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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十三章 合同演習編

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第413話 合同演習 ――開始――

 研究所の一角に設置された観覧用の席に、今回の訓練を観戦する貴族達と軍高官達が集まっていた。その一角には、皇帝レオンハルトもそこに居た。


「ほう、あれがかの魔帝の作り上げし機体か……」


 一風変わったどころか、既存の大型魔導鎧と完全に違う魔導機を見て、皇帝レオンハルトが感嘆の声を漏らした。その顔には、明らかな笑みが浮かんでいた。


「……使えるな。分かる軍人には、あの脅威が分かる」


 笑みを浮かべたまま、皇帝レオンハルトがつぶやく。当たり前だが、皇国もまた国だ。それ故、他国に向けて影響力を発しようとするのなら、軍事力もまた、必要な道具、だった。それを考えれば、魔導機は非常に――皇国にとって――良い印象を与える可能性があったのだ。


「ふむ……1機……いや、一個小隊として、とりあえず欲しい所、か……」

「申し込みますか?」

「……確か、皇国軍が製造中の大型飛空艇があったな?」


 宰相ヴァルハイトが問い掛けた問いかけに、皇帝レオンハルトが問いかける。考えるのは、次の大陸間会議の事だ。

 彼の告げた大型飛空艇を他大陸の大国に対する示威として使うつもりだったのだが、魔導機もそれに使おう、と思ったのだ。

 現存する国家では世界最古の歴史を誇る千年王国、双子大陸に跨る巨大さとそれに見合う兵力数を誇るヴァルタード帝国に対して、皇国が誇るのは、勇者カイトと魔帝ユスティーナが残した技術力だ。明らかに、魔導機は大型魔導鎧と異なる。その技術力の高さは、他国にとって脅威に映るだろう。


「はっ。天領内部の機密区画にて、開発中です」

「良し……語録にあるだけはあったが……航空母艦、か。今の皇国の技術力ならば、可能かもしれん」


 皇帝レオンハルトが考えるのは、カイトが言葉だけ残していた空母の事だ。かつては技術力の問題で無理だった空母も、今の皇国の技術でならば、不可能では無い。かつてよりも積載量が比較にならない程、増大している。それは少し大きめの飛空艇に揚陸艇が積み込める事からも、明らかだった。

 飛空艇の開発を開始してから300年の月日で、飛空艇技術を蓄積したのだ。今ならば、ティナの支援があれば大型魔導鎧用の空母も開発出来る、と考えたのである。


「魔導機一個小隊分の積み込みが出来る空母型飛空艇の開発へとプランを修正させろ。突貫工事で会議で見せるだけで構わん。作れる、と示せるのが重要だ。戦闘は考えんでも良い。魔帝殿に協力を依頼しろ。こちらの意図を悟れば、彼らは協力を拒めんはずだ。可能なら、皇帝専用機も頼め。それだけの物が作れる、と他国に示せる最大の手札だ」

「かしこまりました。大陸間会議では、彼らの命運が決まりますからな」

「それを勇者カイトと魔帝ユスティーナが理解しておらんとは思わん。協力を要請しろ」

「御意に、陛下」


 皇帝レオンハルトの言葉に宰相ヴァルハイトが頷いて、密かに行動を開始する。皇国の影響力が増せば、その分、他国からカイト達の安全が確保出来るのだ。それをカイト達が理解していないとは思わない。協力してくれない、とは思っていなかった。


「へぇ、完全密閉型かい。ありゃ、水中行動可能かな?」


 その隣。近衛兵団の兵団長の一人として本コンベンションに参加したフロルが楽しげに問い掛ける。問い掛けたのは、更にその隣のクズハだ。


「一応は、その予定と伺っております。目下量産型の主敵はかの<<世を喰みし大蛇(ヨルムンガルド)>>等大型種が複数体現れた場合、とのことです」

「や、やめとくれよ。そんな皇国でも最悪の事件を出すのは……」


 クズハが答えた答えに、フロルが嫌そうな顔で顔を引き攣らせた。とは言え、これは彼女が言う様に、有史至上無かったわけではない。皇国の歴史だけを見ても、数度、起こった事だった。

 その時の被害は、まだ厄災種の被害には及ばないが、甚大な被害を被ったのである。なので、嫌そうにしていても、その実、フロルも常にその想定は頭に入れていた。


「どっちにしろロールアウトは100年近く先、だけど……でも、あの時はボロボロになった」


 更にクズハの隣。アウラが思い出して告げる。思い出すのは、数カ月前の戦いだ。あの時は、魔導機がボロボロになるまで戦ったのだ。一体を相手でそれなら、複数体を相手にするならまず、間違いなく此方も複数必要だろう。


「あれはそもそも実戦用じゃ無いからね。試作機で出る、なんて誰も思ってないよ」


 アウラの上のユリィが、カイトという名詞を隠して小さな声で苦笑する。そもそも、ボロボロになった理由はカイトが使ったから、に集約される。カイトが本気で使う為に調整されていない機体だ。出力過多で自壊したのであった。


「でも、気になるのはあっちのかなー」


 ユリィが指すのは、その更に向こう側。獣の意匠をした大型魔導鎧だ。それもまた、今までの意匠とは異なる機構を有していた。


「獣人機、ですね。我がブランシェット家秘蔵の品です。名前だけしかお伝えできませんけど、ね」


 それに答えたのは、皇帝レオンハルトから見て、クズハとは逆の位置に腰掛けていた一人の少年だ。年の頃は10代前半。高貴な身分なのか、かなり身なりの良い衣装を着ていた。それもその筈、彼はブランシェット家次期公爵アベルの弟、アルベドであった。その証拠に、アベルと同じく獅子に似た獣耳と尻尾が生えていた。なので、本来ならばアベルが座る席に腰掛ける事が許されていたのである。


「ふーん。そう言う名前なんだ。うん、家の事をきちんと勉強してるね。それに、きちんと言っちゃダメなことを言わないでおけたのも、高評価」


 ゴロン、とユリィがアウラの上でうつ伏せから仰向けに寝返りをうつ。そうして、アウラの頭に頬杖を付き、ユリィが少し嬉しそうにアルベドを褒めた。

 ちなみに、アウラはユリィのそんな行動に慣れているので、別段気にした様子もなく、ただぼーっとしているだけであった。


 彼女が小声にも関わらずカイトの名前を呟かなかったのは、彼に聞かれる可能性があったからだ。獣人族の多種族より優れた聴覚を持ってすれば、呟きであっても、十分に聞かれる可能性があったからである。


「はい、ユリィ先生」


 褒められたアルベドは何処か嬉しそうに、一礼する。実はアルベドはマクダウェル家の魔導学園に在籍する学生であった。ブランシェット家も学校を持っているが、それは軍学校で、軍人を育成する為の場所だ。それ故、貴族達とのコネが得られにくい。

 ブランシェット家も曲がりなりにも公爵家だ。貴族の子弟達が多く通う魔導学園で、コネ作りの為に数年は生活する事になっていたのである。

 まあ、そういうわけで年の頃とユリィの人柄との相性がよく、よく懐いているのであった。ちなみに、冒険部のギルドホームに出入りする少年達とも仲が良いので、若干ユリィの頭痛の種ではあった。


「さて、じゃ、お兄ちゃんがどこまで出来るか、見てみよっかな」


 アベルの方もユリィの教え子であったので、何処か茶化す様にユリィが呟く。それと同時に、虎型の獣人機とやらが、唸り声を上げながら、立ち上がるのであった。




『カイム少尉。機体状況はどうか?』


 ガレージを出て直ぐ。総隊長カヤドからの通信が響いてきた。ちなみに、当たり前だが、彼らの大型魔導鎧には映像通信機能は搭載されていないので、どのような表情なのかは、計り知れない。


「アイギス。調子はどうだ?」

「イエス。武装システムオールグリーン。このまま実戦にも移れます」

「良し、なら、繋いでくれ」


 カヤドの発言を受けた時点で各部の調査を行っていたアイギスは、計器のモニターから顔を上げて後を振り向くと、カイトの問いに答えた。カイトはそれに頷くと、アイギスにカヤドへの通信を繋いでもらい、答える。


「大丈夫です、隊長」

『そうか。我が隊では少尉が最後だ。他の機体に異常は無い。状況確認システムのリンクは行えるか?』


 カヤドの頷く気配の後、更にカヤドが訓練用のシステムにつなげるかどうかを問い掛けてきた。状況確認システムとは、各機の情報をリンクして、仲間の魔導鎧の破損状況等を通知させるシステムの事だ。

 カヤドが問い掛けたのは、一部の機体情報のログが繋いだ先に残ってしまう為、秘すべき魔導鎧等の場合は繋げない場合もあったからである。


「アイギス、頼む」

「イエス。本機のデータをリンクさせます」


 とは言え、実はこれについてはとある事情から、魔導機については問題がなかった。なので、カイトがアイギスに頼んでデータのリンクを開始してもらう。


「今、送ってます」

『……確認した。意外だな』


 アイギスがデータを送った事を確認したカヤドの少し驚いた声が返って来た。実は今回の場合、ブランシェット家はデータのリンクを行っておらず、カイトの魔導機もリンクしないであろう、というのが大方の技術者とテスト・パイロット達の予想であったのだ。


「いえ、実はログを残さないちょっとした方法があるらしいです。詳細は知りませんが」

『そうなのか?』

「いえ、知りません。ソフィがそう言ってただけなので」


 カイトの半ばぶっきらぼうな答えだが、カヤドからは突っ込んだ質問は無かった。二人共、テスト・パイロットなので多少の技術的知識はあれど、技術者では無い。なので詳しい理論の会話がなければ、カヤドの方も技術者がそう言うならそうなのか、と納得したのである。


「で、隊長。ウチの面子は?」

『各研究室から一機づつ、計6機での編成だ。とは言え、我が隊は練度の問題から、一機少ない5機編成だ。準備は少尉以外は全て終わっている』


 カイトの問い掛けの後直ぐ、カヤドの機体から全チームの機体構成が送られてきた。第4研の研究所からの所属機が3機しか出なかった為、一機少ない様だ。とは言え、これは知っていた事だ。準備が出来ているかどうか、だけで良かった。


「マスター、詳細を閲覧終了しました」


 カイトが魔導機を動かして隊に合流しながら、アイギスが送られてきたデータの精査を終了させる。複座機のメリットである並列的な処理が出来るが故の、行動しながらの精査であった。

「良し、ならば前面のモニターに出してくれ」

「イエス」


 カイトの求めに応じて、全5機で構成される第一部隊の面々が映し出される。そうして、一機ずつアイギスが詳細を説明していく。


「第一部隊の構成は第一研究室からカヤド大尉の次世代第6世代大型魔導鎧の近接試作型。第二研究室からフラメル准尉の第6世代万能試作型。第三研究室マイアーズ准尉の現行第5世代大型魔導鎧の機動力特化型。第四研究室は空席。第五研究室からはハインツ少尉の第5世代試作型超長距離以上です」


 第一研究室のカヤドが乗る機体は全体的に細身のシルエットで、機動力を増した物だ。更には武装が皇国標準装備の片手剣を二つ装備しており、盾も小型の物だ。その他の武装については伏されている。

 第二研究室所属の次世代型は、此方は普通の標準兵装だ。皇国軍の制式採用している兵装しか持っていない。大型魔導鎧の機体性能を試すだけ、という所だろう。

 第三研究室の第5世代の改良型は、やはり第三研究室ということでスカート付きだ。更には盾も改良されているらしく、楕円形の腕に接続された形式であった。それ以外に変わった点は見当たらない。最後の第五研究室は、背面に超大型の砲塔を二門背負っていた。どうやら手で構える形式らしく、砲塔から伸びる様な棒状の取手が見て取れた。どうやらそれに特化したタイプらしく、超大型のロングライフルだけしか、手持ちはわからなかった。

 まあ、どれもこれも技術的な試作機という兼ね合いが強い。まだまだ尖った性能になっているのは、仕方が無いだろう。


『よーっす。おひさ』

『酒豪さん!お久しぶり!』

『お久しぶりです、少尉!』


 アイギスがチームの全員に通信を接続すると、すると直ぐに返答があった。それにカイトも軽く手を振って答える。


「おーう、久しぶり……にしても……ハインツのそれ、デカイな」

『だろ? デカ過ぎでこれ以外に武器積めないとかいう欠陥品だぜ……おっと、聞かれてた』


 どうやら文句を言われたのだろう。通信機越しにハインツの謝罪する声が響いてきた。まあ、尖った性能を修正する為に、この各研究所による合同演習があるのだ。言っても仕方が無いし、第1研と第2研以外は全てそうだった。


『少尉のは……変わったデザインですね』


 怒られるハインツを他所に、フラメルが魔導機の双肩に付いた巨大な盾の様な物体――大剣――を興味深げに観察していた。


『それ、前は無かったわね。この間の変わった空飛ぶ砲台は?』


 真剣な声色で、マイが双肩の担いだ大剣を観察する。彼女は飛行訓練において、ラウルと共にカイトの魔導機の飛翔する姿を見ていたのだ。


「ねえよ。アイツはまだ実戦配備出来ないからな。まあ、こいつは盾と思って大丈夫だ。ちょい不格好だがな」


 笑うカイトの声に、一同は秘された機能を察する。


『では、少尉の機体も近接型と見て良いか?』


 会話を聞いていたのだろう。カヤドがカイトに対して尋ねる。それに、カイトが頷いた。


「一応、試作機の一番古い型ですので、各種兵装の試作武器を有しているだけです。まあ、今回はブランシェット家が相手ですので、前線での戦闘を主眼としています。あそこは近接戦が得意ですからね」


 ブランシェット公爵家は獣人族がメインの名門家だ。彼らはその身体能力を活かし、最前線での戦闘や密偵等を務める事が多い。遠距離の兵装はティナの進言で隠したので、近接重視かつ機動力と防御力を兼ね備えられる様にしたのである。


『ふむ……では、カイム少尉も私と共に一番前だ。真ん中はハインツ准尉、マイアーズ准尉。最後尾はクロイツ少尉が務めろ。マイアーズ准尉はクロイツ准尉の直援も行え』

「了解です」


 カイトの機体の武装の確認が取れたので、カヤドが全員の隊列を指揮する。近接戦闘に対応できるカイトの機体とカヤドの機体が前列、万能型で各種状況に対応可能なハインツの機体と、前線に出ても機動力が高く最後尾で近接戦闘が不可能なクロイツの機体の援護に即座に回る事の出来るマイの機体が中列。一切の近接武器を排除されたクロイツの機体は、当たり前だが最後尾である。


『良し……では、作戦開始可能だな?』


 カヤドは全員が自分の指揮通りに動いていくのを見て、作戦行動が取れる様になったのを見て、合同演習を指揮する事になっている研究所の総トップ、ヴァスティーユ大佐に連絡を入れる。


『ヴァスティーユ大佐、第一部隊、準備完了しました』

『よろしい。では、残りは第4部隊だけだ。あと少し待て……いや、今連絡が来た。どうやら第4部隊の準備も完了した様だ。では、カウントを開始する』


 カウントを開始するアナウンスの声が研究所全体に響き渡る。ヴァスティーユ大佐はおよそ30半ばの魔族の大佐だ。まあ、魔族で更に長寿の種族出身なので、実際には齢500を超える大戦を生き延びた古強者なのだが。


『ふん……楽しみにさせてもらうぞ。久しき戦友よ』


 にやっ、という笑みに似た気配と共に、ヴァスティーユの声が通信に乗せられる。それに、カイトもにっ、と笑みを浮かべる。

 ヴァスティーユはカイト達の事を知っている。300年前のカイト達と知り合いだったからだ。クラウディアの命令で表立っては連合軍から補給を得られない『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の後方支援をしていた事もある。

 更に古くはティナが魔王時代に当時の魔王城で新入りとして働いていた過去もあった。ティステニアのクーデターの折に、魔族領から脱出した一人であった。


『あのあたふたとしておった小娘が、今では偉そうな大佐、のう……200年で変わったのも楽しく思ったが、更に楽しき時代になったもんじゃ』

『あ、あの、魔王様? 反応に困る言葉は……ちょっと……』

『おろおろとしておったのは事実じゃからのう』

『いえ、それはそうなんですが……ん、んん。では、訓練を開始せよ』


 ティナの言葉にヴァスティーユが困ったような反応を返し、既に全員の準備が整っていた事を思い出して、訓練が開始されたのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第414話『合同演習』

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