第489話 おちゃめな王様
初代皇王イクスフォスが残した情報によって、フルフェイスヘルメットを被った特型ゴーレムの弱点を知ったカイト。当然だが、そこからは攻めの一手だった。
「さあ! 反撃開始だ!」
何処を狙えば良いのかわかれば、後は此方の物だ。とは言え、相手とて自分の弱点が露呈した事は把握している。なので当然だが、特型ゴーレムは弱点の守りを固めてきた。
「優先順位変更……基地の保全より、本機の防衛に移れ」
「了解」
僚機に対して命令を下し、一葉達三人娘と戦闘中だった特型ゴーレムを呼び戻す。そうして、両者相手の出方を待つ膠着状態に陥った。
「マスター……申し訳ありません。仕留めきれませんでした……」
「なんとか耐え切れたのですけどね……帰ったら近接の特訓をします」
「うー……もっと撃てたのにー……」
二葉がかなり申し訳無さそうにカイトの側へ侍る。それに続いて、一葉、三葉も到着する。二葉が早かったのは、単純に彼女が最も速度が早いからだ。
「いや、良い。あれは700年前の最高傑作レベルだ。逆にあれだけの技術力を有していた研究者を褒めるべきだ」
「そう言われると、何か釈然としないものがありますが……」
カイトの言葉に、一葉が少し不満気だ。彼女らはティナの最高傑作という自負がある。そして、一分野における終着点という誇りもあった。に対して、カイトは敵をほめたのだ。拗ねて当然だった。
「ばーか。お前らがあのままやったって勝てたんだ。時間が掛かったのはこんな場所と状況が悪い」
そんな三人に対して、カイトが苦笑して告げる。カイトもそうだが、場所、状況共に悪かった。彼女らも本気でやるとなると、この部屋では狭すぎたのだ。
更に言えば、彼女らの本域は魔導殻があってこそだ。こんな万全の状態で無いのに、700年前の最高傑作と戦える彼女らは十分に称賛に値した。それと、実はカイトが一瞬で勝負を決めなかったのには、少々彼独特な理由があった。
「それで、マスター。どうされるおつもりですか?」
「あれは欲しいな。ティナへの土産に最適だ。お前らとは別種の頂点。喜ぶだろうよ」
「御命令のままに。我らがマザーに良き土産を」
三人は同時に、カイトの命令を受諾する。そう、実はカイトはやろうとすれば一瞬で勝負を決められた。だが、はっきり言ってこの特型ゴーレムが欲しかったわけであった。だが、どうやってほぼ無傷で鹵獲するかわからなくて、決められなかったのである。
とは言え、すでにどうすればよいか、というのは理解出来た。なので、カイトが大声を上げる。呼びかける先は、彼が最も信頼する相棒だ。
「ユリィ! 今だ! やれ!」
「おっけー! <<豪雷砲>>、はっしゃー!」
特型ゴーレム達を飲み込む様に、紫色の極太の雷が横切って、それらを飲み込んだ。機械である彼女が油断することは無い。なので、彼女らには油断は無かったはずだった。
だが、機械はデータで判断する。それはゴーレムも変わらない。それ故に、初見の行動では予想を上回れると対処出来ないのだ。ユリィの実力を完全に見誤り、横合いの攻撃に飲み込まれたのである。
「やはりお前は生き残るか! 有り難いな!」
だが、ただ単騎、生き残った機体が居る。当たり前だが、カスタムされた機体の中で更にカスタムされたフルフェイスヘルメットを被る機体だった。
彼女だけは、転移術を使用して直撃の寸前に上に逃げたのである。それに、その行動を見越して上に転移していたカイトが攻撃を仕掛ける。
「一葉! やれ!」
「御命令のままに!」
「<<メギド>>」
一葉が放出した光の注連縄に対して、最後に生き残った特型ゴーレムは全身から純白の光をほとばしらせる。どうやら自分を中心として、魔術を発動させるつもりの様だ。だが、それが見切れぬカイト達では無かった。
「あんまり好きじゃないのにー」
「グダグダ言わずにやりなさい!」
「うー……<<魔術妨害>>!」
二葉に怒鳴られた三葉が、しぶしぶ魔術を発動させる。発動させたのは、敵が発動しようとする魔術をキャンセル、もしくは遅延させる妨害魔術だ。
忘れられているが、三葉の本職は偵察と妨害だ。しかも、それへの極振りだ。それ故に、たとえ古代魔術であってもよほど彼我の差が無ければ妨害が出来るのである。
元々カイトの敵となると、古代魔術とまでは行かなくともそれに準ずる魔術を使いこなす事は前提条件だ。それ故に、彼女にはそれの妨害が可能になるレベルの魔術が使用可能な様に設定されているのである。
「700年前の傑作、貰った!」
完全に行動を封じられた特型ゴーレムに対して、カイトが右手を突き出す。当然だが、掌にはコントロールを奪う為の術式が展開されている。
「ガ……ガガガ……エラー……対象……敵影消失……敵……エラー……目の前の対象を主と認識……ガガガ……エラー……」
カイトの術式を受けてエラーを起こし、動きを止めた特型ゴーレムに対して、カイト達はほっと一息ついた。これで一安心。そう思った瞬間だった。まだ、録画は続いていたらしい。
『あ、そだ。コントロール奪うとか考えんなよ。絶対だぞ、絶対。やるなよ。絶対にやるなよ』
「……は?」
『基地道連れにして自爆するからな。わかったな? 絶対にやるなよ』
画面の中で笑うイクスフォスの言葉に、カイト達はきょとん、となる。それと同時だった。特型ゴーレムが平坦な声を発した。
「コントロールの喪失を確認……非常用システム作動……基地の防衛は失敗したと判断……基地と共に本機の情報を抹消する。カウント3……2……1……」
「え、ちょっ!」
カイトの悲鳴が木霊するが、流石にカウント3ではどうしようもない。どうすることも出来なくて、ついにカウントがゼロになる。それと同時に、轟音が響いた。ただし、イクスフォスが映っていたメインモニターから、だが。
「……え?」
映像と成り行きに呆然としていた一同は、轟音を鳴り響かせているメインモニターに注目する。
「……これって……地球で有名なあの爆発系MAD? 地球に隕石が衝突しただかなんだかで爆発が広がっていくあの……」
「音も……思い切りあの有名な奴……よね……というか、どう見ても地球よね……」
睦月と弥生――警備ゴーレムが停止した時点で皐月達と合流した――が呆然と呟いた。何が起こっているのかわからない。それだけは理解出来た。そして、映像が終わった後に再びイクスフォスが映り込んだ。
『へへーん! びっくりしただろ? これなーんだ!』
再び映り込んだ彼の手には、一つの小さな金属物質が写り込んでいた。
『まあ、わかんねえよなー。これは、この基地の自爆システムに直結してる最重要パーツの一個。これ無くなると自爆できない奴でーす!』
彼はそう告げると、手でそれを握りつぶした。そして再び開いた時には、粉々になった金属パーツの残骸が、彼の手から零れ落ちていった。
『これ撮るの大変だったんだよ……映像撮るのにわざわざ地球って世界まで行くしよー……もう無茶苦茶大変だった』
愚痴るイクスフォスだが、総員彼への印象はこうだった。ただ一言、『うぜぇ』である。だが、そこは歴史上最も偉大な皇王の一人にして、建国の祖だ。誰も苛立っても文句は言えない。が、当然それを気にしない男もまた居た。
「カイト! ちょっと待った! 気持ちわかるけど、あれでもイクスフォス陛下だから!」
「止めるな! 一発ぶん殴らせろ!」
「待て、カイト! 流石に陛下への無礼は俺も止めさせてもらうぞ! いや、理解は出来るが!」
ユリィが羽交い締めしていたカイトだったのだが、どうやら流石に見てられずに子孫が出て来た。まあ、気持ちは理解は出来たらしい。
ちなみに、こうなるのは理解出来たらしく、ウィルとユリィが大慌てで周囲に結界を展開して見えなくしたのは、英断だろう。
「止めるなウィル! 一発ぶん殴っても人望高い陛下なら文句は言われないはずだ!」
「いいや、止めさせてもらう!」
そんなヒートアップする二人だが、そこで更にイクスフォスから苛立ちに拍車を掛ける一言が放たれる。
『あ、多分レヴァ怒ってる? 怒ってるよな? ならここまで追ってきてみろよ!』
そう言ってゲラゲラ笑うイクスフォスに対して、カイトがついにキレた。彼はレヴァでは無いが、それでも苛立つ映像だった。そして、ゴゴゴと魔力がうずまき始める。
「……」
「ま、待て! 流石に何を始めるつもりか教えろ!」
「なんとかしてイクスフォス陛下を呼び出してみせる」
「わー! カイト、まったまった!」
さすがにカイトとて、見知らぬ人物を呼び出す事は出来ない。と言うか、カイトは縁があって初めて呼び出せるのだ。なのでそれを押して強引にやろうとして、魔力が渦巻いているのだった。
とは言え、いつまでも天罰が落ちなかったわけではない。イクスフォスの映像に、別の声が入り込んだ。声の主は男の様だった。
『ほぅ……どうやら面白い事をやっているようだな』
『げ!? レヴァ! どうしてここに!? お前あそこから動けないんじゃねぇの……?』
『さて……いつ誰がそんな事を言った? では、録画はこれで終わりにしよう』
男の言葉と共に、録画が終わる。それを見て、カイトは溜飲を下げた。最後まで男の姿は見えなかったが、最後には轟音が響いており、確実に天罰が下ったのが目に見えたからだ。
「……陛下。悪戯はなさるものでは無いと思います」
消えた映像を見て、ウィルはそう残して消えた。彼自身も頭が痛かったらしく、どこか儚い笑みを浮かべていた。そうして、カイトも溜飲を下げた為、結界が解除される。
「……帰るか」
「……そうだね。みんなー! 目を覚まして! 覚まさないと雷撃だからね!」
「イ、御命令のままに」
流石にユリィも三人娘も苦笑するしかなかった。ユリィが唖然となる全員を再起動させている間に、カイトは今度こそ完全に停止した特型ゴーレムを観察する。まずやる事は、当然触ってみる事だ。
「……柔らかいな。二葉、そこの顔付きの特型ゴーレムはどうだ?」
先にコントロールを奪う際に胸に触れた時もわかっていた事だが、改めてしっかり触れてみてカイトはその肌が柔らかい事を実感する。
そして、カイトは自分の護衛に近くで待機していた二葉に、彼女の近くに倒れている特型ゴーレムを触れさせてみる。向こうも見た目は柔らかそうだったが、此方の特型ゴーレムに比べてかなり作り物感があった。
「……此方も柔らかいです」
「ふむ……」
「マスター。向こうの顔に魔石が取り付けられた特型ゴーレムを確認しました。あちらは金属で出来ています」
カイトが少し思慮している間に、一葉が必要と思われる情報を入手してカイトに報告する。どうやら瑞樹達が激戦を繰り広げた特型ゴーレムは完全に金属で出来たタイプで、カイト達が戦った物はシリコンに似た革や筋肉で覆われたタイプの様だ。性能の差はここにあるのかもしれない。
「比較的無事な物は持ち帰るか。三人とも、金属製の特型ゴーレムで比較的無事な物を探してくれ」
「御命令のままに」
本来ならば盗掘と言われる事だが、そもそもでこの研究所はカイトの領内にあった物だ。なので、皇帝レオンハルトに調査名目で報告すれば問題は無い。
というより、これだけの逸品だとティナの下に送られてくるのが結局なのだ。情報さえきちんと提出すれば、文句は言われないだろう。まあ、此方よりも世間はもうひとつの発見の方が大々的になるだろうが。
「……歴史的大発見なんだろうな。これも」
カイトは今は何も写していないメインモニターを仰ぎ見る。出来れば表に出なければ良いと思う。あまりに庶民や皇帝や貴族達のイメージからかけ離れていたからだ。
ちなみに。自爆からの映像はどうやらさすがにイクスフォスが後で恥ずかしくなって単発再生で削除される様に設定したらしく、表に出ることは無かった。
ならばオレ達の時でも出すな、とそれを聞いたカイトは怒鳴ったそうだが、何故そのままだったのかは本人に聞かない限り永遠の謎である。
「マスター。ユリィさんが破壊した特型ゴーレムが比較的良好な状態でした。そちらを」
「上のエリアも確認する必要があると考えましたが、覗き見た所かなりの激戦で、そちらは破損状況が激しいと進言します」
一葉と二葉がカイトに持って来た特型ゴーレムを提出する。ユリィは魔術で特型ゴーレムを破壊したらしく、破壊状況が悪くなかった機体が残っていたのだ。
「良し。いい土産になる……お前らの武器のアップグレードも出来そうだ」
「ありがとうございます」
「ホント!」
やはり、自分たちの仕事道具がパワーアップするのは嬉しいのだろう。三人は嬉しそうに笑う。そうして、カイト達は復帰したキリエやアンリ達を引き連れて、第2階層へと足を向けるのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第490話『偉大なる王』




