第484話 突入 ――秘匿研究所――
ロケット・ランチャーを使いたいという三葉の願いだが、予想外に早く叶えられる事になった。
「うっわぁー……大量に出ちゃってるわね……」
「馬車等戦闘力の無い相手には攻撃しない様に設定されているのか……」
カイトと皐月がテラール遺跡の前にて顔を顰める。と言うより、今回の救助任務に就いた全員が顔を顰めていた。救助隊は昼には到着し、遺跡の前に来ていたのだが、そこでの出来事だった。
テラール遺跡は森の中にあるのだが、そこを一望出来る小高い丘がある。そこに登ると、直ぐに異変が目についた。なんと、遺跡の周囲にまで警備ゴーレムらしき金属製のゴーレムの姿があったのである。
遺跡の前にはどうやら魔導学園の使っていたらしい馬車が停車させられているのだが、どうやら馬などの動物には危害が加えられない様に設定されているらしく、そちらは無事だった。
ちなみに、警備ゴーレムはずんぐりむっくりとしたたまご型の胴体に手をくっつけた様な物だ。足は無く、キャタピラで動いていた。どうやら悪路を行けるように設計されていたのだろう。
「ねぇ、カイト……あれ」
カイトの横にて同じく状況の観察を行っていた弥生が、カイトに対してある一点を指差した。それは、警備ゴーレムが守る一角だ。
「どうやら、珍しいゴーレムが出たと知って取りに入った馬鹿が居たようだな……」
「まるこげじゃない……」
カイトに続いて弥生の横の皐月もそれに気づいて、顔を顰める。そこには、火でやられたのか雷でやられたのかはわからないが、完全にまるこげになった遺体があった。
彼の下には、奇妙な装置――捕獲用の魔道具――が取り付けられた警備ゴーレムも一体居た。衣服の一部が引っかかっているようだ。カイトが予想した通り、盗みに入ってあえなく撃退されてしまった盗掘者の成れの果てだろう。
「これは……まあ、周囲を封鎖しておいて正解だったな」
「だねー。万が一統制を失って外に漏れだしたら大変だもん」
カイトの呟きに、ユリィが同意する。流石に未知の遺跡で異変が起きたとあって、万が一に備えて公爵軍に周囲を封鎖させたのである。先の盗掘者はそれを掻い潜ったか、封鎖が完了する前に入り込んだのだろう。遺体の状況を見ればまだ少しだけ湯気が上がっていたので、カイト達が到着する少し前に掻い潜って潜入し、先ほど撃退されたのだろう。
「どうしますの? この中を割って入るのはことですわよ?」
同じく状況の観察をしていた瑞樹が、カイトに問いかける。予想では内部で警備ゴーレム達が活動していて、外には漏れでていない予想だったのだ。それに、カイトは暫く黙考する。
「良し。三葉」
「はーい!」
「やってよし」
「やったー! 目一杯やって良い!?」
「やってよし」
「わーい!」
カイトの言葉を聞いて、三葉は両肩にロケット・ランチャーを担ぐ。数が多すぎて、見つからずに潜入は不可能そうだったのだ。
それに、どちらにせよ脱出時には更に人数が増える。警備システムを停止させられることが出来なければ、どちらにせよ戦闘が考えられたのだ。なので、カイトは作戦プランを潜入から強襲に切り替えたのである。そして、明らかに無骨なその見た目に、救出に来た一同が目を見開く。
「えっと……三葉ちゃん。それ、何?」
「えー? ロケット・ランチャー」
にこやかな笑顔を浮かべる三葉の答えに、一同見たらわかる、と思った。ちなみに、三葉が両肩に背負っているのは、4連装ロケット・ランチャーを2つである。聞きたかったのは、何故そんな危ない物を持ちだしたのか、だ。
「……どうしてそんな物を持ってるのかな?」
「え? だってこれ、私の武器だよ?」
「え?」
生徒一同は唖然となる。どうやら彼女には見た目相応に可愛らしい杖等を想像していたらしい。ティナの趣味を知らないが故だった。ティナはギャップ萌え派だ。そうして一同の唖然を他所に魔力が高まっていくが、そこでふと、カイトがある物に気づいた。
「っと、ちょっと待った!」
「えー! 今更無しはやだー!」
「無しはしない。でも、ちょっと待て。皐月、あの盗掘者の服から覗いてるの、見えるか?」
「え?」
カイトの言葉を聞いて、皐月が盗掘者の成れの果ての裾を見る。すると、そこにはガンホルダーらしき物体が見えた。どうやら身体に上着の下に身に着けていたのが、服が警備ゴーレムに引っかかった事でボタンが外れ、隠されていたガンホルダーが顔をのぞかせているらしい。
「ガンホルダー……みたいに見えるけど……」
「鞭で取れるか?」
「動きが速すぎて無理ね」
考えるまでもなく無理と皐月は判断する。警備ゴーレムはどうやら上に乗った遺体を引き剥がそうとしており、かなり高速で動いていた。が、どうやら服の素材が良かった事と絡まっている事でそれはなかなかうまく行っていない。
三葉が平然と取り出した魔銃なのだが相も変わらず市販品でも高価であり、それを三葉の攻撃で失うのは避けたい所だった。そうして、暫くカイトは再び黙考する。
「睦月。前やった足場は出来るか?」
「あ、はい」
「なら、あの上まで足場を作ってくれ。出来るか?」
「それぐらいなら、なんとか……」
カイトは警備ゴーレムの真上を指で指定する。どうやら睦月にもなんとか可能なレベルだったらしく、睦月はカイトの言葉に頷いた。
「弥生さん。皐月と上に行って一瞬何時もの注連縄で動き止めてくれ。皐月、その間なら回収出来るな? 万が一の援護にオレが出る」
「ええ、可能よ。お姉ちゃん、お願い出来る?」
「ええ、わかったわ」
「終わったら一気にこっちまで戻るぞ。三葉、二人が帰ると同時にぶっ放せ。一葉、残った奴はお前がスナイパーライフルで仕留めろ」
「わーい」
「御命令のままに」
二人の返答を聞き、更にカイトが小声で号令を下す。警備ゴーレムのスペックは現段階では不明だ。それ故に、どれだけの探知能力があるかわからず、声を落としているのである。
「三葉が掃射後、一気に強襲を仕掛ける。全員ゴレームの回収には気を使うな。今回最大の目的は皇国第7皇女アンリ殿下と、魔導学園生徒会会長ブランシェット家令嬢<<審判者>>キリエの救出だ。貴重なマルス帝国のゴーレムの破損は気にするな。この依頼の成否は両家からの信頼問題にも繋がる。そちらの方が遥かに重要だ」
「了解」
カイトの号令に、生徒達も小声で返す。そうして、一時的に全員身を伏せる。
「睦月。頼んだ」
「はい」
カイトの合図に合わせて、睦月が足場を創り出す。場所は目標となるゴーレムからおよそ50メートル程上空だ。そこまで直線的に幾つかの足場を創り出す。そして、それを確認して、カイト、弥生、皐月の三人が移動を始める。
「良し。ここらで良いだろう。皐月、弥生さん。頼んだ」
「じゃあ、一瞬だけ行くわ」
小声で弥生が声を掛けて、魔術を発動させる。その瞬間、回転していた警備ゴーレムが一瞬だけ、動きを止めた。
「今!」
その瞬間を狙いすまし、皐月が鞭を振るう。動きを止めた標的を掴むのは容易だった様子で、皐月は難なく遺体を引き剥がした。そう、遺体を、である。
「って、何やってんだ!」
「遺体からなんて無茶でしょ! なら、遺体ごと、よ!」
小声で怒鳴り合うが、まあ、皐月の力量から言えば仕方がなかったのだろう。そうして飛んできた遺体めがけて、カイトがとっさにフックショットを撃ち込む。目標は当然だが、遺体の持つガンホルダーだ。
怒鳴りつつもカイトは上昇してきてて一瞬滞空する瞬間を狙いすました為、難なくガンホルダーごと魔銃の奪取に成功した。
「良し! 一気にずらかるぞ!」
ガンホルダーを手に持ったカイトが二人に声を掛ける。それに合わせて、二人も一気に他の一同が待つ場所へと移動する。そうして、遺体が地面に落下すると同時に、カイト達は集合地点に辿り着く。
「う……いや、待て」
「りょうかーい」
三葉に撃て、と号令を掛けようとしたカイトだったが、直前で止める。だが、三葉の方もそれに異論は無かった。遺体が落下した音に気づいて、その地点に警備ゴーレム達が集まり始めたのだ。偶然ではあったが、良いデコイになったのである。
「今だ!」
「ファイアー!」
そうしてかなりの数が集まったと見るや、カイトが号令を掛け、それと同時に三葉が全門斉射する。
「ひゃっほー!」
「うわー……」
歓喜の声と共にロケット・ランチャーを連射する三葉に、一同が引きつった顔になる。顔としてはまさに(≧▽≦)なのだが、起きている現象としては絨毯爆撃だ。そして連射はものの10秒足らずで終了する。カイトが止めたのだ。
「良し! 三葉、もういい! と言うか、やり過ぎだ!」
「えー、もう終わりー? つまんないなー」
「どSロリ……我々の業界ではご褒美です」
「誰? 今の」
「なんでもありません!」
不満気な三葉の後ろで生徒達の巫山戯た会話が響く。が、それもそのはずで、殆どの警備ゴーレムは破壊されきっていた。ここぞとばかりに三葉が連射しまくった所為だった。そこに、今回は相手を考えて刀では無く大剣を装備したカイトが怒声を飛ばす。
「馬鹿言ってる場合か! 次が出て来る前に突入するぞ! 三葉! グレランに変えろ! 二葉! 夕陽と共に先陣を切れ!」
「御命令のままに!」
「おっと、忘れてた! 全員! 天音に続いて入り口を目指すぞ!」
「5名は入り口を確保! その後他残りは私と共に突入しますわよ!」
「了解!」
今回、高火力の瑞樹達が主力だ。硬い金属製のゴーレム相手には、軽装備かつ低下力の片手剣や短剣、崩落を引き起こしかねない高威力の魔術は使えない。なので彼らを牽制や壁役として使い、その隙に大剣や両手剣で破壊するのであった。
「夕陽! お前は出来る限り頭部ユニットを狙え! あそこのガラス部分を狙えれば探知能力を削れるらしい! 頭部ユニットが破砕出来た敵から二葉が動きを止めろ! 最後にオレが仕留める! 言うまでもないと思うが、戦闘能力のない詩織ちゃんの援護は忘れるなよ!」
「うっす! 当たり前の事言わないで大丈夫っす!」
内部に入って第一層目はカイトのパーティと瑞樹のパーティは同行するが、それ以降は別行動だ。瑞樹が目的とする生徒達の集団は第二階層の最奥に居て、カイト達が救出予定のアンリ達は第三階層に居るのだ。そして、警備ユニットの制御ユニットがあると思われるのもまた、第三階層だった。
魔導学園生徒会長が率いる面子が囮となる間にアンリ達が警備システムを停止させるつもりだったのだが、どうやら想定以上の警備ゴーレムの数に奥にまで追い詰められたらしかった。これ以上追いつめられる前に、と出入り口が防げるエリアに立てこもったらしい。
「っと、瑞樹! 受け取れ!」
「なんですの!?」
「グレラン! どうやら盗掘者が切り札として持ち込んだ物らしいな! 攻撃でも無事だった様だ! 単発式の使い捨ての銃弾だが、ぱっと見威力には問題が無い品だ! 密集していたり囲まれたりした場合の万が一に使え! 残弾に気を付けろよ!」
カイトから投げ渡されたガンホルダーを、瑞樹は少し急ぎ足で鎧の上から着こむ。幸いにして一発も使う事無くやられてしまったらしく、ガンホルダーについている補填されている魔弾は全て未使用だった。
ちなみに、瑞樹に渡したグレネード・ランチャーは中折式で、一発ごとに弾を込める物だ。簡易な構造で出来るので、高くはあるが普及し始めている物だった。尚、三葉が構えるグレネード・ランチャーは連装式のドラム・マガジンタイプの物である。ティナと一般品の技術力の差だった。
「……ちっ! さすがだ! 大剣も両手剣も振りにくい設計してる!!」
カイトが少し苛立ち紛れにマルス帝国の戦略を称賛する。崩れた研究所の中の一部に残った階段から地下層に入ったカイト達だが、通路は横幅3メートル程とかなり狭かった。ここを金属製のゴーレムで守らせるのは戦略的に正解だろう。
なにせ、巨大なハンマーや大剣等の高火力を出せる武器は大きく振りかぶって遠心力も利用してこそ、最大の攻撃力を発揮するのだ。ここをそんな両手持ちの武器で責めるなら、それなりの技術力が求められた。
「カイト! 雷行くよ!」
「おう! 全員、跳べ! 一葉、二葉! もし無事な機体が居たらそいつは確実に掃討しろ! <<招雷>>!」
第一層目にて、カイトとユリィは先陣を切っていた。まあ、正確には二葉と夕陽がその前に居るが。とは言え、今は階段に通じるという部屋の前にて大量の警備ゴーレムとの乱戦に陥っており、攻めあぐねていたのだが。
そうして、カイトは攻めに転じる為にユリィと共に一手を打つ事にした。カイトが大剣を頭上に構えると、それに合わせてユリィが巨大な雷球を用意する。
「<<雷撃>>!」
「うっしゃ! <<天雷撃>>!」
カイトの大剣目掛けてユリィが雷撃を打ち込み、カイトの持つ大剣に雷が宿る。そしてカイトがやろうとしている事の意図が理解出来た救助隊の全員が飛び上がったのに合わせて、カイトが大剣を地面に振り下ろすと、カイトを中心として、地面に雷が走った。
地面は幸いにして金属製で、電撃をよく通した。そして当然だが、金属製のゴーレム達にもよく通った。内部基盤をやられたゴーレム達の大半をそれで撃退する事に成功する。
「良し! じゃあ、ここを超えれば階段だよ!」
「僅かに動いている程度は気にするな! 大して問題は無い! 先を目指すぞ!」
更にまだ動けるゴーレム達は一葉と二葉が討伐して、後残ったのは痙攣するように僅かに動くゴーレム達となると、カイトが号令を掛ける。
ここに警備ゴーレムの補給ユニットや修理ユニットがあるかどうかは未知だが、もしあれば此方が何時かジリ貧になるだけだ。それに、結界とて3日保つと言ったが、それも何もなければ、だ。未知の状況の時点で、速攻を仕掛けるのが常道だった。
「階段見っけ! カイト先輩! こっちに階段! ドアは施錠されてない見たいっす!」
「でかした夕陽! 階段での接敵には気を付けろよ!」
「うっす……?」
そうして、夕陽が階段を見付け、それに続いてカイト達が突入した時だった。どうやら生きていたらしい内部放送から、声が響いた。
『……<<白の叛乱軍>>の第二階層への進行は止められず……これより警備体制をレッドへと移行。特一級事態とみなし、特型ゴーレムの起動承認。研究員は所定の部屋にて待機せよ……繰り返す……警備体制をレッドへと……』
「……先輩、これって……やばいっすか? つーか、<<白の叛乱軍>>ってなんっすか?」
「の、様だ。<<白の叛乱軍>>は初代陛下の軍の事だな……陛下が純白の指導者であった事に由来して……って呑気にやってる場合じゃねえ! 全員! 急げ! これ以上の余裕は無さそうだ!」
ぎぎぎ、と後ろを振り向いた引きつった顔の夕陽に対して、後ろのカイトが同じく引きつった顔で答えた。そして、カイトは答えて直ぐに号令を掛ける。
どうやら、警備システムはカイト達を誤作動なのか理由があるのかは分からないが、イクスフォス達叛乱軍と判断したらしい。そうして、更に駆け足で一同は目的地点を目指すのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第485話『救助隊の戦い』




