第518話 英雄の卵を導く者達
たった今、校正中にマウスが壊れました・・・超作業がし難いです・・・あ、タイトルはこちらの方が良いか、と修正しています。
シエラとの戦いを終えても、時間の許す限り体育の授業は続いていく。が、そこでふと面白い遭遇が起きた。
「……」
「……」
それは戦いの一つだ。そこには金と銀の美少女が相対していた。金色の美少女は、天桜学園が誇る神宮寺財閥令嬢にして美少女の一人、瑞樹だ。もう片方は、魔導学園が誇るこれまた大企業の令嬢にして美少女の一人、シエラだ。なぜ相対しているのかと言うと、言うまでも無く授業だからだ。
「なんでしょう……」
「……なんというか、何かシンパシーを感じますわね……」
数合の打ち合いの後、二人は心中の感情を一致させる。何かは分からないが、何かがお互いがお互いに似ていると思ったらしい。なんともやりにくそうな顔をしていた。まあ、それは相対している二人だけで、実際には見ている方からは綺麗なコントラストが見えていた。
「瑞樹だな」
「……それは認める」
戦いを終えたヨシュアとカイトは、何人かの男子生徒達と固まって雑談をしていた。そこである論争が起きていたのだが、これにカイトは一つの結論を持ち込んだのである。そうして再び始まった打ち合いに、カイトは名言する事を決める。
「……敢えて憚ること無く言おう。あの乳揺れは見過ごせん」
「ちぃ……我らが女神は胸だけは無いのだ……」
まあ、これだけ聞いても既に何の論争かわかるが、敢えて言及しておく。彼らは今、どちらが美しいか、と言う論争を行っていたのである。別に胸が揺れる揺れないと言う事に言及している訳では無い。そこは瑣末な事だった。
まあ、当たり前だが瑞樹もシエラも美少女で、それが相対しているとなれば、当然こんな会話が起きるだろう。
「くははは! 我ら巨乳党に春が来た! この学園に唯一足りていない物が勇者の国よりもたらされたのだ!」
「くそっ。やはりカイトも巨乳派の回し者か……!」
ちなみに、この会話を聞けば人気を奪われた事になるシエラが後に瑞樹を敵視するかに思えるが、何か波長が合ったらしい。まあ二人は勝ち気な美少女で、お互いにお転婆だ。確かにシエラの方が遥かに傲慢と言うか高飛車だが、彼女らを構成する土台や本質そのものは似た物だ。それ故、似た者同士と思ったのだろう。と、そんな会話に大して、カイトがまるで演説の様に告げる。
「違う……それは違うぞ」
「何?」
カイトは立ち上がると、まるでそれが真理であるかの様に語り始めた。
「オレの尊敬する爺さんは言った……確かに、巨乳による乳揺れは良い。あれは見ている方も心が踊る。あの柔らかな感触は何物にも替えられない安堵をもたらす。あの柔らかさに包まれて眠った日には、それこそ天国に上れるだろう……」
「確かに……」
この言葉に、巨乳派らしい男子生徒達がまるで高名な説法でも聞いたかの様に同意し、大きく頷いた。そして、カイトの言葉は更に続く。
「そしてまた、オレの尊敬する爺さんは言った……だが、貧乳によるあの未成熟であるが故の背徳的な香りも捨てられん。あの弾力が有りながら、巨乳には無い張りを持つうっすらとした手のひら程の乳房を覆い尽くせば、沈み込むのとは別の感触が楽しめる。あれはあれで良い物だ、と……」
「おぉ……」
カイトの続く演説に、貧乳派らしい男子生徒達はカイトの事を回し者と見てしまった自らの不明を嘆く。
そう、確かにカイトは巨乳は好きだ。それ故、現状では揺れ動く瑞樹の巨乳を見て、そちらに軍配を上げただけだ。だが、決して間違えてはならない。カイトは貧乳も好きだ。決して、どちらかを差別するつもりは一切、存在していなかった。
「そうか、お前の爺さんがエロ神か……では、貴方はその使徒か……エロ神の使徒だ……我らが信仰すべき神の使徒よ……」
「そうか……我らは何と愚かな争いをしていたのか……」
「乳の大きさなぞ瑣末な事だったのでは無いか……乳を尊ぶ。それこそが、真に大切な事だったのだ……」
今まで生まれていた二つの決して分かり合えないと思えた派閥に、和解が生まれていた。どっちも良いじゃない、というある意味究極の答えをもたらした男によって。
ちなみに、カイトの言った『爺さん』とは言うまでもなく、全てのカイトの女に罵詈雑言を向けられるだろう老賢人ヘルメスだ。
彼は確かにそれなりに巨乳だったアルテシアを好んで触っていたが、何も巨乳だけが好きだった訳では無いのだ。彼は女好き。別に乳の大小で差別する事は無い。ただ単に手の届く所に彼女が居たが故に、彼女がもっとも被害に遭ったのである。
「……結局論議をずらされただけじゃないのかなぁ……」
カイトと一緒に居た事で強制的に議論に巻き込まれていたマークが、そんな一同に傍目八目だから見えた事を呟いた。それに、感動している生徒達を横目に、カイトが密かにウインクを送る。
そう、実はカイトの目論見はここだった。ただ単に馬鹿を言っている訳では無いのである。今回の話題に決着が着けば、ただ単に当人の好みの問題ではあっても、負けた方は良い気分では無いだろう。なのでカイトは敢えて議論をずらす事で、本題に決着を着けない事にしたのである。
そうして議論がずらされた事に気付かぬまま、ある種の真理を与えられた敬虔な信徒の様に、男子生徒達は授業終了まで静まり返っていたのであった。
そんな馬鹿騒ぎから数時間後。昼食を食べ終えて、カイトはエネフィアでは初となる白衣に袖を通した。
「白衣か……懐かしいな」
「へー、なんか僕らのと違って、ピカピカしてるね」
「繊維が違うからな」
マークの言葉に、カイトは懐かしげに白衣のタグを捲ってみせる。それをマークや近くに居た生徒達も覗き込んで見たが、意味がわからなかったらしい。まあ、ポリエステルなどと言われても、存在していないのだから仕方がない。
ちなみに、カイトが白衣に袖を通すのは、学校に居た当時だけだ。となれば既に8ヶ月以上も袖を通していない事になる。懐かしいのは当たり前だった。
なお、エネフィアの白衣はポリエステル等の化学繊維ではなく、綿だ。まあ、量産性にすぐれないし洗濯もし難いし厚さもあるが、そもそもで白衣を使う職業自体がエネフィアでは稀だ。需要と供給の問題で地球の白衣の様に安い訳では無いが、学生が買え無いレベルでも無かった。
「さて……にしても、お前らの白衣は……凄いな」
「あはは……」
カイトの言葉に、マーク達が全員揃って苦笑を浮かべる。と言うのも、彼らの白衣は煤けて付いたと思われる黒ずみや、紫等の奇妙な色に染色されていたりしていた。昨夜のマークの言う通りに、実験の影響なのだろう。
「この色の大半はリーシャ先生の調合の授業だから……まあ、僕らも諦めてるよ。調合だけはねぇ……薬品と言うか薬草を使うから、僕らも諦めるしかないからね」
「あの先生みたいに……なぁ……あの服でやれりゃ、汚れ気にしなくていいんだろうけどな」
「そもそもあの先生が薬品を跳ねさせたりしないって」
生徒達が口々に色染みの原因について言及する。まあ、魔術開発でそこまでの色が付着するとは考えられないので、リーシャの薬学の授業である事は確かだろう。
地球では高校の実験といえば使ってエタノール程度の危険性の薄い薬品なので色が付く事は殆ど無いが、エネフィアでは薬剤の調合もあるのだ。それが跳ねれば、色が付くのは当たり前だった。
これはもしかしたら綿の白衣を購入した方が良いかもな、とカイトは思った。綿の白衣はポリエステル製の白衣よりも耐火性と薬品に対する耐性に優れているのである。
「で、場所はどこなんだ?」
「専門棟の5階。元々1階にあったらしいんだけど……色々あって、最上階に移されたんだってよ」
「そ、そうか」
カイトは苦笑しながら、他の生徒に従って歩き始める。その色々とは聞くまでもなく、爆発を起こしたり奇妙な生物を呼び出したりするからだろう。下手に最下層に配置して地盤に影響を与えられては困る、という学園側の判断だった。
そうして5分程歩いて、一同は校舎棟に隣接する専門棟の最上階に移動する。専門棟はフローリングやカーペットで地面が覆われた本校舎とは異なり、完全に石造りだった。
石には各種防御用の刻印が刻まれており、万が一に備えられていた。まあ、これを刻むので床をフローリングやカーペット敷に出来ないのだが。
「……では、始める」
チャイムに合わせて、青白い顔の男性が口を開いた。男は不健康そうで、年のほどは大体30前後という所だろうが、不健康そうな見た目の所為で老けて見えているだけの可能性もあり得た。服装は白衣で、これが大学の研究所や実験室であれば、まさに実験馬鹿というような人物だった。
そんな彼の特徴は、と言われれば、それ以上の物が一つあった。それは、彼の全身に刻まれている刻印だ。それは何ら意味の無い物ではなく、きちんとした意味を持つ物だった。
「へー……秘魔族か」
「ああ、うん。珍しいでしょ?」
「珍しい、か。まあ、公爵領じゃなければ、と言う話なんだけどな」
「そうなんですの?」
マークとひそひそと会話していると、シエラが興味を持ったらしい。カイトの言葉に首を傾げていた。
ちなみに、彼女はマクダウェル領出身では無いらしい――ブランシェット領らしい――ので、この学園の事を除けばマクダウェル領の詳しい事は知らない、との事だった。それを受けて、カイトは自分の領土の内情を思い出して、更にその中から怪しまれない程度の情報を抽出する。
「ん? ああ、元々勇者カイトが魔族との融和を行っているから、秘魔族も奴隷解放までの間にかなりの数が逃げ込んでいたらしい。確か……ああ、今の警備総隊長のコフルも確か秘魔族だった筈だ。その縁で彼らとしても安全だと判断したらしくて、結構気軽に来ている事も多いから、その流れで定住、も多いらしい……と、軍人のアルが言ってた」
「はー……やはり家々で様々な方針は異なるのですのね」
カイトの又聞きでの言葉に、シエラが意外そうに頷いていた。
「それはそうだろう。ハイゼンベルグ公であれば南方や西方の外交家達とも繋がりが有るからそっち方面の外国人も多いし、広大な草原地帯と森林地帯を有するブランシェット家なら獣人達が盛んに武闘大会なんかを繰り広げているからな」
「そうですわね」
「そこ……私語は慎み給え」
「あ……申し訳ありません」
そんな解説を繰り広げていたら、三人はゼストから注意を受ける。授業中に本題では無い話をしていたのだから、当たり前だ。
そうして、しばらくの間カイトは真面目に授業を受け続ける。今日の講義はどうやら炎の刃、即ち『炎刃』とでも言うべき魔術を開発する、という事を命題とした授業だった。
「……ここの記述が、魔術的には風刃を生み出す、と言う記述になっている訳だ。更にこれを分解してやれば……」
ゼストが例として解説をしていたのは、風系統の魔術の中でも下位に属する<<風刃>>だった。これを常に魔法陣として見える状態で展開し続け、されど魔術を発動しない状態で待機すると言うかなり高度な技術を披露していた。
最下級の魔術であっても魔法陣を展開し続けるのにも魔力がいるし、ほんの少しの影響で暴発しかねない状態の魔術を待機状態で待機し続けた上で解説を行うのには繊細な技術が必要だった。
更に、必要なのはそれだけでは無い。普通なら魔法陣を分解されれば消失する筈の魔術的な記号達を分解した状態で保つ、という超高度な技術まで披露していた。
それを授業中という長時間に、しかも何度も繰り返しで失敗する事無く出来る、と言う事は、それだけ技術が優れていると言う左証に他ならなかった。まさに、英雄達が残した次世代の英雄達の為の学園に相応しい力量を持つ教諭だった。
「ここが、刃に関する記述となる。これを他の魔術に組み込む訳であるが、それを例えば水に組み込めば、<<水刃>>となり、炎に組み込めば<<炎刃>>となる……つまり、これが魔術的に刃を構成する記述になる訳だ。理解したかね?」
物静かな様子の教師による、高度な技量での授業は尚も続いていく。ゼストの授業は前評判とは異なり、カイトから見ても思わず唸る程の腕前で解説されていた。そうしてそのまま、暫くは何も起きぬままに授業は進むのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第519話『名物教師』




