第3954話 雷の試練編 ――技術――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
そうして宇宙港に似た場所を進んでいた一同であったが、手に入れた地図に表示される巨大ドームを目指して進むも、その到着直前にまるでこれから試練の本番と言わんばかりに幾つかの隊に分けて飛ばされる事になっていた。
というわけで飛ばされた先で調査を重ねたカイトであったが、数個の部屋を経てたどり着いたのは謂わばコントロールルームや司令室という部屋で、他のエリアとの通信機能を備えた部屋であった。
そうして司令室にて改めて施設全域の地図を入手すると、その後は最初の拠点へ戻るルートを探すべく探索を再開。医務室へとひとまずたどり着いてそこを経由地として定めると、その後は幾つもの小部屋が並んだ部屋を目指す事にしていた。
「……」
とりあえず道中は何事もなく先へと進んだ一同であるが、流石に下士官のエリアまで近付くと状況は少しずつだが変化が起きていた。
「……ねぇ、お兄ちゃん。そう言えば一個聞きたいんだけど良い?」
「んだ?」
「お兄ちゃんってレーザー避けられるの?」
「レーザーなぁ……まぁ、亜光速までならなんとか頑張りゃやれんこともない」
「出来るんだ」
そんなゲームじゃあるまいし。浬はそう思いながらも、この兄ならレーザービームでも斬り裂けそうだと内心納得する。とはいえ、実際神陰流を使えば不可能ではない。
「だがどうした? いきなり」
「いや……明らかにこのドロイド達ってレーザービーム撃ってきそうだし……」
「あー……」
カイトはそこかしこを歩き回る四脚の小型ドロイドを見て、思わず納得する。歩き回る小型ドロイドはちょうど浬の腰辺りまでの大きさで、下半身は四脚。小回りを優先されているのか、司令室で遭遇したドロイドよりはるかに機敏な動きを見せていた。
そして上部には球体のカメラかスキャナらしき装置が装着され、それがくるくるとまるで周囲を警戒しているかのように回転しながら、時々なにかをスキャンしているかのように光を放っていた。
一応本体を含めてこの光にも触れないように注意していたし、攻撃はしていないので攻撃はされていない。だが何時攻撃されても不思議はなかった。というわけで浬の言葉に同じように小型ドロイドを見たユリィが少しだけ興味深い様子で呟いた。
「今更だけど不思議な動きしてるよねー。これで壁とか天井に張り付いてるんだし」
「電磁吸着か、反重力か……それに応じて反応は変わるが。電磁吸着っぽくもあるな」
このサイズのドロイドに反重力のシステムを搭載するには、おそらく費用対効果が悪い。カイトは為政者の面からそう判断していたようだ。とはいえ、技術とは価格が低下した事で広まる場合と、広まる事で価格が低下する事もある。なのでカイトはあくまでっぽい、という推測に留めていた。
「量産型だろうが、機動力は十分。ウチの飛空艇にもこのタイプ作るか」
「自動迎撃型? 敵味方の識別が面倒にならない?」
「それもあるなぁ……画像処理システムを応用して魔物と人を見分けるシステムをまずは構築してみるかー」
やはり兄は為政者らしい。システムの構築やら軍事の面での話を行うカイトに、浬は無言を貫く事にする。これ以上小難しい話は聞きたくなかったようだ。とはいえ、そもそもの話題は彼女が提供したわけだ。なのですぐに話は彼女へと飛んでくる事になった。
「まぁ、おそらくレーザービームを撃ってくるじゃないか?」
「えー……」
「あはは……とはいえ、お前が危惧してるいきなしピュンッ、って飛んでくる事はないと思うぞ?」
「そうなの?」
「ああ。何事にも限度があるからな。平均的な軍人を相手に致命的な一撃を撃てるようなものだと、流石にコストが悪いだろう。出来るほど高度になると今度はコストの高騰。量産性の低下を招く。軍用の兵器ってのは壊れる事が前提という所がある。特にこんなドロイドはな。使い捨ての兵器に高コストだと採択は下りんだろう。おそらくこいつに出来ること、そして求められている事は牽制。本命が到着するまでのな」
「そ、そっか」
どうやらカイトは今回の試練を試練として見ながらも、前提として何処かに実在する文明として考えてもいたようだ。軍事、為政者としての視点の両方から、この小型ドロイド達が致命的な存在になりえないと判断していたようであった。まぁ、そんな自分と視座の違う考えに、浬は頬を引き攣らせていたのだが。
「……ま、ドローンを使った戦争は聞いた事があるだろう。それと一緒だ。自爆前提のドローンに何万も費やせるか、って話。ああいった自爆戦術が成り立つのはコストが低いからだ。高コストなドローンを使い捨てになぞせん。それで考えりゃ、このドロイドが安いと思うか、って話」
「あ、なるほど……え? もしかしてこれ自爆したりする?」
「んー……最終的な手段として自爆は備えられているだろうが。初手で自爆はないだろう。さっきも言った通り、こいつの目的は牽制と足止め。足止めに自爆が選択肢に入っても、攻撃に自爆は選択肢には入らん。入るとすると修理より廃棄と定められる領域を超えた破損を受けた場合……とかかな」
自爆するかも。そんな発想に至って思わず小型ドロイドから一歩引いた浬に、カイトはあくまでも最後の手段としてあり得るだろうと口にする。というわけでそんな兄の言葉に、浬は一歩だけカイトへと近付いておく。
「……なんだよ」
「……なんでも」
万が一自爆されたとしても、この兄なら平然と防ぎ切るだろう。浬はそんな信頼はあったらしい。それでもピッタリと張り付いたりしないのは、やはり彼女には羞恥心というものがあったからだろう。
そして、その程度の思考が読めないカイトではない。苦笑いを浮かべながらも恥ずかしげな浬に小さく肩をすくめるだけであった。
「ま、そうしとけ。お兄様には自爆も通用しない」
「今更だけどお兄ちゃん、チートじみてない?」
「チートねぇ……その技術に再現性がなく、その現象に理論がないものならチートと言えるが。そこに理論があって解き明かせ、再現性があるのならチートでもなんでもない。それは属人的ではあっても、極論単なる技術だ」
「大精霊様のお力は再現性あるかなぁ」
「こいつだけはチート認定でも良いかもな。ここまで小型化はムズいかもしれん」
ユリィの指摘に対して、カイトは楽しげに笑いながら右手の薬指の指輪を見る。とはいえ、それがチートかと言われればカイト自身少し困る所はあったようだ。
「とはいえ、こいつも所詮はティナが技術で再現出来る事を魔道具が代替しているだけ……今更だがオレ、マジでチートじみてはいるだけでチートじゃないよなぁ……」
「なんだっけ? 確か大精霊様の技術は全て再現性がある、だっけ」
「そ。加護の付与にせよ、大精霊達がやっていることだ。属性の吸収なんぞ言うまでもない。支配権の認識に、その奪取もなにをかいわんや。だからオレはあくまで人類が現時点では到達出来ないレベルの技術を自動化されているだけで、最終的には誰でも出来る程度でしかない」
それでもその困難さ故にチートに見えてしまうだけ。カイトはどこか苦笑いでそう告げる。そうして改めて自身を見直して、彼は更に苦笑の色を深める。
「それで言ったらいっそ神陰流のがよっぽどチートだ。あっちはどれだけ技術が発展しても、決して技術じゃ再現できん。究極の属人。達人の域の技だ」
「ふーん」
これはやはりカイトがカイトならばこ、と言える所だっただろう。大精霊の技術をあくまでも人の技術で再現可能と宣う事は大精霊達への冒涜とも捉えかねない。だが彼だけはそれが許され、そしてそれが大精霊達からも認められ、望まれていた。
「……っと、どうやら到着したようだ。ようだが……これはそろそろ年貢の納め時か」
「……ゲート?」
「そ……まぁ、ゲートの突破になったら流石にもうどうしようもないだろう。一応探索して、諦めにゃならんかったら戦闘開始だ」
流石に軍の下士官達用のプライベートエリア。出入りは見張られる様子だった。というわけで、カイトは半ば諦めた様子ではあるが、万が一に賭けるべく周囲の探索を開始するのだった。
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