそも、ソラは重防備。頑張れば、竜の突進も<<竜の息吹(ドラゴン・ブレス)>>も防ぐ事が出来る……違う?」

「いや、出来るっすけど……」


 アウラの問いかけを、ソラも認める。数カ月前。まだアウラが帰還するよりもずっと前の頃には、ちょっと強いぐらいの地竜から逃げるしか出来なかったソラだが、今ならば、竜種と戦う事は出来るぐらいには成長していた。

 それは実際闘技場での戦いでも示していたし、今のオーアの手で開発された新装備を装備した彼ならば、地竜の<<竜の息吹(ドラゴン・ブレス)>>を防ぐ事も出来る。

 例えばだが、海での特訓でずっと練習していた<<操作盾コントロール・シールド>>を何枚も重ねれば、確実にある程度の強さの地竜の攻撃はほぼ全て防ぐ事が出来るだろう。少なくとも、ランクC程度の地竜であれば、ソラ一人ででも勝てるだけの実力は持っていた。


「普通、竜騎士の使う竜はそこまで強くはない。と言うか、強かったら騎竜として使えない。せいぜい一般的な竜騎士が使えるのは、大体30歳ぐらいまでの竜。それ以上年を取っちゃうと、並の騎士では扱えない。ずっと一緒、とかになると扱えるけど、その頃には騎手の方が戦士として、使いものにならない。となると、ソラはそんな騎竜程度の攻撃力なら、対処出来る。後は近づいてきた所をカウンターで一撃加えれば良いだけ」

「いや……一撃で倒せるんっすか?」

「ん。竜騎士に防御力は無い」


 ソラの疑問を、アウラが認める。まあ、それはそうだろう。幾ら軍馬よりも遥かに積載量の高い竜とは言え、やはり生き物で乗り物だ。騎手が重くなれば重くなる程、その動きは鈍り、スタミナの消費は激しくなる。なるべく軽い方が良いのは、当然だった。

 というわけで、竜騎士達は殆どが軽装備だ。シエラの様に重装備の竜騎士は滅多に居ない。これは彼女らが竜騎士の一門で、更には各々が専用に最良の騎竜を持つからこそ、出来た事だった。他の一般的な竜騎士達が出来るはずが無い。名門だから出来る事、なのであった。


「ということで、普通に止めてカウンター。普通に考えて、ソラの方が圧倒的に有利」

「……でも、竜に乗った方がかっこよく無いっすか?」

「カイトよりもかっこ良くないから一緒」

「……そっすか」


 一瞬で切って捨てられた返答に、ソラは何も言えない。結局の所、彼女にとって重要なのはカイトが関わるか関わらないか、なのだ。それ以外に何の意味も無い。ソラに助言を与えた理由も、カイトの役に立つから、の一言で終わってしまうのである。


「まあ、でも……どっちにしろ、当分は竜騎士の戦いは考えなくても良いわよ」

「? どういうことだ……ですか?」

「いいわよ、前と一緒で」


 ソラが思わず丁寧な口調での問いかけに変えたので、メルが苦笑しながらも頭を振る。ソラは一応メルが皇女だったので、という事でこの丁寧な口調にしていたのだった。というわけで、ソラも遠慮なくそうさせてもらうことにして、改めて問い掛けた。


「ああ、うん……それで、どういうことだ?」

「貴方達、そこまで練習している時間無いもの。あれ、一応本当は一ヶ月やそこらで、なんて不可能なぐらいにしっかりと訓練しないと出来ないわよ? 瑞樹のレイアだって最高の調教師が一ヶ月騎手と一緒にみっちり調教してくれたから使い物になっているだけで、普通には無理。竜って……あの、竜よ? 貴方達、普通にやって言うこと聞いてくれる、って思う?」

「あ……」


 メルの指摘に、ソラがはっとなる。瑞樹や皐月がさも平然と乗りこなしていたから普通に出来る様に見えていたが、皐月の騎竜は学園でも飼える程に大人しく、そしてそれなりに長く飼育されて人に慣れている竜だからこそ、皐月でも扱えるのだ。

 皐月はひょいひょい乗りこなしている様な様子があるが、本来はかなり難しい。彼女がカイトに似て器用だからこそ、出来た事だった。

 つまり、ゼロからの調教となると、乗りこなすのが先か、帰還の目処が立つのが先か、というレベルだったのである。


「じゃあ、もしかして……俺の場合、力使いこなして自力で捕獲した方が早いかも、ってことか?」

「そういうこと。あんた確か祖先龍族なんでしょ? なら、竜の捕獲なら私も冒険者時代にやってるから、やり方なら教えてあげる事も出来るわ。まあ、カイトの許可が出たら、言いなさい」

「おっしゃ! サンキュ! ミースさんに今の俺一回調べてもらうとすっか!」


 メルの言葉に、ソラが喜色満面で感謝を示す。自分の力を使いこなした方が早い、となると、そっちを彼は選ぶのである。ミースに調べてもらう事にしたのは、今の自分の現状がわからないままだからだ。

 あの後旭姫の訓練が入り、と精査している暇が無かった、とも言う。こうして、ソラが新たな決意を固めて、冒険部上層部の一日は終わっていくのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第558話『悩み』。次回からは新章です。次章は幕間的な感じで、少し短いお話になる予定です。

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