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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第31章 竜騎士レース編

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第555話 勇者達・降臨中 ――勇者と魔王と皇帝と――

 *連絡*

 ここ当分、DoS攻撃の影響でなろう全体で夜間のアクセスが不安定になっています。流石に3日連続とは考えたくないのですが、調べると8月下旬から色々な所で発生しているらしく、連続する可能性があります。

 本日もあった場合、申し訳ないですがソートは明日の日中に行わさせてください。こればかりは私ではどうしようもない事ですので、ご了承をよろしくお願いします。

 なお、投稿は今日明日はそのまま続けるつもりですが、状況に応じては断章も18時投稿とするか、未校正の物での投稿、落ち着いた所で校正を、とさせて頂くつもりです。こちらもご了承をお願いします。

 ルクスと茶化しあう様に話し合っていたウィルだが、彼は一番弱い存在、だった。が、それはカイト達というある種可怪しい存在を前にしたが故に弱いだけで、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』から見れば、彼もまた、暴力に等しい存在だった。


「皇帝にゴミを投げつけるな、愚か者め」


 彼は単騎周囲から投げつけられる投射物に対して、双銃を振るって破壊していく。やろうとすれば一撃で破壊することも出来るが、ストレスが溜まっていた為、引き金を引きまくって粉微塵にしていた。そうして、その一つの巨岩を砂に変えた後、その残骸を突き抜けて、投げつけた『石巨人(ストーン・ギガンテス)』へと一瞬で肉薄する。


「三枚におろしてやる。<<双破斬(そうはざん)>>!」


 ウィルは双銃を双剣へと変形すると、そのまま跳び上がって『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の頭上から一気に振り下ろして、言葉通り『石巨人(ストーン・ギガンテス)』を三枚におろす。そして更に振り返り、後ろから迫っていた別の個体に対して、再び双銃に戻した双剣の銃口を向ける。


「散れ。<<轟砲連射(ブレイズ・カノン)>>!」


 ウィルは自由落下しながら双銃の引き金を引きまくって、もう一体の『石巨人(ストーン・ギガンテス)』を蜂の巣に仕立てあげる。と、そうして着地したと同時に、少し遠くで巨大な火柱があがった。言うまでもなく、バランタインの火柱だった。


「ちっ……ゴミ処理場を作っておけば良かったか。やはりゴミはゴミ箱へ、だ。安易に庭に捨てようと考えたのがいけなかったか……」

『いやそれ以前にあれを捨てるゴミ処理場を作れるのか?』

「……そこが、最大の難点だ」


 カイトの言葉に、ウィルが非常に沈痛な顔で答える。というのも、バランタインはこの世界ではぶっ飛んだ存在だ。それを殺す方法は、数少ない。と言うか、カイト達以外には不可能だ。


「そもそも、奴は一体なんなんだ?」

『知らねえよ。歴史の産んだ化物、じゃねえ?』

『おいおい……俺様はてめえよりもマシだろうが』


 カイトの言葉に、バランタインが呆れ返った様子で告げる。まあ、至極知られた話だが、そのバランタインを以ってしても手に負えない存在が、カイトなのだ。化物に化物呼ばわりされる筋合いは無かった。


『うるせー。こちとらバランのおっさん以上に生きるか死ぬかの地獄彷徨ってたんだよ。そりゃ、化物にでもならねえと生き延びらんねえって』

「いや、まだ祖先に強大な力を持つ者がいるカイトは良いだろう。が、貴様は正真正銘の謎だ」


 バランタインの言葉に愚痴ったカイトに対して、ウィルが正真正銘理解不能だ、と疑問を返す。まだ、カイトは血統的に理解が出来なくはないのだ。いや、それでも可怪しいが、理解出来なくはない。

 が、バランタインは正真正銘の謎、だった。こういう言い方が正しいかは不明だが、彼の血筋は由緒正しき奴隷の血筋だ。数百年に渡って遡っても、何処にも強大な力を持つ異族の血は流れていない。数千年遡ればわからなくはないが、そこまで遡って血が表に出ることはあり得ないだろう。そんな推察を行うウィルに対して、バランタインが自慢気に告げる。


『俺様は天才だからな』

『努力家なのに?』

『天才ってのは努力も怠らねえんだよ』


 カイトの言葉に、バランタインが少し照れくさそうに答える。彼は彼自身が言うように、武芸に関してはものすごい天才だ。それは誰もが認めている。そして努力していることも、だ。


「努力一つで片付く問題では無いが、な。そもそも貴様の身体はどうなっているのやら……なんだ、その炎に変わる身体は。理解出来ん」

『知らね』

『オレも知らね』


 バランタインに続いて、同じく炎化出来るカイトがぶん投げる。まあ、そんな事細かな理論が理解出来る様な頭は存在していない。説明出来る頭もない。そして当時のありとあらゆる検査機が計測不能、と弾き出したのが、バランタインだった。


「はぁ……貴様らにもう少し頭があれば……」


 皇国はもっと栄えただろう、とウィルがぼやく。まあ、そんな頭があれば、そもそも誰も苦労はしていないだろう。と、そんなぼやきを浮かべた彼へと、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の集団が取り囲む。


「俺の庭に泥人形は要らん。失せろ。<<嵐の欠片(ストーム・スリップ)>>」


 ウィルは双剣の柄の部分で連結させると、そのまま両刃刀を振り回して、竜巻を生み出す。そうして、竜巻の内側からは、無数の刃が放たれる。それを防御する為に『石巨人(ストーン・ギガンテス)』が動きを縫い止められる。そうして、その竜巻を囮に、ウィルが電を纏って集団の背後を取った。


「馬鹿が。<<雷雲双嵐(ダブル・ストーム)>>」


 雷を纏ったウィルは、雷の速度で集団の周りを回りながら、双銃を乱射する。その二つの竜巻の中で、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』は内側からは斬撃に斬りつけられ、外側からは銃弾の雨に打たれて、土塊に変わる。


「ふん……この程度か」


 弱い。それが彼の評判にも関わらず、圧倒的だった。だが、これでさえ、まだ手加減をしていた。いや、正確には、手札を隠していた、だ。

 本来の彼は、これに魔術を織り交ぜた戦いを行う。これでさえも、手加減の範疇だったのである。そうして、一切の手の内を隠したままの賢帝は、手札を隠したまま、敵を土塊へと変えていくのだった。






 手札を隠す必要があるのは、言うまでもなく、ウィルが弱いからだ。彼には他の面々に比べて手札が圧倒的に少ない。なので、隠さなければならなかったのだ。というわけで、手札を無数に持ち合わせるティナには、そんな必要は全く無かった。


「ふーむ。何を使うかのう……」


 手札を無数に持つ彼女にとって、悩むべきは何を使おうか、という所だった。と、そうして一つ、思い付いた事があったらしい。子供の様な楽しげな笑顔を浮かべる。


「そうじゃ……ふふふ……コール!」

『お前作ったのか?』

「いんや、作ってないのう」


 カイトの問いかけに対して、腕時計の様な何かに叫ぼうとしていたティナが否定する。どうやらただ単にやりたかっただけ、らしい。そうして、彼女はその腕時計の様な何か、に取り付けられていたスイッチを押し込んだ。


「まあ、とりあえず……ぽちっとな」

『……? 何も起きねえぞ?』


 少しの間。何かが起きる事は無かった。が、その次の瞬間。いきなり虚空から巨大な魔導機が出現した。それは真紅をベースとした機体で、手には杖の様な物を持っていた。ティナ専用の魔導機、だった。デカブツにはデカブツを、というわけだったのである。


「余専用機、推参じゃ!」


 ぴょん、と魔導機に乗り込むと、ティナは一瞬で魔導機を起動する。丁度試験が終了した為、一度試しに使ってみるか、と考えたのである。

 ちなみに、来るまでに時間が必要だったのは、急な使用の決定だったので用意に時間が必要だった事と、アイギス達に頼んで公爵邸地下に作った魔道具で転移させる為の準備に時間が必要だった為、であった。


『おぉ! でっけぇな!』

「であろう? 余の力作じゃ!」


 オーリンの言葉に、ティナが自慢気に豊満な胸を張る。と、そんな所に、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』達が殴りかかる。


「ふあっははは! 効かぬわ! その程度の力でこの鋼の巨人に傷をつける事が出来るはずがあるまい!」

『昔より魔王魔王してねぇか?』

『……地球に連れて帰ったのが、悪かったんじゃないか?』

『……いいんじゃないかな? 当人もカイトも楽しんでる様子だし』


 自信満々に胸を張って『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の連撃に耐え続けるティナに対して、一同がヒソヒソと念話の中で会話を行う。

 まあ、胸を張って高笑いするその姿は、何処に出しても恥ずかしくない魔王様の御姿だろう。と、そんな一同の語り合いを他所に、ティナが行動に移った。


「では、今度は余から行くぞ!」


 ずしん、という音と共に、ティナの魔導機が動いて、杖を構える。それに、一同は何か魔術を使うのか、と身構えた。が、次の瞬間。ティナは杖を大きく振りかぶって、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の頭を思い切り打ち据えた。


『がはは! 殴るのか!』

『魔術使わないんだ……』

「レベルを上げて物理で殴ればいいんじゃ!」

『わけがわからんぞ……』


 ティナの返答に、一同がガックシと肩を落とす。ティナの事なので逃げ遅れたりするとこちらまで巻き込まれかねない、と身構えたのが無駄だった。

 ちなみに、杖も金属製でティナの力で打ち据えられている為、当然だがそれで殴られた『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の頭は完全に崩れ去っていた。


「さて、では続けて行くぞ!」


 ティナの言葉に合わせて、背面に取り付けられた飛翔機に魔力の火が灯る。そうして、一瞬にして、ティナの魔導機が急加速した。


「ふふふ……」


 一気に高空にまで飛翔した魔導機は、そのまま地面に向けて杖先を向ける。


(ワンド)変形……モード・銃砲(ライフル)……双門開放……<<螺旋(ヘリクス)システム>>起動……<<螺旋砲(ヘリクス・ランチャー)>>!」


 ティナの声に合わせて、杖の先から赤と青の二重の螺旋が放出される。少し前に彼女が作ったが、<<螺旋魔術(スペル・ヘリクス)>>だった。どうやら実装出来たらしい。それに気付いて、カイトが声を上げた。


『って、おい! 周辺一体をぶっ飛ばす気か!』

「そうはならんよ」

『ん?』


 ティナの言葉は、正しかった。『石巨人(ストーン・ギガンテス)』を消し飛ばして地面に着弾した赤と青の螺旋だが、そのまま地面に潜り込むと、今度は地面から再び上にあがり、まるで蛇の様に『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の巨体に絡みついて、消し飛ばす。

 そうして上に登って行く螺旋は再び急降下すると、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の身体に絡みついて、消し飛ばす。それの、繰り返しだった。


『……あ、相変わらず、ぶっとんでるね……』

「伊達に魔王を名乗っとらんわ」


 ルクスの引きつった声に、ティナが自慢気に頷く。こんな事が出来るのは、後にも先にも彼女だけ、だろう。幾ら巫山戯ていようとも、彼女こそが有史上最高の人望と才能を併せ持つ、最強の元魔王、なのだ。その魔術は常識を遥かに上回っていた。


「爆発させようとすれば、爆発させることも出来たがのう……森を破壊するわけにもいくまい?」

『木々を全部避けるか……』


 破壊の後を見たウィルが頬を引き攣らせる。一件法則性も無く乱雑に見える螺旋だが、それは一切木々を傷つける事は無かった。それは土の中に埋まっている根っこさえも、傷つけていなかった。複雑な螺旋は、それらを全て、完全に避けていたのである。


『よ、流石魔王様』

「うむ。まあ、流石にこの程度で良いじゃろう」


 再び背面の飛翔機を起動させると、ティナは一瞬で高度を下げて、ふわり、と地面に着地する。彼女こそが、魔王だった。彼女の魔術の前では、如何な存在も、完全に消失する。そうして、自らの開発した愛機を操る魔王は、その場の敵全てを、完璧に消失させていくのだった。




 この戦場には、化物がもう一人、居た。それは言うまでもなくカイト、だった。とは言え、彼は何か不思議な事はしない。ただただ、空き地の中で普通に戦っていた。

 飛空艇の援護が無くなった事で、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』達も大挙して空き地に出てきたのである。


「<<掌底撃(パルム・バンカー)>>!」


 カイトは掌底を『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の胴体に突きつけると、それと同時に手のひらに魔力でパイルバンカーを創り出す。そして、射出された杭は、轟音を響かせて、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』の胴体を撃ち貫く。


「次! <<雷光炎槍(らいこうえんそう)>>!」


 杭で撃ち貫かれて吹き飛んでいく『石巨人(ストーン・ギガンテス)』に対して、カイトは更に炎と雷を宿す槍を創り出し、顔面に投擲する。そうして地面に着地すると同時に、武器を刀に切り替えた。


「ふっ」


 音も無く、カイトは腰に佩びた刀を抜き放ったが、斬撃も放たれていないし、何も切れていなかった。しかも、『石巨人(ストーン・ギガンテス)』は動いている。と言うより、音は鳴ったはずなのに、刀は納刀されたまま、だった。


「<<転・連(まろばし・れん)>>」


 カイトの口決だけが、響く。そして『石巨人(ストーン・ギガンテス)』が一歩踏み出した瞬間、音もなくその身体が砂に変わり、ざっ、という音と共に崩れ落ちて砂の山に変わった。


「悪いな。何もかもが無意味になる斬撃だ……貴様ら如きで避けれるもんじゃねえよ」


 斬撃さえも生まず、斬られた、という結果のみを生み出す剣撃。斬撃を放つという行動さえもキャンセルした、ある種チートすぎる剣撃だった。巨大なだけの『石巨人(ストーン・ギガンテス)』が避けれるはずが無いし、防げるはずも無かった。

 そうして、刀を消したカイトは続けて、両手に巨大な篭手を装着する。右腕を大きく引くと、カイトはそのまま篭手を巨大な炎に変える。


「<<豪炎連拳(ごうえんれんけん)>>!」


 右腕で巨大な炎の拳を突き出すと同時に左腕を引いて、巨大な炎を宿す。一撃だけでも十分な威力を持つ<<豪炎拳(ごうえんけん)>>を連続で放つつもりだったのだ。そうして、そんな灼熱の連撃を食らえば、後に待つのは溶岩となる未来だけ、だった。

 とは言え、それで一体片付けたからといっても、敵はまだまだ腐るほど居る。というわけで、カイトは篭手を消すと、今度は大剣を取り出す。ルクスの愛用した聖大剣・エリクシアだった。そしてそれと同時に、一体の分身を生み出す。


「来いよ、二人共……<<極光破斬(ホーリー・ストライク)>>!」

「<<漆黒破斬(エビル・ストライク)>>!」


 二人のカイトは同時に大剣を振りかぶり、極光と漆黒の斬撃を生み出す。そうして、その斬撃を森の空き地の中で衝突させる。


「「<<終焉の太極ラグナレク・ストライク>>!」」


 極光の斬撃と漆黒の斬撃の衝突は、全てを消し飛ばす破壊を生んだ。そして、その余波が、周囲に幾重もの破壊を降り注がせる。


『ちょ、こっち来てる!』

『一番はっちゃけてるのは生きている奴か!』

『うぉおおお!』

「あ、わり。ちょっと面倒になったから余波で消し飛ばそうか、と思ったけどやり過ぎた?」

『やり過ぎだ!』


 カイトの問いかけに、一同の声が響き渡る。余波で消し飛ばそう、と言っている様に、カイトはこれで敵を消し飛ばそうとは考えていなかった。

 数が多かった為に<<終焉の太極ラグナレク・ストライク>>の余波で生まれた光線で適当に吹き飛ばそう、と考えただけであった。ちなみに、手加減はしているしきちんとコントロールしているので、木々には傷一つついていない。


「とと……じゃあ、こんなもんで良いか」

『あっぶねぇー……危うく巻き込まれる所だった』

『我流で僕の真似やってるの良いけどさ……結局一番やばいの開発してるのカイトだよね……』

『だから貴様は……』


 大半を討伐した事を確認したカイトが<<終焉の太極ラグナレク・ストライク>>を終わらせると同時に、三者三様にほっ、と一息、という所で息を吐いていた。

 ちなみに、アベル達が巻き込まれたのは、これ、だった。ちょっと高めに撃ち上げた一撃が、その横を通り過ぎていっただけ、であった。それが飛空艇を揺らす程の乱気流を生んでいるのだから、計り知れない。


「よっしゃ。じゃあ、残りは少し。さっさとぶっ潰すとするか」


 分身を消したカイトは、更に続けて双銃を取り出す。一応大半は片付けたが、後数体残っていた。まあ、彼がたどり着く頃には全滅しているだろうが、その合間に他の魔物が見つからないとも限らない。ついでなので潰そうか、と思っていたのである。


「ほい、ほい、ほいっと」


 道中でまるで舞い踊る様に双銃を乱射しながら、カイトは適当に目に付いた魔物を撃ち貫いていく。彼は仲間の武芸を使い、仲間の武器を操り、仲間の遺志を継いでいく。

 そんな彼は、まさに勇者、だった。数多の想いを引き継いで、数多の戦いを重ねていく。たった一人にして、無数の軍勢を率いる男。そうして、勇者はその名に相応しい姿で、最後まで戦い続けるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第556話『竜騎士レース』

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