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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二六章 新たなる一歩編

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第463話 道中ぼんやりと

 明日22時から断章・8の投稿を開始します。そちらもお読みいただければ幸いです。

「しゃちょーう! こっちの荷物はどうしますかー!?」


 マクスウェルの街を出発前。プロクスは積み荷の積み込みを急いでいた。


「おーう! そっちは前から三番目や! 取り敢えず急げ ! 時は金なり! 急がんと本家の怖いお姉さんからお叱りがくんぞ!」

「うっす!」


 彼の茶化しに合わせて、従業員が全員で積み荷の積み込みを終わらせるべく、ペースを少しだけ上げる。


「さて……プロクスの旦那。今回連れて行く荷馬車は総計で十台でいいんっすね?」

「おう。すまんが頼むわ。まあ、道中の買い付けもあるし、今回は終着点は魔女族の所や。族長さんはあの御方やから、交渉で今回は俺も出向く。なんかあったらそん時に相談することにしよや」

「はいはい……じゃあ、積み込みの終了次第、出る手筈で大丈夫っすね?」

「おう。取り敢えず積み込みは急がせる」


 プロクスは支社所属の運輸要員と事務的な遣り取りを交わしていると、支社の従業員が報告にやって来た。


「社長! 冒険者の方は準備終了したらしいです!」

「おう、ならお前らも急げや!」

「こっちも10分ほどで終わります!」

「おっしゃ。なら、出発の準備頼むわ」

「はいはい」


 そうして、10分。馬車達を連れて、瞬達キャラバンの護衛隊も出発したのだった。




「なーんもねえな……」

「そういうな。何もない方が訓練だけに費やせて有り難い」


 それから数日。瞬は隣の同級生の生徒と共に馬車の一つの上からのんびりと空を眺めていた。というのも、この数日は小規模な魔物の軍勢の襲撃が幾度もあっただけで、非常にゆったりとした物だったのだ。

 ちなみに、宿場町の間は殆ど荒野や草原等の景色だけで、見て楽しめる様な物は無かった。プロクスに言わせれば、街道沿いでもきちんと整えられていない場所はこんなもの、だそうだ。


「お前、ほんとに鍛錬好きだよな……」

「楽しいぞ。強くなるのが目に見えると」


 瞬が本当に楽しそうに笑う。昔から鍛錬好きの気はあったのだが、それが四六時中出来る様になって悪化したらしい。そんな瞬に、同級生の少年が溜め息を吐いた。


「生きるために強くなってるんじゃなくて、お前強くなる為に生き抜いて無いか?」

「む……」


 瞬がその言葉に、ふと悩む。この二つは同じように見えて、意外と違う。導き出す結果は同じでも、目的が真逆なのだ。

 生きるための手段として強くなるのか、強くなる為に敢えて戦い、結果として強くなったが故に生き抜いていくのか。結果として生き抜いているのも強くなるのも同じでも、その趣はガラリと変わった。前者は戦いさえ無くなれば戦いは終わり、後者は強くなろうとする限り、生きようとする限り戦いが続くのである。


「まあ、死なないならそれで良いんだけどよ」

「……そう、か。まあ、それもそうだな」


 悩む瞬を見た生徒が頬を掻いて思考を切り上げる。そうして二人は武器を用意し始める。仕事の時間が近づいていたのだ。


「少し多そうだな」

「はぁ……やっぱここまで大規模なキャラバンだと襲撃される数も多いんだな」


 二人共、準備運動がてらに手首を回し、足を伸ばす。そうしている間にも、生徒たちが外に出始める。それを見て、二人も馬車の上から飛び降りた。


「プロクスさん! 結界の展開状況は!?」


 瞬が声を上げて、従業員達に魔物の襲撃に応対する用意を急ぐプロクスに問い掛ける。瞬達の用意は既に整ったが、キャラバン側の用意が整わなければ防衛の手段が変わってくる。


「後5分くれ! その後は殲滅頼む!」


 プロクスはそう告げると、再度指示を急がせる。それを聞いて、瞬が全員に号令を掛ける。敵数は多いが、密集はしていない。キャラバン自体が伸びきっているので、それに合わせて魔物の集団もバラけているのだ。なので、瞬の命令は当然の物となる。


「各員、各個接敵して時間を稼げ! 5分間は敵を近づけさせるな! ソラ、デカイ奴を仕留めるぞ!」

「うっす!」

「了解!」


 瞬の号令に合わせて、冒険部の面々もバラけて敵の対処に当たる。そうして、ソラと瞬は同時に少しだけ大きめ――およそ3メートル程――の少し強そうな魔物に相対する。熊を赤黒く、牙をイノシシの様に突き出させた様な毛深い魔物だった。


「由利、お主は余と共に全域を見渡し、危急に備えるぞ!」

「おけー!」


 ティナの声掛けと共に、由利がキャラバン中央の馬車の上に登る。キャラバンの全長はおよそ300メートル程にもなっていたが、この二人の目ならば、十分に射程距離内だった。こうしておけば由利は射程が上がるし、更に遠くから戦闘音や血の臭いに引き寄せられて魔物が近づいてきても対処可能なのだ。

 ちなみに、由利だけでなく、遠距離攻撃がメインの面々は殆どが馬車の上に上がったり、なるべく高所を確保するのが定石となっている。


「今日さえ乗り切れば明日の昼には村だ! 全員、こんな所でくたばるなよ!」

「うっす!」


 そうして、瞬の号令を合図に、戦闘が開始されたのであった。




「……ふむ……」


 戦闘後。瞬が少し考えながら両手の二槍を幾度か振るう。だが、やはり何度やっても納得が行かないらしい。幾度も試しているのだが、顔は浮かないままだ。


「何を考えてるんっすか?」


 そう問い掛けたのは、横のソラだ。共に熊の様な魔物を討伐したのは良いが、その後ずっと瞬が悩み続けていたのに疑問を抱いたのだ。


「手数を増やそうと両手に槍を持ってみたんだが……なかなかに難しい」

「……何を考えたらそんな発想になるんっすか……」


 ソラが瞬の言葉に溜め息を吐いた。確かに、わからないでは無いのだ。手数を増やすなら、取れる手は限られる。そのうちの一手として、武器の二つ持ちは確かに手数を増すのに有用だろう。

 しかし、当然だが、人間は両方の手で別々の事をしながら戦闘を行うなんてことは出来るはずが無い。出来ているカイトやその師の武蔵が異常なだけだ。

 カイトの弟弟子にしても、全員が武器を一つしか使用していない。サブウェポンとして別の武器は持っていても、それはあくまでサブウェポンだ。メインで二つの武器を同時に使う事は滅多に無い。双剣士は滅多に居ないのであった。


「いや、原理的にはお前が盾で防御しつつ、片手剣で攻撃しているのに近いだろう?」

「いや、全然違うっすよ? 俺の戦闘方法は根本的にカウンターとしての攻撃ですけど、あいつは攻撃しながら防御するつー、バケモンっす」


 ぱっと見おなじに見える双剣士と盾持ちの戦い方だが、大きく異なる。カイトの戦い方はそもそも攻撃の隙を無くすという理論の下に成り立っており、逆にソラの戦い方だと、敵の攻撃を防御してその攻撃の隙を突く戦い方だ。それ故、同じく敵の攻撃を防げても、全く異なるのだ。


「……成る程。無理がある……のか?」


 ソラの言葉を受けて、瞬が悩みながらも歩き始める。戦闘の後始末と必要な魔物の素材の回収が終われば、再度馬車が走り始めるのだ。何時までも立ちっぱなしでぼーっとしているわけにはいかなかった。


「ソラ、悪いが一緒に頼む」

「うっす」


 瞬の依頼を聞いて、ソラも一緒の馬車に乗り込む。まあ、乗り込むといっても彼らの場合は馬車の上だが。そうして暫く。二人は馬車の上に寝転びながら、お互いの武術についてを語り合う。


「そもそも思うんっすけど、先輩の二槍流? って意味有るんっすか? どう見ても扱いにくそうだったんっすけど……」

「有るには有る。<<雷炎武・弐式(らいえんぶ・にしき)>>があるだろ? あれの攻撃力特化型だ」

「つまりは?」

「加護で得た力の全てを槍に回したんだ。そうすることで、雷の槍と炎の槍を創り出している」


 ソラの疑問を受け、瞬が二つの力を使って各々の槍を創り出す。加護としての身体能力の増強は受けられないが、その代わり、攻撃力を一点に集中させる事が出来た。瞬好みの使い方といえば、瞬好みだろう。


「機動力も捨てた攻撃力オンリーって奴っすか?」

「そんな所だろうな」


 ぼっ、という炎の音と、ばちん、という雷の音と共に槍が消失する。瞬の言葉通りに動けるならば、速度を犠牲にして威力の上昇と攻撃力の上昇、更には手数の上昇という攻撃力の増強が見込める筈だった。

 そう、そのはずだったのだが、瞬が二槍流を使いこなせていないが故に、攻撃力は増した代わりに手数も速度も低下してしまっていた。総合的に攻撃力は激減、というなんともお粗末な結果になってしまっていた。


「うーん……俺は双剣士じゃ無いんでいまいちわかんないんっすけど……そもそもでなんつーすんかね。二槍流? って出来るもんなんっすかね? 槍ってそもそもで両手で使うモンでしょ? 振るうには長すぎじゃ無いっすか?」

「ん? どういうことだ?」

「いや、先輩ずっと普通の槍使ってますよね?」

「ああ……」


 瞬はソラの言葉を聞いて、自身が両手持ちの時に使っている槍を思い出す。それは学園生で普通に槍を使う者が使う槍と同じで、2メートル前後だ。前後なのは各々が自身に見合った長さを調節している為だ。

 とは言え、瞬の場合は自分で作り上げているので、必要に応じて長さをピンきりで調節している。その点は彼の器用さと言えるだろう。


「両手で使うならその長さで良いんでしょうけど、それ、長すぎないっすか?」

「……む」


 ソラの指摘に、瞬が少しはっとなる。両手で使っている時よりも片手に掛かる重さが変わり、若干バランス感覚等に変化が生じていたことは、確かに瞬自身が承知していた。そして、片手で振るうにはどうしてもその長さが問題となっていることも、だ。


「長さと重さか……少し調整してみるか。ソラ、助かった」


 ソラの指摘を受け、どうやら改善点が見えたらしい。瞬は少し得心を得た様な感じで頷く。それを受け、ソラがぼんやりと呟いた。


「先輩」

「ん?」

「俺の方も一個いいっすか?」

「何だ?」


 ソラはぼんやりと空を見上げながら瞬に問い掛ける。ソラはソラで実はずっと悩みを抱えていたのだ。


「俺、攻撃力を上げたいんっすけど、どうすりゃいいっすかね?」

「防御力特化のお前だと本末転倒じゃないか?」

「そっすかねー……まあ、でもカウンターするにも攻撃力が低いと結局一個の戦闘が長続きしちまって、その後に響くんっすよ。それに、カイトにも手酷くそろそろ手札増やせ、つわれちまったわけで……」


 ソラは本来的に言えば、完全に防御特化のカウンタータイプだ。攻撃はおまけに過ぎない。おまけにすぎないのでソラに攻撃力を期待する方が間違いなのだが、これが一対一になるとかなり響いてくる。

 どうしてもスタミナ勝負になってしまい、スタミナで負ける相手には勝ち目が低くなってしまうのであった。その為の切り札(アーツ)も有るには有るが、それをバカスカと連発出来るわけではなかった。


「そうか、確かにな」


 ソラの説明を受けて、瞬も納得する。今の様に連戦にならなかったのなら問題は無いが、連戦になってしまった場合はスタミナの消費は問題になってくる。戦いを手早く終わらせられるなら、それの方が良いのだ。それは瞬としても良く理解できた。


「攻撃力……やはり剣を見繕ってからの方が良く無いか?そうすれば見える物もあるだろう?」

「やっぱそうっすかね? でも、それだと結局イタチごっこの様な気もするんっすよねー」

「どういうことだ?」


 ソラの言葉に、瞬が身体を起こして問い掛ける。それに、ソラも起き上がって答えた。


「いや、今の問題ってそもそもで俺自身の攻撃力の低さなんっすよ。武器替えりゃ攻撃力が高くなるのも当たり前なんっすけど、結局それって対症療法的なんっすよね」

「ふむ……成る程。結局武器で底上げした攻撃力は、結局底上げ分で対処できなくなるわけか……」

「そういうことっす」


 瞬の言葉に、ソラが頷く。それを受けて、瞬が再び悩み始める。


「……カイトの様に直接敵を攻撃出来ないのか?」

「搦め手ってことっすか?」

「まあ、そうなるな」

「むずいでしょ、あれは」

「やはり、そうか?」


 ソラが苦笑して告げたのを見て、瞬も苦笑する。確かに、瞬の言葉通りにそれが出来れば圧倒的な攻撃力と言える。なにせ、相手の魔術的な障壁、すなわち防御を無視した攻撃が出来る様になるのだ。だが、それにはとてつもなく繊細な武技が必要となる。

 それを一朝一夕に習得出来るかというと無理だし、そもそもカイトの武芸は旭姫の一子相伝に近い物だ。常日頃弟子を迎え入れる武蔵とは違い、旭姫の弟子はカイトや極少数しか居ない。

 要求される技量が武蔵の武芸とは桁違いである為、これと見込んだ相手にしか伝授しないのだ。となると、それを教えて貰えるかどうかは微妙だった。


「なら、いっそ風の力(僕の力)で相手を翻弄しちゃえばいいんだよ」

「ふぁ……うぉあぁ!?」


 悩む二人に掛けられた声に、二人が大きく身を仰け反らせる。それに声の主はケタケタと笑いながら、二人が乗る馬車の上に登った。


「やほ」


 そう言って片手を上げるのは、緑色の髪の中性的な美少女だ。まあ、言わずもがなで風の大精霊ことシルフィだ。


「お、おう……で、その風の力で翻弄って……一体どういうこと?」

「簡単だよ。風って捉える事が出来ないからね。こうやって……」

「うひゃ!」

「くっ!」


 若干固いソラの問い掛けにシルフィは指一つで風を操り、二人の身体に風を纏わり付かせる。それにくすぐったい感触があって何とか逃げようとする二人だが、幾らもがいても無駄だった。形の無い風を防ぐ事は出来ないのだ。


「風を防ごうと思っても無駄だよ。風は水と一緒で、どんな小さな隙間でもすり抜けちゃうからね」


 楽しげに風を操るその姿は、まさに風の大精霊だった。そうして、風を操るのを止めたシルフィがソラに告げる。


「こうやって加護の力をもっと多彩に応用すればいいんだよ。皆がやってる加護による身体機能の向上は単なる表面にすぎない。楽しげに舞うのは僕の好みでもあるけど、それだけが好きなわけじゃないし。風を操れば相手を引きつける事も出来るし、今みたいに敵の防御を掻い潜ったりも出来るよ。それに、もっと強力にすれば敵を吹き飛ばす事も出来るし、応用はどうとだってなる」

「つまり、加護をもっと上手く使え、ってことか?」

「そういうこと。君は確かにカイトから教えてもらった武器技(アーツ)を主眼に使っているけど、それだけが君の力じゃない。それを、思い出してほしいな」


 そうして、薄っすらとシルフィの姿が消えていく。どうやらこれが言いたかったのだろう。


「だ、そうだ」

「らしいっすね」


 シルフィが完全に消え去った後、二人が答えを確認しあう。そうして、ソラはもう少し加護の使い方を勉強することにして、再度二人は寝っ転がって次の仕事に備えるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第464話『小休止』

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