第3953話 雷の試練編 ――医務室――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
そうして宇宙港に似た場所を進んでいた一同であったが、手に入れた地図に表示される巨大ドームを目指して進むも、その到着直前にまるでこれから試練の本番と言わんばかりに幾つかの隊に分けて飛ばされる事になっていた。
というわけで飛ばされた先で調査を重ねたカイトであったが、数個の部屋を経てたどり着いたのは謂わばコントロールルームや司令室という部屋で、他のエリアとの通信機能を備えた部屋であった。
そうして司令室にて改めて施設全域の地図を入手すると、その後は最初の拠点へ戻るルートを探すべく探索を再開。ひとまずは怪我の治療が出来る場所として医務室へとたどり着いていた。
「うーん……このゴーレム便利」
「気に入ったのか?」
医療用の専門知識を与えられたドロイドの前で色々としていたソレイユに、カイトは少しだけ苦笑するように問いかける。
「うーん……気に入った、っていうよりも欲しいっていう感じかなー……ほら、ウチも結構医療整ってるけど、にぃの所みたいに近くに病院とかあるわけじゃない事も多いし」
「あー……確かにそう言われてみればそうだよなぁ……」
ソレイユの言葉に、カイトは彼女が本来属するギルドの事を思い出して納得を露わにする。
「アイナも医療系にも明るいし、そういった部分への対応もかなり重点的にしてくれてはいるが……まぁ、そこばかりはもう元々の立地条件とか種族にも影響されちまうからなぁ……」
「そうなんだよねー。だから弓兵ちゃんズが怪我した時とか回復薬でー、って出来るまでは良いんだけど」
「なるほどなぁ……にしても久しぶりだな。お前が指導者モードになってるのも」
「これでも仕事はしてまーす」
「アイナに怒られない程度で?」
「えへへ」
カイトのツッコミに先程までの賢さがまるでどこかに通り過ぎたかのように、無邪気な顔で笑う。この無邪気な笑顔が演技ではないが、同時に彼女は指導者としての見識も持ち合わせていた。
が、やはり種族的に楽天的な所があるようで、やれるけどやらない、という事の方が多かった。とはいえ、流石に自身が率いる部隊に関しては真面目さを見せるしかなかった、という所なのだろう。そしてそんな彼女に、カイトも改めて医療用のドロイドを観察する。
「うーん……確かに今思えばこういった簡単な問診が出来るドロイドはあって損はないな。一度検討させてみるか」
「やるの?」
「AIってのはビッグデータの解析には優れている。地球の技術を応用したりしないといけないだろうから、即対応は難しいだろうが……医療というビッグデータを利用する分野には非常に有益だ」
医療の分野においての人工知能の有益性をどうやらカイトは為政者という視点から認めていたらしい。彼も為政者。医師による誤診や珍しい症例による発覚の遅れという事例は何件も耳にしており、人の限界を知っていた。そういった際、ビッグデータを活用する事の有用性を度々考えていたのだが、このドロイドを見て本格的な推進を考えるに至ったようだ。
「……ふーん」
「……すまん。流石にそこまでの話は無理だわな」
「……」
むすっ。せっかく賢い所を見せたのにこれだよ。そんな様子でソレイユが少しだけ拗ねたような様子を見せる。こんな人工知能の話は当然であるが、今のソレイユにした所でわかるわけがない。地球においても最先端の分野だ。どれだけの人がカイトの懸念や意図に理解を示すのか、という領域と言える。それが科学のかの字程度しかない異世界ならさもありなん、でしかなかっただろう。
「ま、簡単に言えばレガドだ。あれの超簡易版……医療にだけ特化させた奴がこいつらになる」
「あ、なるほど……」
「そういうこった……だから現状で出来るのもそれだけのビッグデータを保有出来る可能性があるウチぐらいなもんってわけ」
「情報、大事だねー」
「情報屋ギルドなんてもんがあるぐらいだからな」
機嫌を持ち直してくれたらしいソレイユに、カイトが笑う。というわけで医療用ドロイドの開発を検討する事にしたカイトであったが、どうやらそれでソレイユもドロイドへの興味を失ったようだ。ぴょんっ、とカイトの背にのしかかる。
「うえっ……またかよ」
「にぃの背中が私の定位置ー」
「そして私はカイトの肩が定位置ー」
「またか……またなのか……」
懐かれてるなぁ。浬は見様によっては美少女二人に引っ付かれているようにしか見えないのに、全く羨ましいと思えない自分が居る事を理解する。
「はぁ……もう良いよ。浬、そっちなにか気になる所はあったか?」
「うーん……特にはなにも。回復薬とかは幾つかあったし、ベッドも寝心地悪くなかったし」
「……あ?」
「……あ」
「お前もか……」
もう良いや。カイトは目を離した隙にちょっと横に、とサボっていたらしい妹に肩を落とす。
「つ、疲れたから……あと、寝心地良いのかなー……って気になったし……」
「まぁ、寝心地が気になるのはオレも理解は出来るが」
ここにあるベッドはリネンのシーツ等を使っている様子はなく、敷布団は未来的な金属が露わになっていた。見た目からして質感などは明らかに自分達が想像するベッドとは異なっており、気になっても仕方がないだろう。というわけで、寝心地が気になったので寝てみた、という浬にユリィが興味深げに問いかける。
「確かに……どうだったの?」
「あ、すごかった」
「「すごかった?」」
良い悪いではなく、凄い。浬の感想にユリィもソレイユも首を傾げる。
「いや、凄いの。最初ヒヤッとしてたり固いのかな、って思ってたんだけど……もう包み込むっていうか。ベッドに触れてる感覚がないぐらい。もう飛空術で浮いてる感覚さながら。掛け布団がなかったのはいまいちなんだけど。近未来すごいわ」
「へー……ぐえ」
浬の絶賛とも言える反応に、暇になれば寝ている事も珍しくないソレイユが興味を示したらしい。カイトの背中から飛び降りて、ベッドに向かおうとする。が、その彼女の首根っこをカイトが取り押さえて持ち上げる。
「行こうとするな。次に行くぞ。どうせまた戻って来るんだしな」
「えー!? 寝たい寝たい寝たい! にぃと一緒に寝たい!」
「なんでオレまで巻き込まれんだよ!」
「なんでにぃは興味ないの」
「いや、別に。ベッドの寝心地は重要ではあるが、大体は理解してるし」
「なんで」
「……どーでも良いだろ」
これを突っ込まれるのは割と困る。カイトはジト目でこちらを睨むソレイユを担ぎ直す。というわけで、これ以上突っ込まれるよりも、と妥協策を切った。
「後で一緒に寝てやるから。今はさっさと探索に戻るぞ。何よりお前に寝られると面倒だ」
「絶対絶対絶対?」
「ああ、絶対な」
「やった。にぃ大好きー」
「あははは……」
大変だなぁ。浬はソレイユのご機嫌取りに苦労する兄に笑いながらそう思う。というわけで医務室の探索を終えたわけだが、ここで問題が発生する。
「で、お兄ちゃん……医務室の探索を終えるは良いんだけど、次はどうするの?」
「それな……」
医務室を目指そう、というのはまず休憩地点の確保を目的としたわけだが、そこから先については何も目印がなかった。というわけで浬の問いかけに、カイトは地図を浮かび上がらせる。
「とりあえず今がこの医務室で、ここが医務室である事は確定したわけなんだが……まずは権限を上げるしかないわけだが。さて……当然だが重要じゃない部屋から探していくしかないだろうが」
とりあえず現状の権限で向かえる所は。カイトは現在の一番下の権限で行ける部屋を確認していく。そうして数分。彼は一つの部屋、というかエリアを指し示す。
「まぁ、妥当はこのエリアか」
「何ここ? 無茶苦茶部屋並んでるじゃん」
「おそらく下士官用の住居エリアだろう。おそらく今のオレ達の権限はゲスト。一般人扱いだ。ここから上になると、一般兵か、警備員などの中でも一番下の権限になるだろう。下士官用のエリアを目指すのが妥当……かなぁ、と」
おそらく本来なら更に細かな権限があったりするのだろうが、今回は試練という所で一部改変されているんだろうな。カイトはそう考えていた。というわけで、医務室を出て一同は少し先にある下士官用のエリアを目指す事にするのだった。




