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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二十二章 皇国中央研究所編

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第397話 皇国中央研究所 ――第3開発室――

 今回から物語が二つに分かれます。ということで、前半戦はカイト・ティナペアの魔導機関連のお話から、です。


   *注意*

 この物語は剣と魔法のファンタジー物です。

 カイトがティナに対する決意を新たにしてから、数日後。ここから物語は、二つに別れる事になる。一つは、カイトとティナによる、魔導機の開発に関わる軍との情報交換だ。

 これは天桜学園の招聘とは別に要請を受けていた事だったし、これそのものについては、カイトとティナの正体の如何に関わらず、行われる事になっていた。

 と言うより、アルやリィル達が今回の来訪に伴って皇都に来る事になっていたのも、この情報交換の兼ね合いがあっての事だった。

 それに対してもう一つは、カイトとティナを除いた冒険部の面々による、いつも通りの冒険者としてのお仕事、だった。まあ、それと同時に、カイトやティナの支援無しできちんと指揮が出来るか、という訓練でもあった。

 と、言うわけで、カイト達はソラ達とは別れて、表向き皇帝レオンハルトから別の依頼を受けている事にして、エンテシア皇国中央研究所に来ていた。

 件の中央研究所があるのは、皇都の外れだった。少し離れたかなり広い平地に、皇国の中央研究所は存在していた。そこは、完全に地球の現代風な研究所、だった。


「はーい、バックお願いしまーす!」


 建設されたガレージに、油汚れの目立つ白衣を着た男性の声が響き渡る。彼の目の前には全長30メートル程の巨大な魔導鎧が動いており、所定の位置に移動すべく後ろ向きに歩いていた。

 地面はセメントやアスファルトに似た舗装材料で舗装されており、周囲には幾つもの大きな魔導具が設置されていた。

 大型魔導鎧が後ろ向きに入っていったのは、そんな魔導具が多数設置されたコの字のガレージの1つである。周囲には幾つものメンテナンス用の足場が有り、白衣の男性はこの1つから、声をあげていたのだ。

 ここは皇国中央研究所の中でも、軍用の魔導鎧や飛空艇といった皇国でもかなり秘匿性の高い戦略的な物を開発する施設なのであった。その機密性の高さと必要とする広さの関係から、中央研究所の中でも最大の広さを誇る一角だった。


「はい!オッケーでーす!」


 男の声が響き、大型魔導鎧は停止する。それから暫くして、大型魔導鎧の前部ハッチが開いて搭乗者が一気に飛び降りた。

 搭乗者は20代半ばの容姿の男で、大型魔導鎧用に誂えられたぴったりとした服を着用していた。なので、鍛えられた屈強な肉体がはっきりと浮かび上がっており、それが彼が軍人である事をつぶさに示していた。


「ちょ! ラウルさん! 何時も言いますけど、危ないですって! 昇降用タラップ待ってくださいよ!」


 それを後ろから見ていた白衣の男が、大慌てで階段を駆け下り、搭乗者へと駆け寄る。しかし、ラウルと呼ばれた搭乗者は一切の着地動作もなしで、傷一つ負っていなかった。

 まあ、幾らどれだけ近未来的な施設に見えても、ここは剣と魔法の世界なのだ。この程度の高さなら、この大型魔導鎧を操る軍人であれば平然と怪我一つ無く飛び降りれるのであった。


「固いこといいなさんなって。別に俺、こんな事で怪我しないしさー」


 慌てた様子の白衣の男を見たラウルは、陽気に白衣の男に語りかける。彼は陽気に笑顔を浮かべると、バシバシと白衣の男の肩を叩く。それに白衣の男は溜め息を吐きながら、ラウルに飲み物を入れたカップを渡した。


「サンキュー。まあ、俺達テスト・パイロットぐらいになると、この程度はヨユーなわけよ」


 カップを受け取ったラウルは、余裕である事を示す様に、ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねる。ちなみに、カップには持ち運び用の蓋がされているので問題ない。中身は回復薬だ。魔導鎧の動力源は使用者そのものなので、失った魔力を補給する為だった。


「わかってますけどね……そんなの無理なこっちは何時も心臓が止まるんじゃないか、って思うんですよ……」

「相変わらずお固いねー、コール君は。いい加減慣れればいいのに」

「慣れませんよぉー」


 ラウルの言葉に、コールはがっくりと肩を落とす。そんな茶化しあう二人へと、更に別の声が掛けられた。その声からして、少し神経質そうな雰囲気があった。


「お疲れ様です、ラウル中尉。で、今回の試験はどうでした?」

「ルーズ主任」


 コールからルーズと呼ばれた男は、何処か神経質そうな顔の長耳の男だ。彼の方は一切汚れの無い白衣を身に纏っていた。まあ、汚れが無いのは洗っているだけで、実際には汚れた跡は残っていたが。

 背丈はラウル、ルーズ、コールの順に高く――それでも最も小さいコールで170は超えている――、体格の良さはルーズとコールが逆転する。体格の良さが相まって、かなりルーズがひょろい印象を受けるが、実際には彼もそれなりには鍛えられていた。幾ら研究職と言えど、軍人は軍人なのである。


「うーん、なかなかにいいね。特に、新型とか言ってたコクピット・ブロックが絶好調だったよ」


 問われたラウルは顔にニヒルな笑みを浮かべて、大型魔導鎧に手を付いて感想を告げ始める。素手で触るラウルに主任と呼ばれた男は若干顔を顰めるが、何も言わずに更に感想を待った。


「なんだっけ、魔導鎧と自身の相対座標を固定して、揺れを低減させるんだっけ?」

「ああ、いえ。今回の新型では、搭乗者と大型の相対座標を空間魔術を応用して固定するのは正しいんですが、更に動きを改善して、コックピットのあるエリアをなるべく動かさない様に挙動とコクピットブロックのサスペンション系を見直しました」

「ああ、それでなんか視線が安定してたわけね。今までのは揺れと視線が安定しないから酔っちゃってさー。いやもう、仕事の前にガッツリ食えないわけよ。じゃ、今度から昼飯抜かなくても大丈夫?」


 ぽん、と手を叩いて納得するラウルに、ルーズが頷いて更に解説を続ける。ちなみに、昼飯を抜いていると言うラウルだが、きちんと昼飯を食べているのを研究職の二人は知っている。まあ、それでもさすがに揺れやGが酷いので軽めの食事になっているが。


「ええ、ご自由に……ですがその様子なら、どうやら、効果はあった様子ですね。それとさらに平行移動出来る様にもなっていたはずですが、そちらはどうでした?」

「ああ、あれね! あれ、どうやってんの? 視線そのままで敵を中心として円運動出来るとかすごいじゃん」


 ラウルの問いかけを受けて、ルーズが何処か自慢気に解説を開始した。


「最近大型化に成功した低燃費型飛翔機を輪状に飛翔ユニットとして搭載しました。それを脚部、スカートに搭載して、ホバリングを行っているわけです。同タイプではありませんが、低燃費型を背面にも取り付ける予定です」

「おお、いいねー。飛べるわけ?」

「次回試験ではその予定です。一応、理論上は全ての飛翔ユニットを使えば、飛翔出来るはず、です」

「いいねー。飛ぶってやっぱ夢あるよね」

「夢があるとかは関係ありませんが、飛べないと天竜や空飛ぶ魔物とは戦えませんからね。今の小型タイプの魔導鎧では、どうしても戦力的に複数で挑まざるを得ないのが実情です。早急な大型の開発が望まれていましたので……まあ、一番は譲りましたが、それでも、ホバリング等の追加装備のおかげで俊敏性では上回るはずです」


 少年の様に嬉しそうに語るラウルに対し、少しの尊敬と多大な対抗心を燃やしながら、ルーズが告げる。研究者として、自分が研究していた研究の先を行った者には尊敬を示すが、それと同時に、やはり同道を行く者として対抗心が刺激されたのである。

 では、それは何に、か。それはこの場の二人には分かりきった事だった為、言い難かったコールに代わって、ラウルが外を指差した。


「ああ、あれ?」


 ラウルが指差すのは、研究所の反対側に安置されたカイト専用機の試作機だ。なお、さすがに試作機が名前では呼びにくいし、アイギスを隠す意味で外装の呼称を『アイギス』としている。

 ちなみにその周囲には、漸く完成した――と言っても動かせる様になった、という程度でほぼ未完成と言える――試作の特殊部隊仕様の量産型魔導機が数機待機しており、研究所の中でも最も目立っていた。これに、アル達を乗せて試験してみよう、と考えていたのであった。

 そんな魔導機が入れられているガレージは大型の魔導鎧を出やすい様に大きな扉の建屋となっており、今その扉は試験が終わった後とあって完全に開放されていたのである。


「マクダウェル公爵家試作機『アイギス』。秘匿型の為、設計図等は秘匿されていますが……完全密閉型のコクピットブロック等、明らかに今の時代から逆行した機体ですか……」


 ラウルの示した方向にあった魔導機を見て、コールがつぶやく。ちなみに念のために言っておくが、皇国で開発されている主流の大型魔導鎧もコクピットブロック周辺――特に頭部周辺――は魔力を通す事で強度を増す透明の素材で覆われており、一見すると密閉されていない様に見えるだけである。いくらなんでも搭乗者を素で露出させておくなぞ、狙ってくださいと言わんばかりであった。

 では何故、完全に見えない様にしないのか、というと、これは技術的な問題であった。今の皇国の技術では戦闘に耐えうる速度で外部状況を表示し得る技術が存在せず、外が見える様に頭部の周りはどうしても、搭乗者が目視確認出来るように開放しなくてはならないのである。

 だから、コクピット周りが薄い手足が伸びる様な奇妙な形にならざるを得ないのであった。この点、ティナが技術者として数世代先を行っているが故の結果といえる。


「でも、実績は十分みたいね」


 ごくごくとドリンクを飲みながら、ラウルが思い出した。それは彼は皇都の研究所所属という事とテスト・パイロットという事で出る事が無かった『ポートランド・エメリア』での戦いだった。


「クイーン・エメリアの主砲を使用して、ですが」

「それでも驚異的だよ。戦闘中に他の魔導鎧と遜色ない機動性であるのに、完全にコクピットの位置を隠してるんだから。俺達だって実物持ち込まれて、中身見せてもらえたから胴体にコクピットブロックがあるってわかっただけで、あれじゃ頭部にって思っても無理無いでしょ?」

「……確かに、あのレスポンスは見るに値しますね」


 何処か拗ねた様子で、ルーズが述べる。とは言え、表示系統は彼の専門分野では無かったため、あまり嫉妬などの感情は含まれていなかった。それにラウルは何処か含んだ笑い声を上げただけだった。


「で、一個思ったんだけどさ……このデザインはどうにかならないわけ?」


 笑っていたラウルだが、アイギスのデザインを見て、そして自分が先ほどまでテストしていた試作機の姿を見る。

 その姿は下半身が大きく、上半身がかなりひょろっとした印象を与えていた。しかも、腰周りにはスカート状の飛翔機が取り付けられているため、デザイン的にはかなり不格好な物となってしまっていた。


「仕方ないですよ。今回の試作機は特に下半身周りの挙動のテストでしたから、どうしても下半身のパーツに偏っちゃって、上半身は単に動けばいいかな、程度ですから」


 コールもどうやら同じ事を思っていた事らしく、苦笑しながら告げる。そう、ルーズも告げた様に、今回のテストは特に下半身の挙動と、コクピットブロック周辺のテストなのだった。

 その為、上半身は外装が取り外され、外部からでもコクピットブロックの動きが見えるようになっていた。なので、外装が無い分どうしてもひょろい印象となり、余計にその印象が強いのである。

 ちなみに、ラウルが魔導鎧を触った時にルーズが顔をしかめたのも、そこに計測器が直付けされていたから、だ。結構不用心に触っていたので、顔をしかめたのである。


「でも、実際の機体でもこのスカートが残っちゃうんでしょ? やっぱちょっと恥ずかしいかなって。俺達軍人にとっては、身に纏う鎧って服みたいな物だからね。スカート履いてるみたいでさー」


 若干拗ねた様に見せるラウルに、ルーズが溜め息と共に首を振った。


「そんなのは気にしないでください。ホバリングをするためには、どうしても周囲を覆う様に飛翔機を搭載しないといけませんから」

「そりゃ、わかるけどねー。やっぱりあんなの見せられちゃうとねー」


 ほんのちょっとだけ、ラウルは羨ましそうに告げる。魔導機は人に似たスラっとしたフォルムだ。そして当たり前だが、スカートも付いていない。

 ラウルの言葉に反論したルーズだが、まあ、なんだかんだ言いつつも彼も男だ。ラウルが言う事は少しは理解できたらしい。なので、代わりとしての利点を上げる事にした。


「その代わり、あれでは対地性能は劣ります。ブースター型飛翔機もあんなに幾つも搭載して……直線距離や飛翔性能はあちらが有利でしょうが、その分、扱いにくさは段違いに高いはずです」


 当たり前だが、ルーズが指摘した点は当然だ。ホバリング出来る、という事はそれ即ち、地面に影響されにくい、ということだ。それは戦場の様な場においては、何よりもの利点だろう。見逃せる点では無かった。が、やはり男として、スカートが履きたいかどうかは、別だったらしい。


「マントみたいには出来ない?」

「腕の動きが阻害されます」

「だよねー」


 ラウルは自分の言った事だったが、ルーズの正論による否定に即座に同意する。ラウルが言ったのは、肩から上の部分に装着できないか、ということだった。

 ちなみに、技術的には可能だが、当然、腕は肩から上には動かなくなり、その分戦闘能力は落ちるだろう。その点は、大型魔導鎧のテスト・パイロットであるラウルもしっかり理解出来ていたので、単に言ってみただけである。


「まあ、ないものねだりはどうしようもありません。その他の動作はどうでしたか?」

「んー……そうだねー。腕周りのレスポンスは少しだけ改善されていたかな。あと、今日ふと気付いたんだけど、緊急時に鎧込みで装着出来るように、輪のサイズをオート調整出来る様にしといた方がいいね」

「確かに、緊急出撃への対応は必要ですね……わかりました。操作系の技術班と共に対処してみます」


 二人が問題視しているのは、大型魔導鎧だけでなく中型魔導鎧でもある問題だ。腕を動かすのはそのままで大丈夫だが、指を動かすのにコクピットにある魔導鎧の指に連結されたそれぞれの輪を通して、操作するのである。

 ラウルは今は、専用のスーツを着ている為にサイズは調整しなくて良いし、搭乗者にしても最初から出撃が考えられている状況では専用のスーツを着ていくので、問題は無い。

 だが、当然何時も準備が出来る訳ではなく、緊急時には外で着ていた鎧姿で出撃する事もあり得る。其の時は、手動で籠手にサイズをあわせないと、若干装着に時間が掛かるのであった。

 これを自動で調整出来る様になると、一気に出撃も早くなるだろう。それが、強大な魔物を相手にする軍人一人の生命の確保に繋がるのであった。ラウルの指摘は、実戦を視野に入れての指摘だった。と、そんな相談をしていると、コールがぼそり、とつぶやいた。


「うーん……出来れば、あのトレース・システム欲しいですね」

「「トレース・システム?」」


 コールが言った言葉に、何も知らない二人が首を傾げた。が、それに今度はコールが首を傾げる。


「あれ? 聞いてないんですか? あの大型は搭乗者の動きを完全にトレースする様に出来ているらしいですよ」

「へ?」

「何処で聞いたんだ? そんな話?」


 降って湧いた新技術に、ルーズとラウルがぽかん、と口を開けた。初めて見る二人の間抜けな姿に、コールは少しだけ吹き出した。が、二人に睨まれた為、直ぐに話を進める事になった。


「ぷっ……あ、いえ……この間マクダウェル家の少佐さんに聞いたんです」

「ああ、あのべっぴんさん? きれーだよねー。彼氏持ちじゃなかったら是非お近づきになりたかったよ」

「あはは、またビンタされないでくださいよ……で、そうです。ソフィ・ミルディンさんに聞いたんですよ。コクピット見た時に、動作伝達用の殻が無かったでしょ? それで気になったから、偶然通路でお会いした時に、聞いてみたんですよ。そうしたら、そんなものは無い、って」


 コールが言う殻とは、搭乗者の動きを伝える機構の通称だ。まるで殻の様に身体を覆うので、誰かがそう呼び始めたのが発端である。所謂業界用語だ。正式名称は『搭乗者動作伝達機構』ある。


「あれは後で出てくるんじゃなかったのか……」


 ルーズは少しだけ後悔と共に、呟いた。そんなシステムは考えてもみなかったため、ルーズはつい先入観で搭乗者の搭乗と同時に、コクピットから出てくるのだと思っていたのだ。そうして、そんな新技術を聞いて、ラウルが感心した様にうなずいた。


「それは是非欲しいね。それがあれば、今の問題だって何の問題も無くなっちゃうからね」

「それ以外にも、今の機構ではどうしても出てくるレスポンスの問題もなくなり……いや、それだと今度は別の問題でレスポンスの遅れが発生する……それに、回路の問題で破損状況次第では最悪動かなくなる可能性も……一度、きちんと話を聞いてみるべきか……」


 ブツブツと研究者特有の深い思考の淵に沈み込んだルーズを二人は少し苦笑しながら、なすすべがないので放っておく事にしたのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第398話『皇国中央研究所』

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