第3955話 雷の試練編 ――プライベートエリア――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
そうして宇宙港に似た場所を進んでいた一同であったが、手に入れた地図に表示される巨大ドームを目指して進むも、その到着直前にまるでこれから試練の本番と言わんばかりに幾つかの隊に分けて飛ばされる事になっていた。
というわけで飛ばされた先で調査を重ねたカイトであったが、数個の部屋を経てたどり着いたのは謂わばコントロールルームや司令室という部屋で、他のエリアとの通信機能を備えた部屋であった。
そうして司令室にて改めて施設全域の地図を入手し、更に医務室を経由して軍の一般兵用と思しき一角へと到着。そこで一同は全員をバラけさせたゲートに遭遇し、これの回避策を探っていた。
「……まぁ、結論そうなりますよねー、と」
「なんでそんな楽しそうなの……」
チャキチャキチャキ、と刀の鯉口を切って鳴らして遊ぶカイトに、浬は鯉口を切るという危険な動作を繰り返す事を含めて呆れて一歩だけ距離を取る。一応、彼の刃物はよく鍛えられた鋼鉄でさえ紙のように斬り裂ける業物だ。そんなものでこんな事をしていれば、何時指が落ちても不思議はなかった。
だがその一方のカイトは慣れたものなのだろう。浬の呆れるような言葉に、彼は一度だけ強く柄を押し出して大きく刀を出して、しかしそのまま重力に引かせてしっかりと鞘へと納刀。その動きを利用してそのまま腰だめに刀を構える。
「なんでって? 楽しいから……おっしゃ! ユリィ!」
「あいさ! カウントダウンはいりまーす!」
「えぇ……?」
これが冒険者というものなのだろうか。カイトの合図に合わせてゲートの前に立つユリィに、浬は盛大に頬を引き攣らせる。
「3……2……1! ゴー!」
まるでグライダーで急浮上するように、ユリィがゲートをくぐり抜ける。そしてその次の瞬間、けたたましいアラート音が鳴り響いた。そしてそれと同時に、がこんっ、という音が鳴り響いて左右の壁の一部が落下する。
「でーしょうね!」
「きゃあ!? え!? 刀は!?」
左右の壁の一部が落下して何体もの戦闘用の小型ドロイド達が湧き出してくるのを見るや、カイトはまるでこれが既定路線とばかりに双銃を異空間から発射。元々居合斬りの姿勢であった事を応用して、自らの身体を捩りながら回転するように双銃を乱射して、その数を一気に減らしていく。
「このための演技ですが、なにか? ま、これ対人戦なら余裕で結構有益でな。誰だって刀を持ってる奴からは距離を取る。それが構えを取っていたら一瞬は誰もが躊躇う。そこに魔銃が飛び出してくれば、誰もが虚を突かれてしまう」
「うわ……性格わるっ」
「武略と言ってくれ、武略と」
頭上を飛んでいく魔弾の雨を見ながら、浬は盛大に顔を顰める。まぁ、この程度の雑兵だ。彼女だけでも事足りはしたし、カイトもこの雑兵を浬に任せるつもりはなかったようだ。
そして一方、ゲートをくぐり抜けたユリィはというと、ソレイユ――扉の封鎖を行うため――と共にゲートの真横にあったおそらく管理人室や守衛室と思われる部屋へと侵入。アラートの解除作業に取り掛かっていた。
『カイト! 見付けた!』
「あいよ! さっさとしてくれ! 壊さないようにするのも苦労するんだよ!」
「え? こ、壊さない!?」
浬は兄の言葉に再び顔を上げて、今度は小型ドロイドを確認する。するとどうやら、カイトの魔弾はドロイドに直撃する寸前で弾けていたらしい。衝撃波で吹き飛ばしているだけで、決して命中させていなかった。
「……」
正気じゃないし、正直な話として技量がおそらく違う。どうやっているかは定かではないが、兄は魔弾を直前で破裂させるという技法をやらかしているらしい。浬はカイトのしている事の難しさを理解すればこそ、思わず言葉を失う。そしてもちろん、これはそれだけを目的としているものではなかった。
「……」
破裂の瞬間もコントロールして、更には反動までコントロール。そうする事でドロイドが何かしらのレーザービームを発射する動作に強引に介入して、照準を浬からもカイト自身からもズラしていたのである。そうして数分の攻防の後、ドロイドが急に停止する。
「……ふぅ。なんとかなったか?」
『うん。停止……面倒くさかったぁ。一応鍵あったから良かったけど』
「不用心だな……まぁ、身に覚えはあるけどさ」
出入りするための鍵は出入りするために必要なので常に持ち歩かねばならないが、その部屋の中でしか使わない鍵であれば持ち歩く必要がない。まぁ、本来完全に退去する場合は持ち出すのがルールだろうが、一応の想定としては作業途中に人だけがそっくり消え去ったようなイメージ、という所だろう。といいうわけで小型の戦闘用ドロイドが完全停止したことを受けて、カイトは改めてゲートを見る。
「ゲートは?」
『もうちょっと待って』
「……そういえば完全にスルーしてたけど、ユリィちゃん。こういう操作も出来たの?」
「あいつああ見えてもウチの学園の学園長だぞ。あと時々大学で教鞭を執ることもあるし」
「え?」
あのおちゃらけた様子で教授らしい。浬は立ち上がりながらも、思わず守衛室に居るユリィを窺い見る。一応操作の関係で大型化した方が良かったからかこちらからも見えるが、その様子はソレイユが一緒である事もあるのかかなりおちゃらけた様子で、鼻歌交じりに操作している様子でさえあった。
「あいつ、こっちの大陸の二つを股に掛けてた古代文明の研究においては第一人者だ。ルナリア文明っていう古代文明のな。その文明にゃパソコンに似たコンソールがあったから、あいつも多少は使えるんだよ」
「ひ、人は見かけによらない、っていうかなんていうか……」
ああ見えて、その実ソレイユもユリィも二人揃って地頭は良いらしい。浬は確かに遊んでいるようにも見えるが、カイト同様に遠未来の文明の端末の操作に苦労しているようには見えなかった。
「はい、終わったよー。これでここのゲートは解除。でも自動で再開されるみたい」
「あー……そのパターンか。まぁ、普通に考えりゃ端末登録されてるから、警備を解除する理由がないからなぁ……一時的な停止が限度か」
「うん……多分ゲストがどうしても無登録で入らないといけない、っていう場合に限ってじゃないかな」
「あり得るな……この調子だと、他のエリアも同様に戦闘して誰かが警備を解除になりそうか」
これは面倒な事になりそうだ。カイトはため息を吐きながら、再び降りた壁の一部を通ってどこかへと戻っていく小型ドロイド達を見る。というわけでそんなドロイド達を尻目にゲートをくぐり抜けると、そちらでも同様に小型のドロイド達が壁を通ってどこかへと消えていっていた。
「……ソレイユちゃんも出来るんだ」
「出来るよー。対象を壊さない、って弓兵の基礎の基礎だからねー」
「それで速射をやれるのはお前ぐらいなもんなんだけどな」
本来は一射一射きちんと設定してやらにゃならん芸当を弓でやりやがってからに。あっけらかんとした様子のソレイユにカイトは若干苦笑気味だ。が、これにソレイユは指摘する。
「にぃも一緒みたいなもんじゃん。魔銃はこっちでコントロール出来ないからそれはそれで難しいって聞くけど」
「あはは……まぁ、否定はせんけどな」
「でも何時まで破壊せずいけるかな?」
「わからんが……破壊せん方が良いのは間違いないだろう。本来、ドロイドが出る時点で守衛室側が操作して、非攻撃状態にはしていたはずだ。今回はそのまま攻撃モードに即インした形なんだろう」
ソレイユの問いかけに、カイトは少しだけ苦い顔だ。そんな彼に浬が問いかける。
「なんで壊しちゃ駄目なの?」
「壊したらそりゃ、壊したって記録が入っちまうだろ。警戒レベルが上がりかねない。今はあくまで壊さず、敵意は見せなかったって記録させたかったんだよ。壊すより壊さず配慮しました、って方がシステム的にも判断基準として良い……んじゃないか、っていう推測」
「なるほど……」
確かに壊す、ということは害意があるという事だし、壊さなかったということは害意がなく仕方がなく交戦になってしまった、と思われる可能性はないではない。それがここまで高度な文明になれば、そういうかなり厳密な判断基準を設けられていても不思議はない、と浬も思ったようだ。
「ま、それでも今のサイズと出力なら出来る、って程度だ。これ以上大型化が進行すると衝撃波だけでも通路かなにかは壊れる。今回か、良くても次が限度だろう」
「そっかぁ……」
「楽出来ると思ったか? 残念。試練もそこまで甘くはない」
まだまだ試練は始まったばかり。甘いのではなく、段階を踏んでレベルアップしてくというだけだとカイトは考えていた。というわけで、がっかりした様子の浬の背を押すように、一同は小部屋が幾つも並んだエリアへと入っていくのだった。
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