第538話 竜騎士達
冒険部ギルドホームにてレイアの飼育が始まって、約2週間。竜騎士レースまで後1週間を切ってしばらくした頃だ。取り敢えず、レイアと瑞樹の組み合わせについては、取り敢えず見れる程には完成していた。
「レイア、ストップ!」
大空高くにて、瑞樹がレイアに対して指示を送る。すると、ほぼそれと同時にレイアは急制動を掛けて、急停止した。それを受けて、瑞樹がおもわず顔を綻ばせた。
「右ですわ!」
そして更に、瑞樹の指示は続く。そしてそれに合わせて、レイアは両翼を羽ばたかせる。すると、それでまるでカタパルトで射出されたかの様に、レイアが高速で横に移動する。その速度はかつてカイト達に襲撃を掛けた頃よりも遥かに素早く、そしてキレのある物だった。
そして、その次の瞬間、レイアの居た場所に火球が飛来した。瑞樹が右に移動するように指示したのは、これを避ける為だったのだ。
「そのまま突進!」
飛来した火球を避けると同時に、瑞樹が火球が飛んできた方向、即ち前方に向けての移動を開始させる。別に前進しながらでも回避は可能だったが、火球が僅かに追尾性を有している物だった為、十分に引き付けてから回避するという安全策を取ったのである。回避してしまえば、後はレイアの速度が勝る為、放置で良かったのだ。
そうして、瑞樹の指示を受けて再びレイアは両翼を羽ばたかせて前進を開始する。敵と瑞樹の距離は、およそ1キロ。天竜ならば、瞬く間に移動してしまう距離だった。
「テトラ! <<竜の乱流>>を放て!」
前進してくる瑞樹を見て、キリエがテトラに指示を飛ばす。彼女に前進してきているのだから当然、先ほどの火球もキリエが飛ばした物だ。二人で竜騎士同士での空中戦の訓練をしていたのである。そうして、息を大きく吸い込んだテトラに気付いて、瑞樹が大きく目を見開いた。
「<<竜の息吹>>!? まずいですわねっ!?」
当たり前だが、<<竜の息吹>>なぞまともに喰らえば即脱落の一撃必殺だ。だが、その弱点も当然に存在している。<<竜の息吹>>は放った後に軌道を変えられないのだ。流石にコアを全て共鳴させて放つ大技だ。そこまで繊細な動作は出来るはずがなかった。
と、言うわけで、瑞樹は大きく息を吸い込んだテトラの様子をしっかりと観察する。<<竜の息吹>>が射出される瞬間を狙い定めて、回避しようというのであった。
が、これは彼女の不見識から来る失敗だった。そうしてテトラが吸い込んだ息と共に、溜め込んだ魔力を口から放出する。
「今!」
口が開き、魔力による光が溢れると同時に、瑞樹がその瞬間を狙い定めてレイアに指示を送る。そしてそれを受けて、レイアが突進を続けながら、大きく両翼を羽ばたかせて、上に跳ねる様に上昇する。
が、それと同時にテトラの口から放たれた魔力の光弾は、なんと直進しなかった。放たれた魔力は光弾となると、即座に破裂して無数の小球へと変貌し、まるでそれ一つ一つが自分の意思を持つかのように不規則な軌道を描きながら、瑞樹とレイアを追いかけてきたのだ。
「は!? っ! レイア! 軌道変更! 上に一直線!」
目の前で起きた現象に目を見開いた瑞樹であったが、即座に我を取り戻してレイアに指示を送る。当たり前だが、このまま直進すれば自ら無数の光球の中に突っ込む様な物だ。
一発一発の威力がどれほどの物なのかは瑞樹には理解出来なかったが、元は<<竜の息吹>>を構築する魔力だ。全てで無くても多数に直撃されると負けになる事だけは確実だった。
そうして、その急な指示を受けて、レイアが姿勢を変えて、どんっ、という音と共に最大戦速で上空へと一気に飛翔する。レイアもこれがまずい物だ、という理解が出来ていたのである。
「振り切れない!?」
上空を高速で飛翔するレイアの上から後ろを振り返った瑞樹だが、そうして見た光景はレイアよりも更に高速で飛翔する無数の光球の存在だった。そうしてそれを判断すると、瑞樹は腰の両手剣では無く、背中に背負った大剣を手にとった。
「レイア! ブーストになりますわよ!」
瑞樹は大剣の先端を地面に向けて、そのまま自分達に迫り来る無数の光球へ向けて狙いを定める。とは言え、当たり前だがそのまま魔導砲形態へ、という事は出来ない。魔導砲は禁止されている。
だが何も魔導砲でなければ魔力を放出出来ないわけではない。そうして、瑞樹は大剣に込めれるだけの魔力を込める。
「狙う必要は無いですわね!」
瑞樹はそう悪態をつくと、そのまま一気に大剣を振りかぶり、巨大な魔力の斬撃を放つ。流石に地上が街や学園なら大問題だが、幸いにしてここは専用に用意された訓練場で、場所にしても大空の彼方だ。遠慮無くぶっ放せた。そうして、瑞樹は下から迫り来る無数の光球を一気に一掃する。
「ふぅ……素材が両手剣よりも良いのは有り難いですわね。ですが……これを考えれば、今後は魔導砲に面射撃としての攻撃が欲しい所ですわね……」
狙いを定めず無茶苦茶に斬撃を放って全てを一掃した為、瑞樹の減った魔力はかなりの物だった。それ故、少しだけ掻いた額の汗を拭うと、前を向いて、再び目を見開いた。そこには先程と同じ光球が雲を突き破って、こちらに迫ってきていたのだ。
ちなみに、雲に見えていたのはキリエが創りだした水魔術による即席の霧だ。瑞樹は後ろを向きながら上昇し続けていた事で雲までの距離が掴めず、偽物と理解したのは試合後の事だった。
「なっ!?」
目の前から迫り来る無数の光球に、こんどこそ瑞樹は我を忘れる。おまけに距離もかなり近くなっており、今から魔力を込めたのでは間に合わない距離だった。
「レイア! 大急ぎで」
下へ、と言おうとした所で、上から<<竜の乱流>>による無数の光球を受けて、試合終了、となるのだった。
試合終了からしばらくして、上空で戦っていた瑞樹やキリエ達天竜組が地上へと帰還する。それを出迎えたのは、地上で同じく模擬戦を行っていたカイトやシエラ達地竜組だ。そうして、それを見て引率の教師の一人であるリクルが声を上げた。
「はーい、お疲れ様でした! 全員、一試合終了したみたいなので、休憩!」
ぱんぱん、と手を鳴らしながら告げられた休憩の合図に、いつも通り生徒達が竜達を休憩させ始めると同時に、自分達も休憩に入る。と、そこでキリエに対して、瑞樹が疑問を呈した。
「あの分裂する<<竜の息吹>>はなんなんですの?」
「ああ、あれか。あれは<<竜の乱流>>。言わば、<<竜の息吹>>派生技だな」
「そんなのがあるんですの?」
キリエの言葉に、瑞樹が驚愕を露わにする。今までに瑞樹も何度か竜種を相手に戦ってきては居るが、それでも見たことが無い技だったのだ。
だが、冒険者として野生の竜種と幾度と矛を交えた瑞樹がそれを知らないのも、無理は無かった。なにせそれは野生の竜種は使うことの無い技だったからだ。
「まあ、知らないのも無理は無いか。これは竜騎士達の騎竜が使う為に開発された技だ。野生の竜種は使わない……いや、使えない、だな」
「はぁ……」
「あー……これなんだが、ああ、私が説明するよりも、専門家に聞いた方が良いだろうな……シエラ! すまない! 少し来てくれ!」
キリエは瑞樹の疑問を解決してやろうと解説をしようと思ったらしいのだが、その前に考えを改めて周囲を見渡す。探していたのはシエラだ。彼女の実家は竜騎士の高名な家系で、竜騎士レースの大家の一つでもある。騎竜の事なら彼女の方が豊富な知識を持ち合わせていたのだ。
そうして、自分の主筋の娘からの呼び出しを受けて、シエラがクルーガーを歩かせてこちらに歩いてきた。基本的に、彼女はクルーガーがよほど疲れていない限りはその上で一緒に休憩する、との事だった。実家が竜騎士の流れを引いている関係上、即座に戦闘に戻れる様に、ということである。
「はい、なんですの? 生徒会長」
「ああ、少し頼みたい。瑞樹に<<竜の乱流>>やら<<竜の息吹>>の派生技についてを解説してあげてくれ。私がやっても良いが……やはり竜騎士となると、君の領分だ。間違った事を教えてしまっては、君のご両親にも申し訳がない」
「ああ、そういうことでしたら、喜んで」
キリエの言葉に、シエラが笑いながら優雅に一礼をして、その依頼を受ける事にする。ちなみに、キリエがシエラのご両親に申し訳がない、と言った理由はシエラの両親がキリエに竜騎士のいろはを叩き込んだ――今も実家に帰った時には教えを受けている――からだ。それ故彼女にミスがあれば、彼らの外聞にも関わる。それ故の判断だった。
「まあ、単純に言って、全て<<竜の息吹>>の派生技、というわけですわ。<<竜の乱流>>、<<竜の渦流>>、<<竜の一撃>>……これらの全てが<<竜の息吹>>の派生技ですわね」
シエラは幾つかの例を示しながら、瑞樹に解説を始めた。<<竜の乱流>>は先の乱れ飛び、追撃する<<竜の息吹>>の事だ。追撃では無く乱流なのは、直撃するとまるで乱気流の様に複雑な軌道を描くから、だった。
なお、<<竜の渦流>>はそのまま渦を描く<<竜の息吹>>で、射程を犠牲に面攻撃に長けた攻撃だった。瑞樹が使うべきだったのはこれだろう。
そして<<竜の一撃>>とは<<竜の息吹>>の威力を更に高めた物で、発射までの時間を犠牲に威力が高い。
「とは言え、どの天竜地竜でも同じことが出来るわけではなく、竜の種類に応じて出来る事が違いますわね。例えば、<<竜の息吹>>よりも遥かに反動が高く、更には一撃に大量の魔力を消費しますので、<<竜の一撃>>は巨大で馬力に優れた巨竜種の地竜でなければ使用出来ませんわね。それに対して、先ほど会長が使われた<<竜の乱流>>であれば、会長や瑞樹さんのレイアの種類の別翼種でなければ使えませんわ。繊細な操作を得意とする別翼種だからこそ、ですわね。とは言え、同じ天竜といえども、手が翼である翼竜種の様に低威力ながらも高速での<<竜の息吹>>である<<竜の速射>>は使えませんわね。逆もまた然り。当然、これも地竜は使えませんわね」
シエラは幾つかの例を上げつつ、瑞樹に解説していく。当たり前だが、一言に竜種と言っても種類は様々だ。体の構造も趣向等様々だ。それ故に等しくコアを3つ持っていたとしても、得意とする行動は大きく異なっている。それ故に、個々の竜種によって得意とする派生技が異なっていたのである。そうしてそれらの解説を受けて、瑞樹が一つの疑問を呈した。
「ということは、レイアであれば<<竜の乱流>>しか使えないんですの?」
「いえ、そうでも無いですわね。確かに特定の派生技はコアの特性であったり身体の構造上の問題で、と無理な事は多いですが、例えば<<竜の渦流>>の様な大雑把な操作を要求するタイプであれば、ほぼ全ての竜種が使えますわね」
瑞樹の疑問を受けて、シエラが更に解説を行う。彼女の話を纏めると、どうやら<<竜の息吹>>には二つのタイプがあるらしい。
個々の竜種でしか出来ない固有技とも言える<<竜の息吹>>と、どの竜種でも出来る汎用技とも言える<<竜の息吹>>の二つだった。そうして、それらの解説を受けて、瑞樹が更に疑問を呈した。
「それはどうやって教え込んでいるのですの?」
当たり前だが竜種の<<竜の息吹>>は竜特有のコアを3つ共鳴させて放つ技だ。同じくコアが3つで似た技が出来るのは、龍族ぐらいしかいない。というわけで、シエラの答えはそれだった。
「まあ、基本的には、龍族の調教師に頼むのが、基本ですわね。彼らは体質的には竜種と似た事が出来ますわ。それ故、派生技だけは、彼ら竜種に頼むわけですわね」
彼らの<<龍の咆哮>>であれば、この<<竜の息吹>>を遥かに上回る繊細さと攻撃力を有していた。ただ単に一撃を放つだけの<<竜の息吹>>と、きちんと制御された一撃である<<龍の咆哮>>であれば後者が遥かに上回る力を有するのは当然だった。
「まあ、そういうわけですので、実はナダル師のお弟子さん等が各地で調教師として、活躍されていますわね。基本的にあの方は龍族のお弟子さんが大半ですので……」
シエラが更に続けて、調教師についてに会話を広げる。実はナダルが行うのは街の中で暴れない様にするだけではなく、それ以外にもこういった<<竜の息吹>>の派生技の調教も担当していた。レイアも然り、瑞樹も然りでまだ早いだろう、ということで教えていないだけであったのだ。
「まあ、そういうわけですので、これらはナダル師に頼むのが、基本でしょう。ご依頼してみては如何ですの?」
「そうですわね……分かりました。ありがとうございます」
「いえ、理解して頂けたなら、幸いですわ」
大体の事が理解出来た事で、瑞樹も納得したらしい。瑞樹が頭を下げたのを見て、シエラが微笑んで頷く。そうして会話が終わった頃に休憩が終わった事で、一同は再び竜に跨がり、部活を再開するのだった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第539話『竜騎士レース』
2016年8月18日 追記
・誤字修正+校正
『ちなみに、キリエが~』という一文で『彼女の両親』の『彼女』が誰を指しているか少々わかりにくい事になっていました。『キリエ』に教えていたのに、『シエラ』となっているのが最大のミスです。そこら修正を掛けさせていただきました。




