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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十四章 冒険部・皇都編

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第428話 キャラバン護衛任務

 旭姫によるネームド・モンスターの討伐は早々と終わり、冒険部の面々はその後出会ったキャラバンの護衛を行う事となった。今は旭姫指示の下、徒歩の冒険部の面々の為に歩いても間に合う程度に速度を落としたキャラバンの警護にあたっていた。

 そんな中。キャラバンの中央付近の馬車を警護する事となったソラ達だったのだが、警護の最中、馬車の1つから声が掛けられた。


「皆さんは随分とお若いですが、何かの集まりなんですか?」


 そう言うのは若い女性だ。見た目的には30前と言った所で、かなり高貴な雰囲気が漂っていた。更に彼女が乗る馬車はこのキャラバンの中ではかなり異質で、彼女の乗る馬車だけは、明らかに荷物を運ぶのではなく、人を運ぶ為の設計が為されていた。


「え? あ、いえ、そうじゃない……あ、いえ、そうです」


 馬車の中からいきなり声が掛かるとは思っていなかったソラは、少しだけ焦って思わず否定して言い直した。そんな焦りを見た貴婦人は、微笑みを浮かべて告げる。


「まあ、そんなに緊張なさらなくても良いですよ」

「あ、すいません」

「それで、何の集まりなのかしら?」


自分に対して固くなったソラを見て、貴婦人はくすくすと品良く笑う。


「あの……天桜学園って知ってますか?」

「ああ、あの異世界日本から来たっていう学校の事?」


 どうやら貴婦人もそれを知っていたらしい。彼女は少しだけ確認するように問い掛けた。


「はい」

「そういえば、最近こっちにお呼ばれした、って言ってたわね」

「あ、そうなんですか?」

「そうよ。そりゃ、勇者カイトの国なんですもの。皆興味津々よ」


 そう言う彼女もまた、興味がありそうな雰囲気を醸し出していた。


「何か話してくださらない?」

「え?」


 貴婦人のお願いに、ソラは少しだけ逡巡する。逡巡した彼は、近くに居るはずの旭姫を見る。どうすれば良いか判断しかねたのだ。


「……くー……」


 そんな旭姫だが、完全に睡眠していた。うたた寝等ではなく、キャラバンの馬車の屋根の上に上り、横になって本格的に眠っていた。

 夏の一日としてはカラッとしており、快晴でうららかな陽気が気持よく、昼寝や休息を得るには丁度良い陽気だった。その横には弓兵として遠距離からの攻撃を司る為、有視界距離が飛び抜けて良い由利と、護衛の一人である筈のヘンゼルも居るのだが、彼女らも旭姫に釣られてうとうとと眠そうであった。今は二人で舟を漕ぎながら、肩を寄せあっていた。

 ちなみに、由利が中心部にいるのは視力の高さを活かして全周囲を見張る為、ヘンゼルは素早さを活かしていつでも増援に迎えるようになのだが、この調子では意味がなさそうだ。まあ、依頼では無いので、本気で取り掛からなくても文句は言えない。


「……いいんすかね?」

「……俺が知るか」


 呆然となったソラは横に居た瞬に問い掛けるが、彼も困惑していた。まあ、旭姫はたとえ眠っていても射程内に敵の存在を察知すれば目を覚ますのだが、そんな事を与り知らない二人には、困惑にしかなり得なかった。ちなみに、それが理解出来ているからこそ、キャラバンの誰も彼女に注意しないのであった。


「で、話してくださらないの?」

「あ、すんません。えーっと、じゃあ、もう勝手にやっちゃっていいっすよね?」

「寝てるんだから、仕方がないだろう。俺に聞くより、あの使い魔に聞け」


 なら起こせば、とも思うが、あそこまで気持ちよく寝られてはどうしようも無い。二人は苦笑して、そう結論づけた。

 そうして、呼ばれた月花がきょとん、とくりくりした目を二人に向ける。彼女は旭姫の横で獣化して、銀色の尻尾を枕に丸まってうとうとしていた。それが尚更由利の眠気を促進させているのだが、それは流石に彼らの与り知らない事であった。


「……はい?」

「……えーっと……日本の事話してくれ、って言われたんだけど……」

「好きになされば良いと思います。ええ、好きになさって下さい。私が全てを判断するわけじゃ無いです。ええ、判断しません」


 そうしてすげなく自分で判断しろ、と見放して再び尻尾を枕に眠りについた彼女に、二人は顔を見合わせる。カイトの知人達は揃いも揃ってどうしてこうなのか、と思うが、言って聞くわけでもなかった。


「じゃあ、適当に、でいいですか?」

「あら、どうせなら、何か楽しいお話がいいわね」

「はい」


 ソラの問い掛けに何処かねだるような貴婦人は、少し品良く、だが、少しワガママに告げる。それを受けて、ソラが話し始めるのであった。




 それから、少し。誰も気付かないほどに小さくだが、確かに、地面に揺れがあった。


「……ん」


 その瞬間。旭姫が目を覚ます。あれだけ気持よく寝ていたのに、目覚めた時にはまるで寝ていたと分からないほどに、静かな気配であった。とは言え、やはり起き抜けだからなのか、旭姫は『小次郎』では無く、『旭姫』だった。


「……小さいですね」


 旭姫はのんびりと進むキャラバンの集団を確認して、誰も気付いていない事に少しだけ、残念そうにため息を吐いた。

 まあ、致し方がない。なにせ、彼女が気付いたその存在まで、まだ10キロ以上も距離があるのだ。まだ目視可能な距離では無かった。

 そんな状況では如何にどこかの有名なキャラバンの護衛隊であっても、気付くことは不可能な距離であったし、向こうにしても、此方に気付いている様子は無い。


「潰しておきましょうか?」

「いいでしょう、別に。この程度なら、彼らに相手をさせるのが最良です。丁度連携も見ておきたい所、です」


 同じく気配に気付いて目を覚ました月花の提案に、旭姫がかぶりを振るう。月花ならば一瞬で潰すことも容易であるが、丁度良い大きさであった事もあって、彼女はそれを却下したのだ。


「危険過ぎませんか? と言うより、危険過ぎる気がします。ええ、危険過ぎます」

「カイトから知恵は授けられているのです。これぐらいはやってもらはないと、駄目、でしょう」


 近づく気配は、確かに平均から見れば弱かった。だが、それでも魔物のランクからみれば、そのランク平均を上回る魔物には違いなかった。

 それ故翻意を迫った月花だが、旭姫は取り合うつもりは無い様子だった。ここの所、カイトと同じく彼女はスパルタだ。いや、カイトと同じく、なのではなく、カイトが彼女と同じなのだ。


「まあ、どうしても心配なら、手を出すことは許可しましょう」


 尚も何か言いたげな月花に、旭姫が仕方がなし、と言った感じではあったが許可を出す。まあ、彼女とて愛する愛弟子から預かった教え子達だ。一応、彼女は引率ではあるし、こんな所で死なれても寝覚めが悪かった。


「はい、では」


 どうやら月花としても、ここを落とし所としたらしい。彼女は旭姫の許可に納得したらしく、狐の姿のまま、頭を下げた。そうして、対応に入る為に旭姫は少しだけ目を閉じて、自己暗示を掛けて、『小次郎』に入る。


「……取り敢えず、踏み潰しにさえ注意しておけばいいよ」

「……振り下ろしにも注意します」

「それぐらいは避けさせた方がいいな。それで死ぬようなら、先は無い」

「却下です。却下させて頂きます」


 過保護だな、旭姫がそう呟くが、月花もそれを否定しない。とは言え、彼女はこの過保護をやめるつもりは無かった。

 死なないで良いならば、死なない方が良いのだ。実際に一度死にかけた彼女は、心の底からそう思う。そうして、全てが決まって、月花はようやくうたた寝をしている由利を起こす事にした。


「由利さん」

「ふぇー……あ」

「むがっ」

「ぴぇ!」


 うたた寝をしていた由利はふと目の前に現れた月花を見て、思わず抱きしめる。そうしてもふもふの体毛を堪能し続ける由利だが、やはりもふもふの月花の心地よさには耐え切れず、再びうたた寝に入りそうであった。

 ちなみに、横のヘンゼルがその由利の急な行動に目を覚ましたのだが、それは誰の気に留められなかったりする。


「ちょ! 由利さん!」


 だが、月花の方はそれでは困るのだ。彼女は童女の姿に戻ると、そのまま豊満な由利の胸から身を捩って脱出する。

 そんな月花に由利はいきなり狐から童女に変わられた所為でそれを拘束し続ける事が出来ず、更には感覚がいきなり変わってびっくりして、目を覚ました。


「あはは、ごめんねー」

「いえ……それより、あちらを」


 月花が指差す方向には、当たり前だが、まだ、何も見えない。此方に近づいてきているが、まだ、数キロ先だ。現に、キャラバンの誰も気付いていない。ただ一人を、除いては。


「どうされるおつもりかしら」

「はい?」

「いえ、何もありませんわ。少し気になったことがありましたの」


 急に呟いた貴婦人に、ソラが首を傾げるが貴婦人は苦笑してそれを流した。だが彼女にしても、こうして仲良くお喋りしているソラ達が死ぬのはあまり良い顔が出来なかったらしい。


「誰か」

「はい、ご当主」


 彼女が告げた瞬間に、直ぐに人が現れた。どうやらずいぶんと大切にされているらしい、ソラと瞬、それに近くに居た何人かの生徒がそう思う。まあ、当主――と言うか公爵――と言われているのだから、当たり前ではある。


「誰か人をやって小次郎殿にどうなさるおつもり、と問うて頂戴」

「どうなさる、ですか?」

「ええ、それでいいわ」

「はい」


 呼び出しに応じたキャラバンの人は貴婦人の伝言に疑問を覚えたが、彼女がそれで良い、と言った以上はそれ以上を問い掛ける事はしない。しなくても彼の仕事には影響しないからだ。そうして彼は少しだけ足早に旭姫の下へと急いで、主に告げられた事を伝える。


「小次郎様。それで、如何なさいますか?」

「ああ、出なくていいよ、って伝えといて」

「はぁ……」


 主然り彼女然りで殆ど主語も何も無い伝言に、未だ状況を把握していない使いの彼が首を傾げるが、やはり、問い掛けることは無い。

 先と同じで、それで良いからだ。と、いうことで、彼は再び足早に主の下へと戻る。そうして主に告げると、主は主で楽しそうな笑みを浮かべて頷いていた。


「だ、そうです」

「ふふふ……それはまた。噂に違わぬこと」

「はぁ……」

「そうね。じゃあ、こんな所で学生さん達を引き止めて置くわけにも行かないわね」

「はい?」


 歩きながらでは話しにくかろうとソラや他の数人を馬車に乗せていたのだが、そんな貴婦人が笑い、ソラ達に告げる。ちなみに、瞬は護衛と指揮の方を優先する、と外で会話に参加していた。


「もうお行きなさいな。お仕事の最中に引き止めて悪かったわね」

「あ、いえ……では、失礼します」


 招かれた客人である以上、ソラ達も彼女が退出を望んだのなら、馬車から降りるしかない。そうして降りた時にはまだ、由利も気付いていなかった。だが、それも長くは続かなかった。


「あれー……?」


 月花の指さした方角には何かがあると踏んだ由利はそちらを重点的に警戒していたのだが、ついに異変を見つける。それが誰よりも早かったのは、やはり彼女の弓兵としての才覚の高さ故だろう。


「誰か……来る?」


 それは人影の様に見えたが、まだ、はっきりとしなかった。だが、それが近づいてきていることは、理解できた。


「誰か来たよー!」


 だから、由利が声を上げる。それにキャラバンの全体が由利に注目した。


「2時の方角!」


 その声に合わせて、全員の注意がそちらを向く。すると、多くの者が草原を走る人影に気付いた。


「半裸の……男か?」

「誰かに襲われたのか?」


 まだ誰の目にも遠すぎてその全容は把握できなかったが、少なくとも服は着ていない様に見えた。それ故、少し警戒しながらであるが、受け入れるべきか迷いが見えた。だが、直ぐに異変が感じられる。なにか、可怪しいのだ。


「なあ、人間ってよ……あんな遠くでもあんなデカさだっけ?」

「いんやぁ……周りの草木が小さいだけじゃね? もしくはアイツがでかいか」


 護衛に付いていた生徒たちも、ついに気付く。ずしん、ずしん、と連続して地響きが響いていることに。


「なあ、人間ってよ……苔とかって生えるっけ?」

「いんやぁ……肌を染めてるか、服きてんじゃね? もしくはアイツが岩で出来てるか」


 だんだんと近づいてきて、地響きが鳴り響いている最中。ようやく見えてきた肌の色に、一同が人では無い事をようやく確信した。なにせ、有り得る筈の無い大きさに、有り得るはずの無い肌の質感だ。


「『石巨人(ストーン・ギガンテス)』だー! 全員、防御態勢を取れー!」


 ついに見えた巨体に、キャラバンの護衛達が全員に敵襲を告げる。そうして、ソラ達は冒険部初となる、数十メートル級の魔物との戦いに突入するのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第429話『石巨人』

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