第434話 遺跡調査 ――古代文明――
馬車に揺られて、数時間。幸いにして皇都付近には皇国軍と近衛兵団の二種類の軍が展開していたりする関係で、かなり安全に移動する事が出来た為、移動中は殆ど戦いらしい戦いは起きなかった。
とは言え、それでも戦いは起きた。なので、夜に移動を停止すると、リビング代わりだ、という場所に集まって今日の反省会を行っていた。
「……うーん……やっぱ、手が足りないんだよな、最近」
ソラが頭を掻きながら、今日の戦いにおける最大の難点を口にする。というより、これは全員に当てはまる事だった。
「まあ、私の様にいっぺんに掃討出来るのなら、良いのですけどもね……」
ソラの言葉を受けて、瑞樹が苦笑気味に語る。今日は確かに戦いらしい戦いは起きなかったのだが、その中でも最も戦いらしい戦いだったのは、ゴブリンの集団との戦いだ。
まあ、敵は殆ど雑魚だけだったので安全面という意味での問題は無かった。では、何が問題だったのか、というと、その数だ。どこでも変わらずゴブリンは集団で襲ってくる為、全てを討伐するには時間が掛かってしまったのだ。
となると、この場で最も活躍したのは、面攻撃が可能な瑞樹だったのである。彼女は有り余る出力を使用して大斬撃を放ち、ゴブリンの集団をごっそりと削ったのである。が、これが出来ない他の面々となると、ちまちまと倒していくしか無かったのだった。
「全員が全員、後先考え無ければなんとでもなるんですけど……」
「うーん……特にまずいのは、俺か……」
桜の言葉を受けて、瞬ががっくし、と肩を落とす。ソラの悩みが一番切実だったのは、実は瞬だった。彼はアタッカーであるにも関わらず、面攻撃が可能では無いのだ。
しかも彼はタイマンメインの戦い方となっている為、一対一は得意だが、逆に集団対集団、それもこちらが劣勢の状態からの切り返しがものすごく苦手なのだ。戦い方が無いのである。出来るとすれば、敵の大将首を挙げる、という事ぐらいだ。副官が居て指揮を取って代わられれば、それで終わりだった。
いや、確かに貫く様な攻撃方法で直線的な射程距離を伸ばす、という事は出来るのだが、その代わりに、他の方向への攻撃ができていない。彼の性格よろしく、まっすぐにしか、攻撃を出来ないのである。
「そこの所、月花さんはどうしてるんですか?」
「私ですか? 私は普通に……」
瞬の問いかけを受けて、月花が九尾の狐の姿を取る。
『これで、しっぽで面攻撃、とか出来ます。ええ、しっぽで攻撃は実は得意です』
少しだけ鼻をふんす、と鳴らして自慢気な月花であったが、そんな事を言われてもこの場の誰も参考にはならない。獣の姿を取れるのは彼女の様に純粋な狐族だからこそ、だ。と言うか、そもそもしっぽでの面攻撃とはどうやるのか、と一同の疑問は尽きなかった。
「参考になりませんね……」
『あ……ごめんなさい……』
桜の言葉に、月花も参考にならないことに気付く。ということで、一同はうんうん、と頭を働かせる事になるのだが、やはりこの面子だけでは無理だった。そうしてそうなってくると、今度は別のことに疑問が行った。
「……と言うか、あいつらはどうやってこういう場合に対処しているんだ……?」
あいつら、とは当然だが、カイト達だ。当たり前だが彼らとて赤子の時代があり、子供の時代があり、だ。何でも始めから出来たわけではない。というわけで、再び月花に全員の視線が行く。
「はぁ……まあ、ティナ殿は存じ上げませんが……カイト殿の場合、大半が誰かに教わって、ですね。ええ、今思い出せば、私も教えた事が有りました。懐かしいですね。ええ、懐かしいです」
何処か過去を眺める様にしながら、月花が苦笑しつつ過去を語る。とは言え、これだけでは無いのが、カイトの厄介さだった。
「まあ、それに加えて、自分で改良して、という事も多いですね。応用もよくやります。カイト殿の場合、例えば私のしっぽでの武芸を再現したりもしてましたね。ええ」
「ということは、結局、自分で考えるしかない、って事か……」
「そうですね。ええ、そうなります」
瞬の言葉を、月花が認める。当たり前だ。どんな道でも早足で駆け抜ける事なぞ出来はしない。ローマは一日にして成らず、だった。
とは言え、何の助言も無し、というのでは、少々居た堪れなかった様だ。月花が苦笑しながら、ちょっとしたアドバイスを出した。
「まあ、一人で戦う事を考えていないのなら、今のままでも良いでしょうね。ええ、良いと思います。どちらかと言えば、短所を無くすでは無く、長所を伸ばす事を考えるべきかと」
「そう……ですかね?」
「ええ。万能よりも、特化していたほうが使い勝手が良い事も多い。と言うか、そちらの方が良いでしょう。そもそも、カイト殿は馬鹿でアホで見境無しです。ええ、あれ程馬鹿な男は存在していません。それに平然と従っていたユリィも馬鹿です」
瞬の言葉を受けて、月花がカイトを酷評する。彼女は、かつては中津国で一軍を率いていたのだ。それを考えれば、この酷評も当然だった。彼女が上官であれば、確実に叱責する。そんな戦い方をしていたのが、カイトだった。
「なにせ大軍を相手にたった一人で戦おうとするのが、カイト殿のやり方です。普通はやりません。軍とは軍を持って相手をするのが、基本です。どれだけ足掻いても、軍とは軍勢。集団です。となると、普通は、嬲り殺しにされるのが関の山。ええ、関の山、です」
ため息混じりに、月花はカイトの戦い方をあり得ない、と断言する。まあ、その実は彼女も種族的にあり得ない戦い方をしているのだが、それをさておいても、彼の戦い方はぶっ飛んでいたのである。そうして、月花が一同に問いかける。
「はぁ……普通は何故、圧倒的戦闘力を有する英雄であっても軍勢を率いるか分かりますか?」
「? そりゃ、普通は数を相手にすりゃ勝てないから、でしょ? 数の暴力、って言うぐらいなんだから」
「そうです。普通は勝てません。当たり前ですが、自分達にだけ、英雄が居るわけではない。敵にも英雄が居る。となると、勝敗を決めるのは英雄の有無では無く、普通の兵士達の方なのです。それ故、普通は軍勢を相手に軍勢で挑むのが、普通です。それはティナ殿さえ、変わりないです。ええ、変わりません」
ソラの言葉を、月花が認める。そう、英雄だけでは、戦争は勝てない。英雄が居ない相手であれば、英雄個人でも余裕で勝てる。英雄とは数の不利を押し戻せる存在だ。
だが、それは英雄という化物が居ないからこそ、だ。ここに英雄が入り込めば、条件は対等だ。ならば、勝敗を決めるのは、如何に英雄の援護が出来るか、という所に辿り着くのである。
そしてそれをするのが、名も無き一般兵達だ。つまり、普通の兵士達の存在は馬鹿に出来ないのである。それ故、今でも普通に軍が存在しているのであった。
それに、英雄とは圧倒的に少数派だ。それ故、彼らだけではどう足掻いても治安維持は不可能なのだ。英雄とは超人であっても、全知全能では無い。どう足掻いても、全てには手が回らないのである。ここはカイトであっても、逃れられない事だった。
「……が、それをやってのけるのが、カイト殿です。分かりますか、どれだけ巫山戯ているか。彼だけは、英雄が居ようと関係が無い。全てが、彼だけで出来てしまう。真似しようとする方が馬鹿です。出来ないのが普通。やろうと思った彼は頭が可怪しい。そして出来た事がもっと可怪しい。ええ、おかし過ぎます」
月花は元司令官として、兵士としてのカイトを酷評する。やってはならない。それをやったのが、カイトだ。出来たのは彼だけで、出来るのも、彼だけだ。真似が出来るはずがない。
数多の英雄達でさえ、数多の武器を使いこなせるはずがない。それ故に、英雄とその武器や道具は一緒くたにされているのだ。それは当然ではある。
だが、カイトは別だった。彼の使った武器で有名なのを上げてみろ、と言われると、千差万別の答えが返って来る。例えばソラ達ならば、彼の双刀を挙げるだろう。だが、国が変われば、弓の名前が挙げられる。また別の国では、大剣が、斧が、拳が、挙げられる。
「それ故、彼は不敗の英雄なのです。彼はどんな相手にでも、弱点を突く事が出来てしまう。謂わば、英雄殺しの英雄。彼に武芸の才能は言う程無いです。それは彼も把握している。それ故に、彼は敵の弱点を突く事に特化した。剣が得意な敵に馬鹿正直に剣で挑む必要は無い。銃で嬲り殺しにすれば良い。銃を使う敵に、遠距離を挑む必要は無い。一瞬で肉薄して殺すだけ……そんな考えで戦っているのが、彼です。どんな英雄にも不得手、つまりは弱点がある。その弱点を突いて相手を封殺する。まともに……いえ、こと戦いでいうのなら、勝てるはずがない。彼ほど、殺す事に特化した戦士は居ない」
月花はため息混じりに、首をふる。戦いとは謂わば、三すくみのじゃんけんに近い。ただ単に『あいこ』が無いだけだ。同じ手の場合、強い方が勝ち、そして、本来は負けの手でも若干の不利ならば覆せる、というだけにすぎない。軍勢とはつまり、この不利を補う為に、居るのだ。
だが、カイトは違う。彼は全てが揃った手を出せるのだ。とんでもない出力を持つが故に、不利を覆せる状況へと持って行ける。まず、勝ち目がない。ありとあらゆる戦士にとって、彼は相性が悪すぎるのであった。
そんな至極ぶっちゃけたお話をした月花だが、流石にこれは色々とぶっちゃけ過ぎだった。もはや自分達とは見識の違う所から出された言葉に、誰も何も言えなくなる。が、誰かが言葉を探す必要は無かった。
「随分と白熱している様子だな」
どうやらそれなりに議論が伯仲している様子だ、と思って興味本位にロックが彼の個室から出てきたらしい。笑いながら一同に声を掛ける。
「なんの話だ?」
「いえまあ、少し今日の戦闘での見直しなんかを……」
問われて、ソラが答える。別に隠す必要の無い事だし、彼がほかの冒険者達から聞いた話でも、よくやっている、と言われていたのだ。なら別に明かしても良いだろう、と思ったのである。
そうして、しばらくの間、ロックも交えて――彼も一応は戦えるので、興味があった事もあり参加した――議論が交わされるのだが、ここでロックが笑いながら一同にアドバイスをくれた。
「なら、他にも手はあるな。優秀な武器を手に入れるのも、また、手だ。それに、複数武器を使ってはいけない、とそちらのお嬢さんは言ったらしいが……派生する程度の武器なら、使っても良いのではないか?」
「まあ、それはそうですね」
ロックの言葉を受けて、月花も頷く。カイトという極論に話が行ったが故にダメだっただけで、そうならないのであれば、別に今の武器以外に武器を持っても悪くはないのだ。
例えば片手剣を使う者が両手剣を使ってもそこまで扱いに差が出るわけでは無いし、両手剣の使い手が大剣を使う、という事も良くある話だった。現にメルははじめ両手剣を使っていたのだが、そこから紆余曲折があって、大剣を使うようになったのだ。
「それに、なんだったら遺跡に眠っている武器を使ってみるのも良い。時にそういった不利を補えるだけの特殊な力を持つ武器も眠っている事もある」
「そうなんですか?」
「くくく……君たちは遺跡に行こうとしているのに、何も知らないのだな」
瞬から受けた言葉に、ロックが思わず笑いを零して告げる。それに一同は少しだけ、頬を赤らめた。最終目的地だというのに、実は殆ど何も知らなかったのである。
まあ、それは戦闘を主眼として動いている彼らだからで、本来はそういった過不足を補う為に冒険部にはそれ専門の研究班があるのだ。今はまだ仕方が無い所だった。
「良いだろう。こういうのも、考古学者の仕事だ。少しだけ、語ってあげよう」
ロックは殆ど何も知らない様子の一同に向けて、懐からメモ帳を取り出して解説を開始した。
「さて……君達はエンテシア皇国以前については、どれだけ知っているかね?」
「えっと……確か、その前はマルス帝国、という大帝国があった、と言う程度は把握しています」
「然り。では、その前は?」
ロックから問われて、一同は顔を見合わせる。その前。そう言われて気付いたのだが、当然だが、その前もあるはずなのだ。当たり前だが、エネフィアが人為的にある程度の文明を与えられて作られた世界では無い以上、マルス帝国の前にも国があったはずなのだ。とは言え、これは少し意地の悪い質問だった。というわけで、それを知る月花が手助けを出した。
「ロック殿。少々意地が悪いですよ。ええ、悪すぎます」
「……いや、済まないね。実はこれは判別していない。そもそもマルス帝国の開闢帝の名前さえ、判別していないのだ。とは言え、幾つかわかっている事がある」
わかっていない物を彼らが知るはずも無い。ということでこれは引っ掛けだった、と笑って告げて、彼は更に話を続けた。
「その前の国については分からないのだが、マルス帝国は約1000年続いた国だ、という事は判明している。まあ、最終期における彼らの謳い文句らしいのだがね。これを信じるのならつまり、合わせて1700年程度は大体判明しているわけだ」
メモを一枚破って、ロックは一つの線を描く。下には一番右側に『現在』と記されていて、そこから少しした所に『700年前』『1000年前』と区切ってその間の国の名前を書き記す。
「が、これより更に1500年程前。約3000年前だ。ここに、一つの超文明が存在していたことがわかっている。この製紙技術だって、その名残だ。これが、君たちの探し求めている古代遺跡の文明だ。有名な所であれば、勇者カイトのお師匠様の治める浮遊都市レインガルドがこれにあたる。ここが最も危険性の低い遺跡として、有名だ」
「超文明……?」
「ああ。名前はルーミア文明。一番初めにこの文明の遺物が発見された土地の名前だ。これに他の二つを含めて、エネフィア3大古代文明、等と呼ぶ。私はその中でもこのエネシア大陸にあるルーミア文明が専門だ」
ロックは説明の傍らに更に3000年前へと線を引き、そこに『ルーミア』の名と自分の名前を書き記す。そして更に続ける。
「今回行くのも、その遺跡の可能性が高い。まあ、そういうわけで護衛の依頼をしたのだがな……話を戻そう。この3つの超文明だが、どれもこれもが今よりも遥かに過去に存在していたのにも関わらず、今よりも遥かに高度な文明を有していたらしい。これが所謂、『古代系統』だ」
そうしてメモから顔を上げたロックだったが、全員の顔に浮かんだはてなマークを見て、再び苦笑した。
「『古代系統』とは、<<古代魔術>>・<<古代兵器>>・<<古代魔道具>>の事だ。今よりも遥かに進んでいた技術で、技術力で言えば、かの統一魔帝様よりも超えた所が存在している道具も多い。これを探し求めるのが、我々考古学者達の使命だ」
何処か誇りを含んだ様子で、ロックが一同に自分達の使命を語る。が、そうなってくると、一つの疑問が出た。なので、桜がそれを指摘する。
「あの……なら何故、滅びたのですか?」
「それが、分からない。今よりも遥かに高度な文明を持ちながら、何故か滅びている。それを調べるのもまた、我々の使命だ」
まあ、強大な魔物が出るエネフィアだ。滅びた理由は幾つもあるだろう。もしかしたらそれでも勝てない様な魔物が出た、というのもあるかもしれないし、自滅の可能性だって無くはない。ということで、最近読んだ小説にそんな展開があった為、そこに思い至った翔が呟いた。
「進化の果ての自滅、って奴なんっすかねー」
「それは……面白い考察だな。一考に値する。確かに、自分達の技術を過信し過ぎれば、そういう事も起こり得るかもしれないな。良い見地だ。もしそうなら、同じ轍を踏む事の無い様に、我々も気をつけねばならないな」
「え、いや、あの……ども」
ふと自分の呟いた言葉に思わず目を見開いて驚いていたロックから絶賛されて、翔が恥ずかしげに頭を下げる。まさか適当に呟いた言葉に絶賛を受けるとは、思いもよらなかったのだ。
「まあ、それはおいておいても、そういうわけだから、割とこの遺跡には古代文明の超技術の塊である超高性能なゴーレム等が警戒していたりしている。トラップ等がまだ生きている可能性もある。私達の手に負えない可能性もな。まあ、それを調べる為に、冒険者の出番、というわけだ。ぱっと見そこまで危険性がある様では無かったが、いざとなれば、即座に撤退も考えている。そこらの見極めは、専門である君たちの仕事だ。そこは任せる」
「はい、分かりました」
ロックの言葉に、ソラが頷く。そしてそれを受けて、ロックが立ち上がった。色々な事を話し合っていたおかげで、もうすでに夜も更けていたのだ。
「では、私は戻る。君達もほどほどにして戻ってくれ。明日も早い。話し合って寝不足で全力が出せなかった、ではすまないぞ」
「はい」
ロックの言葉を受けて、一同も立ち上がる事にする。幾ら楽勝だったといえども戦闘はあり、疲労は目に見えぬ所で蓄積されている可能性は無いでは無い。なら確かに、寝不足は問題だ。そうして、一同は与えられたスペースで、眠りに就くのだった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第435話『遺跡調査』




