第3952話 雷の試練編 ――医務室――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
そうして宇宙港に似た場所を進んでいた一同であったが、手に入れた地図に表示される巨大ドームを目指して進むも、その到着直前にまるでこれから試練の本番と言わんばかりに幾つかの隊に分けて飛ばされる事になっていた。
というわけで飛ばされた先で調査を重ねたカイトであったが、数個の部屋を経てたどり着いたのは謂わばコントロールルームや司令室という部屋で、他のエリアとの通信機能を備えた部屋であった。
そうして司令室にて改めて施設全域のちずを確認。区画が最初にたどり着いた空港エリアを含め五つに分けられており、自分達が居るのがエリア1であること。エリア1から中央の巨大ドームを目指すには端末のアップデート等が必要である事を掴み、更に設けられていた通信機能を使って他のエリアに飛ばされた者達との情報共有を行っていた。
「……」
今の所、通路では何も問題は起きないようだ。カイトは警戒しつつも先へ進んでいくわけだが、やはりまだ道中なにかが起きる様子はなかった。とはいえ、最初から異変がないか、と言われればまたそれも異なっていた。
「動き出してはいる……けど」
「まだ、こちらを敵と認識していないんだろう。下手に手は出さん方が良いぞ」
「先手必勝、って言葉もあるけど……」
「君子危うきには近寄らず、好奇心は猫を殺すとも言うな」
「うーん……」
おそらく追々敵になるのだろう。そう思えばこそ今のうちに破壊しておくのが手ではないか、と思う浬に対して、カイトは改めての攻撃禁止を命ずる。そして浬もカイトの言葉は理解していた。理解した上で、というだけであったし、危険だというのも理解はしているのだ。手を出す事はなかった。というわけで動き回るドロイド達を同じように見ながら、ユリィが口を開く。
「かなり高性能なゴーレムっぽいけど……エネルギー効率かなり良さそうだね」
「わかるの?」
「うん。魔力がほとんど感じられない。感じられない、ってことは非常に高い密閉がされているってこと。もちろん、可動部の関係で完璧じゃないから漏れてはいるけど」
「そういえば……」
確かにこのドロイド達からは魔力が感じられない。浬は自分の感覚ではこのドロイド達から魔力を感じられない事に気が付いた。それこそいっそ、高度な科学文明によって作られた魔力を使わないドロイドだ、と言われても信じられる領域であった。というわけでそんなドロイド達を見ながら、カイトへとユリィが問いかける。
「これ、ティナが本気出した領域じゃない?」
「多分その領域だろう……あいつの本気のシールドのレベルのドロイドが相手か。嫌になるな」
宇宙港の時点で気付けてはいたが、やはり技術力としては地球やエネフィアより数世紀は先に進んでいるだろう。そうなるといくら天才であっても追い付かれるだろうし、量産化も目処が立たれていると思われる。こうなっても必然と言えたかもしれなかった。とはいえ、まだ敵ではない。なので一同はなるべく敵と認識されないように警戒しつつも、下手に手出しをしないように先へと進んでいく。
「……ここが最後の分岐だな。ここを右に曲がれば医務室に繋がる通路だ」
「医務室なら、って話だけどね」
「まぁな」
浬のツッコミにカイトは笑いながら、最後の分岐を右に迂回する。そうして地図に従って少しだけ進むと、通路の合間に一つだけ扉のある通路へとたどり着いた。道は先にも進む様子だが、この間にある部屋が医務室と予想される部屋であった。
「ここ……だな」
「……開くよ。緑色だし」
「よし……」
いつも通り全員に視線を送り、カイトは隊列を整えさせる。一応医務室なので戦闘はないと思われるが、医務室ではない可能性がある。である以上、警戒は必要だ。というわけで隊列を整えて、一呼吸を置いてカイトはユリィに合図。彼女がホログラフに触れたと同時に、扉が開いてカイトが中へと突入する。
「っ……ふぅ。推測通り医務室だな」
施設の構造。地図に表示されていた記号などが医療に関するものを類推させたから可能性は高いと思っていたが。カイトはわずかに流れた冷や汗を拭いながら、警戒を解除する。そうして彼がすぐに警戒を解いた事で、浬らも中に入った。
「……あ、ホントだ。でも医務室ってもっとこう……なんていうの? カプセルとかあったり、って思ったんだけど……なんか普通の医務室っぽい? ベッドは確かになんか機械っぽくて近未来的だけど」
「まぁ、重度の治療にはそういうカプセルも使うんだろうがなぁ……あれは思ったより気持ち良いものじゃないし、回復薬ドバドバ使うから費用もバカほど掛かる。軽症の患者に使うもんじゃない」
「使った事あるの!?」
どこか苦い顔で笑うカイトに、浬が驚いたように問いかける。これにユリィもまた同じ顔で笑う。
「使った事がある、っていうか持ってるっていうか」
「古代文明の遺跡から引き上げた……ま、あれについて詳細は聞くな。使った本人と作った本人含め、完技術的な有用性は別にして話せない内容だ。技術的には有用だから引き上げたがな」
一応自身もかつての世界では使った事があるし年に数回は使っていたが、同時に今の自分達もルナリア文明末期にカナタが使っていた物を回収して使えるようにしている。が、あれを使ったカナタ当人もあまり使いたいものではない、というぐらいだった。
「どういうこと?」
「色々と古代文明にも事情がありました、ってことだ……まぁ、そういうわけだから。ここはあくまでも簡易な医務室であって病院じゃない、という所なんだろう。あくまで応急処置や軽度の患者に向けたものだろうな。更に重傷の患者は別の所に移されるんだろう」
ここはあくまでも空港やらそういった設備が一塊になっているだけで、高度な治療が必要な場合は別の所に移される事は容易に想像出来た。
「ふーん……でも薬とかは……色々とある?」
「あるだろうな……回復薬があるかどうかはわからんが」
おそらく一般的な鎮痛剤やらの薬から、魔力が欠乏した時に使う回復薬まで揃ってはいるだろう。カイトは医務室の壁際にある棚を見ながら、そう答える。そして同様に小棚に並んだ薬の数々を見ながら、浬が問いかけた。
「お兄ちゃん、これわかるの?」
「流石にオレは医者じゃないし、医療には携わっていない。医療は専門外だ」
色々と多分野に精通し、医療にも理解のあると言われているカイトであるが、流石に彼も手術をした事はないし、薬を薬剤師のように把握しているわけではない。
一応それでもティナやらの手伝いをさせられる事で簡単な傷の手当てと薬の調合も出来るが、あくまでも手習い程度。決して医師や薬剤師と同格とは言えず、未知の文明のなにかわからない薬を使いたいとは思えなかった。というわけでため息を吐いた彼であったが、そんな所に一体のドロイドが近付いてくる。
「ん?」
「なにこれ」
「わからんが……」
近寄ってきたドロイドはカイト達の前にまで移動すると、ホログラフで文字を表示させる。だが当然、これが翻訳されているわけもなく、だ。とはいえ、ホログラフと共にドロイドの上部からなにかを乗せられそうな台座が浮かび上がったことで、カイトはおおよその意図を把握する。
「端末を置け、ってことか。どうやら、ここだと色々な事にこの端末は使いそうだな」
やはりこの端末を使って色々とする事になりそうか。カイトはドロイドの指示に従って、端末を台座に置く。そうして端末の読み込みが行われ、文字の一部が翻訳された。
「……なるほど。医務室で医師が不在時の応対をするためのドロイドという所か。専門の処方が必要な薬は出せないが、回復薬やら簡単な消毒液やらは融通し、傷の手当ても出来るようだな」
どうやらこのドロイドは医務室に常時待機しているドロイドで、近付いてきたのはこちらの要望を聞くためという所だったらしい。これで万が一怪我を負った際は、簡単な治療が受けられる事になったようであった。というわけで、指示を求めるドロイドに対して、カイトは待機指示を入力する。
「よし……まぁ、薬がなにかこちらで翻訳したり調査したりしないで良くなっただけ良しとするか。さて、ここにたどり着けた以上はここになにかがあれば良いんだが」
とりあえず部屋はそこそこ広く、数人が横になって休めるようなスペースはあった。拠点に戻れないでも一時的な休憩は可能だと思われた。というわけで一同はここを第一の休憩地点として設定する事にして、まずは医務室の探索を行う事にするのだった。




