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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十四章 冒険部・皇都編

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第432話 別行動開始

 その日。今日も今日とて旭姫指導の下訓練を行おうとしていたソラ達一同であったが、そこに、一つの依頼が持ち込まれた。


「……護衛任務、っすか?」

「ええ。考古学者さんが、少し遠くの遺跡の調査に向かいたいから、護衛をお願いしたい、と……」


 ユニオンの職員から受けた説明を聞いて、ソラが首を傾げる。別に大して珍しい依頼でも無かった。当たり前であるが、エネフィアにも学者は存在していて、その中の一つに、考古学者という職業も存在している。

 いや、考古学という物で言えば、それが実益を生み出すということから、地球よりも遥かに盛んに研究がされている、とさえ言えた。

 学者といえば魔術・魔道具の研究者達か、考古学者か、というぐらいにエネフィアでは盛んだった。と言うか、ティナも本来は魔王という政治家でも軍略家でも無く、魔導の探求者という学者だ。

 だが、当然ながら、学者達の誰しもがティナの様に圧倒的な力を持っているわけではない。まあ、魔術の研究をしている学者や魔道具の開発を行う学者であれば、自分の発明品等で超強力な攻撃力を兼ね備える場合があるが、そんなのは極僅かな存在だ。

 というわけで、これはありふれた依頼の一つだった。当たり前だが、遺跡は街の外にあるのが大半だ。ならば、誰かに警護を頼まなければならない。まあ、唯一つ、ソラ達をご指名だ、という事を除けば、ありふれた依頼だろう。


「いや、嬉しいっちゃあ、嬉しいんっすけど……」


 ソラが代表して応対にあたっていたのだが、人員を聞いて、困った様な顔で首を振る。指名を受けたのは、冒険部上層部全員だ。つまり、ソラ以下瞬達男性陣も、桜達女性陣も全員、護衛に来てくれ、という事だった。どうやら先方は前の御前試合でソラ達の事を見ていたらしく、その縁で話をしてみたい事もあり、全員を、という事だった。

 首を振ったのは流石にこれはダメだろう、と思ったのだ。上層部が起点となり、今の冒険部は回っているのだ。それがなくなれば、どうなるのかは、目に見えていた。だが、そんなソラに対して、小次郎状態の旭姫があっけらかんと許可を下ろした。


「いや、良いぞ。行って来い。おい、月花ー」

「はい、何でしょうか」

「お前、ソラ達と一緒に護衛行って来い。所謂、お目付け役だな」

「わかりました」


 旭姫の指示を受けて、月花が考える事もなく、二つ返事で了承を下す。丁度冒険部の上層部には別行動を言い渡そうと考えていた所、だったのだ。拒否する理由がなかった。それに、ソラが目を見開いて、旭姫に問いかけた。


「いや、良いんっすか?」

「おう」


 ソラの問いかけに対して、旭姫は悩みなさそうな感じで答える。それも自信満々で、だ。まあ、当たり前だが考えなし、というわけでは無い。理由は少し前に月花と共に話し合った通り、だった。


「んー……と言うか、ぶっちゃけ……お前らちょっと邪魔」

「なっ……」


 旭姫からの忌憚無い戦力外通告に、瞬が愕然となる。が、流石にこれはぶっちゃけ過ぎの上、言葉が足りなすぎる。なので、月花が苦笑交じりに訂正した。


「いえ、邪魔は邪魔なんですが……これは良い意味だ、と考えてください。ええ、良い意味です」

「い、いえ……今のをどう取れば、良い意味なんですか……?」


 苦笑しながらの言葉に、桜が首を傾げる。というわけで、月花が足りない言葉を補足する。


「まあ、なんと言いますか……カイト殿の所為で、皆さんの力量が頭幾つか高いんです。ええ、高すぎます。というわけで、高過ぎるが故に、邪魔なんです」


 改めてしっかりと言われれば、簡単に理解出来た。当たり前だが、実力が違いすぎると、連携は満足に取れない。高すぎても、ダメなのだ。

 集団である以上、それはどうしても他の者が依存しかねない。それが起きかけていたのが、今の冒険部だった。そうして、改めてしっかりと、月花が


「というわけで、ですね……今の皆さんがいらっしゃっても逆に皆さんが中心として討伐してしまいますので、他の者の訓練にならないんです。ええ、訓練になっていません」

「と、言うわけだ。お前ら強すぎるんだよな。慢心してもらっても困るけど、とりあえずちょっと高いし、他のを底上げしないとこれから先困るだろ? じゃあ、お前ら居ても邪魔にしかならないんだよなー」

「む、むぅ……確かに……」


 二人から改めて説明されて、瞬が納得する。そしてそれは他も一緒だった。言われなくても、彼らにも自分達が頭一つ飛び出た実力だ、というのは理解していた。

 とは言え、旭姫の指摘も当然ではある。カイトが目指したのは、自身が居ない場合は上層部が中心となれば強大な魔物とも相対出来る、という布陣だ。それを考えれば、一点強化は致し方がない。が、ここではこれが悪いように影響してしまっていたのだ。

 極一部の面子が強すぎる為、それが中心となって討伐する所為で、それが居なくなったり目が届かない程に大人数になると、細やかな所で動きが鈍重になるのだ。

 まあ、本来は居るべき指導者が居ない以上仕方が無いが、今の冒険部がそれになった場合、想定される動きは少々目に余るレベルだったのである。と、言うわけで、数日前の話し合いの通り、彼女にも同行が言い渡される事になる。


「後は弥生。お前も遠征行きで」

「あら、私も?」

「そいうこと」


 弥生は自分も言われるだろうな、ということは理解していたので、一応は意外感を出しているが、その実、拒絶している風は無かった。というわけで、旭姫も笑いながら頷くだけだ。


「弥生が一番邪魔。手を貸しちゃうから」

「あら、良かれ、と思ってやったのだけど……やっぱりカイトのお師匠様だと分かっちゃうものね」


 しっかりと見抜かれていた事に、弥生が笑う。個人の判断力を高めようと考えている旭姫にとって、実は弥生が一番邪魔なのだ。

 なにせ迷っている生徒に向けて、彼女が密かに指示を与えてしまう。謂わば縁の下の力持ち、だったのだ。

 まあ、そうしなければ上手く回らないのだから仕方が無いが、その個人の判断力を鍛える訓練をしたかったので、居てもらっては困るのであった。


「んー……他にも皐月とか色々除外しておきたいけど……まあ、こっちは良いか。これ以上抜くと、逆に戦力が低くなっちゃうもんなー……それに他人に指示が出来る程の実力あるわけでもないし……」


 旭姫は他数人の名前を挙げながら、どうするかを悩む。が、結局は、彼女らにはまた別の機会、ということにしたらしい。

 どれもこれもが、カイト達から直々に教えを受けて居た面々だ。まあ、それ故に実力が高いのだが、どうやらこれ以上の戦力低下は逆にまずい、と判断したのだった。


「まあ、とりあえずそれだけで良いや。とりあえず、上層部と弥生。お前らちょっとの間遠征で。他の面子はそれ無しでも満足に動けるだけの判断力を鍛える」


 一同に向けて、旭姫が指示を下す。手助けが貰えないのなら、後は生き残る為には自分達でやるしか無くなる。出来なければ死ぬだけだ。旭姫はそれを狙ったのだ。

 これはカイト達も同じ事を何度も繰り返してきた事で、スパルタではあるが、最も実力を上げやすい方法だった。死ぬ気になれば、何でも出来るのだ。

 と言うか、どちらかというと、出来ないと死ぬ。一応死なない様にヘンゼルと三匹、そして武蔵の弟子達と共に見張るつもりだが、少々痛い目はみてもらうつもりだった。

 そうしなければ、これから先、上層部やカイトの教示を受けた面々以外は、生き残れる見込みが無い。必要だからやることで、同時に致し方がない事、だった。


「月花。流石に遠征だと手出し無用にしなくて良いからな。お前も活躍しておいてくれ。まあ、でもあんまりソラ達の見せ場を奪いすぎるなよ」

「わかっています。ええ、わかっていますとも」


 旭姫の言葉を受けて、月花が苦笑する。彼女一人なら、大抵の依頼は簡単に達成出来てしまう。これでは意味がない。遠征に向かわせても、訓練はさせるつもりだったのだ。

 そうして、とりあえず旭姫は個人での判断が満足に出来ない面子と武蔵の弟子を引き連れて出て行ったのだった。




 そうして、旭姫達と別れたソラ達だが、連れ立って依頼人の所におとずれていた。場所は皇都の住宅街にある少し安めの宿屋だった。そうして案内された部屋に居たのは、一人の男だった。

 髪は太陽の光の様に輝く金色で、顔付きは何処か尊大そうだが、優雅で端正だ。何処かの貴族の門弟だ、と言われても素直に信じられる程の優雅さが存在していた。

 が、まあ、着ている服装としては動きやすい茶色系統のロングコートで、そのロングコートにしても擦り切れが見えた。内側の服は旅人だからかポケットの多い実用性重視の物で、それにしてもくたびれた様な印象があった。貴族というには、少々ボロボロだった。

 他にもよく見ればどうやらフィールド・ワークは手馴れているらしく武器も持ち合わせている様子だったし、コートの内側にはどうやら遺跡関連についてを纏めたらしい手製のメモ帳が革の紐で括り付けられていた。他にも当然、遺跡の調査用らしい小道具がコートの内側には吊り下げられている。

 貴族の道楽というには本格的だし慣れも見えたので、大方単なるイケメンの学者、という所だろう。別に顔立ちが優雅だから、所作が優雅だから、と言ってもそれら全てが貴族というわけではないだろう。


「来たか。遅かったぞ」

「いや、すいません」


 部屋に入って即座に為された叱責に、ソラが謝罪する。待たせたのは事実だった。なのでソラの謝罪も道理にかなった物だった。


「さて……では、早速仕事の話に入ろう。面子は依頼通りか?」

「あ、はい……一応、これがメンバーのリストになります」

「ふむ……分かった。少々足りないが、仕方が無い。これで良しとしよう」


 ソラから差し出された護衛のメンバーリストを見ながら、男が頷いた。若干少ないのは皐月達一部の実力者が居ないからだ。皐月達もまた、指名されていたのである。


「では、仕事の話に入ろうか。依頼の内容はすでに伝えているが、ここから遺跡までの警護依頼だ。ついでに遺跡内部での警護も頼む」

「えーっと……あの、すいません。その前に、お名前を……」


 仕事の話に入ろう、と言って仕事の話を開始した男に対して、ソラがおずおずと申し出る。向こう側は見知っていたので問題は無いだろうが、こちらも名前を知らない事には会話がままならないだろう。そうしてそれを受けて、男が苦笑して自己紹介を行った。


「ん、ああ。すまないな。私はシャーロック。ロックで構わない。出身はここらなんだがな。偶然帰って来た時に君たちの御前試合を見てね。依頼させてもらった」

「おっと……ソラ・アマシロです。お願いします」


 ロックから差し出された右手に、ソラも右手を差し出す。そうして改めて自己紹介が終わった所で、ロックが続けた。


「さて……では、改めて仕事の話に入ろう。依頼内容は、先に言った通りだ。調査先は偶然最近私が見付けた遺跡だ。場所は皇都から馬車で1日の所だ。御前試合を見る為に皇都に来る為、とある洞窟を通ったんだが……崩落した洞窟の先に偶然先史文明の遺跡を見付けてな。まあ、調査については3日程。どんな物なのかを調査する為の下調べ、という所だ。そうしないと、スポンサーも来てくれないからな」


 ロックは地図を出しながら、おおよその依頼内容の説明を行う。当たり前であるが、遺跡を調査をする為にも、始めから大人数で調査、というわけにはいかない。下調べが必要なのだ。

 そうしないと必要な調査道具を揃える事も出来ないし、支援者達に対して支援を申し込む事も出来ない。支援者達とて、有益性があればこそ、支援するのだ。今回の依頼は彼の言うとおり、本格的な調査の為の下準備、という所だった。


「活動拠点は馬車を中心として行動する事にしている。馬車についてはそれなりに大きな物だが、御者はこちらで用意させてもらっている。そこの点は抜かりはない……まあ、ゴーレムだがな。それなりに広いし、魔物も出そうだ。腕利きの人手が欲しくてな。というわけで、君たちに一括で依頼させてもらった。詳細については、馬車の中で話し合う事にするとしよう」


 ロックはそう言うと、身一つで立ち上がり、部屋を出ようとする。どうやら彼は必要な物は全て持っている様だ。そうして、一同もそれに従って、宿屋を後にするのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第433話『遺跡調査』

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